【想い出】〜ミナモの国〜 二人の絆



<オープニング>


●奥の院にて
 楓華列島はリョクバ州、ミナモの国。
 遙か古よりそこに在り、建国の際には国の名となったと言われる程尊い存在、水望大社。
 その地には、人の立ち入らぬ奥の院で暮らす者達が居た。
 水望大社で祭事を取り仕切る、宮司、巫女の家系である。
 主に女性が付く巫女の座に、今付いているのはカスミという名の少女で、水望大社の祭事は彼女がすべて取り仕切ることになっている。
 宮司であった父親、巫女を務めていた母親を亡くし、若くして彼女が大社の全てを担うこととなった事件から、既に二年を迎えようとしている。
 普段から、水望大社の宮司や巫女は表に姿を見せないことで有名だが、特にカスミの場合には念の入用が尋常でなく、衣食住も彼女一人で奥の院で済ませて、めったに表に出てこない。
 奥の院へと入る通路には、地元の民も知らない、滅多に使われていなかった通路がある。
 奥の院に入り、荘厳な作りの社殿に入ると木の香りとよく整理整頓が行き届いた小さな部屋に通される。奥に御簾が掛けられた小さな部屋と並ぶその板の間に座すと、御簾越しに一段高い位置にある座敷に、今日も彼女は座して居るのが分かる。
 鮮やかな色合いの衣を重ね着、冒険者たちに深々と頭を垂れて語りだす少女の名はカスミ。
 ――鬼巫女・カスミ。
 水望大社の巫女である彼女の頭には、禍々しく伸びた角が二本生えている。
 異形、残酷、冷徹、非情の名を欲しいがままに、楓華列島全てで、遍く災厄の象徴ともされる存在、鬼。
 彼女が例え霊験あらたかな水望大社の巫女であったとしても、額に生えた角を見られれば、民草から追われ、殺されることを覚悟しなければならない――。
 だが、カスミは今日も愁いを帯びた静かな口調で冒険者達に願いを告げる。
「どうぞ……鬼となる不幸を背負う……方々をお救い下さい……」
 鬼巫女・カスミの願い――。
 それは、鬼となる運命の螺旋に飲み込まれようとする哀しい定めの存在を救う為の祈りに他ならない。
 
●鬼の居た村
 ミナモの国の東に、キナイ洲と挟まれる形で在るガザンの国。
 かつて覇を成す為に鬼を使役せんとした残虐王コレチカ公を廃し、復興の日々が続く一つの国。
 その国の北に位置する漁村に、鬼を出してしまった村があった。
 コレチカ公の圧制の下、日々の食事にさえ事欠くような苦しさの中で、鬼が食料を求めて訪れた過去があり、その際に村人の一人が鬼と化し、その村から去っていった。
 風貌冴えないが、実直で穏やかな網作りの男だったと言う。
 妻子が残され、夫を鬼として失った妻は病に臥せりがちとなり、村人達からも鬼の妻として距離を置かれることとなった。
 娘は母に似て、器量よしの評判の心優しい娘だったが、件の父親がガザンの城で死んだと言う話を形見となった数珠と共に渡されて、笑みをすっかり失っていた。

 ――鬼は、鬼を呼ぶ。
 ――鬼と交われば鬼となる。

 古来より、鬼が訪れた場所には鬼が出て、鬼と会話、接触のあった者が鬼へと変じたと言う逸話は多い。
 その逸話が、またこの村に悲劇を呼ぼうとしていた。
 鬼の娘と呼ばれる少女と、彼女を愛した優しい青年の身に……。

