【読書の時間?】反古



<オープニング>


 エルフの霊査士・ユリシアはエルフの紋章術士・カロリナに1枚の反古紙を差し出した。クシャクシャになったその紙は、今まで多くの人間に使われてきたのだろう、沢山の文字で書き汚されていたが、その中でも最も古そうなかすれた文章が、赤くなぞられて再び浮上していた。
「ええと……、
『自然の城壁と濠に守られし地に我が城の竣工してより3年目の1月1日にこれを記す。
 この祝福さるべき日、我はヒト、エルフ、ストライダーからなる8人の寵姫達――即ち溌溂としたドジー、たおやかなるネイサン、怜悧なるガネメ、優しきロリィ、気高きツン・デレー、激しきツン・エロー、勇壮なるアネーキ、見えざるものを見るユンユンの8人である――を一堂に集めた。
 寵姫達は我を中心に我が方を向き円形に座した。ヒトの寵姫達は仲睦まじく固まって、仲の悪いエルフの寵姫達は決して隣り合うことなく座った。
 ツンは2人とも18歳で、4番目に年上だった。
 ロリィは唯一の最年少者である14歳で、彼女の真向かいには赤い目の者が座した。
 ネイサンは23歳で、彼女の真向かいにも赤い目の者が座した。
 ガネメも23歳で、彼女は会話が成立しないユンユンの隣を避けた。
 アネーキは21歳で、彼女は小言の煩いガネメの隣を避けた。
 ドジーはユンユンより若く、自分の右隣に座した者と目の色が同じだった。
 ヒトの年齢の合計はエルフの年齢の合計の1.5倍で、ストライダーの年齢の合計より2多かった。なお、年齢の算出法は数え年である。
 同じ種族同士は目の色が違い、灰色の目のエルフの真向かいと右隣に座した者は最年長だった。
 さて、我が愛は女より男に傾いていたので、我は実は女装した男だった寵姫――ツンの隣に座っていたストライダーである――を妃とすると決め、証として髪飾りを贈った。
 その他の財宝は全て我を見下ろす御方にお預けした。我が身内であることを示せばあの方は口を開くであろう』
 8人も姫を侍らせるとは、この城主はモテたんですね」
「いえ、寵姫の話は全て妄想です。霊視で分かりました」
「なんと」
「どの家の戸棚にも骸骨がある、と言いますが、妄想癖が彼の欠点でした。ただしこれはただの妄想ではなく、財宝の隠し場所を伝える暗号でもあります。
 山々に囲まれた美しい湖モエール湖、その中ほどにある島に建てられたオッター城が彼の城。今は住む人もない古城で、本館と低い8つの塔から成り立ちます。財宝が隠されているのはこの周辺です」
「暗号を解かないと財宝は手に入らないんですね」
「猫を殺すにはクリームをうんと当てがって窒息させるばかりが能ではない、と言います。暗号を解かずとも城中の壁を壊し、中庭を掘り湖に潜り……色々とやれば見つけられる可能性はあるでしょう」
 分かりやすい諺を交えて説明してくれるユリシアに、カロリナは頷く。
「財宝を見つけた場合、その中から好きなものをひとつだけ取っても良い、と依頼された方はおっしゃっています」
 頑張って下さい、とユリシアは結んだ。

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参加者
想いの歌い手・ラジスラヴァ(a00451)
大凶導師・メイム(a09124)
北落師門・ラト(a14693)
雷獣・テルル(a24625)
征嵐の牙・ガリュード(a25874)

NPC:次のページへ・カロリナ(a90108)



<リプレイ>

 ほの寒い朝まだき、城に着いた。朝靄に煙る湖から山の緑の細やかな輪郭をなぞって淡い影が這い登り、雲はそのまま空と山影の交じり合う方へと流れていく。雲が過ぎれば広やかにたゆたう湖面と朝焼けの空が薔薇色の光を発し、お伽話に出てきそうな優美な城の像が水中に聳え立った。
 なるほど、こんな場所に住んでいれば妄想癖も持つだろう。いや、妄想癖が強いからこんな所に城を建てたのだろうか? 島へ渡る石橋の上でエルフの紋章術士・カロリナの思考は堂々巡りに嵌まり込んだが、その隣では想いの歌い手・ラジスラヴァ(a00451)と雷獣・テルル(a24625)が別のことに頭を悩ませていた。

