≪護楓の盾カムライ≫サギミヤ前哨戦 〜国境突破



<オープニング>


●挙兵前
 ミヨシの町を取り戻して以降、城下町はまるで坂道を転げ落ちていく様な早さで慌しさを増していた。行き交うのは戦支度を整えた武士や兵士。そして戦の為に必要な物資を積んだ大八車が行き来する。
 戦の支度は粗方済んでおり、後はいつ王の命が下されるかと言う所にまで準備は進められていた。

 スミツの王・レイオウは外海に出でて、海上からサギミヤへと向かう旨を伝えると、彼は老中らに陸路側の指揮を任せ、そのまま城の東側に位置する港町へと向かった。
 彼を始めとして海戦に長けた『セトゥーナの海賊』達は、海路からサギミヤの港を確保を行うのが目的であった。少なくとも海戦に於いては彼らの方が秀でている事が主な理由だ。
 彼に替わって陸路から国境線を越える武士団を任されたのは、ジロウタと呼ばれる男であった。スミツへと向かった者達には知る良しも無いが、彼もまた、トコラヒのミヤビ同様に今回の戦に当たって将軍の役職を与えられている。
 この度の戦においての作戦の大筋はレイオウや老中らが立てた物であるが、実質的に武士団の運営に当たるのはジロウタと呼ばれる将軍である。
 彼が任された武士団がサギミヤへと侵入し、城下から城へと攻め入る頃を見計らって、海路から侵入したレイオウ達『セトゥーナの海賊』が港から上陸する事で、鬼達の混乱を誘い、これを討つ。無論、スミツの国力だけでは鬼相手の戦を行うには些か無理がある。けれど、サギミヤを攻めるのは彼らだけでは無い。

 既に幾度かの書状のやり取りを持って、イヨシキのタダチカ公との意思疎通は取れていた。その結果として、スミツが立つ事に呼応する様にして、イヨシキの側でも侵攻を開始する事となった。サギミヤを中心として見て、西のイヨシキと南のスミツ。この二国が同時に攻め入る事で、これまでの戦局を打破しようと言うのが考えられた懸案であった。
 彼らとて、今までその様に思案をしなかった訳ではない。当初は戦術的な、兵の運用と言う部分で先んじていた各国の武士達が奮闘する事で、五分と五分と言う拮抗した状況を生み出す事が出来た。そこから更に用兵を練る事で打倒を図る積りであった。
 しかし、その目論見は時が経つにつれて覆される事となる。これまでよりも鬼達が徐々に力を付け始め、更には洗練された楓華の戦術を取る様になった為だ。その為にほぼ同等の戦術を用いてくる鬼との戦力差は段々と開きが大きくなり、現状へと到った。
 だが、鬼達が覆した状況を更に覆す手札が揃う事となった。護楓の盾カムライと言う集団の存在だ。彼らが奉じる希望のグリモアの力に縁る事で、新たなる力を得る。そして彼らそのものもまた、大きな力の一つでもある。
 鬼と拮抗、いやさ上回りうる力。それがセトゥーナ州で思われる護楓の盾カムライの評価であった。