●二人の絆
「ヤヨイが何をしたっていうんだ? 親父さんは、確かに鬼だったけど……ヤヨイは……」
「黙らっしゃい! 若いだけで何も知らぬワッパが、村の会合で決まったことを覆そうとは、片腹痛いわ!」
 村の会合。
 それは、身内から鬼を出してしまった母子を村から離し、岬の突端に有る小屋で生活するようにという、案の採択だった。
 ガザンの武士団は再編間もなく、まだまだ十分な数と鍛錬があるとはいえない状況で、国内の守りに主眼を置く為にはどうしても地方には武士が派遣されることは難しい。聖域を守ること、国民を守ることを第一に考える場合、危険となるものを遠ざけるのは仕方のないことだった。
「だけど!」
「黙れというておる。殺されないだけ、ましじゃと思わねばならん……皆、怖いのじゃ。いつ殺されるかも知れぬ夜を過ごし、もう三年じゃぞ? 限界じゃ……」
「シンノスケ、お前とヤヨイの約束など、もう無い。ほかに良い娘は幾らでも居る」
 年配のエルフ達が口々にシンノスケを諌めようとするのだが、若いエルフは黙ってはいなかった。
「だったら……もし、ヤヨイが、ヤヨイのお袋様が鬼となったら、俺が村を守る」
 顔を真っ赤にして立ち上がるシンノスケの表情を見て、長老達は薄く笑いを浮かべている。そのようなことが出来る筈が無いという、諦めの表情でだ。
「……万が一、鬼と果てた時にはお前がヤヨイ達を止めると言うのか? は! はははは……」
「おうっつ!」
「……」
 振るえながら、それでも拳を固めて立ち上がったシンノスケにエルフ達の中で最も年配の白髭を顎に蓄えた老人が厳かに告げた。
「そこまで申すなら、証を立ててみせよ」
「証?」
 ざわめくエルフ達の中で、古老は遠い目をして東の空を見る。
「あの二人が送られる岬の沖合いに、怪異が出ることはお前も知っておるであろう?」
「……」
 無言で頷くシンノスケに古老は続ける。
「武士様でも倒すことは適わんだが、弱ったと話は聞いておる。その怪異、見事お主が倒して見せよ」
「それでヤヨイが助かるんだな?!」
「これ、シンノスケ!」
 声を荒げる若者に老エルフ達が眉をひそめていると、古老は静かに頷いた。
「武士様の力を持たぬお前が、怪異を倒すというのであれば……その志在れば聖域に誓いを立てて武士となった暁にはシンノスケは鬼とも戦える力を持つであろう。それで母子を連れて何処えなりと旅立つが良い」
 楓華列島においては、非常識といえる程の寛大な処置だった。必ず倒す者が居るとはいえ、恐怖の代名詞である鬼を世に解き放つというのだ。
「長老様、そんな……」
「判った。俺が怪異を倒せば、認めてもらえるんだな!」
 言うなり、立ち上がって会合から出て行こうとするシンノスケに古老は鋭く声をかける。
「じゃが! もし適わぬときは……お前だけでも帰って来い。よいな? 若い者が死んでいくことは、何より辛い……よいか? 適わぬ時は必ず帰るのじゃぞ!」
「……」
 無言で頷き、飛び出して行ったシンノスケを見送るエルフの老人達の表情は、誰もが暗く、辛さをかみ締めたものだった。

●願い
「そうですか。カスミ様のお願いとあれば……」
 ヒトの霊査士イズミ(a90160)は、今はリョクバ州で楓華列島の護衛士団の補佐のために活動を続けている霊査士だ。
 鬼巫女カスミの願いとあって、彼女はガザンの国で鬼が生まれるかもしれないという件について霊査を行い、フチザキ村で起きる青年の悲劇を霊視することが出来た。
「カスミ様の力で感じられた、鬼と化す人物とは……」
「……シンノスケという青年が、死ぬのでしょう……イトシイ……コイシイ……只一人愛した方と結ばれぬならば……」
 目を閉じ、遠くから言葉を聞くようにしていたカスミがそっと目を開ける。
「悲しみの果てに、少女が鬼と化す……私には、そう感じられました」
「楓華列島では仕方の無いこと……なのでしょうね……私にはとても考えられませんが……」
「申し訳、ございません……」
 眉根を寄せるイズミに、カスミが領の手をついて深々と頭をたれる。
「カスミ様が謝られるようなことではございません。お手をあげてください」
 慌てて、身を折ったカスミを真っ直ぐに座らせるイズミが冒険者達に向き直った。
「今回のカスミ様の依頼、非常に複雑と思い私も霊査で協力させていただきましたが、出来れば皆さんのお力もお貸しください」
 実際に霊査で感じたシンノスケという青年の気性は、怪異を倒すまで生きては帰らないだろうと思われる真っ直ぐなものだとイズミは語る。
「武士団もこの件についてはかなり難航していた様子ですが、様々な事情で今回こちらに話が舞い込んだことはガザンの武士にとっても、私達にとっても幸運だったかもしれません」
 死なずにすむ者が居ればと、イズミは願いを込めて冒険者達に向き直る。
「男の面子も在るでしょう。ですが、一介の漁師が怪異、モンスターに立ち向かって無事に生きて帰ることが出来る筈がありません。巧く収める方法は皆さんにお任せしますが、彼が倒したということを誰もが納得行く形で示してあげてください。また、何処へでもといわれていますが楓華で生活することには限界もあるでしょう……其のことも併せて、対応をお願いします」
 フチザキ村までは案内人を出してくれるとイズミは言い、怪異は沖合いの孤島に住み着いた巨大な鳥型の姿で翔剣士型の能力を持つものらしいと締めた。

