芝蘭交わる春の総花



<オープニング>


 毀れる紅涙・ティアレス(a90167)が彼なりに行く先を見定め心を引き締めている横で、其の霊査士は相変わらずの静かな眼差しで羊皮紙を開いている。ゆるりと戦地に想いを馳せた。霊査士として酒場へ訪れるようになってから、既に一年と半年が経過しようとしている。
 霊査士として見る酒場は見知らぬ世界其の物で、其の中に在りながら確りと責務を果たす先輩たちの背中を、憧憬と共に見詰めたものだった。荊棘の霊査士・ロザリー(a90151)の眼差しが傍目から見て、唯ぼんやりとしているようにしか見えなかったことは兎も角、深く想える人々の存在が増えたことは確かだ。
 祈り捧ぐことを自ら望んでしまう程、其の人々は大きな存在なのである。
 しかしながら彼女の祈りは、恋愛で言うところ片想いの部類に含まれる。普段は表に出辛いながら、人付き合いが致命的に下手な彼女としては、遠くからひっそりと祈ることが精一杯で「御無事で」と口にすることさえ出来ないのだ。
「好意を抱く程、消極的になるのよな。小心者め」
 知ったような口調でのティアレスが言ったからかいに、珍しく頬を赤く染める程、想いを表す為に動くことが下手糞なのだ。同僚とも言える人々が戦場へ赴くのを見るたび、もどかしい想いに囚われる。
「……せめて、御守りに……想いを込めておこうかと、思ってる……」
 言葉を選び選び口にした彼女に、ティアレスは肩を竦めた。
「渡す宛ても無いのに、か?」
 ロザリーは眉を少し寄せて、拗ねたように少しだけ唇を尖らせる。
「其れでも、何もしないよりは……マシだわ、きっと」
 リディア護衛士団からの不穏な報告、地獄に潜み続けるノスフェラトゥの動向、戦いを続けているだろう対ミュントス特務部隊、そして西方ドリアッド領にて繰り広げられている対トロウルの激戦。
 戦の香りが同盟に充満していくような錯覚を覚える。
 毅然としているべきは霊査士たる自身だと彼女は考えた。不安の芽が其処彼処に生まれ始めている。心に安らぎを齎すことを願って動くのも、また霊査士たる者の務めだろうと、敬愛して已まない先達たちの背を思い浮かべた。

「…………そんな、感じで」
 霊査士は深雪の優艶・フラジィル(a90222)に相談した。
 口をぱっくり開けて、目をぱっちり開いて、思い切り驚くフラジィル。
「ま、まさかロザリーさんに頼られるなんて、です」
「……適任かな、と思って」
 視線を逸らす霊査士をまじまじと見てから、フラジィルは「任せてください!」と胸を叩いた。
 ドン。
 咽たりはしない。
「皆を捕まえれば良いんですね! 大勢捕まえて来ます!」
 勢い良く駆け出すフラジィル。
「そ、そうじゃなくて……必要と、する人を誘……」
 酒場でドタバタが始まる。
「……」
 霊査士は沈黙して、見なかったことにした。

 霊査士が皆を誘おうと考えた場は、所謂「御守り」を取り扱っていると言う聖堂だった。小さいながら清らかな場には、腰まで伸びた白金の髪を持つ俗世を離れた者が一人住んでいる。其の者は小さな聖堂の周りで咲き乱れる花を愛し、其の花を模した護りの品をひとつひとつ丁寧に作った。
 元々手先が器用な者であったのか、高値で買い取る貴族も後を絶たぬと言う話。けれど其の守りの品は、誰より願う者へと渡される。聖堂の住み人は「選ぶ力を持つ者」を好んだ。
 護りの品は無数と思える程にある。
 様々な花を模って作り、また、様々な花の刺繍を施し、また、様々な花の色で染め、また、様々な花の柄で敷かれる。其の護りに託す願いと、其の護りを向ける者へ最も相応しきは何かを思い悩んで選んでこそでは無いかと言うものが主なりの美学哲学であるらしい。
 聖堂に住む者は代替わりもする。其の為、護り具の中には長く聖堂内に留まっているものも多い。金属を加工した品、宝玉を鏤めた品、淡いものから深いものまで色取り取りの、己が生まれる前から其処に在り続ける護りの品を見、主は言う。
「何時如何なる時か私は知らん。しかし彼らにも己を必要とする者と巡り会う時が来るのだよ」
 待ち続けた何れかを拾い上げてやるも良い。主の手解きを受け、自ら御守りを作るのも良い。元々作られている素体に何らかの手を加えるのも良い。特に戦場へ赴く者は、御守りを武器飾りとして使えるよう細工して行くことも多いと言う。
 真に相応しいと思うものを選び取る、その過程で想いが込められるのだと主は語った。其の護りこそが己を真に高め、護り具の意味を引き出すのだ、と。

