可愛い眼鏡を奪還せよ



<オープニング>


「眼鏡屋さんに強盗が入り、品物を奪還してほしいという依頼がありました」
 ドリアッドの霊査士・シィル(a90170)が告げたのは普遍的な強盗退治依頼だった。しかし、眼鏡を盗んで一体どうしようというのか。
「この事件の背景には、最近の『眼鏡っ娘』ブームがあると依頼人さんは言います。可愛いデザインの眼鏡は若い女の子の間でとても人気があり、商売としてかなり好景気ということなんですね」
 ファッションアイテムとしての需要を見込んだ強盗だったわけだ。いずれにせよ許せない犯罪である。
「解決の暁には、好きな眼鏡をプレゼントしてくださるそうですので頑張ってください。強盗団の居場所は南西の町だとすでに霊査から判明してます」
 私が眼鏡してみたらどうなるんでしょう、そんなことをシィルは呟いていた。

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参加者
諷意なる時の光輝・ナコ(a15542)
コスプ・レイヤ(a32265)
飛熊・ティエン(a33937)
蒼き水面の子・フィミア(a36088)
蒼き戦乙女・アリア(a37121)
ラディカルジェントラー・ナハト(a38377)
夕瞑の漣・ギンバイカ(a40037)
薫風の猪忍者・ルシール(a41339)
静謐なる絶氷の剣・オーラ(a42668)
言いくるめのペ天使・ヨウリ(a45541)
ヒトの紋章術士・ジョミ(a46171)
黄昏の山猫・エル(a46177)


<リプレイ>


 南西の町は商業を中心に栄えているらしい。大小問わずあちらこちらの路地に様々な店が立ち並んでいた。通りは主婦や老夫婦といった買い物客が絶えず、賑やかそのものだった。その中に冒険者たちは混じっている。
「客のふりしておびきよせるのはどうじゃろか?」
 ストライダーの医術士・ヨウリ(a45541)の提案で、冒険者たちは囮作戦に出ていた。囮班は眼鏡好きな仲良しグループとして歩き回り、これを見た強盗団がぜひとも盗品を売りつけたいと思うように振舞うのだ。もちろん全員軽装備で、一見で冒険者とはわからない。
「ナコ、その丸眼鏡とても似合ってるわね」
「ありがとうございます。アリアさんもこの街でいいものが見つかるといいですね♪ ジョミちゃんのは私がセレクトしてあげるです♪」
「うむ、我も姉上に合うのを探そう」
 セイレーンの重騎士・アリア(a37121)、諷意なる時の光輝・ナコ(a15542)、凄惨なる光の旋律・ジョミ(a46171)の3人は先頭に立って、周りにもよく聞こえる声で語り合う。半分演技、もう半分は本気で。
「この街にはどれくらい眼鏡屋があるのでしょうね?」
 静謐なる絶氷の剣・オーラ(a42668)は眼鏡をクイッと持ち上げた。詳しい潜伏先はわからないが、新しくオープンした店があれば、そこが強盗団の店のはずである。出歩いている強盗団に偶然出くわせれば一番いいが、やはり地道に聞き込みを続けるしかないだろう。
 しかし、好機は意外にも早く訪れた。
「あら、新しい眼鏡屋さんですか?」
 夕瞑の漣・ギンバイカ(a40037)が道端の男から受け取ったチラシにはこう書かれていた。

 さあそこのあなた、眼鏡っ子ブームに乗り遅れるな! 最新のファッション用眼鏡を多数扱う『ハイクオメガネ』へどうぞ! うちこそ眼鏡屋の決定版!