 重なる悲しみの連鎖を止めることが適うのか。
 それは、誰にも判らない話だった。

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参加者
蒼の閃剣・シュウ(a00014)
暴風の・オーソン(a00242)
緑薔薇さま・エレナ(a06559)
サイレントシャドウ・ガス(a07813)
星舞い落ちる夜・マイヤ(a28554)
ミナモのおだやかおばあちゃん・リメ(a37894)
不浄の巫女姫・マイ(a39067)
鶏鳴狗盗・レイ(a56195)
狂風乱舞・マム(a60001)
風花輪舞・ミシェル(a60049)
NPC:ヒトの武人・カティ(a90054)



<リプレイ>

●ガザンの国
 ガザンの国に入り、サイレントシャドウ・ガス(a07813)達は地図とヒトの武人・カティ(a90054)の案内で海岸線を一気に北上する。
 その道程でフチザキの村から離れた位置で、噂の怪異(モンスター)の状態を聞き出すと、飛翔時間は比較的短い海鳥のような鳥だと知れて、飛び立った後でも翼を何とかすれば漁師のシンノスケでも最後の一撃を加えたつもりにはなれるかも知れないと判断出来た。
「間に合いましたね」
 駆けに駆け、飛び出た岬に向かって走る冒険者達の中で、沖に漕ぎ出す一艘の船を見つけたガスが指で指し示す島影がある。
 頷きあい、冒険者達は小舟を漕ぎ出している青年の後ろ姿を見て、直ぐにその後を追う形で船を借りて漕ぎ出して行った。
「愛し合う二人……良いわあ♪」
 夢見がちに、風の狂戦士・マム(a60001)は船を漕ぎながら前方の青年の背が大きくなるのを見つめながら頬を押さえている。
「幸せになれるよう精一杯お手伝いするわ♪  鬼は倒すのでなく、出ないようにしないと……」
 と、呟いたマムの横で不浄の巫女姫・マイ(a39067) が常の彼女には似合わない大きな声を張り上げる。
「待つのよ! 私達は怪異を倒すように言われて来た、冒険者よ!」
「冒険者……ガザンを、救ってくれた……」
 ほっと、一瞬、希望を見たような明るい表情から青年は自身の頭を何度も振って浮かんだ思いを振り払うようにする。
「駄目だ! あの島の怪異は、俺が倒すんだ! 来ないでくれ!」
 悲鳴に近い青年の叫びが、マイも自身の過去に重なって鋭く胸に突き刺さる。
「貴方にとって一番大事なのは、妖怪退治ではなく彼女を護ることでしょ? 人にものを頼れるというのも、強さなんです!」
 返されたエルフの青年、シンノスケの言葉はマイには予想が出来る範囲だったのか、間を置かずに青年へと説得を試みるのだが、青年の船を漕ぐ手は止まらない。
「あなたは、大切な人を守る力を欲しますか? その力を持つ武士になる覚悟をお持ちですか?」
 まぁまぁと、ミナモのおだやかおばあちゃん・リメ(a37894)が二人の間に立って揺れる船の上でも柔らかい笑みを絶やさずにシンノスケに向き直る。
「マイさんのおっしゃったように、わたくし達は怪異を倒すために遣わされた冒険者です。お話を聞きました。あなたに助力をしたいわ」
「武士さんでもないのに怪異さんを倒すなんて凄いですわね」
 緑薔薇さま・エレナ(a06559)はリメへの答えを待たずに、笑顔のままシンノスケに続ける。
「でも、怪異さん退治を一般人さんに任せて休んでると、私達の立場がなくなっちゃうんですの」