 春、花に囲まれた聖堂に、未だ知らぬ誰かの為の護りが眠る。

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参加者
NPC:荊棘の霊査士・ロザリー(a90151)



<リプレイ>

●清らかな聖堂
 春を思わせる木漏れ日が小さな堂内へ降り注いでいる。聖堂の主は祈り捧げる姿勢から微塵も動かず、御守りを取りに来た面々にも気付いた様子は見せなかった。この堂には誰かの為の誰かの祈りが、未だ宛を知らずに眠っている。
 花に囲まれた場に、シャルティナは暫し見入っていた。
 流れる、不思議なほど穏やかな時間に、ルキは思わず目を閉じる。
 ハーウェルは目に付いた朱赤の守りを手に取った。此度の大遠征に赴けぬ歯痒さを抱きながら、せめてと祈りを込める。とある人の支えにと願い、ファフニールも聖堂に踏み入った。祈りと言うのは世界で最も美しい願いの形だと、誰かの言葉が耳に蘇る。ラティメリアに探すのを手伝ってと話し掛けられたケイカは、自分で探してこそだと彼女を叱っていた。
「自分の物やと適当でええんやけどな」
「……同感だ」
 ランララ聖花祭の御返しを名目に護り具を探しに来たヴィアドとクルードは、小さく声を洩らして苦笑した。真剣に誰かの為の品を選ぶことは、中々の労力を要する。やっぱり彼に贈るものですねとクーヤに冷やかされ、もぅ、とフィオは照れたように声を洩らした。
 スージーは大好きな人の髪の色に似た護り具を手に取る。金細工を手に取り、フィーは約束を想った。選び取る花の言葉は誇り高い。瞬きの間に何処かへ消えた、手の届かない優しい人の幸せを祈ってリーティアも御守りを探した。選んだ美しい白磁の珠に紐を通して、ミナは御守りを武器飾りに細工する。シュヴァルツは命に代えても護りたい人の笑顔を願って、護り具を探した。
 二人で探した方が早く目当ての品も見付かるだろうとデスペルに声を掛けられ、エンジェルのベルは有り難そうに答える。何を求めるか相談する訳でも無いが、ラウドとカイリュートも偶には共に行動するのも良いだろうと二人で品を探していた。花の知識を持たないリリーが目をぐるぐるさせているのを、ファオは優しく見守りながら御守り選びを手伝っていた。
 可愛く優しい弟の顔を思い浮かべて、シファは護符の入ったピンクチューリップの袋を取り上げる。大遠征に参加する知人の生還を祈って、ノヴァーリスは彼女に似合う色を選んだ。オウカは大切な人の守護に願いを掛けた花の護りを、聖堂主の手解きを受けて作らんとしている。
 こっそり聖堂に立ち入ったマオーガーは、苺の花の武器飾りを手早く選んだ。マサカズは渡す相手は秘密だと虚空に言い訳しながら雪ノ下の護りを取る。アスティナが取り上げたのは白いカトレアが刺繍された藍の布。白金の鎖を持つリシェと選んだ品を見せ合って、二人は親愛なる人々の無事を祈った。

