≪破軍の剣アンサラー≫死地見聞〜死者の祭壇へ



<オープニング>


 死者の祭壇の陥落――それはいくつもの問題と疑問を抱えていた。

 地獄門は開かれたのか?
 祭壇を占拠するノスフェラトゥの規模はどれほどなのか。
 あの鈴の音の正体は何なのか。

 疑問に尽きない。其の中には対ミュントス特務部隊を案ずる思いも有り――
 いずれにせよ、死者の祭壇をノスフェラトゥが占拠したという事実は、敗北とも勝利とも――大きく分類するなら敗北なのであろうが――いえぬ結末を迎えたレルヴァ大遠征の後、大きな影を落している。
「皆サンの強い要望ということで、強行偵察をお願いしマス」
 白髏の霊査士・ロウは、護衛士証の霊査を何度か繰り返していた。
 あまり良いものは視えないのだろうか、首をかしげている。
「気が進みませんガ……引き際は皆サンに任せマショウ。とにかく祭壇の状態を見て来てクダサイ。間違っても死なないようにお願いしますネ。皆サンがアンデッドになれば、今の危機的状況が全部知られてしまいますカラ」
 それ以上の助言はできそうにも無い――
 ロウは申し訳ない、と告げ「くれぐれも死なないように」と再度促すのであった。

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参加者
アルカナの・ラピス(a00025)
緋の護り手・ウィリアム(a00690)
天速星・メイプル(a02143)
草原に舞う梟・ウィニア(a02438)
黒紋の灰虎・カラベルク(a03076)
死徒・ヨハン(a04720)
白骨夢譚・クララ(a08850)
木陰の医術士・シュシュ(a09463)
流水の道標・グラースプ(a13405)
前進する想い・キュオン(a26505)


<リプレイ>

●出
「準備は宜しいでしょうか」
 先頭に立った草原に舞う梟・ウィニア(a02438)が問いかけた。
 全員が頷き返すのを確認し、彼らは発つ。
 過去嘗て無い程に念入りに支度を整え――慎重な一歩を踏み出した。

 目立たぬ服装に統一し、召喚獣もそれぞれ命じて姿を潜めさせ、更にはアンサラーの者であるという証明も全て預けてきた。
 目指す先は、以前拠点としていた、東方ソルレオンの砦。
 死の国、死者の祭壇を監視するために造られたと思われる、アンサラーも一時拠点に使用したことのある、因縁浅からぬ場所。
 其処から死者の祭壇の様子を窺おう、というのがひとつの目標であった。
「しかしこのタイミングでの侵攻再開……最悪じゃな」
 アルカナの・ラピス(a00025)は今の情勢をひとつひとつ数え上げ、唸った。
 今は偵察を待ち、本隊である彼女達は足を止め、つかの間の休息をとっていた。
 休み、というのは彼らの常の緊張を考えればあまり正しい表現ではないが――
「ん?」
「キュオンさん」
 遠眼鏡を覗いていた黒紋の灰虎・カラベルク(a03076)と木陰の医術士・シュシュ(a09463)が同時に前進する想い・キュオン(a26505)へと声をかけた。
 返答よりも早く矢を射、地に落ちた鳥の傍へ彼らは近づく。
「これでもう三度目……か」
 動かなくなった骸の鳥に止めを刺して、緋の護り手・ウィリアム(a00690)が嘆息する。
 今のところ――避けていることもあるが――戦闘にはなっていない。
 こうして時々偵察をしていると思しき鳥アンデッドを見かけるものの、あまりアンデッドが増えたという雰囲気は感じない。
「まだソルレオンの砦まで数日かかると思うのですが……偵察を度々見かけるということは……」
 シュシュが口元を押さえ、あまり大きな声にならないよう気をつけながら、案ずる。
「さて……兆候が見えたら、斥候班が知らせてくれるだろうが」
 眉間に小さくしわを寄せるカラベルク。
 戻ってきた斥候班の報せは簡潔であった。
 ――特に変化無し、先を急ぐべし。

●奇怪
 第一の目標地点にはまだ遠いが、出発地であったエルドール砦からも随分遠ざかった――そんな距離に達した頃。
 最初の異変を知らせたのは、天速星・メイプル(a02143)だった。
 しかしその異変、というのは、やや護衛士達の想定とズレが生じていた。
「……村がありました……近づいてはいませんが……」
 ――人がいました。変わらず、生活を送っていました。
 メイプルは静かに報告を終えた。
 アンデッドに変じているわけでもなく、侵略があった様子もなく、平和そのものである、と。
 斥候班は其の場所でのメイプルの呼びかけにおいて、皆村人の生存を確認しているため、思い違いということは――思い違えるのも難しいが――無い。
「まだこっちまで攻めてきていないということ……なのかな?」
 キュオンが首をかしげた。
 探るように、皆、顔を見合わせる。
 撃ち落した鳥アンデッドの数は既に両手の指では足りない。
 まだ少しも襲われる気配がないがゆえに、撤退を選ばず此処に在るが。
「接触は、避けた方が無難じゃろうな。罠……でなくとも、何か影響を与えるかもしれぬ」
 告げたのはラピスだ。
 ――異論は出なかった。

 最初の報告から、斥候に務めるものたちは村や人の気配、というのに更に気を使うようになった。
 何処まで行っても点在する村の住民達は、生きて、以前と変わらぬ営みを続けていた。それこそ戦いの気配など微塵も感じさせぬように。
 此処まで来るとノスフェラトゥなどの関与を、彼らに問いたい衝動も起こるのだが、今回の方針から考えると、誰かに護衛士達の存在を知らせるのはよろしくない。
 潜り込んだことを悟られず、目的地まで向かうには、時間を割くことも無論、誰とも接触してはならぬように思われた。
 例えそれが、自国の民であったとしても。

