ジンクスを覆せ!



<オープニング>


 とある小さな猟師村、三人の猟師が今年最初の猟に出かけようとしていた。
 まだ、残雪も目立つ今の山では、あまり多くの獲物は望めない。そのため、ある程度準備を整えて長く山にこもる必要がある。危険も多い。しかし、それでも三人にはそれぞれ、成し遂げなければならない理由があった。

「帰ったらあいつと式を挙げる約束をしてるんです。これからも苦労をかけると思うけど、あいつとなら笑って生きて生けると思うから」
 若い赤毛の猟師、ジョニーはそう言って恥ずかしそうに微笑む。
「女房が身重でな、帰った頃には二人目が生まれているかもしれねえ。こんな時、男は無力だぜ。だから、せめて産後の女房に、好物の鹿肉を喰わせてやりたくてよ」
 黒髪中年の猟師、シンは豪快に笑う。
「末の娘が結婚するのじゃ。なにせ娘婿が頼りないやつじゃて、花嫁衣装代ぐらいは儂が稼いでやらんとな」
 頂点以外禿げあがった初老の猟師、ノリスは、ジョニーの方を見て意味ありげに笑った。
 ジョニーは苦笑しながら、
「もう、それはないですよ、お義父さん」
 と返す。
 まだ早い、危険が多い。そう言う村人達の言葉に笑顔で「気をつけるから大丈夫」と答え、三人の猟師は春の森へと消えていった。そして…………まだ帰らない。

「というのが、今回の依頼のいきさつだ」
 生真面目霊査士・ルーイ(a90228)は話し終えると、一度眼鏡を外し、頭痛を抑えるように眉間を揉む。
「霊視したところ、三人の猟師が、小さな洞窟で身を寄せ合っている姿が見えた。洞窟の前には、途方もなくでかい黒熊が陣取っている。
 不幸中の幸いか、熊は巨体のため、中には入れないようだが、ドンドンと体当たりをして入り口を広げている。放っておけば、猟師達は熊の餌食だ」
 ルーイは難しい顔で首を横に振る。
「何となく……霊視した以上にやばい状況な予感がするんだが、どうにか三人を助け出してやって欲しい。よろしく頼む」
 そう言ってルーイは酒場に集まった冒険者達に頭を下げた。

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参加者
荒野の黒鷹・グリット(a00160)
業の刻印・ヴァイス(a06493)
絶対零度の剃刀・ヨイヤミ(a12048)
黒き旅人・ユキミツ(a20509)
黄泉の竜・ジェルバ(a20580)
マーメイドハニィ・ニトレーティア(a35815)
哲学する弓手・バスマティ(a43726)
ヒトの医術士・ロム(a44239)


<リプレイ>

●猟師村
 猟に出かけたまま、戻らない三人の猟師を、無事連れ戻して欲しい。依頼を受けた八人の冒険者は、問題の猟師達が住む村へと急行したのであった。

「この依頼が終わったら、ワタシ、故郷に還ろうと思うんデス」
 村に向かう道中、塩屋虻・ヨイヤミ(a12048)が誰に言うでもなく、そんな言葉を吐く。なんというか、猟師達三人に負けず劣らずの、死にフラグを立てている気がするのは、気のせいだろうか。
「なんか、やばい状況らしいから急いだ方がいいな。……やってやるぜ!」
 このような依頼は始めての、青い空に写りし心・ユキミツ(a20509)が改めて、気合いを入れる。
「うん、猟師君達には待ってる人がいるんだカラ、ちゃんと助けてあげなくっちゃ!」
 空に恋した人魚姫・ニトレーティア(a35815)が元気一杯に、同意を示す。
「理由があるとは言え、この時期の狩りは少々無謀だったかもしれん……帰りを待つ者達のためにも全員助けたいな」
「まったく何て無茶を……残された家族がどんな思いをするか、考えた事がないのでしょうか。反省して戴くためにも、必ず生きて連れ帰りましょう」
 三人の軽率さに、若干眉をひそめているのは、黄泉の竜・ジェルバ(a20580)とヒトの医術士・ロム(a44239)だ。
 とはいえ、厳しい口調の裏には、彼らを気遣う優しさが見える。