●護る気持ち
 祈りの標として何時か渡すことが出来れば良い、とユージンは小さな御守りを手に取った。願うだけでは叶わぬことも知っていながら、願いを止めることは出来ない。思慮深く穏やかな温かい友への感謝を、グリーシャは小さな石に彫り込んだ。ユズリアは紫の瞳を想い浮かべて、彼の人の歩む道の平穏を祈って小さな刺繍を施す。
 共に此処を訪れたキリトとカインは、皆が無事であるよう願いを掛けて、其々の飾り紐を握り締めた。ビオウは桃色をした可愛らしい御守りに、大切な友人の無事を願い込める。
 花好きなオリエは始終嬉しそうに護りの山を見て回っていた。大きな戦を前にした今に、最も相応しく思える花の護りを選び取る。今は少しだけ離れている大切な人が護られるようにと願いながら、フィオラも白い花を模った品を護りの山から見出した。
「大きな戦争が始まるので、大変ですけれど……」
 無事に終わらせて、カフェでのんびり美味しい紅茶とお菓子を食べましょうねとリューシャはフラジィルに微笑み掛ける。ケネスも無理はしないようにと気遣いを口にし、優しく頭を撫でて遣りながら「御互い怪我の無いよう頑張りましょう」と微笑んだ。
「ジルさんも御守り探しですか?」
 綺麗な薔薇の刺繍が施された御守りを手に、シアが問う。フラジィルはコクコクと頷いて、エルクルードさんに誘って貰ったのですよぅ、と連れを示した。其の彼女は丁度、手に入れたいと思っていた品を見付けたところのようだった。
 アーシュは案外無鉄砲な恋人の為に、ランララ聖花祭の御返しも兼ねて御守りを選んでいる。メビウスは想いを秘めながら、姫石楠花を模した美しい武器飾りを手に取った。誕生日に贈ろうとフィードは空色の菫の刺繍が施されたものに祈りを込める。健気に咲く君影草を模った鈴の護りが、義兄の加護を探していたカノンの目に留まった。乗り越える未来を思い、ダイアナは自身の心の支えを求める。
 時期も時期であるし、皆、大切な存在の無事を願っているのだろう。其れにしても人が多いとカーディスは今更ながら苦笑した。人込みと誰かの目を恐れるように隅へ寄り、シスイはこっそり護りの山を見て回る。無事を願う代わりに誓い、心惹いた護りを手にし、コトコは小さく笑みを洩らした。
 懐刀に目を落とし、苦笑を洩らすとセリアは目当ての品を探して視線を巡らせる。気休め程度でも護りが降りれば良い。過ぎ行く時を愛しみながら、ミュウは大切な人への誕生日の贈り物を選んでいる。フィニスは奇跡を花言葉に持つ青い花の護符を手に取って、道を拓く願いを込めた。

●想いの祈り
 ジョゼフィーナは銀のリボンで結んだ白と赤の薔薇を聖堂の祭壇に供え、間近になった戦の勝利を祈る。アリエノールも目を瞑り、知らず手を合わせて祈っていた。控えた戦は、大きな不安を心へと呼ぶ。冷えて清浄な堂内の空気を吸い込んで、ヒユラは目を細めた。想いが力だと思わせてくれる優しい場所だ、と胸に手を当てて想う。
 シエールは自身がずっと身につけていた護りの品を、露草の刺繍が施された袋に忍ばせる。贈りたい理由は、自身の護りを手放す理由に足りるのだ。レイナートは矢車菊を模したアクセサリーを探すがやはり見付からず、諦めて御守りを手に取った。ルフナは時間を掛けて見て周り、自分に最も相応しいだろう品を探していた。オボロも相手に似合うよう、色や模様や刺繍やらを丁寧に見比べている。
「(ずっと、傍に居られるように……離れることの無いように……)」
 リウナは向日葵の御守りを手に取って、おまじないのように小さく呟いた。勝気で負けず嫌いで、だけれども女の子らしくて可愛い彼女の笑顔が曇らないようにクレスは願う。見飽きない水晶の護りを探して、カーフスは桜のような人を想った。
 調べた花言葉から選んだ花を探して、ビャクヤは義弟の守護を頼る。戦いを好まない人が、護る為に必死で戦うことをセトは知っていた。だから心だけでも傍に在れるよう、守りの品を求める。戦の香りに包まれた同盟を憂いながらも、赴く人を止めることは出来ない。イーヴは知人の姿にも気付かぬ程、真剣な眼差しで護り具を選んだ。武器に防具に身を浜茄子の意匠で飾るノリスは、今日もまた赤の印の命に肖ろうと決めている。
 漆黒の袋を開くと、花の金細工が煌いていた。祈りの名は贈るに相応しいとルーツァは微笑んで喜ぶ。ギンバイカは必ず帰る決意と其の戒めを、糸繰草の形にした。物言わぬ宿りを手にし、デイトは僅かに頬を緩める。逞しく凛々しくもある蒲公英の花。オルーガは尊敬する人の行く道を、この飾りが暁の如く照らし出すことを願った。
 護る為の助ける為の戦いに赴く妹の為に、ユヅキは精一杯の祈りを込めて牡丹の花飾りを選び取る。クラウディアは今更口には出来ない想いを胸に抱き、似合うだろう赤い花を探しながら、感謝と相手の幸福を祈った。ふと周りを見回して、リンは穏やかに目を細める。誰かの為に真剣に御守りを選ぶ人々の姿は、とても素敵だと聖堂の時間に感謝した。

