【それが愛でしょう】ヌーベル・キャリバー



<オープニング>


 冒険者の酒場に、黒ずくめの男が現れた。
 黒のアイアンアーマーの上に黒いマントを羽織り、さらにそのマントの上には結わえられた漆黒の長髪が広がっている。お供に筋骨隆々の自警団員を連れた男はライニングタウン自警団長、シモン・スチュワートその人に他ならない。
「冒険者の方々に依頼です」
 霊査士ツキユーを見つけたお供の筋骨隆々な壮年男性、鼻の頭にかけて横一文字の傷がある男が口を開く。
「ほいほい、なんでしょ?」
 プリンを手にしたツキユーはそんな凄みのある男も気にかけずに軽く依頼内容を尋ねる。肝が太いのか感覚が麻痺しているのか。お供の男もそれほど気にしていない風で、自らを自警団員のソロと名乗ると依頼内容を簡潔に霊査士へ伝えた。
「盗賊退治に協力していただきたい」
「ふむ、盗賊退治ですか」
 一度頷くツキユー。盗賊相手といえども、場合によっては手に負えない事もあるだろう。シモンも自ら詳しい説明を加える。
「実はライニングタウンの近くにはヌーベル・キャリバーという盗賊団が存在していまして。彼らがライニングタウンを焼き討ちするという情報を入手したんですよ」
 シモンによると、盗賊団ヌーベル・キャリバーは頭目ディレル・メイを頂点にした盗賊団で、今は森にある隠し洞窟に油を溜め込んだ樽と共に潜んでいるという。町を焼き討ちにして、その間に火事場泥棒を働こうというのだ。シモンは森の地図に隠し洞窟の場所を書き込んだものを差し出す。
「自警団の多くの者は、いざという時の消火活動用に町へ配置しておかないといけないのです。そこで冒険者の皆さんのお力を借りたい、と」
「なるほど、それは一大事ですね……わかりました、冒険者の皆様に解決をお願いしておきましょう」
 ツキユーはシモンから地図を受け取り、依頼に参加する意志のある冒険者を呼び集めるのだった。

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参加者
鈴音に擁かれし蒼桔梗・シル(a36073)
元気いっぱい陽気な歌い手・ジェイニー(a36217)
黒猫同盟幹部会員・ファイ(a37110)
風花・シャルティナ(a42878)
昼行灯な剣客・ブリッツ(a44753)
煌蒼の癒風・キララ(a45410)
南風の雲・ユー(a45791)



