【Endless Waltz】終わりなき始まり



<オープニング>


●旅立つ者
 雪に彩られた庭園に、一人で太刀を振るうレンヤの姿があった。
 レンヤはその鋭い眼差しで眼前の標的を捉え、冷たい輝きを放つ太刀で切り裂き、掌中に出現させた刃を続け様に放つ。
 淡々と繰り返されるそれは、雪舞う寒空の下で延々と続けられていた。
「……」
 無言で白い息だけを吐き出し、藁束を切り伏せたレンヤは、再び太刀を構えようとして──迫り来る気配に背後を振り返った。
「さすがは冒険者。どうせ斬るのなら藁ではなく薪だとありがたいがね」
 飛んできた小石を掴み、レンヤが見据えるその先で、皮肉めいた言葉を口にした男が空々しい拍手を鳴らす。
「しかし、それだけの力を手にしたお前が、成すべき事はそんなことなのか?」
「父上…」
 一変して厳しい口調で問う父の言葉に、レンヤは言葉を詰まらせる。
「私はお前のような力を持ち合わせてはいない。だがな、自然を相手に作物を育て、時には狩った命を糧として生き、命を育む。それが私にとっての戦いだと、胸を張って言える生き方をしてきた」
 そう語る男が見つめる先では、子供たちが雪の中で楽しそうにじゃれ合い、暖かな光を灯した家々から夕餉の支度の煙が立ち上る。そんな穏やかな風景の中にある暮らし、それ支えるための苦労が戦いと呼ぶに相応しいことを、冒険者になるまでこの村で暮らしていたレンヤは知っている。
 レンヤが生まれ育った村はやせた土地にあって、その暮らしは豊かなものではなかったが、それでも村人たちは力を合わせて慎ましくも平穏な生活を送っていた。
「別の道を歩むと決めて村を出たお前が、ここで何をしている」
 レンヤが村を出る2年ほど前、村はグドンの襲撃を受けた。
 狩りで男たちが留守にしていた村が、グドンの群れによって占拠されたのは、厳しい冬の到来を間近に控えた寒い日の出来事だった。
 結果的にグドンは冒険者によって退治された。村に蓄えられていた食糧は、そのほとんどがグドンによって食い尽くされてしまっていたが、それも近隣の村からの援助によって事なきを得た。
 しかし、目の当たりにしたグドンの恐怖や、汗水流して育てた作物を奪われた事は、人々を打ちのめし、その心に深い傷を残した。その傷はすぐに癒えるものでなく、村が以前のような活気を取り戻すのには、それなりの時間が必要だった。
 そんな理不尽なグドンの襲撃を許すことが出来ず、レンヤは冒険者となるべく村を出た。
「明日、ここを発ちます」
 今までの問いに答えるでもなく、レンヤは短く告げた。それに父は「そうか」と答え、満足そうな顔でその場を後にした。
 一人になったレンヤは、辺りが闇に包まれるまで村の景色を眺めていた。

●終わりなき始まり
「おぉ、これは久しぶりに見る顔じゃな」
「ご無沙汰しておりました」
 酒場に入ったレンヤは、声をかけてきた老人へと歩みより一礼する。
「丁度良いところに来たな。今から依頼の説明をするところじゃ、腕は鈍っておらんだろうな?」
「その点は抜かりなく」
「結構、結構。では話を始めるとしようか」
 集まっていた冒険者達の後ろへレンヤが移動するのを待って、老人は話し始めた。
 依頼の発端は、川を流れてきた死んだ猿グドンだった。
 発見されたグドンは川の近くの村人達によって始末され、どこかにいるであろう仲間のグドンを討伐する依頼が冒険者の集う酒場へと持ち込まれた。
「この猿グドンは、川の上流にある山から流されてきたようでの、その山には猿グドンがまだ50匹ぐらいはいるようじゃ。それと、少し厄介なことがあってのぅ…」
 思わせぶりに話を切った老霊査士は、ゆっくりとお茶を一すすりしてから話を続けた。
「死んだ猿グドンじゃが、どうやら他のグドンと争って死んだようでの……山には猿グドンの群れと、もう一つ山猫グドンの群れが住んでおるのじゃ。餌の少なくなった山で、この二つの群れが小競り合いを起こしているというわけじゃな」
 老人の霊視によれば、山猫グドンの群れも規模としては猿グドンと同程度。力の拮抗している二つの群れは山を二分していたが、山の食料が減ってからはお互いの縄張りを侵して小競り合いを起こしているという。
「猿グドンは山の西側にある大樹周辺、山猫グドンは東側の池のほとりを根城にしているようじゃが、どちらも昼夜を問わず食料を探して山の中を徘徊しておるでの、お前さんらには数日かけて山を探索してしてもらうことになるじゃろうな」
 そこまで話した老人は、冒険者達の前に一枚を羊皮紙を広げた。
「あの山は立ち入る者もほとんどおらん場所で情報は少ないでの、親切なこのわしが地図を描いておいてやった」
 と言うものの、広げられた羊皮紙には、山らしき曲線とそれを分断するように流れる川らしき蛇行した線、それと大樹と池らしきもの、それらが大雑把に描かれているだけであった…。
「雪は降らんだろうが、まだまだ外で寝るには寒い時期じゃて。覚悟して行くんじゃぞ」