●霊査
「……これから護楓の盾カムライは、サギミヤへ向かう事となりました」
 護衛士達の前に姿を見せたエルフの霊査士・コノヱ(a90236)は、淡々とした様子で述べた。先日、サギミヤへの挙兵に助力せよとスミツの王・レイオウに告げられた彼らは、最終的に陸路での侵攻を行う事となった。陸路を行くのはスミツの武士団と護楓の盾カムライだ。
「まあ、然りよな。おぬし達に与えられた役目を考えるならば、いつまでも一つ所に居られる様な事はないであろう」
 手にした扇子を開き、口元を隠したネネがころころと鈴の音の様な声で言う。確かに彼女の言うとおり、一定の場所に根ざしてしまっては各地の鬼を討つ事は難しいだろう。
「私達はこの間解放出来たミヨシの町を通過し、武士団達の前に立ちつつサギミヤの国とスミツの国を分け隔てる国境を越えます。恐らくは先日の戦いで逃げた鬼達から、国境付近にあるとされる鬼達の砦も警戒を強めているでしょう」
「国境を越えるのに邪魔な砦を落とせ、という話か」
「その通り。おぬし等がスミツの武士団よりも先を行くのはそのような理由であろうな。何せグリモアを解放したとて、直に武士達の力量が上がる訳ではないからの」
 レグルスの言葉にネネが笑みを見せる。グリモアの力が増しても、冒険者としての力の上限が伸びるだけであり、下駄が履かせられる訳ではないのだ。無論、同盟の冒険者が用いる事の出来るエンジェルやチキンレッグと言った楓華の土地に見られない種族が持ちうる力を振るうようにはなれる。しかしそれとて、慣れぬ内は効果的に使えるかといえば首を傾げざるを得ない。
「ここに砦の地図があります。砦その物は国境線からスミツ側にあり、自然を生かして作られた物というお話を、ジロウタ様からお伺いしております」
 コノヱは手にした地図を壁に広げると、四方を小さなピンで押し止めた。
 彼女の言う砦周辺は丘陵地帯から徐々に山地へと移り変わっていくその中程に存在しており、砦は丘の中でも最も高い位置に存在した。砦までは比較的緩やかに凹凸のある地形が続いており、ささやかに彩を添えるかの様に草が茂っているらしい。
「この砦ですが、周辺の岩や石を組み重ねながら作られた堅牢な物で、中には三十人程度の武士達が任につけるだけの空間があるとの事です。砦の周囲に身を隠せるような精々丘の起伏だけで、遮蔽物になるような岩などはないでしょう」
「砦としての機能を考えるなら、そう言った見張りの邪魔になるようなものは省いているのは理解できるわ」
 コノヱの説明にパオラが同感だと頷いてみせる。コノヱはまた口を開いた。
「砦の外壁には射眼が設けられており、私達は射掛けられる前提で砦を落とすべく向かわないといけません。そして、肝心の鬼の数ですが――」
「ふむ、コノヱ殿はどうみるか聞いても構わぬか?」
 肝心の敵の数へと話が進んだ時、ネネが興味深そうな目を彼女に向けながら尋ねた。
「はい……恐らくは三十名弱と見ています。先日の戦いで逃げ帰った鬼が居る可能性がある事から一時的に数は増えますが、逃げた鬼もしくは砦に居た鬼が、サギミヤへと報告に向かうとすればある程度の数が減る事になるでしょう。かと言って警戒しない訳にも行かず、と考えるでしょうから、砦に居られるだけの頭数くらいは想定するべきかと」
「元々砦に居った鬼がどれだけ居るかで変わりそうな所だが、大筋としては間違っては居らぬだろうな。戦と言うものは楽観的に見るよりも悲観的に見ていた方が気が楽であるが、コノヱ殿もその口か」
「楽観的に物が見れる程、幸せな物の考え方は出来ませんから」
 苦笑して答えるコノヱの様子に、ネネは満足したのか瞳を閉じた。
「ともあれ、この石造りの砦を突破しない事には国境を越えてサギミヤへと進む事は出来ません。もし砦の鬼を打ち倒せれば、私達の後に続くスミツの武士団を温存したままに国境を越える事が出来ます。上手くすれば、イヨシキやトコラヒの方々とも合流出来るでしょう」
 そう言うと、コノヱは説明を締め括るのだった。

マスターからのコメントを見る

参加者
銀煌の死神獣・セティール(a00762)
銀雪姫・ナナミ(a04010)
愛を紡ぐ・シャム(a14352)
ももも・アレス(a14419)
冰璃ナル銀想舞擁ク煌夜の聖域・フィリス(a15272)
風竜の舞姫・セラ(a17990)
ぽちたますたー・ミルッヒ(a18262)
黒焔の執行者・レグルス(a20725)
星彩幻女・ティル(a24900)
ごはんが大好き・キララ(a25679)