<リプレイ>

●盗賊を退治するという事
「こちらです」
 シモンの先導を受け、冒険者は森を進んでいた。最後尾ではソロが油樽を回収する為の荷車を牽いている。
「洞窟の入り口が幾つ有るか、判るかねぇ?」
 迷彩効果を期待してこげ茶色の服を着込んだ昼行灯な剣客・ブリッツ(a44753)の質問。シモンは軽く頷いてみせる。
「こちらの調査では表に1つ裏に1つ、ですが。実際にこの眼でしかと確かめて訳ではないですので……」
「行ってみないと判らない、か。やれやれ……」
 ブリッツはぽりぽりと頭を掻き、ひとりごちる。
「私利私欲の為に町の焼き討ちを謀るとは、中々許し難い事を企てる連中だねぇ……」
 出入り口が1つならば簡単に済む話なのだが、やはり謀略を労する相手は一筋縄ではいかないようだった。元気いっぱい陽気な歌い手・ジェイニー(a36217)が後詰めの配置を考え直し、提案する。
「それじゃ、表口はシモンさんとソロさんに見張りをお願いして、ジェイニーちゃんは裏口にいた方が良いかな。出入り口が二つあるなら、表の入り口の見張りの方が安全そうだし」
「いや、私が裏口の見張りに回るからジェイニーちゃんも表口に回って良いんだなぁ〜ん」
 南風の雲・ユー(a45791)は複数ある出入り口のうち一つを固めるつもりのようだ。冒険者と感づかれないようにとメイド服を着ている駈けだしエンジェル・ファイ(a37110)はソロの体を凝視する。
「そうですねっ! お二人には出入り口を見張っていてもらおうと思います〜。よろしいでしょうか」
 衣服から時折覗く筋肉質なソロの体は、一般人にしては鍛え抜かれているといえるだろう。
 ファイの確認に、シモンは微かに俯くとしばし考える。それから、ゆっくりと面を上げた。
「……わかりました。表の出入り口は私とソロで守りましょう」
「シモン様……!」
 ソロがシモンの意志を正させようと、声を荒げる。不服だと言わんばかりだ。
「ソロさんは、見張りは嫌なのですの?」
 不思議そうな風華・シャルティナ(a42878)にソロが忌々しげにその理由を説明してやる。
「我らとて町民の平和を守る自警団員。この手で悪党を成敗したく思います。そうでなくてどうしてこの肉体を維持している意味が―――」
「ソロ、そこまでにしなさい」
 ぴしゃりと言い放つシモン。首を横に振ってこの抗議を退ける。
「冒険者の皆様は我々に危害が及ばないか心配してくださっているんです……そうですよね?」
「うん、シモンさんとソロさんには絶対怪我をさせないよ!」
 シモンに問われると、こぶしをぐっと握ってそう返すジェイニー。依頼が成功しても依頼人が死んだら元も子もない。ましてや依頼人は知人の――キュロットの恋人なのだ。
「冒険者の皆様のご厚意は本当に有り難いです。ですが、我々が見張りに回る場合……」
 シモンは黒手袋を嵌めた手で、人差し指を立てて左右に振ってみせた。
「ひとつだけ制約が増えます。それは、あなた方の手でヌーベル・キャリバーの団員達を迅速かつ確実に殺害するという事です」
「えっ、殺害……! 確かに盗賊達もおバカさんだけど、何も殺す事は……」
 驚いた顔を見せるのは輝蒼癒風・キララ(a45410)だ。てっきり盗賊達を捕まえて、奉仕活動でもさせるものだと思っていた。
「……冒険者の皆様は悪人を自警団に引き渡せば更生は可能だと考えるかもしれませんが、彼らは凶悪すぎです。町を守る自警団長として……私は彼らを生かしておく事に賛成できません」
 こんな仕事をしていると、人を信じる事が出来なくなります。そうも零して薄い笑いを見せるシモン。冷徹なその顔はどこか儚く、憂いを帯びていた。キュロットの見たどこか影のあるシモンとは、こういう仕事と良心の間にある板ばさみから見せる横顔なのかもしれない。
「最初に言ったはずですよ……これは盗賊『退治』だと」
「しかし、捕縛して他の構成員がいないか吐かせなくていいのかい?」
 盗賊の人権の可否には触れず、ブリッツはシモンに尋ねる。
「構いません、見つけ次第無音瞬殺でお願いします。もし別働隊がいたとしても、アジトの油を押収しておけば焼き討ちをする事は出来ないでしょうから」
「町に火をつけようなどと企む悪党を生かす法は、少なくともライニングタウンには無い。人を殺す覚悟が無いのなら俺とシモン様でやる、そういう事だ」
 ソロもまた、顔の彫を深くして言う。シモンとソロの二人とも、見張り役を任さなければ自分達がこの汚れ役ともいうべき役割を果たすつもりだったのだ。
「……依頼人の意向なら従うけど、ゴハンが不味くなりそうだなぁ〜ん」
 溜息をつくユーだが、依頼人の安全と盗賊の殺害を天秤にかければ答えはすぐに出る。背に腹は変えられない、冒険者は覚悟を決めるのだった。

●見えない、慟哭
「ここね……小さい洞窟って感じだけど」
 茂みに隠れた鈴音に擁かれし蒼桔梗・シル(a36073)の視界には、土壁にぽっかりと口を開けた空洞があった。
 洞穴の両脇には、それぞれ見張りが一人ずつ立っている。深緑の迷彩服に覆面をしていて、異様さをかもし出している。
「ここを表口だとすると、裏口は1つだけっぽいなぁ〜ん」
 ノソリン状態で洞窟の周囲を偵察してきたユーが、体に布を巻きつけて戻ってくる。
 彼女の視察結果に、同じく視察を行っていたブリッツも太鼓判を押した。
「裏口に見張りはなしだ、とっとと突入して制圧すべきだな。こっちの侵入に気付かれる前に全員を倒す必要がある」
「そうですわね、アジト内には大量の油が保管されているはずですし。ヤケになった盗賊がアジトに油をぶちまけて、森ごと大炎上……なんて事になったら眼も当てられないですの」
 報告を聞き、シャルティナも迅速に事を済ませるのに賛成する。頷き合い、それぞれ行動を起こす冒険者達。
 ユーは単独で洞窟裏口へと周り、他の冒険者達は茂みから飛び出し、見張り達を襲撃する。シモンとソロは茂みに残ったままだ。
「な、なんだお前ら―――」
 メイド姿のファイを見て一瞬眼を丸くしたのか、見張りの言葉は途中で止まる。
 そこへ飛んでくるジェイニーの眠りの歌で意識を失う。結局、痛みを感じぬままに彼らの命は消えた。
 結果的に、冒険者達の速攻は見張りに叫ぶ暇(いとま)すら与えなかった。
「……くっ」
 苦虫を噛み潰したような顔のキララ。せめて転がった遺体を埋葬してやりたいが、今はそんな余裕もない。
「さあ、行くぞ」
 ロングソードについた血を振り払い、ブリッツはまだ若い女性である仲間達を先導するように洞窟へと突入する。
「……あまり若い身空の嬢ちゃん達にはやらせたくないからねぇ」
 火のついていない煙草を咥えながら、ブリッツはなんとはなしに傭兵時代の事を思い出すのだった。

