【失われた書】第2話・2



<オープニング>


「よーし、きれいになった」
 青年は石の上に降り注いでいた枯れ葉を掃き取り、満足そうに頷いた。
「ご先祖様、ご先祖様。どうか妹が幸せになりますように」
「お、なんだセーウィアス。帰って来るなり熱心にお祈りか?」
「もちろんさ、これを祈らなくてどうするんだ」
 近くを通りかかって声をかけてきた男に、笑顔を返す。
 実は青年の妹が町に嫁に行くことになったのである。そこは大きな街道の近くにあり商人の出入りも多いにぎやかな町だ。こんな辺境近くの村からはるばる嫁入りするのであるから、いくらその町にいる親類が紹介してくれたこととはいえ、心配するのは当然である。
 大切な妹だ。すでに亡くなった両親に代わり、自分がずっと面倒を見てきた。
 だから今回、婚家にも自分が挨拶に行ったのである。幸い、義父母も夫も温厚そうな人物で、セーウィアスを丁寧に応接してくれた。
 これなら、妹がむごく扱われることもないだろう。長旅の苦労も報われる思いであった。
 こんな大切な日だからこそ、お参りにも力がこもる。
 ご先祖様の、立派な墓。何をしたどういう人だったかは、実はよく知らないのだが。なんでも、偉い先生のお弟子さんだったらしい。
「弟子だったってだけでこんな立派な墓が建つんだから、その先生ってのはよっぽど偉かったんだろうなぁ」
 ここにお参りするのが、セーウィアスの日課なのである。

 さて、酒場。1人の男が上機嫌で酒杯を傾けている。
「いやあ、うちの息子がこんど結婚するんだよ」
「へぇ、そりゃあめでたい」
「ありがとう。何かと頼りない男だが……知人が、親類の娘さんを紹介してくれてね。このまえ挨拶に来てくれたが、なかなか気持ちの良い若者だった。彼の妹なら、間違いないだろう」
「いや、めでたい」
 男は数人の知人、そしてたまたま居合わせた者たちにも祝辞を投げかけられ、上機嫌で飲み続けていた。
 ところが。騒ぎに加わらず、隅で飲んでいた老婆の言葉が、一同に冷や水を浴びせる。
「……もしかするとそれは、ムリアスの村に住む兄妹のことかの?」
「え、えぇ。そうですが……」
 男は怪訝な顔で、老婆を振り返った。
「残念じゃったな、それは破談よ」
「なに!」
 なにをくだらないことを! 怒鳴りそうになった男は気付いた。老婆の両手は、やけに頑丈そうな手錠、そして鎖がはめられている。これは「霊査士」というものではないだろうか? 冒険者たちに予見を告げるという、霊査士では。
「運が悪かったのう。その村なら、何者かに襲われることになろう。誰1人、生き延びることは出来まいよ」
「じょ、冗談じゃない!」
 老婆への罵声は、狼狽しきった声に取って代わられた。破談になることだけではない。あの、気持ちの良い青年までが落命してしまうとは!
「なんとかならないのか! 教えてくれ!」
「ならば、しばし待っておれ」
 懇願する義父を押しとどめておもむろに腰を上げた老婆は、しばらくすると数人の屈強そうな……体格という意味ではなく、とにかくただ者ではなさそうな……一団を連れてきた。
「ほれ、こ奴らが冒険者よ。いずれも名うての勇者揃い。悪いようにはせんだろうてヒェッヒェッヒェ!」