●霊査士の願い
「あのっ……宜しかったら、一緒に選んで頂けませんか?」
 掛けられた声に荊棘の霊査士・ロザリー(a90151)が振り返る。何処か必死に大切な人の幸せを願うベルの言葉を聞いて、霊査士は小さく頷いた。素敵なものを見付けましょう、と囁くような声で答える。イヴも余程困っていたらしく、霊査士の姿を見止めて助けを求めた。ゼソラは霊査士に挨拶すると、彼女の手を両手で握って握手した。
「出来たら、あたくしのも一緒に選んで下さいませんか?」
 微笑んで告げたイングリドの言葉にも、霊査士は喜んでと頷き返す。オズリックは大切な人に贈りたいのだと言い、心折れぬ支えが欲しいとクリュウは手伝いを乞い、自分を思わせるような御守りをとアリスが願うも、やはり霊査士は頷いた。
 笑顔で待つ約束を果たせるような御守りが欲しいと言うルーネに、ほんの微か微笑み掛ける。彼女なりに想いを込める護りの場所で、求められる手助けを無碍に断ることはしなかった。良いと思う武器飾りを選んで貰いたいと言うエンにも、皆、頑張って選ぶからと返答していた霊査士に、
「ロザリー、俺の姉に渡す武器飾りを選んでほしいんだが」
 案外と大勢が彼女の元に来たのだな、と少し遠慮しながらもキョウヤは声を掛ける。虹を思わせる香りを纏い、希望の花飾りを求むシュシュの言葉にも霊査士は、少し一生懸命にも見えるくらい何度も繰り返し頷いた。
 遣って来たナナトが「くれるんだろ?」と当然のように声を掛けると、彼女は「図々しい人ね……」と少し笑った。選ぶ強さを持たないと語ったストラタムには、迷いは弱さでは無いのだから、と穏やかな声音で告げる。ジェネシスの言葉にも勿論と応じ、けれど「貴方のだけ特別に悩んであげたりはしないわ」とやや語気を強めて切り捨てた。
 ふと、ひとつの護りを手に取って沈黙していた霊査士に気付き、アオイが声を掛ける。
「……誰か贈る相手でも居るのか?」
 悪意が無いながら少し意外そうな声音は尤もなものだが、霊査士は恥らうように頬を染めて睫を伏せる。渡せないの、と蚊の鳴くような声で答える彼女に、想いはきっと伝わっていると思うわとレインが微笑む。
「若し宜しければ、貴女の好む品を私に下さいませんか?」
 珍しい霊査士の姿に可愛らしさも感じつつ、イドゥナは静かに声を掛けた。彼女は意味を噛み締め、頑張ってみる、とやや弱気な答えを小さく返す。嗚呼、とガルスタは思い出したように彼女に向けて武器飾りを差し出した。
「私の護り、持っていてくれないか?」
 霊査士と言う立場の者に預けたいとの彼に、霊査士も嬉しいと素直な言葉を口にする。
 人垣の落ち着いた頃を見計らい遣って来たニューラが、苧環の花の護りを望んでいるのだと声を掛けた。彼女の誕生花は「勝利の誓い」を意味するらしい。賎や賎――糸繰りに擬え、過去を愛しむ悲恋を思わす可憐な花。勝利を探す努力を諦めたくは無いと彼女は語った。
「戻れないなら、進むしかありませんもの」
 ロザリーは瞳を細めるだけの微笑みで応え、戦いましょう、と穏やかに囁く。
 夕暮れ時の聖堂は、赤々とした何処か寂しい陽射しの色で満ちていた。


マスター:愛染りんご 紹介ページ
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参加者:93人
作成日:2006/03/15
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