「行っちゃったねー」
 冒険者達が洞窟へ突入した後、茂みから出てきたシモンとソロへジェイニーが声をかける。
「ああ……まずは死体を茂みに隠そう」
 ソロが死体を抱えて茂みへと隠し、シモンが土をかけて血の跡を消す。手馴れた様子だ。
 重苦しい空気に耐え兼ねたか、ジェイニーは矢継ぎ早にシモンへと質問を飛ばす。
「キュロットちゃんとの仲はどうなってるんですかぁ?」
「……彼女を、知ってるんですか。とても仲良くやらせて頂いていますよ」
「へ〜……エンジェリカちゃんってどんな子なんですか?」
「エンジェリカさんは、町長の娘さんですね。あの若さにしてはとても聡明で、将来の町長候補ですよ。町人からの人気も高いです」
「なるほどー……」
 元々シモンは口数が多いタイプではない為に、なかなか会話が弾まない。それでもジェイニーはくじけずに質問を続けた。
「キュロットちゃんのお父さんとはお知りあ――」
「シモン様!」
 ジェイニーの質問を遮って、ソロの声が飛んだ。
 ソロは見張り達の服を奪って変装する事で、別働隊がいて帰還してきた場合のカモフラージュしようと考えていた。
 そこで見張りの覆面を剥ぎ取った結果、見知った顔があったのである。
 驚愕に彩られた見張りの顔のうち、片方はジェイニーも良く知った顔だった。それはキュロットの父、ランディに他ならない。
「……ランディ・ホーエンハイム。ここ最近の熊騒ぎで森に入るのを制限した事に、最後まで反対していた木こりでした」
 シモンは顔を伏せ、ランディの開かれた目蓋をそっと閉じてやる。
「……ジェイニーさん、これは私の個人的なお願いです。冒険者の皆様にまで言うなとは申しません、ただ、キュロットにはまだ秘密にしてあげてもらえませんか」
 父親が盗賊だった上に恋人の手によって殺害された、そんな事実を受け止めるにはキュロットはまだ早すぎるとシモンは言う。
「いずれ期が熟した際に私の口から直接伝えたいのです……」
 顔を伏せたままなので、その声からシモンの表情を読み取る事は出来なかった。

 一方、洞窟へ突入した面々もまた、苦い思いを噛み締めながら盗賊達を掃討していた。
「1人たりとも、絶対に逃しませんの!」
 シャルティナのスーパースポットライトが炸裂し、洞窟内に閃光が走る。
 口も利けなくなった盗賊を、確実に斬り伏せていく。
 また、シャルティナのスーパースポットライトやカンテラの灯りで異変に気付き、油を持って裏口から逃げようとした盗賊もいたがそれも予め裏口に回りこんでいたユーによって阻止されていた。たとえ守り手が冒険者一人だけだったとしても、油の詰まった樽を持った一般人が多数では突破する事が出来なかったのだ。
「あんた達が、イタイ事しようとしてたから……」
 こんな痛い目に遭うのよ、という言葉をキララは最後まで言うことが出来なかった。
 カンテラに照らされて、地面に広がった赤い液体が橙色に映って見えた。

●エピローグ
「この度は本当に有難う御座います……そして、説明不足で後味の悪い思いを味あわせてしまい、申し訳ありませんでした」
 アジトの洞窟を出た冒険者をシモンが深く頭を下げて詫びる。
 後ろには油樽を積んだ小さな荷車と、それを牽く準備をしたソロ。
 あの後、洞窟内の盗賊のうち一人をシモンがヌーベル・キャリバー頭目、ディレル・メイだと断定した。仮に生き残りが居たとしてもボスが居なくなった彼らの力は急激に低下している、すぐに悪事を行うといった事はないだろう。
「本来ならば自警団として、我々が手を下さねばならない相手でしたのに……」
「シモンさん、顔を上げてください! 皆で作り上げた町を、皆の大切な人を奪われるのを防ぐ為だったんですから!」
 ファイが熱っぽくシモンを慰める。町を守る為には仕方のない、必要な事だったと割り切らなければいけない。
 そうでなければ死んでいった悪党達、それにランディも浮かばれないような気がした。
「……そうですね。それでは、ランディさんの件もキュロットには内密にお願いします」
 眼を閉じ、口を真一文字に結んだまま。シモンはもう一度、更に深く礼をするのだった。


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わからない
参加者:7人
作成日:2006/04/01
得票数:冒険活劇5  ミステリ2  ダーク3 
冒険結果:成功!
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