 冒険者たちを送りだした老婆の横で、若者が酒場の親父に声をかけている。
「エスラス先生の使いで参りました。また、『経』の探索を手伝っていただきたいと……」

 そこは、辺境にある小さな小さな町である。
 この町でウスキアスの名を知らないと言ったら、「なんて世の中を知らないんだ」と呆れられるだろう。
 彼は、彼の一家は代々学者である。単なる学者には留まらず、領主の信任も厚い、言うなれば顧問のような存在であった。
 さて、そのウスキアスが家臣からの報告に耳を傾けていた。
「いかなる理由がある者でも、絶対に街道を通すべきではないと、領主様にお伝えしろ。……あの先には凶悪な『盗賊』が跋扈しているのだからな」
「は。必ず」
 部屋には、もう1人の人物がいた。報告を終えた家臣が部屋を出て行くと、酒杯を置いて顔を向ける。まだ、若い男である。
「待たせたな」
 威厳に溢れた学者は向かい合わせに座ると、自らも酒杯を手に取った。青年は酒瓶を手に取り、学者の杯に酒を注ぐ。
 青年は、商人であった。それも、大店の主である。先代から店を引き継いで間もないが、なかなかやることにそつがない。
 ウスキアスにとって、単に取引相手というだけでなく、町のことを知るには役に立つ男である。ある意味で、領主よりも町に詳しい。
「どうだ、なにか変わったことはないか」
 変わった出来事ことと言えば、あの、歌を歌っていた少女。何処かに消えたあの少女のことか。
 しかし青年はそれについてはおくびにも出さず、
「は、は……おかげさまで、日々の商売もうまくいっております」
「暖炉の火も、そろそろ暑くなりすぎる季節か。それとも、具合でも悪いのか。近頃、人とも会っておらぬらしいが」
 額の汗をぬぐうような仕草を見せた青年に、ウスキアスは問う。
「呼びつけて悪かったか?」
「とんでもございません。商談に出なかったのは、気が進まない相手だっただけのこと。ウスキアス様のお呼びがそのようなはずはありません」
「はは、こやつ」
 ウスキアスは声を立てて笑う。
「口がうまいな、クラウ・ソラス……?」

 冒険者たちは……
 5.義父の依頼を受け、村を救出へ
 6.「重要人物」に会いに行く
 7.遺跡の再探索/文献調査
 8.その他

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参加者
理を秘めたる紫紺・シトリーク(a02700)
紫晶氷姫・アオイ(a07743)
メガネマイスター・コロクル(a08067)
囀り風見烏・サガン(a18767)
光と影の十字架・クリストファ(a30176)
孤山の老木・ヴァルター(a34611)
幽惑ゑし夜露の白緑仙女・メロゥフフラン(a38433)
白銀の竜騎兵・シエラ(a39018)
灼帝焔雷・フタバ(a39298)
世界を駆巡る暴風・ノーラ(a40336)
黒包帯の怪人・ソベル(a40744)
流転の灯・シリア(a42531)