<リプレイ>

●陽動
 抜ける様な青の中に黒い筋が延びる。丘の上に築かれた石造りの砦から伸びる黒煙は、中に潜む者達の昏い吐息を表すかの如く、途切れる事無く昇っていた。砦からは幾重もの声が上がり、戦の音が上がる。門扉を穿つ者が上げる破砕音。相対する敵の命を奪うべく放たれた矢の風切り音。それらの音が僅かに緑茂る丘の上で響く。
「始まったみたいにゃ……」
 仲間と共に身を潜めていたごはんが大好き・キララ(a25679)が、門へ向かった仲間達が戦いの口火を切った事に呟きを漏らす。砦の後方へと回った彼女は召喚獣を隠して様子を窺った。
 窪みに姿を隠したキララの視界から窺えるのは、辺りを一望出来る様に作られた砦。後方にもやはり射眼が設けられており、コノヱが事前に告げていた通り、砦近辺で身を隠してやり過ごせそうな場所は見当たらない。
「いくのにゃ! 敵が正面に気を取られてるうちに、一気に切り崩すのにゃ!!」
 接近を決意したキララは、音を極力立てぬ様に気を回しつつ、足を踏み出した。しかし、後20mも届かぬうちに彼女の足元に紅色の矢が着弾し、爆発する。
 一度目の爆発が起きた後、砦の上方に設けられた射眼から鬼達が姿を現し、眼下に居るキララ達へと矢を降らせ始めた。護りを抜けて突き刺さる矢に、キララは当初の目的であった壁越えが難しい事なのだと痛みを持って思い知らされた。
「……っつ、く……!」
 赤い狂戦士や黒騎士の施した護りが無ければ、次々と雨の如く降っては生じる爆発に耐える事は厳しかったろう。また、複数の癒し手が揃っていた事も良い方向へと傾いていた。その合間を縫う様にして、反撃の黒炎が射眼から身を乗り出した鬼へと放たれる。
「うおぉっ!?」
 石を組み上げられて作られた砦は高く、仮にフックのあるロープを用いたとて、昇れるかどうかはまた別の話。昇る間は両手が塞がり、無防備となる状況を見逃す筈は無いだろう。砦という物はそうした外敵による侵入手段に対する対策が施された物なのだから。
 だが、砦の後方へと回った彼女の行動が無意味だった訳ではない。後方で共に戦い、受ける傷を癒す仲間達の援護は、砦内部の戦力を二分する事に繋がったのである。


●破砕
 キララ達が後方から二つ目の陽動を重ねたお陰か、悠幻擁キ煌銀想璃夜詠舞ウ聖域・フィリス(a15272)や赤き詩人・シャム(a14352)と言った正門に取り付いた者達の頭上へと降り注ぐ矢の勢いが衰えた。
「向こうに割れたみたいね……!」
「そのようです! 今の内に突破を!」
 ラウンドシールドを構える事で、鬼の矢を受け止める冥探偵ももも・アレス(a14419)の影から、銀雪・ナナミ(a04010)がシャムの声に答えると共に岩の壁から僅かに姿を見せた鬼に向けて矢を放つ。
 盾の上で爆発した影から放たれた矢は石組みの壁に着弾すると、鬼諸共に巻き込んで爆発する。足場を破壊するまでに到らないが、ナナミは着実に頭上から射掛けてくる鬼達に手傷を負わせていた。
「……煩わしいッ!」
 闇色の刀身を持つ愛剣に外装を施したフィリスが、手近な射眼から姿の確認出来た鬼に向けて射出する。確かな感触を手に感じた彼は手の中に生じた鎖に力を篭めると、一瞬の内に巻き上げられて手に戻る。
「くっそ、馬鹿みたいに降らせてきやがって!」
 フィリスや風竜の舞姫・セラ(a17990)が頭上から攻め立てる鬼に抗うも、地形の有利不利だけは如何ともし難い。時折降ってくるナパームアローを盾で凌ぎつつ、アレスが怒気を孕んだ声を漏らす。ギッ、っと歯を噛み締めながら矢が飛んできた方角を向いた彼は、敵の姿を視認するや否や力を振るった。
「これでも喰らっとけっ!!」
 炎を纏った木の葉が無数に生じ、鬼の体を包み込む。全身を魔炎に包まれた鬼は悶絶し、姿を隠してしまう。その最中にも矢は次々と星彩幻女・ティル(a24900)の上にも降り注ぐ。だが、彼女を護る様に姿を見せる鋼色の召喚獣が外套を翻す事でその身を護る。
「まだ門は破壊できないのかよ!」
 進展しない状況に黒焔の執行者・レグルス(a20725)が渋い表情を見せる。
 既に門扉に取り付いてから、両手で足りない程度には破壊の力が注がれている筈。このまま頭上から射掛けられるままでは、幾らグリモアの加護もあったとて、こちらの消耗の方が敵の消耗よりも大きくなってしまう。彼はそんな危惧を抱いていた。
「しっかし、人使い荒いぜ。前回の町の奪還より大変じゃねーかよ」

