【月夜見奇譚】神怪しき魔歌



<オープニング>


●くすしきまがうた
 春の宵に浮かぶ月。
 仄かな青白い光に照らされる人影。
 長い金色の髪の乙女が見下ろすのは、小さな村。

 ――にぃ、と。
 真っ赤な唇が、薄い三日月のような笑みを浮かべて。
 口吟ぶ歌が、涼やかな風に乗る。
 
 そして、それに合わせるように。
 村から聞こえる怒声、悲鳴、断絶魔――。
 
 乙女の声。その歌の。
 神怪しき魔力に、惑わされた村人は。
 全身から血を流し。逃げる事も忘れて。
 目の前のもの全てを、お互いを傷つけ。
 
 乙女は嘲う。
 その惨劇が可笑しいとでも言うように。
 乙女は歌う。
 全ての滅びを望むように――。


「……みんなにお願いがあるの」
 冒険者の酒場。集まった冒険者達にそう切り出したミュリン。
 いつにない彼女の真面目な表情に、冒険者達も居住いを正す。
「あのね、モンスターを退治して来て欲しいの」
「……モンスター?」
 真剣な眼差しを向けて来る彼らに、ミュリンは頷いて続ける。
 ここから街道を1日程行った小さな村に、金色の髪を持つ乙女型のモンスターが現れるのだと言う。
 そのモンスターは、街道沿いに移動しながら、見つけた街や村を襲っているらしい。
「……それは、急いで退治した方が良さそうだな」
 月夜の剣士・アヤノ(a90093)呟きに、ミュリンは再び頷いて。
「そのモンスター……覚えてるかな。シェラフィちゃんって言う女の子の故郷を全滅させたやつなの」
「…………っ!」
 厳しい顔をしたままの彼女の言葉に、息を飲んだ冒険者達。
 シェラフィとは、以前とある事件に関わった孤児の少女のことだ。
 少女の故郷である小さな村は、モンスターに襲われて全滅し、彼女が唯一の生き残りなのだと聞かされている。
 そしてその事件は、少女の心に暗い影を落とし。
 村人達はアンデッドと化し、死してなお、苦しみ続けることとなったのだ――。
 両親の死が受け入れられず。いつか帰って来ると信じているシェラフィの無邪気な笑顔。
 埋葬もされず、変わり果てた村人達の哀れな姿を。
 忘れるはずがない。
 忘れられるはずがなかった。
 その元凶となったモンスターが現れると言うのなら……。
「絶対に、見逃す訳にはいかないよね」
 その目に、強い決意を宿して。呟いた冒険者に、ミュリンと仲間達も頷いて。
 急いで席を立つ彼らを、霊査士の少女が慌てて呼び止める。
「待って。まだ、注意したいことがあるの」
 何事かと振り返った彼らを、彼女はじっと見つめて。
「……そのモンスターね、歌で人を惑わす能力……『ファナティックソング』みたいな能力を持ってるみたいなの。あと、鋭い爪に『鮫牙の矢』に似た効果があるみたいだから、攻撃にはくれぐれも気をつけて」
「……厄介な能力ばかりだな。何か弱点はないのか?」
「うーん……。心の抵抗力はあるけど、体攻撃には弱いみたい」
 うめくように呟いた冒険者達に考え込んだミュリン。
 歌って惑わすと言う手段を取るこのモンスター、直接手を下すことは少ないのだろう。
 それ故、近接戦には向いていないようだった。
 打たれ弱いとは言え、攻撃力は高い。正面から無策に突っ込んでも自滅するだけだし、何より下手に歌われれば近くの村の住民を巻き込みかねない。
「戦う場所や方策も、考えないとならないかもしれませんね……」
 冒険者達の言葉に、彼女は頷いて。そして不安そうに続ける。
「とっても恐くて危ないモンスターだから……みんな、くれぐれも気をつけてね」
 ミュリンに頷いて見せた冒険者達は、急ぎ現場に急行するのだった。