<リプレイ>

●今はまだ平穏な村
「おぬしら、急ぎすぎると肝心なときにへたばるぞ?」
「だからといって、のんびりしていられる場合でもないのでしょう?」
「違いない。ヒェッヒェッヒェ!」
 駆け出し冒険者・クリストファ(a30176)は老婆の言葉に肩をすくめ、仲間たちと共に酒場を後にする。
 歩くこと数刻。とある峠に差し掛かったところで、いったん一休みする者と別れる。
「急ぎましょう。一刻の猶予もありません」
 共に先を急ぐのは希望を拓く騎士・シエラ(a39018)。
「ふむ、2人だけでは不安も残るのう。致し方あるまい、わしも急ぐとしよう」
 と、孤山の老木・ヴァルター(a34611)は立ち上がった。
「お気をつけて。私たちもなるべく……遅れぬように後を追います」
「頼む。盗賊どもがいつ村を襲うのか……正確な日取りがわかっておるわけではないからのう」
「えぇ……気をつけます」
 ふらんそわ〜ず・サガン(a18767)は頷いた。
 彼らと別れ、クリストファら3人は先を急ぐ。
「間に合うかどうか、霊査士を信じるしかないのう」
 重い鎧は歩みの妨げとなる。ヴァルターは鎧も背に負って進む。他の2人も、それに倣った。
 急ぐと言っても、まったく食わず休まず眠らずゆけるわけではない。が、それも最低限にとどめて村へと向かう。。
 そして、ついに3人はムリアスにたどり着いた。
「……今のところは、平穏な村に見えますね」
 クリストファの眼前に広がる光景は、これと言って特別なもののない農村のそれである。
「だれか! だれかいませんか!」
 シエラが大声で叫ぶと、村の住民が何事かと姿を見せた。
「なんだ、あんたたち? ずいぶん疲れてるみたいだけど、大丈夫か?」
「それどころではないのです。この村が盗賊に狙われていると、霊査士から聞きました!」
「な、なんだって!?」
 心配してくれた若者の言葉を遮り、シエラは訴える。傍目にもわかるほど疲労困憊している彼らだが、これを伝えることが先決なのだ。
 当然ながら、若者は目を見開いて驚きを露わにした。彼ばかりではない。村の人々はそれぞれ顔を見合わせ、表情を曇らせる。
 そして、現れた3人が冒険者だとわかると、その知らせが現実の物だと実感し、騒ぎ始めた。
「盗賊だって! いったいどうすればいいんだ!」
 しばらくの間、騒ぎは収まらなかったが、村人たちは結局は村長の家に集まり、その土間や倉庫に寝泊まりをすることになった。
「盗賊だって? 本当かい?」
 村には他に、冒険者クラウディアもいた。彼も加わり、村人を避難させる。
 そして、日が暮れた。
「お〜い、待たせたなぁ!」
 又鬼・コロクル(a08067)が松明を掲げて姿を見せた。その後ろには、
「まだ、現れてはいませんか!?」
 流転の灯・シリア(a42531)や黒包帯の怪人・ソベル(a40744)、世界を駆巡る暴風・ノーラ(a40336)、そしてサガンの姿もある。
 これで全員が揃った。
「あとは僕が見張っとくわ。ちょっとでも休んどき」
 コロクルは先に到着した3人に声をかけ、火の見櫓に登って辺りを遠望する。
「任せてください。皆さんの安全は絶対に保障しますよ」
「心配いらないなぁ〜ん」
 ソベルとノーラも村人たちを励ましつつ、襲撃を今か今かと待ちかまえた。
 夜が更ける。月のない晩である。
「嫌な夜やな……」
 コロクルが天を仰いで呟いた、そのとき。

●思い悩むばかり
「どうも、隠し事があるような気がするなぁ」
 町の大通りを往くのは焔雷・フタバ(a39298)。向かう先は商人クラウ・ソラスの構える店である。
「なにやら困っとるんかな? それなら力になってやってもえぇけど……悪巧みしよるんなら、かまぁかけて墓穴掘らしたろか」
 と、考えながら口をへの字に曲げたまま歩く。
 などと、あれこれ思ってはみたものの。
 いったい「何を」「どうやって」聞き出そうというのか? 言いくるめるにしたところで、彼自身にも深い考えはまとまっていないようである。
 もっとも、
「旦那様に面会を? ……失礼ながら、旦那様はここしばらく体調を崩され、面会はお断りしております」
 と、店の者にすげなく断られて。それっきり打つ手を無くしてしまい、結局のところなんの違いもなかったのであるが……。

●学者の邸宅
 その町の、こちらは領主の館にも近い宮門のそば。そこを歩いているのは、腐海の朽ちなし千年樹・メロゥフフラン(a38433)。
「ここですか……なるほど、確かに名士みたいですね」
 とある屋敷の前に立ち止まる。ひときわ立派な門。ここがウスキアスの屋敷であるという。
 町の人間に尋ねると、すぐにわかった。どうやらウスキアスは、町の人間にも畏敬の念を抱かれているようだ。
 ある意味、領主以上に。
 昔、この地に暴戻な領主がいたという。
 それに諫言を呈したのがウスキアスの祖先であった。しかしそれは受け入れられず、領主は悪政を続けた。その結果、領主の弟がついに領主を殺し、その座に着いたという事件が起こったのである。新しく立った領主はウスキアスの祖先を尊び、師としたのだという。
 そうしたことがあったから、ウスキアスの家は代々領主に尊ばれているのだという。
 駄目でもともと、メロゥフフランは「大学者にお会いしたい」という名目で、門扉を叩く。
 すると。
「ようこそ、このような弊宅においでくだされた」
 容易くウスキアスと面会することがかなった。初老の男は丁重にメロゥフフランを出迎えたのである。
「ほう、天候を……。ならば農学者でいらっしゃるのかな? 農は国の基。私も大いに興味があります。是非、今日は先生のご高説をお聞かせ願いたい」
 と、席を勧めたのである。
「あの、いえ、そんな大層なものでは……」
 思いもよらぬ歓待にメロゥフフランはむしろ恐縮したのだが。
 何とかそれっぽく話をしていく。そしてその中に、聞きたいことを交える。
「ところで、最近この辺りでは盗賊が横行しているそうですが……なんでも、1人残らず殺された村もあるとか」
「おぉ。それは私も気に病んでいることです。しかし備えをする以上の良策を献言することも出来ず、心苦しい」
 だとか、
「そういえば、町に、不思議な歌を歌っている少女がいるそうですが」
「ほう。それはどういう歌なのですか? ……ほう、確かに変わった歌ですな」
 などとやりとりをしつつ、ウスキアスの顔色を窺うが。終始、穏やかな表情を見せているが、心の奥底までは見通せない。
 まぁ、それはこちらも同じかもしれないが。
「いや、今日は私に耳を潤す時間を与えていただき感謝します。よろしければ、弊宅でおくつろぎください」
 どうやらこの屋敷には、そうした客も多くいるらしい。