「謎解き……う〜ん……」
「考えろ考えろ……足りない頭なりに考え方があるはずだ……」
 テルルは考えを言葉にしていく。
「まず全員の年齢を考える。灰色の目のエルフの向かいと隣に最年長がいるって事は、最年長は2人。つまり、23歳のネイサンとガネメが最年長で決定。ユンユンは22、20、19歳の何れかで2〜3番目に年上……」
「違いますよ。ツン2人は4番目に年上でロリィが最年少、6番目と7番目が空いているからユンユンは6番目です」
「ああ、そうか。となると……ええと……わからない!」
 カロリナに指摘されて首輪をつけた武人は頷き、それから行き詰った。
「助けてカロリナさーん!!」
「大丈夫ですテルルさん。ラジスラヴァさんも分かっていませんよ」
 泣きつかれたカロリナはのんびりした様子の吟遊詩人を指差す。
「まぁ、分からないものは仕方ありません。それにラトさん達がなんとかしてくれます」
 開き直ったラジスラヴァは前を行く3人を見やった。

「えーと、なになに……。年齢の合計の5割増がヒトの年齢の合計だから……」
 征嵐の牙・ガリュード(a25874)が反古紙を片手に呟く。
「年齢を数式に当てはめるとそれぞれの種族が決まる筈だ……多分」
 少し自信なさそうに言う大凶導師・メイム(a09124)。
「年齢順から計算するとドジー、ユンユンは15〜18歳、8人の合計は148〜152歳。
 エルフの年齢合計をとすると1.5++1.5−2が148〜152。
 整数解が成立するのは=38で8人の合計が150の時。ドジーは16歳、ユンユンは17歳となる」
 不吉の月・ラト(a14693)が出した答えを、ガリュードとメイムは首を縦に振って肯定する。
「ドジーはヒト、アネーキとユンユンはエルフ……」
「ロリィ、ネイサンがストライダーで確定するな。ツンは片方がヒト、片方がストライダーか」
「後は残った条件に当てはめてみりゃあ……」
「ツンの隣に来るストライダーはロリィだけとなる」
「だな。けどよ、野郎のことを后って呼んでいいのか?」
「まあ、妄想ですからね」
「妄想なら仕方ないな……」
 後ろで聞いていたラジスラヴァとテルルが話を纏めたところで、本館の前まで来た。

「主が妃に選んだ相手はロリィさんという訳だが……問題は、肝心の宝の隠し場所が判らぬという事だ」
 白亜の城を見上げながら、メイムが一筋の汗を流す。
「この館が我、塔が寵姫と考えれば、ロリィを示す塔があるはずだよな……」
「最も低い塔か?」
 それぞれの塔の高さを観察して、ラトが言った。
「とりあえず行って探してみよう」
 メイムの提案に従って一行は最も低い塔へ入る。

「髪飾りに類するものでもないかと思ったが……」
 全部で14あった部屋を調べ終え、ガリュードは少し困ったように腕を組んだ。
 誰だか分からないがこの城の最後の住人は、出て行く際かなりの余裕があったのだろう、城内のものをほとんど運び出してしまったらしい。どの扉を開いても、素早く逃げてしまう数匹の小ネズミ以外に何の発見もなかった。
「ロリィが14歳、この塔の部屋数も14。ここに何かあるはずだが……」
 ラトはもう一度思考の糸を手繰り始める。
「状況をなぞらえれば良いのかも知れぬ。カロリナさん」
「何ですか? メイムさん」
 名前を呼ばれて近づいて来たカロリナに、メイムは真剣な表情で告白した。
「結婚しよう」
 沈黙が辺りを支配する。当然だが何も起きなかった。咳払いで誤魔化そうとするメイムにカロリナが言う。
「メイムさん、前回の冒険を憶えてない人には何のことやら分かりませんよ。
 それにこのメンバーで状況を再現するなら最年少の男性に女装してもらうのが……」
「隠し部屋があるかも知れない、壁をぶち壊してみようぜ!」
 無益な話を止めて状況を打破しようとテルルが提案した。
「こうなったら仕方ないのかも……」
 できるだけ城を壊したくないと考えていたラジスラヴァも同意したため、テルルは空間を隠している可能性のある壁をデストロイブレードで破壊していった。しかしどの壁の奥にも隠し部屋はなく、しっかりと中が詰まっている。
「こ、これ以上壊すと塔が危ないですよ」
「え、そうかな?」
 かなり破壊活動を行った後、ラジスラヴァがテルルを止めた。塔は優美さのために頑丈さを犠牲にした造りのようだったし、テルルは上階の重みを支えるのに重要そうな非常に太い支柱――いかにも内側に空間がありそうな雰囲気でもあった――も何本か叩き折ってしまっている。
 と、そこへ獣の走る足音が響いてきた。
「露払いは任せな」
 ガリュードが下へ通じる階段に向かって一歩踏み出す。それと同時に、突然変異で巨大化した3体のネズミが階段を駆け登り、冒険者達の前に跳び出してきた。別の建物に潜んでいたものが物音に驚いて駆けつけたのだろう、と考えながらガリュードは流水撃を放つ。
 ガリュードの力に対し、大ネズミは敵ではなかった。流れるような凪ぎ払いを受けてネズミ達は絶命し、壁に激突する。
 その激突の衝撃がいけなかったようで、ひどい音と共に天井が傾いて壁にひびが走った。
「危ない、伏せろ!」
 ガリュードの咄嗟の叫びに反応して全員が伏せたので、冒険者達のいた階から上が折れて大地に転がっても、誰も怪我をしなかった。

