目指せ! 小麦色の肌



<オープニング>


「ある遺跡に、肌を小麦色にする魔法の薬があるらしいんだ」
 依頼人のパックはそう切り出した。
「なんですか、それ。明らかにガセネタでしょう、メルヘンやファンタジーじゃないんですから……」
 担当するツキユーは、またアレな人だなあと内心思いつつ相手をする。
「実際にこの目で確かめてみないと判らないじゃないか。俺は小麦色の肌のイケメンになってブイブイ言わせるんだ」
 そう言うパックの年の頃は16、7歳ぐらいだろうか。ツキユーと同じく色白長身で、ひょろっとした印象を受ける。
 ツキユーは「あだ名はモヤシで決まり!」と思わず言いたくなった。その思いを必死に止めつつ、冷静にパックを説得する。
「別に小麦色の肌だからモテる訳じゃないですし……それに、焼きたいなら夏まで待てば良いじゃないですか」
「夏まで我慢できる訳ないじゃないか! もう我慢できない!」
「アンタはコーンフレークの手先かなんかですか」
 意味不明なツッコミを入れつつ、ツキユーはこの威勢だけは良い依頼人を前にして、匙を投げた。
「ああもう、無くても知りませんよ?」
「グゥレイトォ!! 無くても良いんだ、とにかく俺は小麦色薬があるかどうか確かめたいんだッ!」
「霊査したら遺跡の中にグドンとか棲んでますし、死ぬかも知れませんよ?」
「そこは冒険者の腕の見せ所じゃないか!」
 前のめりになり、勢い良く熱演するパック。ツキユーは判りました、依頼しておきますから唾を飛ばさないで下さいと懇願するのみだった。

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参加者
蒼き月の導師・イリス(a00824)
凪・タケル(a06416)
緋桜の獅子・オウカ(a10970)
中の人などいない・ディスティン(a12529)
白い月と澄み渡る青い空・リオネア(a27611)
胡蝶花霞・カノン(a27954)
花に夜・シンヤ(a29128)
祉花・カハク(a39735)
正義マフラー・レミント(a40098)



<リプレイ>

●護衛班、あるいは留守番班
 パックの小麦色の肌を渇望するその気持ちに、同調する一人の男がいた。
「分かる、分かるぞ! 『小麦色にあらねば男に非ず』と先人も言った!」
「分かってくれるか、友よ!!」
 テントの中、パックの肩に手を置くアーマード・ディスティン(a12529)の姿。
 そんな二人の声をテントの外で聞きながら、表裏のセイヒツ・レミント(a40098)は思想という鋭い牙を己の心のうちへ突き立てる。
(「もしかしてあのモヤシは脳みそまで痩せ細っているのでしょうか……?」)
 彼は依頼人のパックを嫌悪していた。でなければ名前を最初から覚えようともせず、密かにモヤシという呼称で彼を呼ぶ事もないだろう。
 気の乗らない依頼だが、受けたからには完遂させる。今の自分が取るべき行動はこの愚かな依頼人を護衛する事だ、そう割り切ってレミントはテントの入り口に立ち、近づくグドンがいないか見張り続ける。
 眼前に広がる遺跡は大きく、かなりの年代モノである事を感じさせる。石壁はところどころ風化し、代わりに縦横無尽に伸びた蔦が補強するように展開していた。既に仲間達が先遣隊として遺跡に突入しているが、この広さではグドン達の掃討にもかなりの時間が掛かるかもしれない。
「小麦………薬……魔法、で……小麦……かゆ……うま………魔法の小麦粉……ハッ!! パック、あんた本当にいいのか。副作用とかあるかもだぞ。一時の快楽に魅せられて後に何があるかも分からないんだぞ……!」
 その点、テントの中でディスティンやパックと共にバカな会話を繰り広げている希霞夜・シンヤ(a29128)は長期戦の構えを取っていた。彼の扱えるアビリティは安全な寝袋に幸せの運び手、1日は楽に野営できる準備がある。
「フッ……その先に何があるかなんて、わかってたら面白くないだろ? 薬だって、人生だってな」
 シンヤの制止をニヒルに振り切るパック。前向きにバックダッシュしているのは気のせいだろうか。
 パックの言葉に痛く感激した様子のディスティン、むせびなくようにしながら抱きついた。
「うむ、その言や良し! 小麦粉薬を手に入れて明日から我々も小麦色メイツ。もうモヤシなんて呼ばせない!」
「ああディスティン、お前も全身真っ白だもんな! 俺が小麦粉薬を手に入れたら半分わけてやるから、待ってろよ!!」
「いや、ディスティンはただ白銀のスーツアーマーを外に着込んでるだけじゃ……」
 シンヤはついにバカ話から脱落した。二人のハーモニーが醸し出す領域はカオスすぎる。
 彼らもただパックのバカ話に付き合っている訳ではない。短気そうなパックが先遣隊の到着を待たずに遺跡に突入する事がないよう、足止めする為だった。あえて茶番に付き合っているのだ。
「シンヤ殿、我に中の人などいない!」
 ……多分。