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参加者
星影・ルシエラ(a03407)
死者の守人・レイ(a07113)
風舞彩月・シリック(a09118)
濡烏・ハイル(a12173)
ストライダーの忍び・ヤチヨ(a14410)
杳渺謌・タブリス(a19679)
ソニックハウンド・カリウス(a19832)
幽幻の桜花・エメルディア(a20562)
戯言と遊戯の愚王・ソウ(a31731)
アートゥロ・ミケーレ(a36984)
NPC:闇より出づる影・レンヤ(a90132)



<リプレイ>

「あぁ…寒いな………お? きたきた」
 防寒着を着込んだ身体を震わせ、白い息を吐きながらぼやいていた空虚の王様・ソウ(a31731)は、こちらへと向かってくる二つの人影に気づいて、寒い中でじっと待ち続ける時間が終わることを祈りながら二人の到着を待った。
 やがて、偵察へと出ていた風塵乱舞の・ヤチヨ(a14410)と星影・ルシエラ(a03407)が戻ってくると、その話を聞くべく二人の周りに冒険者達が集まった。
「山猫のとこからは、食料集めのグループが4つ出てるみたいやね」
「4〜5匹で一つのグループだったよ」
 ヤチヨとルシエラの報告を聞いて、冒険者達は事前の話し合いやそれぞれの考えを元に今後の作戦を話し合った。
「まずは餌を探しに出ている連中を各個撃破、その後に奴らの根城を叩く」
「ですね」
 作戦を確認する追憶者・ハイル(a12173)に、游心・タブリス(a19679)が頷き、周りの者達もそれぞれ同意を示すした。
「油断せずに参りましょう」
 準備を整えた冒険者達は、桜花ノ理・エメルディア(a20562)の言葉に気を引き締め、山に巣くったグドンを退治するため行動を開始した。

 臓物をさらけ出し、辺りを濃厚な血の匂いに染める獣の骸。それに群がった4匹のグドンが山猫の顔を血に染めて肉を貪り食っていた。
 その傍らで、食事中のグドンよりも身体の小さなグドンが一匹、立ってそわそわと辺りを見渡している──その身体がぐらりと揺れ、突然力なく倒れた。
 倒れ込んできた仲間に、食事の邪魔をするなと非難の目を向けたグドンたちは、ソニックハウンド・カリウス(a19832)が放った矢に胸を射抜かれた仲間の姿を見るや、慌てて足元に放っていた武器へと手を伸ばした。
「悪戯な風ですね」
 すれ違い様にサーベルを一閃、グドンの脇を走り抜けた風舞彩月・シリック(a09118)が風に煽られた自慢の帽子を被り直す。その背後で、パックリと裂けた胸から血を溢れさせたグドンが倒れる。
「痛なかったやろ? ってもう聞こえへんか」
 背後から突き出された美しい刃が一瞬にしてグドンの首を断つ。ゴロリと落ちた頭を追ってグドンの身体が倒れると、そこにヤチヨの姿があった。
 次々と倒さていく仲間を目の当りにして、その場から逃げ出そうと振り返るグドン。しかしそこには、アートゥロ・ミケーレ(a36984)が立ち塞がっていた。
 剣を抜かず間合いを詰めてくるミケーレに、グドンが粗末な槍を構えて待ち構える。
「遅い」
 グドンが構えていた槍を突き出すよりも速く、ミケーレが抜き放った刃がグドンの胸を走る。力なく開かれた手から落ちる槍、その上に重なるようにグドンが倒れた。
「燃え落ちなさい」
 十字架を背負う者・レイ(a07113)の足元では、彼女が纏った氷炎の洗礼を受け、その呪縛から抜け出すことなく果てたグドンが無惨な姿をさらしていた。
「僕の出る幕はなかったですね」
「まだまだこれからだよー」
 言葉とは裏腹に残念そうな様子もなくのんびりと歩くタブリスを、その後ろから元気良く駆けてきたルシエラが追い越していった。