「屋根に何か嵌め込んであるな」
 新しく塔の最上階になってしまった場所から、昔は塔の先端だった地面に転がっている構造物を見下ろしたラトがそれを発見した。
 塔の屋根の、下からは見えないような位置に髪飾りのような鍵のような形の金属片が埋め込んであった。
「ロリィに渡したのが、指輪でも首飾りでもなく髪飾りなのがポイントだったんですね」
 カロリナが呟く。冒険者達は早速降りていって金属片を回収した。

「さて、見下ろす御方……。太陽とか、山とかかな? 太陽や山を象ったレリーフや壁画、絵画、像に鍵穴があるかも……」
 銀製らしく錆びのない、そしてやはり鍵のような細工のある金属片を手の中で弄びながら、ガリュードは言う。
 しかし6人が手分けして城中を探し回っても、それらしいものは発見できなかった。
「では本物の山か」
 ラトが本館の真正面に聳える最も高い山を見上げる。この城へ来る時、その脇を回り込んで歩いた山だった。

 冒険者の足とはいえ然程の苦労もなく山頂まで来てしまったことを考えると、自然の城壁という城主の譬えは完全に文学的修辞だったのだろうとカロリナは考えた。
「この洞窟か?」
 山頂でテルルが発見した洞窟の奥に進み、行き止まりの岩壁に穿たれた鍵穴へガリュードが鍵を差し込むと、巧妙に岩に見せかけた扉が開き、とうとう冒険者達は隠し財宝と対面した。

「手の込んだ隠し方をするだけのことはあるぜ」
 いくつも陳列された宝石の中から紅柱石を選び取りながらテルルが言う。
「そうだな。この槍なんか見事なもんだ」
 ガリュードは白銀に輝く槍を手に取った。
「緑石をあしらったペアリングか。カロリナさん、これを」
 メイムはペアリングの片方をカロリナの指に嵌める。
「宝探しの記念だ。書物も良いが、思い出の品というのもなかなかの物だと思うぞ」
 カロリナはしげしげと指輪を観察すると、勝ち誇ったような嬉し気な笑顔を11歳上の邪竜導士に向けた。この紋章術士がこんな風に笑うのを初めて見たな、とメイムは気づく。
「まだまだ真理には遠いですねメイムさん。書物も良いのではなくて、書物こそ良いんです。何故なら真理への道標となりうる可能性を秘めているからです」
 どうやら何かの競争のようなものでメイムに先んじているとカロリナは思い、それが嬉しかったらしい。
「自分のものにできる財宝はひとつだけだから、この指輪は返しておきますね」
 カロリナは指輪を元の場所に戻し、書物を探し始める。書物は財宝に決まっているという確信のもとに、1冊発見した。
「カロリナさん、ここにもありましたよ。どうぞ」
 ラジスラヴァが豪運で見つけた1冊をカロリナに渡す。ラジスラヴァ本人はもっと財宝らしいものを見繕っていた。
「この2冊しかないみたいですね……じゃあこっちはラトさんにあげます」
 カロリナは自分が見つけた書物をラトに渡し、ラジスラヴァの書物を受け取る。

 後で残りの全てを取りに来るのだろう依頼者のために鍵を閉め、冒険者達は山を降った。


マスター:魚通河 紹介ページ
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作成日:2006/03/22
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雷獣・テルル(a24625)  2009年09月12日 14時  通報
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真面目に解けなかった背後、理数系なんだぜ……?(遠)