 ホウと、溜息をついて頬に手をやるドリアッドの彼女を見て、エルフの青年の目が大きく見開かれる。
「シンノスケさんは、元気な怪異さんじゃなくて手負いの怪異さんを倒せば良いんですよね?」
「え? それは……」
 違うと言いたかったのだろうが、畳み掛けるように続けて、エレナは言葉を聞かない。
「なら、私達が頑張って更に手負いにして、シンノスケさんが止めを刺すということでいかがでしょうか? 其れで決まりですわね」
「ゴーインだなぁ……」
 鶏鳴狗盗・レイ(a56195)が苦笑しながらエレナから視線を外し、遠ざかる岸を見て嫌な物でも見るように目を細めている。
「レイ、あの村の人達を嫌わないでいて……」
「え?」
 マイがレイに視線を合わせることなく、陸を見て続ける。
「一度はこの国を捨てた私。それでも、だからこそ……この国の人には幸せであって欲しい……鬼の宿命も、人と人の確執も、逃げることでは決して解決しないけれど……」
 ゆっくり、レイの目を見てマイはぎこちない笑みを浮かべる。
「それでも私は一度離れたからこそ、帰って来られたのです」
「……でも、さ……」
 ちらと、シンノスケを見てあいつが可哀想じゃないかと言いたげなレイにマイは荒れる波が流れていく海を見つめて呟いた。
「少し前……戦争中の……トロウルの一般人とレイの大切な人が婚約した……と、聞いたらどう思いますか?」
「え?」
 何を言っているのだと、いぶかしむと同時に大切な友人達の顔を思い、表情を歪めるレイ。
「その思いが、あの村人達の想い……そう思っても、間違いではないと思うわ……」
「……」
 小さな、二人だけにしか聞こえない声で囁くように会話するレイとマイの横では、向日葵の大輪を髪に置くエレナとリメが説得するのを聞き、星舞い落ちる夜・マイヤ(a28554)は青年の決意が固く、武士になってでも大切な人を守りたいと思う心を持っているだろうと判り、安堵していた。
「殿方は、家族とか友人とか恋人とか護る義務があると聞きますけど、シンノスケさんにもやっぱりあるんですの? ここで大怪我とか負ったら護れなくなっちゃいますよ。それでも良いんですの?」
「駄目だ!」
 上げて、落として、巧みに誘導するエレナに惑わされているようだが、船足は冒険者達にも負けないシンノスケ。
「どうしても嫌なら……仕方がありませんから、私達が先に倒しちゃいますよ?」
「それも、駄目だ!」
 エレナと青年の会話と呆れた様子で聞いている男が船の上に一人居る。
「あー。倒すなっつーのは面倒だなー」
 嫌々という感がありありと判るのは暴風の・オーソン(a00242)だが蒼の閃剣・シュウ(a00014)は彼の横で艪を漕ぎながら仕方がないだろうと続ける。
「全体案には従うぜ? 元より、俺は楓華は門外漢、戦闘位にしか役に立たない癖に……戦闘は手加減って、俺寧ろ邪魔じゃね?」
「そういう意味では、俺もそうじゃないかな? ただ、さ……ここで奴さん国主にでもなってたら歴史はどう変わってたんだろうものかねぇ?」
「ん?」
 既に漕ぎ出して遠い、陸のガザンの国を見て遠い目をしたシュウにオーソンは片目だけ瞑って睨むように見上げている。
「話は聞いたが、倒せねぇのが惜しいなっ!」
 唇の端を上げて笑うオーソンの瞳に、島に巨大な翼が浮かび上がるのが見えた。
「さて、そういうことだから、シンノスケのこと、お願い出来るかな?」
「はい」
 後ろ手に軽く振られたシュウの手を見て、苦笑しながら返すカティだった。