●先遣隊1
「小麦色の肌ですか……夏はまだまだ先ですね」
 遺跡の通路を歩いている蒼き月の導師・イリス(a00824)は、ふっと天を仰ぐ。
 有ったり無かったりする石天井、そんな天井の隙間から差し込む直射日光はまだ弱い。乾いた寒風が一陣吹いた。
 視線を元に戻す、作っていた即興の地図が見えた。先遣隊は部隊を2つに分け、まず広い遺跡の右半分をイリスら先遣隊1班が担当、その調査を元に左半分を先遣隊2班が担当する事にしていた。
「オウカ殿はお久しぶりですねぇ。良い結果になるよう頑張りましょう」
 班の先頭でそう話しかける不知行方・タケル(a06416)も、話しかけられた歓喜の歌を舞い踊る桜・オウカ(a10970)も共に肌の色が黒い。ちょうどパックの求めている小麦色は、タケルやオウカのような肌の色だった。
「んー。今回は依頼人に納得してもらわん事には解決しないもんなぁ……」
 厄介そうに、自分の銀髪を掻くオウカ。彼女には、いや、冒険者達には1つの懸念があった。
「ピルグドンが出なけりゃいいが。まあ、大丈夫か」
 オウカは懸念と共に楽観的な希望を口にする。
 ピルグリムとグドンの合いの子、ピルグリムグドン。今年に入り彼らは急速にその数を増やしている。ピルグリムの強さとグドンの繁殖力を合わせているのだ、種としての能力は高い。
「霊査士は特に何も言っていませんでしたが……」
 気をつけるに越した事はないでしょう、と続けるイリス。霊査士とて依頼を失敗させる為に情報を小出しにしたりはしない。手に入った情報を全て冒険者へ教えているのだ。そうした上で霊査士がピルグリムグドンについて何も言わなかったという事は、本当にピルグリムグドンが居ないか、ピルグリムグドンが居る事が判らなかったかだ。
「話を聞こうにも小動物は居ませんし」
 曲がり角にチョークで印をつけながら、タケルは辺りの様子を観察する。獣達の歌で小動物から情報を入手できればと思っていたが、居るのは小さな蜘蛛や隊列を組んで行進する蟻くらいだ。あるいは遺跡に棲んでいた鳥やウサギといった小動物はグドン達の餌食になってしまった後なのかもしれない。
「うーん、どうもこの遺跡には多くの人が住んでいたみたいだな……」
 イリスと同じくマッピングをしていたオウカは、改めて自分が作った地図を見直す。
 等間隔、規則的に配置された10畳ほどの部屋。それぞれ部屋には家具があったりと人々が暮らしていた名残を感じさせ、隠し部屋のような閉鎖空間も見当たらない。遺跡も元は、現代風に言えば集団住宅の類だったのだろう。
「普通に探せば少し位は遺物とか出そうですけれどねぇ」
 タケルの呟きに、同意の頷きを見せるイリス。ただ、パックは遺物ならなんでも良い訳ではない。彼が欲しているのは小麦色薬ただひとつなのだ。
 そんな事を話していると、ひょいと曲がり角から顔を出した猿グドン達と鉢合わせる。この遺跡で初めて出会った敵対者だ。オウカは楽しげに指の骨を鳴らす。
「丁度良かった、色々考えすぎて頭がパンクしそうだったんだ。お前らでイライラを抜かせてもらうよ――さてと、グドンが一匹!」