●炎、炎、炎
 闇に沈んでいた草原から、ぱッと明るく光が生まれた。
 ひとつだけではない。ふたつ、みっつ。それも村の四方からである。
「来よった!」
 コロクルが叫ぶ。その声で、うとうととしていた者たちも慌てて武器を取った。
 そうしている間にも、光は増え続ける。
 光とは、炎。闇を切り裂いて飛来する。襲撃してきた者どもは次々と火矢を放ってきたのだ。
 たっぷりと油を含んで燃える火矢が、枯れ草を燃え上がらせる。ときおり、陶器の割れる音も混じった。油壺を投げつけてきたのだ。
「村を襲うにしては……徹底しすぎています……!」
 シリアは炎の飛来してくる方に向かって走りつつ、唇を噛んだ。
 炎は村の四方を舐め尽くしている。……いや、一方のみが開いている。しかし、炎を避けてそこから逃げ出せば、敵が待ちかまえているのではないか?
 そもそも、盗賊の目的は何だ。焼き尽くした村から、何が略奪できるというのであろう。
 しかし、シリアの思考はそこまでで中断する。
「いよいよ来るか!?」
 少しばかり手際の良い盗賊だからとて、遅れをとりはしない。ヴァルターは敵が前進してくる気配を感じ、得物を構えた。
 シエラもまた、蛮刀を構える。正直なところ、うとうととしたくらいでは疲れは取れていない。が、しかし。襲ってくる者は皆、斬るという気構えで待ち受ける。
 村の側からも、炎が飛んだ。ノーラの『エンブレムノヴァ未完成』である。至近に落ちた火球が、襲撃者の姿を浮かび上がらせた。
「諦めるなぁ〜ん! 今度は当てるなぁ〜ん!」
 襲撃者どもの、たじろぐ気配。
「村を襲うの、やめてもらえません? それとも私たち冒険者を相手に、あくまでもやりますか?」
 炎とは違う、赤い光に浮かび上がるサガンの姿。この、自然にはあり得ない明かりを見れば、彼が冒険者であることも一目瞭然であろう。
 すると、なんと。盗賊どもは襲撃を諦めたのか、次々と闇の中に消えていったではないか!
「まさか、本当に諦めるとは……」
 当のサガンも、拍子抜けした様子である。
「それどころじゃありません。火が……!」
 シリアが急ぎ、井戸から水を汲んできた。
 燃え上がった炎はどんどんと広がり、村の家屋を燃やし始めているのだ。
 冒険者たちは慌てて火を消し止めにかかる。
 どうやら、何か裏のありそうな襲撃である。もし、奴らを捕らえることが出来れば何か聞き出せたかもしれないのであるが。
 ……盗賊が退いたのは、それを嫌ってのことなのか。