●怪鳥
 怪鳥がけたたましく、その叫びと共に飛び上がる。
「先に行きます!」
 シンノスケが銛を構えたのを見たガスが、一気に残りの浅い海を走る。
「彼が怪異を倒すことが目標……」
 一気に、砂浜でも寄せては返す波打ち際を駆け抜けて、その速度に驚いているのか動きが一瞬鈍った怪鳥目掛けて風魔手裏剣で繰り出す光のアビリティの矢が砂浜の曲線を縫うように突き刺さっていく。
「それじゃ、頑張ってみましょ……おっと?」
「殺せないが、ぶっ飛ばすぞ!」
 勢いよく、飛び出していくオーソンの勢いが生んだ風に体が揺れるシュウ。
「凄いですわねぇ」
 ほんわり口調のエレナが邪竜の力である黒炎を身に宿し、ゆっくりと狙いを定めて鳥の姿をした怪異へと走り出す。
「射程内で突き刺さって下さいねぇ」
 にっこりと、言われて突き刺さってくれるような怪異でもないだろうと、レイはエレナの背を見送る形で身構える。
「護衛と拘束位、決めてやらないとな……」
 怪異の接近をいち早く察知して、シンノスケに当たらないように、何時でも庇えるように位置取りを続けながら、背にしたエルフの青年の動きを感じながら牽制攻撃と移動の繰り返しになる。
「銛一本でか……下手に接近してなんて考えてたら、それこそ縛り上げてやろうかと思ってたがな……」
 考えてるじゃないか、と呟いたレイの唇は、確かに笑顔のそれだった。
「止めは刺さないように……ぎりぎりの所まで傷を負わせなくちゃね」
 狂戦士として、己の極めた力を極限まで引き出して闘うマムの蛮刀が、怪異の羽を引き裂き、飛び散る羽毛の嵐が彼女の視界を一瞬埋め尽くす。
「やり過ぎたかしら?」
 一気に仕留めてしまっては、思惑違いよねと距離をとったマムは己の腕に何時の間にか鋭い引き裂き傷が走っているのを見て眉根を寄せた。
「やってくれるじゃない? でも、あたしはこれから、こういう役目なのよ。おわかり!?」
 縦に、真横に、蛮刀で羽の嵐を引き裂くように空中を薙いだマムの咆吼にも似た言霊が戦場に響き、仲間達とシンノスケの怪我を一気に回復させていく。
「わ、私も頑張るのです!」
 シンノスケとは余り年かさも変わらない、風花輪舞の・ミシェル(a60049)は術手袋に包まれた拳を握り込んでいる。
 体が硬いのは楓華という独特な大陸の空気に当てられたのか、それともシンノスケという戦場に居る筈のない一般人を守りながらの戦いに緊張しているのか判らなかったが、彼女の想いは一つ。
「なんにしても、悲劇は防ぎたいのです……」
 冒険者達が怪鳥に切り込んでいく合間にも、シンノスケは銛を手に震えている。
 砂浜を走り、足を取られながら、それでも怪鳥に近づこうとするシンノスケの表情は恐怖に引きつりながらも、それでも前に出ようとするのは冒険者が居ないのでは無謀極まりない死への行軍にも見える。
 だが、飛翔する怪異は小さな人間一人に構うことなく、その存在を脅かさんとする冒険者達を引き裂く為に攻撃の矛先を集中させている。
「まだ大丈夫ですっ!」
「……」
 鋭い一撃を飛び抜ける怪異から食らって立ち上がるシュウとオーエン、二人の傷の深さを見てミシェルとマイからヒーリングウェーブと高らかな凱歌が戦士達の傷を癒す為に発動する。
「効いていないのかしらね? 其れではもう一度……」
 回復したのかも知れないわねと、リメは怪異の攻撃の防ぎ具合を見て判断し、腐食の呪いを科する為に、その身に力を集わせる。
「天使達……皆を守ってね。あと少し、あと少しだから……」
 全ての仲間の頭上に天使達が現出したのを認めたマイヤが慈悲の聖槍を何時でも放てるように身構えるところに、飛翔し続ける怪異の翼に突っ込んでいったガスとオーソンが吹き飛ばされて大地に転がっていく。
