鼠と甘い花畑



<オープニング>


「花畑に、鼠グドンが出たそうです」
 九転十起の霊査士・リーゼッテ(a90308)は、熱々のコーヒーで火傷した左手に氷嚢を乗せたまま、言った。とある風光明媚な村の、大きな花畑が、被害に遭っているという。この花は、一般女性の腰程度までの高さ、赤・青・白系の色で、甘い良い香りがする。それが丁度、見頃を迎える時期だった。
「グドン達は、どうも花の種が目当てみたいですね。まだ熟していない種までどんどん食べちゃうそうです」
 畑の『うね』は等間隔で、一本につき入れるのは一人だけ。一方のグドンは、花もうねも気にせず動くので、少々ややこしい。畑の持ち主達は、多少の被害は仕方ないとはしつつも、出来るだけ畑を荒らさないで欲しいと言ったそうだ。
「数は20きっかりです。村の将来の為にも、一匹も討ち損ねないで下さいね」
 グドンを倒すのは難しくないだろう。早めに終わらせて、甘い香りの花畑をゆっくり散策してくるのもいいかもしれないですね、とリーゼッテは言った。
「……お願いできますか?」
 そう言って、リーゼッテは冒険者達を見回した。

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参加者
波間に揺れる紅の薔薇・メーア(a32557)
曙の椿に愛の歌・ティーレリサ(a36239)
千夜闇・クライシス(a37371)
風を纏う赤槍・ウカスィ(a37777)
雪凛の桜花・チェリー(a40472)
白練の邪竜導士・セオラ(a41835)
ほほえみは心に架ける虹・フラット(a45509)
流れ蹴撃者・リュウジ(a45950)


<リプレイ>

●甘い香りに誘われて
 その光景は、見事と評するに相応しかった。各色ごとに分けて植えられている花々は、美しさを競うように咲き誇り、優しく甘い香りが風に乗って辺りを包む。花畑に連なる草原の緑や空の青とのコントラストも美しさを際立たせ、まるでこの為に用意されたのかと思うほどだ。だが惜しいかな、それ故に、花畑を蹂躙し種を貪るグドン達の姿は、名画に落書きしたような違和感と憤りを感じさせた。
 草原がなだらかに隆起した、花畑の風上に、冒険者一同は立っている。既に荒れている場所を取るか風上を取るかは悩み所であったが、まず花畑からグドンが出てくれなければ始まらない。風上の内では、荒れている場所近くに陣取った。
「嫌ねぇ、折角の花畑が台無しじゃないのぉ」
 電光石火の台風お嬢・ティーレリサ(a36239)は、嘆息と同時にそんな言葉を呟く。頬に手を当て、悩ましげに目を伏せた。そして月雫海華の紅姫・メーア(a32557) も、荒らされた花畑を見て悲しそうに眉を寄せる。
(「心を込めて世話をされたはずなのに……」)
 ここまで美しく咲かせる為に、どれほどの手間と愛情をかけたのだろうか。それを踏みにじるような行為は、許すべからざるものだ。
「でも確かに、良い匂いのする花畑ですね」
 白練の邪竜導士・セオラ(a41835)は、関心するように言った。こんなに良い匂いだからこそ、グドン達も誘われて出てきたのだろう。鼻腔をくすぐる甘い香りに、思わずお腹が空いてきたように感じたが、そこは無事に仕事を終えた後のお楽しみに取っておいて。
「花見で一杯といきたい所です……あぁいや、勿論仕事の後でね?」
 闇に潜む赤槍・ウカスィ(a37777)はそんな事を冗談めかして言いながら、グドンを誘き出す準備を始めた。藁を敷き、用意してきた肉を取り出す。そんなウカスィを横目に見ながら、暗夜光明・クライシス(a37371)は、長剣の柄を握り締めたままグドンの群れを見据えていた。誘き出すために花の種を譲ってもらえないかと交渉したが、まだ花盛りで種を採る時期では無かったこと、お土産として加工する分や翌年に蒔く分で、引き付けられる程の量が確保できないことから断られた。
(「まぁ……想定の内だし、良いか」)
 徐々に寄って来るグドンを見れば、ウカスィが用意した物だけでも十分だった事が分かる。雪凛の綿雲・チェリー(a40472)と、ヒトの吟遊詩人・フラット(a45509)が気合を入れた。
「村の為、綺麗なお花畑を守る為にも頑張って退治しますなぁ〜ん!!」
「緊張しても楽しんでも一緒、いっちょやってみますかぁ!」
 各々は武器を手に、花畑に向かって駆け下りた。