 そんな状況で出くわした二度目の怪奇は、まさしく怪奇であった。
 何度も繰り返しているように、遠眼鏡を覗いた白骨夢譚・クララ(a08850)は、棄てられた元農村と思しきものを見つけた。
 本来であれば気にせず通り過ぎるのであるが、何となく気にかかり、周辺を見渡す。丁度、割と近くにいた流水の道標・グラースプ(a13405)に小さく声をかけておく。
 グラースプが頷いたのを確認してから、彼は慎重に村へと近づいた。
 人の気配は無いのを確かめながら、ぐるりと迂回すると、畑があった。鍬を入れられなくなってどれほど経つのであろうか。土がすっかり堅くなっているのが一目でわかるような畑だ。
 遠眼鏡を覗き込みながら、更に村の奥を覗くと――影が動いていた。
 鍬を持ち、振り上げ、土を掘り返している。
 だが、其の動きにどうにも違和感があった。
 鈍いのだ。
 それに民家であろう場所に人の気配が無かったことも、違和感を強めていた。
 ハイドインシャドウを使い、潜む場所に気をつけながら、クララは彼らに近づくことを決める。
 遠眼鏡を使って顔がはっきり捕捉出来る距離まで近づき、彼は改めて眼鏡を手にする。
 ――顔面が深く抉れている、ゾンビがいた。
 びくり、流石の彼も少々驚いて、眼鏡を下げた。一度目を閉じ、息を整える。
 恐怖ではなく、予期せぬ展開に驚いたのだが――正確な報告が出来るように、心を落ち着かせなければ。
 気を取り直して再度遠眼鏡を覗いても、光景は変わらなかった。
 数名のアンデッド達が、鍬を持って労働に勤しんでいたのだ――。

 彼の報告は、やはり護衛士達に衝撃を与えた。
 だが、それだけではなかった。
「アンデッドが、棄てられた村の修復を行っていました」
 死徒・ヨハン(a04720)の報告だった。笑みとも困惑ともつかぬ表情を浮かべている。
 彼もまた、自分の見たものを正しく報告してはいるものの……見たものに関しては何ともいえないような様子である。ウィニアとメイプルも、同様の報告をした。
 互いに距離は其処まで離れてはいないのだから、元々村が多く存在していた地域なのだろう。
 何時から人がいないのかは不明だが、残された建物やらの様子を窺うに、同盟が踏み込む以前から、住人はいないようであった。
 沈黙が落ちる。
「アンデッドは不眠不休で労働できますから、効率がよい……という認識で良いのでしょうか?」
 首を僅かに傾げて、シュシュが困ったように笑んだ。
「何を考えているんだか……」
 眉根を寄せてグラースプが「目的」を考える。
 アンデッドが農耕――明らかにノスフェラトゥが関与している。
 確かに疲労を知らぬアンデッドにそういった活動をさせるところまでは、理解できなくも無い。
 しかし、生者を滅ぼすわけでもなく其処に生かしたまま、そんな行動に出るとは思いも寄らなかった。
 漠然とした事実は何一つ隠されることなく護衛士達の前に突きつけられているが、そのギャップが思考に霧をかけている。
 ノスフェラトゥの狡猾さをよく知るがゆえに、見たままに判断できない、とも言える。
「……素敵……だとは思うのですけどね……ボクは」
 もしノスフェラトゥが敵でもなく侵略者でなければ。
 任務と現状を思い、クララは寂しげに微笑んだ。

●理解
 最初は不理解にせよ、いずれ進めば彼らは全員、『復興作業に従事するアンデッド』を目撃することとなった。
 復路を考えれば食料がそろそろ尽きる頃、作業を行うアンデッドを度々見かけるようになった――無論、元々民があって、彼らが棄てた土地があることを前提としているのではあるが――護衛士達は胸中複雑であった。
 死の国特有の暗い空の下は、気をつけねば昼夜の区別がつかなくなる。逆を言えば、もはや昼夜を気にする必要は無いのかも知れぬ。
 だがそろそろ砦が見える――偵察も佳境に入り、警戒を強めながらの偵察を終えた斥候班と合流し、より警戒の強い状態で本隊ともども進んでいた時だ。
 前をゆくウィニアが静止した。グラースプが素早く遠眼鏡を覗き、キュオンが弓を構えた。
「……ダメだ」
 グラースプが短く呟く。
 同じく遠眼鏡を覗いた者たちが、同じく頭を振った。
 彼らは道をふさがれていたのだ。
 空に数十の鷹アンデッドがあり、地に動物のような四足歩行のアンデッドがおり、簡易な鎧をつけ、武器を持ったアンデッドが徘徊する――あちらから排除に向かってくる素振りは見せなかったが、近づけばどうなることやら。
 しかし、数は多いわけではないし、突破する自信はあった。
「引き時を見誤るわけにはいかないからな」
 悔しそうにカラベルクが呟いた。
 判ったことはいくつもある。
 どれもにわかには信じがたい事象であったが――
「村人は確認できた限りすべて無事、棄てられた村はアンデッドが再生活動を行い、しかし警戒の強さは確か、か……」
 数え上げて、しんがりのウィリアムは、未だ見えぬ死者の祭壇の方角を見た。
 これはどういうことなのか――
 死の国の暗い空を、命の無い鷹が群れて旋回していた。


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