●先遣隊2
「はぅぅ、お、おいでなさっちゃったですのっ!」
 パニック状態の雪詩・カハク(a39735)が、キィキィ言いながら自分達に迫ってくる猿グドンの存在を皆に伝えた。
 どれくらいパニック状態かというと、書いていた略地図を丸めて剣にしているくらいだ。無理もない、彼女はこれが初めての依頼だったし、まだ冒険者としても新米なのだ。例え敵が普通の猿グドンだとしても、恐ろしい敵である事に違いはない。
「腰、腰」
 キルドレッドブルーと融合しながら、グレートアクスを握り締める千夜二咲ク胡蝶菫・カノン(a27954)の指摘。一方の彼はカハクのような危機感も無く、したがってある程度冷静に辺りの状況を確認していた。
 猿グドンの数は8匹。通路の横幅、縦幅共に攻撃を行う広さは充分にある。ただ、時折天井が崩落している箇所もある事から、壁などに衝撃を与えるのは危険が伴う、よって流水撃や横薙ぎの攻撃は封印する。ここまで一瞬。
「あ、そうだ。お姉さんに頂いた刀っ!」
 前後の文脈に沿わない敬語を混ぜつつ、地図と腰にぶら下げた太刀とを素早く持ち替える。柄には椿の紋、雪の結晶の如き刃紋も鮮やかな一振りの太刀。それは物理的にも精神的にも、カハクを護ってくれる太刀だった。
「安心しな、俺が守ってやるよ」
 カノンが軽く一歩前に出、それに応じるようにカハクも一歩下がる。
「うーんと……あんまり派手に暴れたら危ないかな?」
 銀の猫を擁く白翼の歌姫・リオネア(a27611)は後方へ下がりつつ、やはり遺跡の状態を確認していた。
 前衛カノン、中衛カハク、後衛リオネアという縦長の陣形は細長い廊下での戦いにはお互いを邪魔しないという点で適している。また、リオネアが扱えるアビリティなら、遺跡自体を傷付ける事もないだろう。緑の業火で壁にへばりついた蔦が燃えるかも知れないが、延焼分も時が経てば勝手に鎮火されるはずだ。
 そうこうしているうちに、接近した猿グドンとカノンが戦い始めた。飛び掛ってくる猿グドンをカノンは避けようともせず、斧を振り上げて両断する。勢い余って石畳の隙間に斧の刃が咥えこまれる、隙有りと見た猿グドン達が襲いかかってくる。
「っと!」
 斧から手を離し、顔面を狙ったひっかきをスウェーでかわすカノン。後ろからはリオネアとカハクの援護攻撃が飛ぶ。
「タイミングはこっちで合わせるから、安心してですよ」
 励ますようなリオネアの言葉を背中に受け、カハクは自らの気を練って気の刃を作り出した。
「やっちゃうですの!!」
「いくですよーっ」
 放たれる気の刃、更にその後ろからは刃を補佐するように炎を纏った木の葉が続く。カノンの横を通りすぎ、狙いはその奥にいる猿グドン。その風を切るような速度に猿グドン達は対応できない。
「ギギッ……!!」
「やったですの!」
 二人のコンビネーション攻撃は見事に命中し、倒れる猿グドン。それを見届けるとすぐにカノンも反撃に出る。
「お前ら邪魔なんだよ。さっさと失せろっつーの!!」
 斧を取らないまま、素手で敵の懐に潜り込む。そしておもむろに、ウェポン・オーバーロードを発動した。強化された斧が手に戻った時には既に、その刃を振り下ろす体勢が出来ている。
 その威圧すら感じさせる光景に脅えながら攻撃を繰り出す猿グドン達。しかし、紅蓮の炎と銀の氷を身に纏ったカノンにそのような攻撃が通るはずもない。
 雷を伴った一撃は、鉄槌のように猿グドン達へ振り下ろされた。

●小麦色薬、見つからず
「はぁ……はぁ、もうダメだ、疲れた!」
 パックが両膝に手を付き、肩で息をする。辺りはすっかり暗くなっていた、冷たい風がリオネアの持つカンテラを揺らめかせ、冒険者達の影もつられて揺れる。
「随分粘ったなぁ」
 腕を組み、感心するように頷くシンヤ。予想通り、この遺跡から小麦色薬といった珍妙なアイテムは発見されなかった。
「……なんで、小麦色の肌好きなんだ?」
 一応、その理由を尋ねてみるオウカ。パックはウインクを一つ返す。
「人を好きになるのに、理由がいるかい?」
 一見格好良さげなセリフだが、答えになっていない上に視線はオウカの豊満な胸に釘付けだ。身の危険を感じたオウカが自分に婚約者がいる事を告げると、パックはあからさまに肩を落とした。
 話題を逸らすように、慌てて口を開くカノン。
「俺も色白だろ? だから自分と違う肌の色に憧れる気持ちってのは、わからなくもないぜ」
「無いものを欲しがるのかな? 白い肌でもモテるとは思うですよ、だから夏まで我慢ですよー」
 リオネアも落ち込み気味のパックを慰める。
「そうそう。それに小麦色の肌が似合うにゃ、もっと鍛えなきゃいけないぜ。夏まで鍛えてみたらどうだい?」
 オウカの言葉は妙に説得力がある。タケルといいオウカといい、この場にいる色黒の人間が一様に逞しくて格好良いからだろうか。カハクは眉をハの字にしながら、うんうん唸って考えていた。
「……そうだな、マッチョになれば日焼けは後からついてくるもんな! いざとなりゃ茶色の絵の具を体に塗れば良いし」
 口々に声をかけられ、速攻で復活したパック。同時にありえない解決策も図っているが、つっこむのも野暮というものだし、また落ち込まれたらたまったモノではない。
「モヤ……貴方がすっきり諦めてくれるのなら僕も嬉しい限りです」
 うんうんと頷くレミント。タケルがすっと、パックの肌を指差した。
「それに1日中、日の降り注ぐ遺跡をうろついていたんですから少しは日焼けしたんじゃないですか?」
「む、そういわれてみればそうかも……」
 自分の腕をまじまじと見るパック。見やすいようにとシンヤがホーリーライトをかけてやる。
「じゃ、ちょっとつけてみるからな……」
 その光の色は橙色だった。橙色の光を受けてパックの肌は小麦色っぽく見える。
「おお、本当だ! バンザーイバンザーイ!」
 諸手を上げて喜ぶパック。こんなので良いとは流石ダメ人間だ。
「小麦色薬なら確かにあったではないか……我々の心の中に!」
 最後にディスティンがなんかそれっぽい事を言って、依頼を締めくくるのだった。


マスター:蘇我県 紹介ページ
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作成日:2006/03/09
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