 村に到着した冒険者達は、早速村の代表と連絡を取ることにした。
 待ち望んだ冒険者の来訪に、村人達は一斉に駆け寄って来る。彼らの顔には皆一様に深い憔悴の色が見て取れる。
「よくぞおいで下さいました。どうかよろしくお願いします」
 丁寧に頭を下げる村の代表に、挨拶を済ませると、冒険者達は早速、情報収集を始める。
「三人は、洞窟に身を潜めているらしいんだ。この辺りでそういう地形に、心当たりはないか?」
 哲学する弓手・バスマティ(a43726)の問いに、奥に控えていた、金髪の若い猟師が勢い込んで答える。
「そ、そこなら知ってます! 俺、案内できます!」
 冒険者達は、顔を見合わせた。当初は、地図を書いて貰おうと思っていたのだが、案内人がいるにこしたことはない。
「分かった、案内してくれ。ええと、君、名前は?」
「はい! 俺、バーナードっていいます!」
「分かりました、バーナードさん。貴方の安全は私たちが、絶対に保証します。宜しいでしょうか?」
 ロムの最後の問いは、後ろで渋い顔をしている村の代表に向けたモノだ。
 小さな村にとって若い働き手は、貴重な存在だ。ただでさえ、働き盛りの男三人を失いかけている今、つい最悪の心配をしまうのも無理はない。
 しばし、黙考した後、どうやら冒険者達に対する信頼が勝ったらしく、
「分かりました。ですから、四人を必ず無事連れ戻してください」
 代表はそう答える。
「まっかせといて〜、絶対助けて上げるから!」
 ニトレーティアは、笑顔で小さな胸を、トンと叩いた。

●一路洞窟へ
「ジンクスは割と信じる方だけに、複雑な心境だね……」
 荒野の黒鷹・グリット(a00160)の呟きは、彼の口の中で消え、誰の耳にも届かなかった。
「あっちです!」
 案内役の若い狩人は、息を弾ませながら、必死に冒険者達を案内する。いかに若く、山歩きに慣れているとは言っても、冒険者と同じだけの体力があるはずもない。
 冒険者達にとっては、若干遅めぐらいのペースで歩いているのだが、若い猟師には、十分なハイペースだった。
「もう、見えてくるはずです」
 その言葉に、冒険者達は気を引き締め直す。
「嬉しい出来事の前に、涙を流させたくはない。助けないと……」
 業の刻印・ヴァイス(a06493)の呟きに、皆、真剣な面もちで頷き返した。

 探すまでもなく、洞窟の位置はすぐに見つかった。なぜなら、
「グラァァ!」
 尋常ではない獣の唸り声と、ドン、ドンという重たい何かが、ぶつかる音が響いてきたからだ。
 十分に離れたところから、一同はその光景を見ていた。
 真っ黒な巨大熊が、岸壁に穿かれた、小さな横穴に体当たりをしている様を。
「おっアレが洞窟かぁ〜……うわっ熊君デカ!」
 ニトレーティアは、そんな声を上げる。
 実際熊は大きかった。全長は、通常の熊の倍近くあるだろう。体重ならば何倍あるか、分からない。案内役の青年など、呼吸も忘れて、全身から冷や汗を垂らしている。
「いいですか、絶対にここを動かないでください」
 ロムが青年の両肩に手を置き、言い聞かせるが、果たしてその言葉も耳に入っているか。 青年がどうにか首を縦に振った所を確認し、ロムは青年を残し、その場を離れた。

●戦闘、対巨大熊 
「それじゃあ、予定通り、いこう」
 グリットの言葉に、ニトレーティアは頷き、物陰から飛び出した。
「オッケー、熊君、こっちカモンだよぉ〜っ」
 と、同時に「スーパースポットライト」をを使用し、頭上に光を灯す。
「グルウ?」
 効果は如実に現れた。それまで、一心不乱に体当たりを繰り返していた巨大熊が、いきなりこちらに向き直ると、
「グラァア!」
 唸り声を上げて、突進してきたのである。
「今だ!」
 ジェルバは、声を上げると、タイミングを合わせ、駆け出した。グリットとロムもそれに続く。
 熊は一瞬、ジェルバ達に目を向けるが、すぐさま興味を、ニトレーティア達に戻した。
「いくぞ!」
 バスマティは、愛用の弓に「ウェポン・オーバーロード」を付与し、戦闘に供える。
 突進してくる熊の正面に立ちふさがったのは、ヨイヤミだった。
「こんな相手、あの御方のテを煩わせるまでもありません。ココはワタシめに御任せを……」
 自信満々に、そんな台詞を吐き、迫り来る巨躯に向かい「ソニックウェーブ」を放つ。
 あらゆる防具を透過する衝撃波を喰らい、巨大熊は黒い毛皮を、赤く染める。しかし、その突進は衰えることなく、そのまま、ヨイヤミへと突っ込んでいった。
「フグッ!?」
 決して小柄とは言えないヨイヤミの体が、冗談のように跳ね飛ばされる。
「死ねない、こんなところで。ワタシは故郷に帰るんです!」
 なぜにそこまで、と言いたくなるくらい、死亡キーワードを連発しなが、ヨイヤミは立ち上がる。
「させない」
 そんなヨイヤミを救ったのは、ヴァイスだった。
「ガッ?」
 ヴァイスの放った「バッドラックシュート」が熊の毛皮に不吉の刻印を記す。
 怒り狂った巨大熊は、二本足で立ち上がり、頭上を光らせているニトレーティアに、凶悪な爪を振り下ろそうとした。その時、
「そこだっ!」
 後方に控えていたバスマティは、その機を逃さなかった。
 狙いすました「貫き通す矢」が、熊の分厚い毛皮を薄皮のように貫く。
 熊は悲鳴を上げ、体を倒した。
 その隙に、ヴァイスが熊に接近を果たす。
「封じる」
 ヴァイスの槍が、丸太ほどある熊の足に突き刺さる。
「むっ?」
 その一撃は、思っていたほどのダメージは与えられなかった。予想以上に、熊の毛皮は硬い。しかし、期待通りの効果は与えられた。
 熊の巨躯を、魔氷が覆い、魔炎が舐める。
 召還獣の力が、巨大熊の自由を奪った。
「このっ、くらえ!」
 すかさずユキミツは、電撃を纏う抜き打ちを叩きつける。
「ギャッ!」
 熊は野太い悲鳴を上げた。
 