●花畑を護って
「面倒ごとは、さっさと終わらせるに限る」
 まばゆく頭部を輝かせたウカスィに引き付けられ、花畑から出た鼠グドンは、クライシスの電刃衝によって横薙ぎに薙ぎ払われる。稲妻の闘気によって、グドンの体は麻痺し、動きを止めた。
「清き光よ、彼のもの達を貫いて……!」
 動けなくなったグドンは、メーアの白扇から放たれ、降り注いだ光の雨によって、身を貫かれ地に倒れ伏す。ティーレリサの呼び出した土塊の下僕達がグドンを追い立て、それでも尚、花畑の中に残るグドンには、セオラのニードルスピアがお見舞いされた。グドンは倒れると同時に、近くの花を一緒になぎ倒す。
「あっ、セオラさん、お花に気を付けて下さいなぁ〜ん!」
「そうですね。もう少し出てくれないと、どうしても巻き込んでしまう」
 倒れた花を見て、チェリーが声を上げた。アビリティそのもので傷付かなくても、グドンが花の近くで倒れたりすれば当然、花は折れてしまう。セオラは、紅玉を映した瞳を走らせて、攻撃対象をうねの端に居るグドンに変更した。
「……っ!?」
「あ、危ないです!」
 その時、一人突出していた流れ蹴撃者・リュウジ(a45950)の声に、メーアが叫んだ。相手がグドンとは言え、まだ駆け出し冒険者である彼にとって、囲まれることは危険だ。メーアはそのまま走り、放ったエンブレムシャワーが周囲のグドンを殲滅した。引き裂かれたリュウジのローブの端から、赤い色が幾筋か流れ落ちている。
「今、治しますなぁ〜ん」
 チェリーの体から、優しい白い光が広がった。傷は塞がり、リュウジは再び戦線に復帰する。
「そろそろ……カタを付けるぞ」
「さ、行くわよぉ♪」
 クライシスの長剣に幾度目かの稲妻が宿り、完璧なタイミングで、ティーレリサが放った針は一つの隙も許さずに降り注ぐ。
「いっけぇ、華麗なる一撃! ……うわったた!?」
「村人達と私達のお花見の為にっ」
 フラットがうねに足をとられつつもしかけた攻撃は、運よく対象に当たり、まだ動こうとするグドンは、セオラのニードルスピアで容赦なくトドメを刺された。ぱんぱかぱーん、と華やかなファンファーレが鳴る。それは、戦いの終わりを告げるように花畑に響き渡った。

●甘い花と宴
「19……20、と。これで全部ですね」
 倒した鼠グドンを回収し、ウカスィは数を数えた。きっちり20匹、花畑にも、やはり被害は出てしまったが、深刻なものではない。倒したグドンの死骸については何も考えていなかったが、放置しては見た目が宜しくないだろう。手分けして20匹をどうにか埋め終えた頃には、太陽も真上に昇っていた。
「仕事終了〜♪ ってね。さて、それじゃあ」
「お花見ですなぁ〜ん!」
 ティーレリサの透き通った声と、チェリーの元気な声が重なった。

 観光用に村人が置いている長椅子に失礼して、冒険者たちは改めて花畑を見た。風が吹くたびにさわさわと揺れ、甘い香りが広がる。
「依頼後のお花見、というのも素敵ですね」
 やっと無粋な群れから解放された花畑を、満足げに眺めながらメーアが言った。ウカスィとリュウジはちびちびと酒を酌み交わしながら、咲き誇る花々をゆっくり観賞する。
「ねっ、ティーレリサちゃん、セッションしようよ」
「分かったわぁ。あ、チェリーは踊るのよねぇ? だったらリュートを弾こうかしらぁ」
 そして、フラットとティーレリサはそれぞれの楽器を手にした。表情豊かなリュートの音色に、太鼓で軽快なリズムが刻まれる。それに合わせて、くるくると舞う花びらの如く、あるいは春の訪れを喜ぶ小鳥の如く、チェリーが華麗な踊りを披露した。皆の楽しそうな様子に目を細めながら、セオラは賞賛の拍手を送る。
「チェリーさん、お上手ですよー」
 クライシスものんびり花畑を観賞しながら、フラットとティーレリサの音楽に手拍子を入れたりして、暖かな午後を満喫していた。花なんて自分には似合わないと思いつつも、しかしこうやって眺めている分には
「まー……悪くない、か」
 呟いて、拾った花びらを風に乗せた。ひらりひらりと空に遊ぶように、花びらは遠くへ運ばれていく。
 演奏と踊りを終えて、三人は深く一礼した。惜しみない拍手に、少し照れながら、またそれぞれのお花見を楽しみに戻る。
「……たまにこーいうのも楽しくてイイわねぇ♪」
「そうですね。それに……本当、甘くて良い匂い」
 一輪、手折った水色の花から香る優しい香りに、メーアとティーレリサは顔を綻ばせた。一方チェリーとフラットは、一緒に花畑の中にまで下りて行っている。
「綺麗ですね、なぁ〜ん」
「みんなとお花見できるのも、だけどさ。嬉しくなっちゃうね」
 無事な花達は、その短い寿命すら全うできなかった花の分まで、と言わんばかりに凛と咲いていた。懸命に咲く花を眺めれば、戦いの疲れも吹き飛ぶ。ここだけ、童話の絵本を切り取って持ってきているような錯覚さえ覚えた。
「良いですねぇ、お花見はこうでないと」
「だな。どうにか駆除できて何よりだぜ」
 幸いにも、用意した肉は全てが黒焦げになった訳ではなく、酒の肴には丁度良い。リュウジは、僅かに痛む気がする右腕を少し気にしながら、ぐいと酒を飲み干した。
「ウカさん、僕もお肉欲しいなぁ。あっ、お酒は成人した時に必ず!」
「はい、どうぞどうぞ」
 冒険者たちの花の宴は、夕暮れが空を茜に染めても続いている。花と甘い香りは、いつまでも穏やかな宴に彩りを添えていた。


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作成日:2006/03/27
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