 何だか頭の悪そうな文句が踊っていた。ハイクオメガネとはハイクオリティな眼鏡のことであろうか。とにかく詳細を聞いてみることにする。
「いつオープンしたの? 可愛いのはあるの?」
「そりゃもう、つい先日に開店よ。可愛いのはあるかって? モチのロンよ」
 エルフの牙狩人・エル(a46177)の質問に、チラシ配りの男はすらすらと答えた。先日に開店ということは、この男が強盗団に間違いはない。
 囮班を遠くから見守っている追跡班はホッと息をついた。
「上手くいきそうだなぁ〜ん。ちょっと簡単だったけどなぁ〜ん」
 ね? と銀縁眼鏡の太公望・ティエン(a33937)は仲間に同意を求める。
「オープン間もないから、あちらも営業に熱を入れているんだろう」
「その熱心さが仇になったわけでござるな」
 蒼き水面の子・フィミア(a36088)と旋風の猪忍者・ルシール(a41339)はほくそ笑み合った。
「まあ、盗品すべてを取り戻すのは少々厄介だろうね」
 本番はこれからだよ、と夜凪・ナハト(a38377)。第一段階は突破したが、気を抜けはしない。漆黒を纏う淡き光・レイヤ(a32265)が小声で言う。
「あ、移動しますよ。僕たちも行きましょう」


 男と囮班はちょっと狭い路地を行ったところにある古ぼけた建物に着いた。見た目は少し悪いが中身は綺麗だと男は言う。どうも無人となった廃屋をそのまま利用しているらしい。
 中に入る。確かに内装はそれなりに整っていた。カウンターあり、姿見あり、商品陳列用のテーブルあり、そして強面の店員あり。
「ずいぶんとお客を連れて来たようだな」
 箒で床を掃いていた店員が冒険者たちを見た。若い女性が多いことに嬉しさを隠せない様子だ。
「さあ、遠慮なく買っていってくれ」
 チラシ配りの男が言う。見てくれではなく買ってくれというところに、隠せない卑しさがあった。それはともかくとして、囮班は自然体で客を装う。あれこれと試着しては互いを褒めあった。
「あっ、これも可愛い♪  エルさん、これはどうですか? きゃあっ、やっぱりお似合いですよぅ〜!」
「うん、すっごく気に入っちゃった。可愛いのはどれも欲しいな♪」
 ギンバイカとエルの年少コンビは任務を忘れているんじゃないかと思えるくらいにはしゃぐ。強盗団のふたりはニヤリと笑っていた。たくさん買ってくれそうだと思っているのかもしれない。
「う〜ん……なかなか良いのがありませんね」
 オーラはクールに店を眺める。あまり皆が方向性を同じにすると怪しまれるかもしれないと考えていた。
「ところで、最近の眼鏡っ子ブームについて詳しく話を聞きたいのだけど……」
 興味津々な顔を作るアリア。男たちはそれから20分にも渡って眼鏡のもたらす変身効果について話した。さすがに辟易した。
「姉上、我の望むものはここには……」
「私もよジョミちゃん。あのう、こちらの店が抱えている品物は、これですべてでしょうか? もしも他に在庫があるのなら、見せていただきたいと思うのですが……」
 男たちは顔を見合わせる。ヨウリが畳み掛ける。
「わしたちはもう3度の飯より眼鏡が好きでしてなあ。たくさんある中からこれぞというのをぜひ選ばせてもらいたいんじゃ」
 男たちはしばらく悩んだ。そしてここで客を逃してはボスにどやされるなどと言って、チラシを配っていた方が店を出た。第二段階、成功。


