花粉飛ばしモンスター



<オープニング>


 春。
 冬を溶かす暖風がそよそよと流れてくる季節。重苦しいコートを脱いでもいい頃。そして花が咲き乱れる時だ。可愛らしく色づいた街道脇の花びらに、人々は心を和ませる。一年で最も健やかに過ごせるのが春である。
 しかし、その心地よさを妨害する魔の手があった。
「西の街道に、有毒な花粉を飛ばす樹木モンスターが出現しました」
 ドリアッドの霊査士・シィル(a90170)が少し鼻を鳴らしている。調子がよくないらしい。
「その高さ3メートルほどのモンスターは、通行人を発見するや樹冠をわさわさーっと震わせて、花粉を飛ばすんですね。それにやられた人はひどい鼻づまりと喉の痛みと涙とで、すっかり衰弱してしまうのだそうです」
 私がそんなのに遭遇したらイチコロですね、とシィルは言う。
「あと、硬い体を生かした体当たりなどが脅威ですね。花粉だけに気を取られてはいけません。……とにかく皆さんの安全な旅と健康のために、お願いしますね」

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参加者
天魔の魔女・リュフティ(a00421)
紋章術士の菓子職人・カレン(a01462)
業の刻印・ヴァイス(a06493)
月光の鎧を纏いし黒虎・アルフォンス(a17752)
紅刃の翔天使・ラビリス(a30038)
悪鬼羅刹・テンユウ(a32534)
永遠の光・ビオウ(a32804)
角殴の蒼き風・サードムーン(a33583)
緋閃・クレス(a35740)
凶ツ狗・イオネ(a38138)
唄夢霞・アミュレイ(a39127)
星を統べる少女・ルナ(a40003)


