<リプレイ>
● 「Yo! 賑やかな町だNa?」 「さすが、裕福家が押し寄せるというだけあるわね」 人の波は絶えず流れ、立ち並ぶ店からはひっきりなしに勧誘と売り文句が飛んでくる。アフロ凄杉・ベンジャミン(a07564)も想いの歌い手・ラジスラヴァ(a00451)も興奮を隠しきれない様子だ。 そして競売の話も、あちこちから聞こえてきた。街の中心にある、いつもは誰でも気軽に入れる公共施設が、今日は様々な思惑と大きな金銭が交錯する金持ち限定の競売場に変わるという。冒険者をしてもほとんど未知の領域である。 冒険者たちは2班を形成することになった。一方は護衛として競売場にもぐりこみ、もう一方は一般の参加者として会場に入り、落札を試みるのである。 「では、俺は資金を調達してきます。落札班は開始30分前に会場前に集合ですね」 デザインスタジオ・ケイム(a12057)は人込みにまぎれていった。有名な詩人の日記である。ライバルはそれなりに多いはずだ。資金はいくらあっても多すぎることはない。 護衛班は一足先に競売場へと赴いた。入口でガードをしている男に用件を告げると、素直に中へ通してくれた。冒険者の肩書きはこういう時に役立つ。 競売の主催者という男と面会した。恰幅のいい紳士といった感じである。男は冒険者を見るなり顔をしかめた。 「飛び入りで護衛の仕事をさせてくれなど、普段なら追い返すところだが……」 「これでも冒険者なんですよ?」 「ああ。これでもれっきとした男だ。役に立てるぞ?」 年若い愁雪の武踊妃・サツキ(a40837)と蒼炎・ルヴェンダ(a45027)は精一杯アピールする。 「いや、最後まで聞いてくれ。冒険者がここに来るということは、まさか事件の噂でもあるのか?」 「そういうわけでは。ただ悪者がいれば捕まえたいだけだよ」 「うん、こういうトコっていかにも悪いのが集まりそうだもんね」 問答無用三千上等遊楽遊楽道化・ルナンガ(a30566)と蒼き疾風の弓士・リャン(a40065)がぼかして言った。事前に事を荒立てる必要はない。 「まあいい。君たちを臨時に雇おう。何があっても安全は保障してくれるのだろう?」 主催者はふっと笑った。
● 競売の開始時刻が近づいた。場内には正装した紳士淑女が歓談しながら自分の席についている。落札班も固まって、前方をよく見渡せる後方の席に座った。護衛班との連絡役である吹き抜ける風と愛をささやく・セリス(a30125)はいつでも外に出られるよう、一番廊下に近い席だ。 「ボク、こ〜ゆ〜トコ1回来てみたかったんだよねぇ……うわぁ〜っ」 「さすがに誰もが佇まいからして上品ね。浮かないように演じるのよ、みんな」 ドレスを着飾った偽りのマーメイドハニィ・ニトレーティア(a35815)と詩紡ぎの深唄・ウィーヴァ(a37346)は、少々興奮しながら周囲に目をやる。周りは彼女たちが冒険者だとは気づいていないようだ。 10分後、場内にジリリリとベルが鳴り響いた。開始の合図だ。 「いよいよですわね……」 「いっそただの戦闘なら楽なんだけどな」 明日への光・ラナ(a40955)も薄らぐ偽りの霧・アキナ(a10680)も、若干緊張の面持ちだ。 壇上に主催者が出てきた。彼が司会進行も務めるのである。 「ええ、紳士淑女の皆様、本日はようこそおいでくださいました。さっそくではありますが――」 それから数分ほど、場内における注意点、落札の作法などが説明された。一番注意するべきは、支払能力がないのに落札した場合厳罰されるということだ。冒険者だからといって、こういうところで見逃してもらえはしない。詩人の日記を自分たち以外が落札してしまった場合は、また別の手段を考える必要がある。 「それでは、堅苦しいことはなしにして、始めるとしましょう。――最初の品物の登場です!」 暗雲渦巻こうとする競売が、始まった。
● 競売の出品物は、舞台裏に近い部屋にすべてまとめられており、出番が来ればその都度会場に運び出すことになっている。護衛班はラジスラヴァとルナンガがこの部屋の前に立っていた。出品物の保管部屋には正式な運営スタッフしか入れないことになっている。 「偽物とすり替える作戦は無理ね」 「まあ、それには反対もあったしね……」 日記は確実に競売にかけられることになった。こうなった以上、落札班に任せる以外にはない。 残りのメンバーは出品者のガードということで、出品者用の大部屋にいた。ここに詩人の日記を出品した闇商人がいるはずである。残念ながら外見からはわからない。 「ありがたいね。いきなり何者かが襲撃しようが安心だな」 出品者のひとりが護衛班を見て言った。 「任せといて」 「ええ、頑張ります」 リャンとサツキは笑顔で応える。悪人がこの中にいるとは言えない。 「……そろそろかな」 ルヴェンダが耳を澄ませる。会場の熱気と歓声はここまで聞こえてくるのだった。