 幾度となく繰り返される冒険者達の攻撃。それでもまだ、息をしている熊のタフネスは確かに驚異的だった。しかし、束縛から解き放たれる度に、ヴァイスが槍をふるい、また魔氷に閉じこめる。
「いっくよ〜!」
 ニトレーティアの「薔薇の剣戟」が、
「そこだっ!」
 バスマティの「貫き通す矢」が、ジワリジワリと巨大熊の命を削っていき、
「ハアッ!」
 ユキミツが、神速の踏み込みから、鋼の長剣を叩きつけると、ついに熊は、力つき、地に伏したのだった。

●戦闘、洞窟内
 その頃、真っ直ぐ洞窟に向かった、グリット、ジェノバ、ロムの三名は、小さなランタンの明かりを頼りに、狭い洞窟の中で、問題の猟師達を探していた。
 幸い中は一本道で、迷うことはない。暫く歩いていると、やがて先頭でランタンを持っていたグリットが、前方の闇に動く影を見つけた。
 それは、間違いなく、探していた三人の狩人だった。青年、中年、初老の三人が、身を寄せ合うようにしてぐったりと、眼を瞑っている。
「大丈夫ですかっ?」
 すぐさま、ロムが駆け寄り、三人の安否を確認する。ランタンの暗い明かりの中、急いで確認する。どうやら全員、大した怪我も負っていないようだ。ただし、流石に衰弱は激しく、目を覚ます兆しはない。
「しっかりしてください。貴方達には、帰りを待っている人がいるんですよ」
 ロムは叱咤の声を上げながら、ジェルバと手分けして、三人に「癒しの水滴」を振りまいていく。
 その癒しが効いたのか、はたまた水滴の感触のせいか、三人は朦朧としたまま、うっすらと目を開ける。
「あ……」
 グリットは、か細い声を上げる猟師達の前にしゃがみ、「幸せの運び手」を奏で始めた。
 すると、目に見えて猟師達の血色がよくなっていく。
「OK、もう大丈夫かな?」
 グリットはホッと息を吐いた。
 飢え、乾きを癒された三人に、ロムは持参した毛布を掛けて回る。
「コレを、持てますか?」
 さらにロムは持参した酒をカップにつぎ、三人に手渡した。
 三人は震える手で、時折咽せながらもその中身を飲み干すと、今度こそ人心地がついたように、溜息を吐く。
「あ、貴方達は?」
 若い分体力があるのか、一番元気を残している青年の猟師―ジョニーが、改めて冒険者達に訊ねる。
「冒険者だ。村の者から依頼を受けてな、お前たちを助けにきたんだ。一寸無謀だったな」
「すみません。ありがとう御座いました」
 ジェルバの説明に、ジョニーは申し訳なさそうに頭を下げる。
「立つのはまだ無理みたいですね。掴まってください」
 三人の冒険者は、三人の猟師を来るんだ毛布ごと、抱え上げた。

 そうして、冒険者と猟師が洞窟を出ると、すぐそこにはあの巨大熊が微動だせずに横たわっていた。どうやら、既に熊退治は終了したらしい。
「おぉ〜いっ皆、無事〜?」
 こちらに気づいたニトレーティアが大声で手を振った。

●下山
「よかった、本当に良かった。ありがとう御座います、皆さん!」
 仲間達の無事な姿に、道案内役のバーナードは目に涙を浮かべて、礼を述べる。
 その後、ジェルバの「せっかくの獲物なのだから」と言う提案に従い、猟師達は、冒険者達に手伝って貰い、巨大熊の皮を剥いで持って変えることにした。臭くて固い肉はともかく、この分厚く巨大な毛皮は十分な価値がある。
 ジェルバは猟師達の見えないところで、ソッと熊の冥福を祈り、黙祷捧げた。

 その後、ヴァイスの用意した酒やハチミツを摂取し、随分元気を取り戻した猟師達であったが、流石に自力で下山する元気はない。
 結局、冒険者達が後退で背負うこととなった。
「……何とかジンクス覆せたが、かなり疲れたね」
 グリッドはそう言って苦笑した。


マスター:赤津詩乃 紹介ページ
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