 だが、その危惧は次の瞬間に雪解けの如く解消される。
 めきり、と乾いた音を立てて、門扉が横一文字に大きく折れた。
 両開きに作られた門扉の隙間から僅かに見える閂。それ目掛けて、再度鉄をも断ち割ると言う一撃が放たれる。
 正に止めの一撃。光の軌跡を曳いて放たれた蹴りは容赦なく木製の閂を圧し折った。と同時に、勢い良く砦の門が穿たれながら開かれた。突入の準備を整えるべく、シャムがミルッヒを始めとして順々に加護を与えた後、これまで護りを固めていた銀煌の死神獣・セティール(a00762)が、それまで溜めていた闘志を解き放ったか如く、力強く叫んだ。
「……行くぞぉ!」
 手に馴染んだ大鎌、毀牙に更なる力を施すと、セティールは砦の中へと駆け入った。直後に同じく武人であるフィリスが続いて飛び込んでいく。砦唯一の入口と思われる門を破った一行は、中に潜む鬼を倒すべく、次々とその身を躍らせるのだった。


●砦内
 門の向こうは、先程まで晴天そのものだった青空とは一転し、焚かれた篝火を灯りとした薄暗い広間だった。砦内に立ち込める生臭さに、僅かにぽちたますたー・ミルッヒ(a18262)やティルが眉を顰める。
「へんな臭い……なの」
 肉の腐った様な臭い、その中に混じるのは鉄錆を思い出させる独特の、血の臭い。それに気付いたミルッヒは僅かに体を震わせる。
「何か、ある」
 ティルがふと視線をやったむき出しの地面には、動物らしき骸が散乱していたのである。そして、焚かれている篝火の頼り無げな光が照らし出すのは、憐れな骸だけではなかった。
「殺しちまえ! 男は全殺し、女は半殺しにしちまえ!!」
 炎の生み出す橙に照らされた鬼達が、爛々と瞳を輝かせると、門扉を力で抉じ開けたカムライの護衛士達に向けて襲い掛かった。
「言うは易しって知ってるか?」
 口元に少しばかりの笑みを作って見せると、アレスは景気付けとばかりに緑の業火を手近な鬼に向けて撃った。次いで、その場に居合わせた鬼達の戦力を測る。指揮官らしき様相の者は見当たらず、剣や斧と言った前衛向きの獲物を持ち合わせた者が大半であった。
「セラ!」
「半殺しって……私達、そんなちゃっちゃとやられたりしないですよ!」
 黒炎を身に纏ったセラが、腰に巻いた帯を解くと迫る鬼に向けて振るう。異形を模る黒炎は刀を携えた鬼を襲い、全身に広がってその身を焼いた。そしてトドメを刺す様に、ティルの放った鋼糸が放たれる。
「……負けられない、から」
 倒れ伏す鬼にほんの一瞬視線を向け、直に新たな敵へとティルは意識を向けた。騒々しい足音が光の届かない奥から彼女の耳に届く。
「気をつけてください、援護します!」
 ナナミが警告の声を上げると共に、鮫牙の矢を放った。薄暗い砦の中の為、手近な鬼に向けて射撃をする事にしたのだ。
「なんだってもう、こんなにわんさかわんさかと!」
「別に限りない訳じゃないだろうさ、倒してりゃそのうち打ち止めになるってもんだ!」
 舞と共に変幻自在の手捌きを持って、水晶で飾られた鞭を振るうシャムが、相対する鬼に手傷を負わせる。生じた隙を逃さず、黒炎を持って自らの力の底上げを計ったレグルスが、無数の針を解き放つ事で弾幕を形成する。
 霊査士の告げていた数は三十程度。となれば、多少多く見積もったとしても精々30と5止まりだろう。そう判断したレグルスは効率を重視して鬼の足止めを計った。
「如何に堅牢な守備を誇ろうと、陥落しない砦など存在しえぬ……」
 大鎌を手にし、相対する鬼の間合いへと入り込んで一撃。セティールの鎌に慄いた鬼は僅かに後ろへ後ずさると、突然、その体躯が真っ二つに断ち割られた。
 唐突に起きた出来事に、一瞬、戦場の空気が停止した。どちゃりと、汁気を伴って落ちた肉の音が辺りに木霊した後、血塗られた長刀が闇の中から姿を見せた。