 夜の帳が下りた森の中で、ハイル、シリック、ソウの3人は焚火を囲んでいた。
 静かな森の中に、焚き木が燃えるパチパチという音が響き、肉の焼ける香ばしい匂いが辺りに広がっていた。
「来たようですね」
 自慢の羽つき帽子を手入れしているシリックの言葉に、ハイルとソウが小さく頷く。
 彼らはただ休んでいたわけではない。
 肉を焼き、その匂いで餌を探して徘徊しているグドンを引き付ける。それも彼らの作戦の一つだった。
 そんな冒険者達の思惑をグドン達が知るはずもなく、ガサガサと音を立てた茂みの中から現れたグドンが3人へと襲いかかってきた。
「触るな」
 迫り来るグドンに怒りの眼差しを向け、ハイルが振り払った腕にマントが翻った次の瞬間、グドンめがけて無数の針が飛んだ。
 無数の針にその身を抉られたグドンは血に染まり、辺りに血の臭いが広がる。
「俺なら殺れると思ったか?」
 武器らしい物を持っていない自分へ向かってきたグドンに、冷たい笑みを浮かべたソウの手の中でストールがふわりと舞い、放たれた衝撃波を食らったグドンがソウの足元に倒れた。
 シリックに背後から襲い掛かったグドンは、突然現れたマントのような姿をしたダークネスクロークに攻撃を阻まれ、悠然と剣を構えたシリックの一撃に倒れる。
「キミで最後だよー」
 身を隠していた茂みから姿を現したルシエラ、その淀みのない居合の一撃に最後のグドンが倒れ、短い戦いは幕を閉じた。