● 「それでは次の品物ですが、日記です。若くして亡くなった天才詩人――」 司会によって詩人の名が読み上げられると、場内はざわついた。裕福家の間でもよく知られている存在なのだ。なんで競売に出されたんだ? そんな声もした。 落札班はとにかく緊張した。もし誰かに落札されれば、その人に闇商人の魔の手が伸びるおそれもある。金だけ貰って、あとで奪い返すという寸法だ。 競売が始まった。最初は金貨1枚から。果たしてどの程度まで競れるか――。 「3枚!」 前面にいた老紳士が、いきなり初値の3倍で入札する。 「4枚Da!」 ベンジャミンが踊りながら叫んだ。しかしすぐに近くの女性が5枚と言う。 「……6枚!」 ケイムは焦らず、1枚づつ値上げする。するとまたさっきの女性が7枚と言った。 「うう……もう限界だなあ。ええい、8枚!」 ニトレーティアが手持ちすべての額で入札。が、今度は別の男性が10枚と思い切った声を出した。何としても手に入れたいのが、ふたりいる。 「11枚」 セリスが冷静に入札すると、すかさずあの女性が12枚と叫び、間を置かず男性は13枚で入札する。あちらも相当に対抗心を燃やしている。詩人のファンだろうか。 「15枚」 ウィーヴァが手を上げた。そろそろ厳しい。が、まだまだライバルたちは競ってくる。17、19と続いた。 「まだいけますわ。いざという時は、私たちが共同で出資し合えばいいのですし」 ラナがヒソヒソ声で言った。なるほどその手もあったかと、落札班は気を楽にした。 「(思った以上に値がついているな……。闇商人は大喜びか)」 アキナは壇上をじっと見ていた。袖の方に少し人影が覗ける。闇商人がほくそ笑んでいた。
● 熱戦は終わった。詩人の日記は、見事冒険者たちが落札した。ウィーヴァが手持ちギリギリ金貨20枚で競り落としたのである。 すべての競売が済み、個別に落札者と出品者が面会する時間となった。 一行は人目に付かない外で受け取りたいと行って、競売場を出た。取引は近くの公園だ。 「確かに金貨20枚、受け取りました」 ガードだという強面の男を7人も従えた闇商人が、善人面で金貨を受け取る。そして、友人だと言って落札班の仲間たちを後ろに控えさせたウィーヴァも、詩人の日記を受け取る。 「取引成立ね。ところで、この日記をどこで手に入れたの?」 「? どうでもいいだろう」 闇商人はぶっきらぼうに言うと、ベンジャミンがビシッとターンして指差す。 「強盗に入らせたんだよNa? そして今回も、取引終了後にアスを襲って再び日記を奪うつもりなんだロ? 冒険者として許せない、OK?」 闇商人はこの時、目の前にいるのが敵だと悟った。 第二の戦い、開始! 闇商人に付いていた男たち――強盗がナイフ片手に突っ込んでくる。だがそんな単純攻撃が歴戦の冒険者に通じるはずがない。ケイムが同じくナイフで巧みに防御し、ニトレーティアが優雅に幻惑の剣舞を舞い、セリスの粘り蜘蛛糸で封じ込める。見事なコンビネーションで傷ひとつ付けさせない。 「私は退避する。後はよろしく」 「はい、日記優先でお願いしますわ」 ウィーヴァが広場から離れようとする。ラナは向かってくる強盗を盾で押し返し、時間を稼いだ。 「くそ、ここは退かねば」 闇商人はすでに日記を諦めていた。慌てて逃げようと試み、走った。 一歩を踏み出した時、誰かにぶつかった。 「どちらへ?」 これは当然、ラジスラヴァたち護衛班である。 「くそが!」 強盗ふたりが主を守ろうと殴りかかったが、ルナンガが暗黒縛鎖を放った。一般人に使うにはあまりにも大技である。もうひとりが怯んだ隙に、リャンはその足元に矢を射て最後通告した。 「怪我したくないでしょ? 降参しなさい」 「な、舐めるな、ガッ」 サツキが背後から首に手刀を叩き込んで気絶させる。残るは闇商人のみ! アキナとルヴェンダは土塊の下僕と一緒に囲い込む。 「ぐう、騙まし討ちとは卑怯な」 闇商人は悔しそうにその場に崩れ落ちた。お前には言われたくないと全員が思った。
● 酒場に帰って日記を確かに手渡すと、学者に尊敬の眼差しが宿った。 「うーむ、今回も無事に取り返してくださるとは。本当にあなた方はすごい」 「無くさないようになさってくださいね?」 セリスが半ば笑って言った。せっかく奪還してもまた奪われるようなこともありうる。今後は管理を厳重にしてもらわないといけない。 「それより、中身読んで良い? 良い?」 アキナが羨望の目で見る。これで3度目、学者もこう来るのはわかっていたから快く承諾する。 詩人の日記には切々と、自らの病の進行が綴られていた。修辞を尽くし、読んでいるだけで胸に迫ってくるものがあった。そして、自分の愛する女性とあえて別れたくだりには感動の優しさが滲み出ていた。 「寂しい人だったんですね」 と、サツキ。そうだな、と学者は答えた。 その寂しさを押し込め、自らの存在を書き留めた日記。これには詩人の大切な部分が詰まっている。 あと2冊。何が何でも取り返さなければならない。闇商人からは、他にいる仲間の情報を聞き出してある。必ず成功するはずだと冒険者たちは気合を入れた。
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参加者:12人
作成日:2006/03/09
得票数:冒険活劇2
ミステリ1
ダーク1
ほのぼの6
コメディ1
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冒険結果:成功!
重傷者:なし
死亡者:なし
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