Atelier 〜Compatriote



<オープニング>


「何です? ジルの聖衣が羨ましいのですか?」
 向けられた視線を感じて深雪の優艶・フラジィル(a90222)は目を瞬いた。
「其の凄絶な服か。別に要らん。寧ろ着れん」
 視線を向けていた癖に毀れる紅涙・ティアレス(a90167)は鼻で笑う。
「し、失礼なッ! こ、このワンピースはですねぇ、由緒正しい――」
「ところでロザリー」
「ムキャー!」
 凄絶囁き雑音聖衣について語ろうとしていたフラジィルは、思い切り流されて腹を立てる。話を振られた荊棘の霊査士・ロザリー(a90151)は小首を傾げ、ティアレスへと顔を向けた。
 何時に無く渋い顔をした彼は、「近頃、同盟内外で不穏な動きが多いようでは無いか」と低い声で囁く。霊査士の表情が少しばかり真剣みを増し、続きを促すように小首を傾げた。
「身を護る品が欲しい。我とも在ろう者が平和惚けしていたようだ」
 霊査士は蒼い瞳を細める。
 男の身に着けた拘束服を見遣り、溜息混じりに言葉を返した。
「……今、ティアレスが身につけている程の品は、無いと思うけれど?」
「構わん」
 即答に近い速さで返答する。
「本当に品を必要としている者は我では無かろう」
 ティアレスの吐いた言葉に霊査士は短い沈黙を落とし、そして静かに語り出した。

 霊査士が語ったのは、とある小さな鍛冶工房についてだ。
 近隣で戦場に行く兵士は必ず此処に立ち寄り、そして想い人を戦に取られた乙女もまた必ず此処に立ち寄ったと言う。無事に帰って来ることが出来るように想いを込めて護り具を選び、愛しい人を護ってくれることを願って防ぐ品を求める。
 必ずや再び故里の地を踏むことが出来るよう、其の工房は何時しか「同郷の人」――コンパトリヨットと呼ばれ始めた。此処に置かれている防具は、己と故郷を等しくする道標でもあるのだと戦士たちは語った。
 工房には作るだけ作られた守り具が山と並び、今も自らを必要とする主を待ち続けていると言う。今代の工房主は紫の髪を垂らした柔和な顔立ちをした中肉中背の男であるらしい。
 武具を引き取る者に彼が求めるのは一定の財力か、若しくは護り具を真に必要とするに足る理由と言う話。随分な偏屈者として、そして心優しい工房の主として近隣では名が高いと言う。
 其の工房で作られた金属の防具全てには「Compatriote」と焼鏝が施され、其の工房で縫われた全ての布製防具には「Compatriote」と刺繍が施されている。戦場に旅立つ者が故郷を護る為に闘う盾となり、故郷へと帰る為の道標となるべく工房コンパトリヨットは今もひっそりと新たな願い人を待ち望んでいる。
 霊査士が語ったのは、そんな話だった。

 ティアレスは工房への道順を聞き出すと、今し方聞いたばかりの話をしながら冒険者たちを誘う。
「貴様らが今必要とするものは、身を護る為の祈りでは無いのか?」
 誰の身をとは敢えて言わず、何時に無く真摯に、紅の瞳が語っていた。

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参加者
NPC:毀れる紅涙・ティアレス(a90167)



<リプレイ>

●コンパトリヨット
 同郷の人――其の名を冠する工房に立ち入る。
 工房の煙突からは白い煙が立ち上り続け、けれど鋼を打つ音は聞こえない。工房の主は簡素な机の前に座り、分厚い本を読んでいた。冒険者らの訪れには目もくれず、先へ先へと読み進めて行く。彼は豊かな紫の髪を緩やかに纏め、背に垂らしていた。数人の冒険者の挨拶にも視線は逸らさず、追い払うように左腕を上げる。
 工房の中には所狭しとばかりに防具の類が並べられていた。時間制限があるわけでも無い、とカナメはゆっくり辺りを見回す。自身の命を預けるに相応しい品を探した。ひとつひとつの業が息衝いている品々を見遣りながら、ダウは望郷の念にも駆られている。このような工房にある共通の香りを見出して、思わず息を吐いた。
 ノリスは早速浜茄子の図案が施されている甲冑を見付け、安心して身を預けることの出来る品か丹念に調べる。鎧は即ち身を護る要だ。薄い服では心許無く、かと言って着込めば良いと言うものでも無い。自身と其の戦い方に相応しい品を求め、ガルスタは眼鏡の奥の瞳を細めた。
 近頃は同盟に戦の気配が満ちている。再び故郷の地を踏むことを願い、ルミルは真剣な眼差しで防護を求めた。気になる品へと手を伸ばしつつ、クロスは己の帰るべき場所、大切なある女性のことを脳裏に浮かべる。誰かが無事帰り着く為に戦うことも冒険者の務めだろう、そう思いながらトウマも手を貸してくれるだろう品を探した。
 無理をするなと渡された護り刀は、無理をしてばかりの人からの贈り物。胸に想いを溜め込んで、ソナは必死で護り具を求める。エルスは自らを護る品を求めつつ、大切な人を想っていた。せめて自分を護れるだけの強さをと強く願う。菓子の礼に相応しいかは判らぬものの、アイズが最も贈りたい物は愛しい人を護ってくれる品だった。自身は死なぬと決めた以上必要が無い、と誰かの為の品を望む。
 ユージンは常に身につけることが出来、身軽で在りながら命を護ってくれる品を探していた。求める役割の理由は、自身の能力に欠けている物。自分を案じてくれる人の優しさを噛み締めながら、ネミンは護る力を探す。自分を確りと護ることで、向けられる心配を緩めて遣ることが出来ればと想う。アリスも、自身を大切だと言ってくれる人の為にも死ぬことは出来ないと感じるようになっていた。想いを込めて、生きて帰る為の助けを求む。