「そろそろ始めるか」
 弓を引き絞るカリウスの視線の先、池のほとりに数十匹の山猫グドンの姿があった。その中の一匹、槍を手に辺りを見渡しているグドンに狙いを定めてカリウスは矢を放った。
 放たれた矢がグドンの射抜き、2発目の矢を番えるカリウスの視界にグドンへ向かって走る冒険者達の姿が入ってきた。
 ルシエラ、シリック、ヤチヨ、ミケーレが広がりながらグドンの群れへと切り込み、その後方からレイ、ハイル、タブリス、エメルディアが隙間を埋めるような立ち、半円状の包囲網を敷いた冒険者達は、池の方へと山猫グドン達を追い込んでいく。
「おーい! お客さんだー!」
 グドンへ迫る冒険者達の後ろで、様子を窺っていたソウが声を上げ、池のさらに向こうを指差す。
 池の向こうから、武器を構えた数十匹の猿グドンがこちらへと向かってきていた。
 山猫グドンを狙っていたのは冒険者達だけではなかった。同じ山を二分する猿グドンたちも山猫グドンを山から追い払う機会を狙っていたのだ。
「丁度ええ、全員まとめて片付けたるで」
 両手から放った蜘蛛糸でグドンを絡め取るヤチヨが、迫ってくる猿グドンの群れを見て不敵な笑みを浮かべる。
 山猫グドンの群れへと突っ込んできた猿グドンの群れは、山猫グドンも冒険者も関係なしに手近な相手へと攻撃を仕掛け、三つ巴の戦いはすぐに乱戦状態となった。
「これなら、温存の必要はなさそうですね」
 ざっと見ただけでも山猫グドンの数を上回る数の猿グドンに、猿グドンのほとんどがこの戦いに参加しているのだと察して、タブリスは温存する必要のなくなったニードルスピアを群れたグドンへと放つ。
「ならば本気で参ろうかのぅ」
 エメルディアと繋がれたミレナリィドールの髪が七色に輝き、中空に描きだされた紋章から溢れ出た七色の光が辺り一面のグドンへと降り注ぎ、光に撃たれたグドンがバタバタと倒れていく。
「逃がしません。繋がれなさい!!」
 山猫と猿のグドンが入り乱れる中へ飛び込んだレイ、その身体から放たれた禍々しい鎖が周囲のグドン達を絡め取り、苦痛に唸るグドンが動きを止める。
「えいやー!」
「ここで果てろ、それが貴様らの運命だ」
 グドンを囲い込むように広がった冒険者達の両翼で、ルシエラとミケーレが横凪ぎに払った刃から繰り出した流水撃に、傷つき逃げ出そうとするグドンが倒れ、生き残ったグドンも包囲網の中へと追い込まれる。
「逃がすか」
 幸運にも乱戦の中から抜け出た山猫グドンも、カリウスが放った矢に影を射抜かれ身体の自由を失い、逃げることも出来ず、続けて放たれた矢に射抜かれ果てる。
「貴方の相手は私ではありませんよ」
 襲いかかってくるグドンの露払いをリングスラッシャーに任せ、シリックは身体の大きなグドンを狙って走り、対峙したグドンを確実に仕留めていく。
「心配するなよ! ケガしてもじゃんじゃん回復してやっからな」
 とは言え、技量と装備の整った冒険者達がグドン相手に傷つくことはあまりなく、ソウの出番はそれほど多くはなかった。しかし、ソウは前で戦う者たちを鼓舞するために声を上げ、ヤチヨの粘り蜘蛛糸やレイの暗黒縛鎖に絡み取られ動けなくなったグドンに衝撃波を放つ。
 数で勝るグドンが冒険者達の圧倒的な力の前に次々に倒れ、その全てが倒されるまでそう時間はかからなかった。
「なぁ、黒い人」
「丸焼きにして欲しいのか?」
「まだ何も言ってねぇ…」
 戦いが終わり一段落したとこで、ハイルへと声をかけたソウは、にべもない言葉を返されてそそくさと退散するのだった。

「繁殖力が旺盛なグドン相手に、今回の事が果たしてどの程度の意味を持つのか…」
 倒したグドンを埋める作業を行っていたミケーレの口をついて出た言葉に、これまでほとんど喋ることの無かったレンヤが口を開いた。
「自然の恵みは無限ではない。際限なく食い尽くせば、次に生まれてくるものも無くなり絶える。こいつ等を放置していれば、この山も遅かれ早かれそうなっていた」
 そんなレンヤの言葉に、タブリスは自分が誰のために冒険者となったのかを思い出していた
「そうですね。全体として考えたら些細な事だとしても、何かを守れたなら意味があるのだと僕は思いますよ」
「何かを守るため…か」

『ぐぎゃぁぁ』
「苦しかろうのぅ」
 妖しい微笑みを浮かべるエメルディアの前で、七色に輝く炎に包まれ断末魔の叫びを上げたグドンが果てた。
「木の上にはいないみたいだよー」
 聞こえてきた明るい声にレイが頭上を見上げると、大樹の立派な枝の上で楽しそうにしっぽを振っているルシエラがいた。
「それが最後の一匹だったようですね」
 池のほとりでの戦いを終えた後、レイたちは猿グドンの根城になっていた大樹へやって来ていた。
 大樹の周りには数匹の猿グドンが残っていたが、数十匹のグドンを物ともせずに蹴散らした彼女たちの敵ではなかった。
「ほな、埋めたら帰ろか」
 そう言って緊張の解けた表情を見せたヤチヨの髪が、春の訪れを感じさせる心地よい風に揺れていた。


マスター:蒼乃空 紹介ページ
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参加者:10人
作成日:2006/03/18
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