「引くんじゃねぇ、ここは死守しやがれ野郎ども!」
 のしりと重々しい足音を慣らしながら、長刀に続いて金属の板を体に巻きつけた鬼が姿を現す。手に肉厚の長刀を持つこの鬼が、どうやらこの砦の主なのだと、その場にいたアレスやレグルスを始めとした護衛士達は、直感的に理解した。
「こいつが首魁か」
「さて……ここが正念場ですかね」
 剣を鬼達に向けて翳すように構えるアレスに、ナナミが改めて気を引き締める様に漏らす。スミツに渡ってから、どうも良い様に使われている向きがあると感じる彼女であったが、目の前に倒すべき敵がいるのならば、それを怠る積りは無かった。
 手の中に雷光の矢を生成すると、彼女は手馴れた動きで弦を引き、
「蒼雷……一閃!」
 解き放った。

 ナナミの放った矢が中空に光の軌跡を残す。閃光の如く飛翔したそれは、現れた鬼に命中すると、止められた戦場がまた、息を吹き返す。
 門扉を正面から破壊した仲間達も戦闘に加わり、あちらこちらで光の線や癒しの光、そして黒い炎が繰り出される。
「って……こいつ!」
 自らの間合いに飛び込んできた鬼の放つ爆砕拳を、アレスは真正面から喰らってしまう。だが、返す刀と言わんばかりに愛剣に紋章印を走らせ、叩き込む。
「任せて!」
 剣の一撃でよろめいた鬼に向けて、ミルッヒが慈悲の聖槍を発動させ、光の槍を打ち込んだ。光が鬼を貫き、それに乗じて剣が幾重にも叩き込まれ、一体一体着実に砦の中にいた鬼達の数は減っていく。
 中でもティルが癒しの力を始めとした術を用いる鬼を特定し、無理はせずとも的確に削り取っていった事が、敵の戦力を落とす事に貢献していた。
「これで、二つ目……!」
 炎の色に照らされて、彼女の束ねた灰色の髪が揺れると同時に、宝珠を手にした鬼が頽れる。星薫、と名付けられた鋼糸はティルが闘気を篭める事で無音の一撃を放っていた。
「凶矢……溺血!」
 砦の中で癒しの術を用いていた鬼は、これで最後の筈。残る術使いはと、警戒を解かずにセラ達の下へと彼女が近づく頃には、ナナミの放つ鮫牙の矢が黒炎を放っていた鬼に向けて突き立つ。
「護楓の盾カムライが演じる、鬼退治の舞曲……その序章となって貰うよ!」
 集中的に術者を潰す彼女らの動きの前に、指揮官である鬼は赤い体躯を自ら流す血液によって、更に赤く彩っていた。既に彼の周辺にいた鬼は、シャムの攻撃を伴った舞と共に、アレスの生み出す木の葉によって自由を奪われ、束縛された彼らを倒すべく、追撃がかけられる。
「貴様らは、一体なんなんだ! そのような異形を――」
 怪しげな炎を。外套を。童女を。自らの体に纏わせた敵の姿に、動揺の色を隠そうともせず、何かに訴えるような声を上げる。これまで彼らが戦ってきたのはセトゥーナの武士。武士相手にその様な異形を持つ者を、少なくとも彼は知らなかった。
 故に、畏怖の感情に囚われた。
 そうして彼の前に立つのは邪竜の力を用いる導士が二人。セラとレグルスの放つ悪魔の如き力を内包した黒炎は鬼の体を焼く。けれども致死には到らず、剣を杖代わりにして立つ姿勢を崩さない。
「……因果応報。この一撃を受けるがいい」
 紫の瞳に炎の揺らめきを映したセティールが、雷光を伴った斬撃を放った。ただ一度のみの抜き打ちは、鬼の纏った鉄板諸共に赤い体躯を寸断すると、その命の火を消したのだった。