<リプレイ>


 緑の続く街道は、木も花も生き生きとしていて美しい。
 そして花粉が思いっきり飛びそうな、温かく風のある陽気。晴天はありがたいが困ったとも思う。
「こういう日ばかりは、雨が降っててほしいと思いますね」
 永遠の光・ビオウ(a32804)が軽く嘆息しながら肩をすくめる。冒険者の気など知らない太陽は笑うように燦々と光を振りまくばかりだ。
「全員がマスクとかゴーグルとか着用……怪しい集団だわ」
「人目に付かないうちに、早く終わらせたいですね」
 天魔の魔女・リュフティ(a00421)と光輝を放つ翼・アミュレイ(a39127)が苦笑を交わす。花粉対策の装備だが、傍から見れば盗賊あたりと間違われるかもしれない。
 ざわ。
「……む? みんな、あれが敵だ!」
 月光の鎧を纏いし黒虎・アルフォンス(a17752)が前方を指差して叫んだ。
 立ち並んでいた樹木の一本が、ふいに動いたのだ。
 冒険者は集中力を一気に研ぎ澄ませる。街道に出た歩く樹木――モンスターは行く手を遮ったかと思うと幹に赤黒い目と口を浮かばせる。ニタリと笑う不気味な表情だった。
 確かに高さ3メートルほど、木としては低木の類だが、ずいぶん肌がゴツゴツしていて頑丈そうだ。肝心の樹冠の枝には、花粉を大量にまき散らかしそうな丸い種がびっしりとついている。
「さあ、来るなら来い……!」
 無風の構えを取る戦帥の蒼き風・サードムーン(a33583)。敵はゆっくりと前進してくる。その様子から、それほどスピードはなさそうに思えた。
「我が力と引き換えに……来たれ! 晶霊よ!」
 リュフティはクリスタルインセクトを召喚し、壁の代わりと為す。敵は相変わらず鈍いスピードで前進を続ける。
「どうする? ラビリスさん」
「そうね、木は木らしく、あるべき姿――薪にしてあげましょ!」
「了解」
 木には炎と無風之鬼・テンユウ(a32534)が黒炎覚醒し、紅刃の翔天使・ラビリス(a30038)が真紅の太刀で起こしたソニックウェーブで切り刻む。ここでモンスターはダメージに甘んじながらも一挙に突進してきた。決して遅くはない。緩急を付けることにより調子を狂わせる頭脳を持っている!
「む、食えない奴だ」
 前衛の業の刻印・ヴァイス(a06493)は後衛を守るように立ち塞がり、バッドラックシュートを撃ち出す。不吉な絵のカードが命中した幹の一部が黒く変わり、確実な不幸の効果をもたらした。しかし勢いは止まらず、ヴァイスは体当たりに吹き飛ばされた。
 防御は高そうだと、アルフォンスは迷わずウェポン・オーバーロードを発動する。緋蓮の双剣士・クレス(a35740)はイリュージョンステップを開始した。
「体当たりは予想通り強そうだ。なるべく食らわないようにしよう」
「せやね、でも……これが一番効果あるやろ?」
 紋章術士の菓子職人・カレン(a01462)が向かわせたのは気高き銀狼。牙を食らいつかせ、わずかの間動きを止める。
「皆、今ノウチニ……」
 最弱・イオネ(a38138)の静謐の祈りを受けながら、アミュレイが緑の業火を、ビオウがスキュラフレイムを放つ。異なる炎が見事に幹の大部分を覆った。これが効いていないわけはない。
「よし……」
 黒き月の覇者・ルナ(a40003)も追撃しようと構える。だがその時。
 パパパパン! 花火のような破裂音がした。そして敵の頭上から、むわっと細かい粉が広がる。熱で種が弾け、花粉が舞ったのだ。
 もとより花粉症のルナは嫌悪感を抱きながらデモニックフレイムを命中させるが、さらにパパパンと花粉が飛び散った。
 ゴーグルもマスクもあるから平気……かと思われたが、花粉はわずかな隙間からも侵入する。完全に防ぐことは出来ない! サードムーン、リュフティ、テンユウが足を止めてしまう。後ろに下がり被害は最小限に押さえたが、まるで口に唐辛子でも詰め込まれたような刺激の強さだった。
「予想以上の代物らしいわね。回復最優先にしなきゃ」
 攻撃に行こうとしたラビリスは後退して毒消しの風を生じさせる。どうにかいがらっぽさは消えたが、あれを食らえば攻撃どころではなくなってしまう。
 のんびりしている暇はなさそうだ――ヴァイスが槍をゆらりと揺らし――無音の一撃を繰り出す。忍びの大技シャドウスラッシュが相手の樹冠の一部を削り取った。
「モンスター自身は自分の花粉にやられることはないのだな。まったく上手く出来ている!」
 アルフォンスも舌打ちしつつ、斧を大上段に振りかぶりながら真正面から接近する。撃ちだしたホーリースマッシュがまた樹冠を捉え、枝を斬り飛ばすことに成功した。
 しかし先ほど舞った花粉がまだ漂っている。クレスは体が徐々に弱るのを感じた。戦いが長引くほど敵に有利になってしまう。
「……想像してたよりもキツい。早く仕留めないと!」
 体に鞭打って全力のミラージュアタックに行く。二刀小太刀は今や六刀。三方向からの鋭い斬撃が樹冠を連続して傷つけた。苦しそうに呻くモンスター。余裕がないのは冒険者ばかりではない。
「は……はっくしょん! このー、うちも負けてられん!」
 赤い目のカレンがギュッと鼻をつまんでから印を結び、両手を突き出す。炎を帯びた木の葉はしかし、かするだけに留まる。集中力が足りず、狙いが逸れてしまったのだ。モンスターは嬉々として突進し、重厚な体当たりでカレンに反撃する。
「……辛抱シテ。アッチモ弱ッテル」
 イオネは続けて祈り、仲間のサポートに徹する。回復役がいることのありがたさに、一同は改めて感謝の念が湧くのを感じる。
「今度は私が封じます。……ええい!」
 アミュレイが麗らかな金髪を振り乱し、懸命に作った気高き銀狼を突っこませた。敵は避けきれず、その場に根を張ったように動けなくなる。ビオウが、ルナが、腕に力を込めて真向かう。
「さっきは熱で種が弾けたんですよね……」
「ああ、だが今さら気にしてもしょうがないと思う。……燃やし尽くそう」
「……ですね! 攻撃あるのみです!」
 再びの黒炎を同時に撃った。互いに絡み合い膨張する炎に敵の全身が黒く覆われ、きな臭い匂いが充満する。絶叫するモンスター。
 そして、今また種が弾けようと――。
「懐が甘いんだよ! くらえ!」
 そこに、二度と失敗せぬと決意する武道家がいる。サードムーンの斬鉄蹴が樹幹を大きく抉り、右目の部分を完全に破壊した。炎に焼かれた箇所だから、崩れやすくなっていたのだ。
 パン! 花粉が飛んだ。それとタイミングを同じくして、リュフティが念じる。
「紅き炎は踊る。爛々と、その腕は全てを抱き、その想いは全てを燃やし……」
 エンブレムノヴァが一直線に飛行し、盛大に着弾する。残り少ない樹冠をことごとく焼き払った。一方舞い散る花粉は、戦場全体を囲い冒険者を苦しめる。しかし。
「清めの音にて凶事打ち払わん……ってな」
 テンユウが長バチを打ちながら高らかな凱歌を歌い、仲間たちを回復してみせた。
 もはや出し尽くしたか、空中の花粉はこれ以上は増えなかった。
 モンスターがふらつきながらもタックルしてくる。これが最後のあがきと思われた。
「そんな単純な攻撃っ!」
 ラビリスがイリュージョンステップでたやすく回避する。あえなく空振る敵は倒れる寸前。
「(悪いな……怨め。だが、ここで終われ)」
 轟!
 キルドレッドブルーと融合したヴァイスの魔炎が炸裂した。幾度目かの炎に耐える力は残されていない。
 ぴしり、ぴしり。乾いた音。崩壊の音。
 一瞬の硬直のあと、真っ黒になったモンスターは一気にバラバラになって地面に崩れ落ちた。