「よくよく元気な怪異ですね」
「そうだな。倒し甲斐……あーっ畜生!」
 天使が弾けて消えたところに、ミシェル達医術士達の回復を受けて立ち上がるガスが呟くと、それに呼応するようにオーソンが頷いたのだが……途中で思い出して髪を掻き毟るようにして唸る。
「おい!」
 反動で、シンノスケがやっと走ってきた場所まで吹き飛ばされていたオーソンはエルフの青年の姿を認めて怒鳴るように声を掛ける。
「……俺は闘うしか能がないが……お前、その銛は漁で糧を得る為の銛だろうが!」
「でも! 俺は怪異を倒す……倒さないと……」
 癒しの力で傷は瞬く間にふさがっていくシンノスケだが、細かい擦り傷は完全には癒えてはいない。服も引っかけたのか綻びが酷く、襤褸を纏っているような状態だった。
「痛みより焦がれて、誓いを想うなら……お前の手は、糧を得る為だけの手じゃねーだろ」
 ぶっきらぼうに言い放ち、オーソンはシンノスケの前に立つ。
「ブッ倒すのはさせてやる! 其れまでは俺にやらせろ!」
「そういうこと……」」
 蛮刀、天閃燕巧を怪鳥の背に叩き込み、何とか踏みとどまっていたシュウ目掛けて走るオーソンの腕が高らかとジャイアントソードを振り上げる。
「俺ごと切らないでくれると嬉しいな」
「言ってろ!」
 叩き込んでいくのは怪異の翼の付け根、頑丈な骨を叩き折るように振り落とされた巨大剣が、骨を叩き、肉を分断する刹那に爆発が
怪鳥の脂を四散させる。
「今です!」
「判ったっ!」
 ガスと共に、怪鳥の左右に走り込んだレイと二人が同時に粘り蜘蛛糸で怪鳥の動きを封じていく。
「私達の力の欠片なのです」
「え?」
 ディバインヒールでシンノスケの体が温かく、怪我が癒されることで高揚感さえも出るのをエルフは感じているのだが、其れにも増して己が持っている銛の形状が変化したことに驚きを隠せないで居る。
「さぁて?」
 何時でも彼を庇えるような位置に立つシュウとレイの間から、十分な間合いで投擲される漁師の銛。
「ヤヨイーーーッ!」
 咆吼が、怪鳥の動きを止める雄叫びになり、冒険者達の数分の一の力しか持たない筈の青年の手によって、楓華の怪異はその類い希な破壊の力を満たした身体の鳴動を止めた。
「……ありがとう」
 銀のオオカミを操って怪異の動きを封じ込めることに集中していたマイの呟きは、青年の勇気への賛辞でも労りでもなく、ただ想いの力を見せてくれたことへの感謝に他ならず……。
「後は、村の皆さん、ね……」
「そうだね……ある意味で、こちらの戦いの方が苦労しそうだけどね……」
 難しいということを、知った上でリメは怪異の跡を片付ける為に手を動かし、シュウ達もその手伝いで船で怪異討伐の証となるだろう御首級を曳航することになるのだった。

●フチザキ村
 フチザキ村を出て、冒険者達はシンノスケの誓いを、願いを聞き届けることに頷かざるを得ないという村人達が彼ら冒険者に向けた瞳の色を思い出していた。
「困ったって、言う目でしたね……」
「ええ、そうね」
 ランドアース大陸なら、守りたい人を守る力と環境があるかも知れないと、ミシェルはシンノスケを励ますように言ったのだが、今はまだ少しだけこの楓華列島に残って道を探したいとシンノスケは彼女達の誘いを断っていた。

「でも、もしも……本当に困った時には、訪ねて行っても良いですか?」

「……」
 青年の問いに無言で笑い、頷いた戦士達はこの地を去る。
 二人の未来に幸多かれと、願いながら。

【END】


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