●護り具の話
「あった?」
 何の変哲も無い筈の術士服を手に取っていたネフィリムは、肩越しに声を掛けられ、はっとしたように顔を上げた。ヴィアドは何故か少し安堵したようで、彼女の手元を覗き込むと慈しむように目を細める。知人らには視線を向けぬよう気遣いながら、シキは頑張り屋さんな良い子の為に御褒美を見繕っていた。
 吟遊詩人のラティメリアが風の噂で冒険者になったらしい妹の為に防具を探す横で、狂戦士のラティメリアは姉に良く似た感じの少女に視線を向ける。セルムはまるで白昼夢を見たかのような瞬間を経て、目の前にある鎖帷子に引き寄せられた。防具を選びながらもミューが想うのは森のこと。破壊されつつある森、そして大結界に想い馳せれば身震いもする。何時か森に帰る為に、彼女は緩く息を吐いた。
 思い馳せるに表情を歪めたくも為りながら、エンが探すのは一刻一秒を争う際に駆け付けれるような、兎に角軽量化に努めた品。グリュウは大切な物を護る時、多少の無茶を許してくれる力強い防具を求める。コンパトリヨットの刺繍は、きっと己を奮い立たせてくれるだろう。
 故郷を護る為の闘う盾、帰る為の道標と成る可く願い人を待ち続けている護り具の眠る場所を見回して、ルキはひとつの白に目を奪われた。降り続く雪の中の約束を思い出す。シャスタが己の胸当てを探し当てたのも、単純な一目惚れだった。何処にでもあるような其れは、何処か母に似ている。羽根のようにふわりと揺れて見える衣にそっと触れ、セレーネは思わず呟いた。
「……逢えて嬉しい」
 惹き付けられる者が出始めると、メビウスは不思議と楽しくなった。魂の籠められた魅力ある護り具こそ命を任せるに値するだろう。攻撃を受け持ち堪えて敵を討つことが果たすべき役割だと定めているクリュウは、丁寧に鎧を選んでいた。防護に気を払わぬ武人など、戦友たちへの背信になるとまで思う。
 端の方ではリューシャが一生懸命フラジィルを慰めていた。私の衣服も凄絶ですから、なんて必死に言ってくれる彼女を見て、フラジィルの方が嬉しそうに笑い出す。フウアもにこにこしながら、彼女の服の由来を尋ねた。実は少し聞いてみたいと思っていたユウノも、興味を惹かれたように視線を向ける。
 フラジィルは照れたように笑いながら、お誕生日に貰ったんですよぅと短く、幸せそうに語った。そんな彼女にナミは自分は装備に無頓着だと囁き、菓子を渡して餌付けしてからひとつ尋ねる。
「とある白っぽくて顔の大きな霊査士の少女さんには、どんなのが良いかな?」
 彼女は暫く沈黙して、ひとつ唸り、其れから答えた。
「頭が大きい子なら、被り易いように、襟刳りが広い服が良いと思うですけど……」
 女の子に顔が大きいとか言っちゃダメですよ、と珍しく僅かに顔を顰めた。