 チラシ配りの男はリヤカーを押しながら戻ってきた。その後ろには仲間らしい5人の男が付いてきている。これで合計7人。店の前で待っていた囮班、路地の影からいつでも飛び出せるように構える追跡班は固唾を飲んだ。
「うちにあるのはこれで全部だ。どうぞ好きなだけ買ってくれ。ボス、こんないいお客を捕まえたんだからあとで褒美くださいよ」
 ああわかったと言いながら筋骨隆々の髭面男がのっそりと囮班の前に出る。他と比べて風格があるボスは囮班を見渡す。
「しかし、在庫まで見せてくれというのは変わっているな」
「確認するけど……これは全部盗品よね?」
 アリアの言葉にボスは顔面を引き攣らせ、まさかお前らはと狼狽した。それがこの上ない確証だった。
 ボスの後ろにいた部下のひとりが悲鳴を上げた。ティエンが粘り蜘蛛糸で完全に動きを封じている。
「この世のどこにも悪の栄えた例はない! 特に眼鏡に仇なした悪の栄えた例などはな、なぁ〜ん!」
「そういうことです。覚悟してください!」
 ナコが麻縄を取り出し、両手で掴んでぐっと引っ張る。強盗団たちはナイフを抜いて、やっと戦闘態勢に移行した。よくも騙したなと筋違いのことを叫んでいる。
「それは褒め言葉じゃないですか。僕らの作戦が完璧だったということですから」
「言えてますね、それ!」
 レイヤとギンバイカが緑の束縛を撃ってひとりづつ拘束する。刃物などなくても、一般人相手には余裕である。しかし強盗団はまだ力の差がよくわからず、がむしゃらに突っ込んでくるばかり。ひとりはさっそくアリアの幻惑の剣舞に見入られ、ナイフを落とした。倒れた先から縛られて、残りはあっという間にボスを含め3人。
「ボス! こっちっす!」
 部下ふたりが自分の店に入ろうとする。そういえば中に裏口らしい扉があったな、と囮班は思い出した。だが行かせるわけはない。
「動くな! そこ!」
 紅蓮の咆哮が響く。フィミアはその場から一歩たりとも動かず、部下ふたりを硬直させた。すかさずルシールが粘り蜘蛛糸で御用。
「んな……」
 残ったボスは冷や汗まみれだった。とんでもない奴らと戦っていたのだと、後悔の念が体の底から湧き上がるのを感じた。
「受けなさい! 眼鏡を愛用する者の怒りの一撃を!」
 眼鏡の奥をキラリ光らせ、ダガーを投げるオーラ。切っ先はボスの頭の天辺をかすめ、壁に刺さった。ボスが腰が砕けそうになった。そこへジョミが足を引っ掛けて勢いよく転ばせる。
「観念するのが遅い。まったく」
 一同はリヤカーを見た。ヨウリが守っていたので傷はどこにもない。さっそく中の荷物を検分した。店の中にあるのと同じくらいたくさんの眼鏡が包まれている。ずいぶん盗んだものだと呆れた。
「これで全部……かい?」
 ナハトがエンブレムブロウで地面を砕きながら聞くと、縛られた強盗団はガクガク頷いた。
「ボスー! 戻るの遅いじゃないっすか……って、あれ?」
 まだ仲間がいたらしい。男がひとり、間抜けにも駆け寄ってくる。
「最後の団員、ね」
 何もさせなかった。エルが低い姿勢でタックルして転倒させると、短剣を首に押し付ける。男は何が何やらわからないまま失神した。
 こうして胸の空くような晴天の下、小さな悪の集団は壊滅したのだった。


 自警団を呼びに行っている間暇になるので、強盗団への説教タイムと洒落込む。
「まったく、こんな年して、こんなことやって、恥ずかしいと思わない?」
 フィミアは厳しく言った。対してレイヤは優しく言った。
「ともかく、盗みはいけませんよ。こんなことは子供でも知っています。罪を償ったら、まっとうな商売でもしてくださいね?」
 あうう、と強盗団。やっぱりやめときゃよかったんですよ、とボスを責める部下も出てくる。
 盗品は店の中に陳列されていたのとリヤカーで運ばれてきたのをまとめて、いくつかの大きな袋にしまった。幸いなことにまだひとつも売れてはいなかったようで、奪還は完全な形で終わったわけだ。
「これで依頼主も満足されるでござろう。こうも上手くいくとは、実に気持ちいいでござる」
 と、ルシール。一同、満足げに頷いた。
 ほどなくして自警団がやってきて、強盗団はしょっ引かれていった。冒険者たちは彼らを見届けてから、酒場への帰途についた。どの眼鏡を報酬にもらおうかと顔を綻ばせながら。


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