●不可解な死
「ほう……これは、また」
「皆様、ご無事でしょうか……」
「実に興味深いですね」
「シトリークさん?」
 とある村では凄惨な事件が起ころうとしているのに、理を秘めたる紫紺・シトリーク(a02700)の一行は実にのどかに発掘作業を続けていた。呼びかける紫銀の蒼晶華・アオイ(a07743)の声に、やっと振り向く。
「失礼……好奇心が」
 ばつの悪そうな顔で、アオイにわびる。
 シトリークらはエスラスの弟子たちとともに、再発掘を行っている。モンスターが倒された遺跡は平穏そのもの。天気も良く、「もしかしたらまだ」という心配も杞憂のようだ。
「はぁ……。それで、シトリークさんはどうお考えです?」
「そうですね、人に何かを伝えようとする方法が文字ばかりとは限りません。なにか、そう、この遺跡そのものに、何か秘密があるのかもしれませんよ」
 とはいえ、それも地道な発掘作業をしてみないことにはわからない。護衛役にとどまらず、2人も作業に加わる。
 ふと、アオイが顔を上げた。
「そういえば。あの石板と鼎の見つかったこの場所、お墓だったのでしょう?」
「えぇ。なんでもモールフィースの高弟の墓らしいですが……あぁ」
 後世に伝えるべく遺しておくようなものは、家の台所にはない。墓の中、副葬品にこそ見つかるだろう。
 シトリークは『クリスタルインセクト奥義』を呼び出し、慎重に地の隙間に潜らせた。
 そして、いつの時代かの地殻の変動によって移ってしまったであろう、石棺を発見したのである。
「これこそ、この墓の主。モールフィースの高弟に違いないでしょう」
 弟子たちと共に、石棺を開く。
「……なんです、これは」
 その骨の傷みは風化によるものだけでなく、明らかに不自然な傷み方をしていたのである。そう、毒でも盛られたかのような。
「見てください、シトリーク」
 アオイが、棺に刻まれた文字を指し示す。
 モールフィースの高弟。年は、かなり下である。なのに……没年はわずかに遅れただけ。師の亡くなったすぐ後に、この弟子は。

●小さな村の、末裔
「ありがとうございます。おかげで……みな助かりました」
 火が消し止められたのは日が昇った後だった。村人総出で消し止めた後、若者が一息入れている冒険者たちのところにやって来て、礼を述べる。
 シエラたちを気遣ってくれた若者である。クラウディアが肩をすくめる。
「なに、たいしたことはしてないよ。ところで、セーウィアスって人はいるかい?」
 すると若者は、
「あ、俺ですが」
 と、怪訝な顔をした。
「あぁ、あなたが。実は僕がこの村にやって来たのは警告をするだけじゃないんですよ」
 ソベルは「ご先祖の墓を調べさせて欲しい」と、頼み込む。セーウィアスは驚いたようではあったが、その理由を説明すると納得してくれた。
 そうして、重たい石を動かして墓の中を調べてみると。
 それがわかったのはエスラスが到着してからのことになるが、その墓に眠る人物はやはり、モールフィースの高弟の1人であった。『経』の編纂を手伝ったに違いない人物である。
 しかし残念なことに、ここにも『経』そのものは残されていなかった。その子孫であるセーウィアスにも、
「『経』か……。やっぱり、すごく偉い人のお弟子さんだったんだなぁ。知らなくて、恥ずかしいよ」
 と、事績は伝わっていなかったのだ。
「見てのとおり、うちは決して立派な名家なんかじゃなくてただの農民なんだ。そんな大切な物は……見たことないなぁ。申し訳ない、助けてもらったのに」
「いえいえ、とんでもない。それよりも妹さんが結婚されると聞きました。おめでとうございます」
 冒険者たちは普通の生活を送るセーウィアスに祝辞を述べたのだった。
 エスラスは残念そうな顔を少ししたものの、すぐに気を取り直したようだ。
「ここにも『経』はありませんでしたか……。いえ、すぐに見つかるなどとは思っていませんでした。この村も調べれば、何らかの手がかりが見つかるでしょう! 間違いなく、『経』に近づいていると思います!」
 だが、『経』に関わる様々な問題が複雑に絡み合ってきたことも、冒険者は感じたのだった。

(つづく)


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