●護る為の調え
 レインとビャクヤは互いに互いへ贈り合う品を探している。必ず戻って来るように、強く在れるように、想いを祈り捧げた。遠からず戦が始まる。オレサマが願うのは皆が大切なものを失わぬ未来だ。民の為、そして愛する人の為に歩みたいとジェネシスは思う。進むことを諦めず前へ向かい続けようと誓った。
 血の味が滲む程に歯を噛み締めて、アオイは防具を見繕っている。愛した人の願いを叶えたい、其の一念で彼は動いた。漸く御眼鏡に適う品を見出したティアは、其の鎧を纏うだろう人を想い、祝福を籠める。
 仄かな桜に染まった衣を取り上げて、リーティアは緩く息を吐く。支え続ける為に立ち続けたい。フィーは漆黒の戦装束に触れ、秘密の言葉を呟いた。あの人を、きっと護れますように。シェルトはふと振り返る。視線で探れば呼び声の主が直ぐ見付かった。贈る相手を思い浮かべ、相応しいと微笑を浮かべる。
「生まれ故郷を知らなくても、私を導いてくれる……のかな?」
 コンパトリヨット。工房の謳い文句を思い浮かべて、クウェルタは己の髪に良く似た色の服を一枚取り上げた。故郷の記憶を持たぬ者程、同郷の言葉に擽られる何かがあるのかもしれない。今の居場所を護る為に、先に逝ってしまった友の下へは未だ行けない。思いを噛み締めながらオリエは護り具を見立てている。そんな彼女に付き合っていた毀れる紅涙・ティアレス(a90167)に、遠慮がちながら御指名で声が掛けられた。
「ティアレスさん、武人の方は、どんな防具を身に纏うことが多いのでしょう……?」
「我が素晴らしい助言をしてやる。武人に聞け」
 にこりと笑って爽やかに答える。言われたレラが困ったように視線を泳がすと、丁度此方を見ていたガイと目が合った。彼は言葉を掛けぬまま、必ず護るとの誓いを胸に穏やかな色の布を引く。
 ウィーがティアレスに声を掛け、次の戦での武運を祈る言葉を紡いだ。リィリも二人を不安げに見遣りながら、無事で帰って来るよう願いを掛ける。ミナが「ほら」と差し出した服を見て、ティアレスは可笑しげに笑う。趣味は悪く無いが此処にある防具よりも丈夫な物を既に手にしているから、と断った。
「貴様らな、我がそう簡単に死ぬわけもあるまい」
 ユーリィカはへらりと笑いながらそんな様子を眺め、大義名分の為で無く身を案じ続けてくれた祖母の為に生き続けようと防具を求む。見定められるのは己なのだろうとも思えば、不思議な緊張も感じる。
「よう、待たせたな」
 声を掛けた相手は一着の聖衣。ナナトは満足げに笑うと、勝利し生還する為の意志を得る。ルルノーは帰りを待つ大好きな人の為、帰り来る目印になるように、見定めた鎧をぴかぴかに磨き上げて居た。

●作り手の話
 ひっそりと片隅に置かれていた全身鎧に手で触れ、シャニティアは守り抜く為の力を感じる。決して死にたく無いと生を渇望し続けながら、ストラタムは生きて帰ることを願った。そして、漂う不穏な暗雲をも払うのだ。人を活かす為の力を、意思を持ちたいと願いながら、アンリも自らの強さに繋がるだろう品を見付ける。
「沢山の人を見守り続け、護り具を作り続けてきた職人さんこそ真のモノノフと見たなぁ〜ん!」
 自分も誇り高く生きたいのだと力説するモモンガを相手にに、工房の主はとうとう本を手放してくすくすと笑った。財力が心許無いのだが代わりに自分の血で贖え無いかと交渉し出したクレメンスも含めて、同盟の冒険者は面白い人が多いのですね、と主は肩を震わせる。
 センリが命を捧げても惜しく無いと思える程の主を護るべく、強い鎧が欲しいのだと語った。シュシュは一呼吸でも長く戦士を望む場所に立たせ続けることが己の務めであると言う。歯痒くもあれど選んだ道であるのだから、そう語る。リンも丁寧に己の求めた理由を告げた。主は「構いません、好きなものがあれば持って行くと良い」と何処か投げ遣りな姿勢で本に戻る。
「選ぶのは私ではありませんから」
 言う紫の髪の男に、ヨイクは尋ねた。防具を作ることに迷ったことは無いのか、と。主は「悩みを知らぬ人間は少ないでしょうねぇ」と曖昧に答えながらページを手繰る。悲しみを繰り返さぬ為に戦い続けると決めたワスプが、優秀な武道着が在るかと主に問うも、彼は「貴方に相応しい程の品をと仰るならば、私の腕が足りません」と柔和に微笑む。
 剣を交える相手となれど、同じ世界に生きる存在であることに変わりは無い。何れ還る地は同じであれば、憎しみは抱かぬ誓いを持ち、母なる自然を忘れず心に刻む為、戦場の隣人として護り具を貰い受けたい。そう語るファオに、主は本から顔を上げぬまま、
「作り手の幸福となるでしょう」
 と短く返した。籠めた意味までは語らない。
 山を成す守り具の中からジェイスは漸く、己が必要とする盾を見出す。故郷を護らんと死した友、そして看取った里が目蓋の裏に思い出される。モルバは只管清閑に佇み、独り己に合う物を選んだ。兎も角頑丈で長持ちするようにと実用性を気に掛ける。戦場に身を置きながら戦う術を持たぬ人を想い、始まる戦を思う。一秒でも長く、立ち続けたいと酷く願った。
 血以上の絆がある掛け替えの無い姉を想い、フェザーは深い青の鎧に触れた。冷えた金属を撫でながら、盾に相応しく生き続ける助けに相応しい色だと目を伏せる。血を血で洗うような戦場へ、赴く日はそう遠く無い。
 其れは冒険者ひとりひとりが皆、静かに、けれど深く意識し続けている筈だった。


マスター:愛染りんご 紹介ページ
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参加者:64人
作成日:2006/03/11
得票数:冒険活劇8  ダーク4  ほのぼの34 
冒険結果:成功!
重傷者:なし
死亡者:なし
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