「獲物ヲ仕留メタ証ハ忘レズニ……フフフ」
 イオネは一部分を懐に収めたが、それ以外はこれ以上花粉が飛び散らないようにと、モンスターの骸をしっかりと焼却した。ずいぶん大量に出てしまった灰はヴァイス、テンユウ、ラビリスの3人で協力し、近くの森に持って行って土に埋めた。
 作業を終えると、冒険者たちはその辺に腰掛けて休憩を取った。
「あ〜っ、これでやっと皆安心して春の情景を楽しめるよな」
「はい、ゆっくりと見物していきましょう」
 クレスとアミュレイはゴーグルを取った。花粉はまだ多少は残っているだろうが、モンスターによる脅威が去ったのだから、クリアな視界を保ちたかった。
「これでこの街道もしばらくは平和でしょうね」
「ああ、さっそく付近の住民にも報せに行かないとな。何たって花の季節だ」
 リュフティとサードムーンは傍らに咲いている花をいじる。本当に、モンスターさえなければ春の街道ほど気持ちいい場所はあるまい。自然の美しさが胸に染み入る。
「ルナさん、大丈夫ですか?」
 ビオウに声をかけられ、ルナはしきりに鼻を鳴らす。
「……詰まってる。ゆっくり休みたいな」
 本当に嫌な敵だったな、と全員の意見は一致した。モンスターはどれもが手強いが、今回は強いというよりいやらしい相手だった。
「けど、これ以上ないくらい、やりがいある仕事やったね!」
 と、カレン。人々の喜ぶ顔が目に浮かび、かゆみを吹き飛ばす。
 身を休め、春を満喫する。穏やかに時を過ごした。しばらく経って、アルフォンスが威勢良く言った。
「さぁ、皆帰ろうぜ!」
 そろそろ戻って報告しなければ。季節を楽しむのに、もう何の支障もないと。


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