●捕縛
 砦を仕切っていた鬼が倒れた後、指揮系統を失った鬼を掃討する事は、それ程大きな仕事ではなかった。召喚獣という力もあってか、以前との戦いと比べて明らかに鬼達よりも自らが力をつけている事をカムライの護衛士達は実感しつつあった。
「……無事なのはコイツだけか」
 旧い骸の上に折り重なる鬼達の骸の中から、まだ息のある鬼を確保したフィリスは淡々とした様子で鬼を一瞥した。先程の戦闘で命を落とすまでは到らないものの、深手を受けた鬼は動ける状態ではないらしく、憎悪の篭った瞳をフィリスを始めとした護衛士達に向けていた。
「けっ、さっさと殺しやがれ……この化物ども」
 縄に縛され、言い捨てると共に血交じりの地面に唾を吐く鬼。鬼に化物扱いされるのも中々奇怪な情景だ。少しばかり腹に据えかねる部分もあるが、サギミヤに入る上で何かしらの情報を持っているかも知れない。そう考えると、感情の高ぶりだけに任せるわけにも行かないだろう。
 だが、一つだけ問題がある。それは後方についているスミツの武士団と、護楓の盾カムライと同行する、楓華の国のドリアッドであるネネとシュリの存在だ。鬼を捕らえたとなれば、それらに向けての対応も考えねばならないだろう。
 鬼は楓華列島で生きる住人からすれば、存在自体が悪と断ぜられてしまう存在なのだから。

 そうして、護楓の盾カムライは国境付近に存在した砦を無力化した。負傷者は多少あったものの、鬼との戦闘では仲間一人欠ける事無く戦いを終えられた。けれど、鬼に支配されたともいわれるサギミヤの国に立ち入る事を考えれば、これから先に待ち受ける戦いは今よりも尚、激しくなるだろう。
「これから、どうなるのでしょう」
 頬についた血を拭ったミルッヒが空を仰ぎながら零す。遥か遠くとなった故郷と繋がる空。青の色で埋め尽くされた天を見やり、その小さな胸の奥で思う。鬼はここだけにいるのではないのだからと。


マスター:石動幸 紹介ページ
この作品に投票する(ログインが必要です)
冒険活劇 戦闘 ミステリー 恋愛
ダーク ほのぼの コメディ えっち
わからない
参加者:10人
作成日:2006/03/24
得票数:戦闘21  ダーク1 
冒険結果:成功!
重傷者:なし
死亡者:なし
   あなたが購入した「2、3、4人ピンナップ」あるいは「2、3、4バトルピンナップ」を、このシナリオの挿絵にして貰うよう、担当マスターに申請できます。
 マスターより許可を得たピンナップ作品は、このページのトップに展示されます。
   シナリオの参加者は、掲載されている「自分の顔アイコン」を変更できます。