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参加者
月夜に永遠誓いし剣士・カズハ(a00073)
三代目雲龍の刀匠・レイド(a00211)
平和を望む剣・ローズマリー(a00557)
蒼浄の牙・ソルディン(a00668)
舞月の戦華・アリア(a00742)
自然と昼寝愛好家・ファンバス(a01913)
紅き紋章を描きし乙女・ショコラ(a02448)
星影・ルシエラ(a03407)
緋炎鋼騎・ゴウラン(a05773)
旅人の篝火・マイト(a12506)
NPC:月夜の剣士・アヤノ(a90093)



<リプレイ>

●蒼月の元に
 浮かぶ蒼い月が美しい夜。
 霊査士の少女の情報を元に冒険者達が目指したのは、村に程近い小高い丘。
「ここから高見の見物をしようと言う訳ですか。……気に入りませんね」
 眼下の村を見つめる旅人の篝火・マイト(a12506)。
 冒険者達が事前に村に行き、事情を説明して協力を求めたお陰でもあるのだが……静かな村の家々からは明かりが消え。
 灯る篝火を隣で見ながら、蒼浄の牙・ソルディン(a00668)が苦々しい表情で。
「街道沿いの村を襲っていたか……危険極まりない存在ですね」
 シェラフィさんのような境遇を持つ人を量産していた訳ですから、と。
 続いた言葉に、友人達に会えた嬉しさを胸に秘めて、平和を望む剣・ローズマリー(a00557)も頷く。
「金髪の乙女、元はどんな冒険者だったのかしら……」
 ふと、湧き上がる疑問。
 彼女の金色の髪を、星影・ルシエラ(a03407)はじっと見つめて。
「金色の髪は、月の光に照らされると綺麗だよね。優しい歌が……似合ってただろうな、昔」
 その呟きに、仲間達の胸に去来するやるせない想い。
 彼女がどういう経緯で心を失ったのかは判らないけれど。
「このモンスターから生まれる悲しみは、ここで終わりにさせないと……!」
 自然と昼寝愛好家・ファンバス(a01913)の目に輝く強い意思。
「そうだね。……私達にはそんな事くらいしかしてあげられないから」
 心優しい少女の未来に、これ以上暗い影が宿らぬように。
 祈るように呟いた舞月の戦華・アリア(a00742)に、三代目雲龍の刀匠・レイド(a00211)は拳を握り締めて。
「おう! 二度と悲劇は繰り返させねぇぜ!! 絶対にな!」
「そうですっ! 悪人に乙女を名乗る資格はありませんっ!」
 彼の心からの叫びに、勢い良く答えた紅き紋章を描きし乙女・ショコラ(a02448)に、頷く総員。
「……良いか。回復役の者は、必要以上に歌の効果範囲に近づかぬように」
 それまで黙って話を聞いていた月夜に永遠誓いし剣士・カズハ(a00073)の重い一言。
 それから……と、彼は続ける。
「俺が混乱して、正気に戻らぬようなら容赦なく討て。仲間を討つくらいなら、討たれた方がいい」
「その言葉、そっくり返すぜ。相棒」
 そう言って、カズハの胸を叩くレイド。
「嫌だよ。そんなの、絶対に嫌だ……!」
 ファンバスの吐き出すような声。
 長く苦楽を共にした大切な仲間を、自らの手で傷つけるなんて考えたくもなかった。
「……大丈夫。絶対に、そんな事はさせない」
 決意に満ちた月夜の剣士・アヤノ(a90093)の静かな声に、カズハは驚いた顔を見せる。
「……珍しいな。お前がそんな事を言うなんて」
「身体張ってでも止めてあげる。……私だって役に立つんだから」
 彼女の呟きに、彼は苦笑して。徐に大地を踏みしめ、勇猛の誓いを立てる。
 引く事無く。惑わされぬように。仲間を傷付ける事がないように――。
「まあ、アレだ。万が一間違って殴っても今回はノーカウントな!」
「レイド……」
「……兄さん?」
 その横で、物騒な事を言うレイドの口をむにーーっと引っ張って広げているローズマリーとアヤノに、仲間達から笑いが漏れて。
「ともかく、気を引き締めて参りましょう。この前ような悪夢は、二度と見たくないですから……」
「うん! がんばろー!」
 すぐに厳しい表情に戻ったマイトと、えいえいおー! と腕を振り上げたルシエラ。
「しかし。モンスターを倒しても……シェラフィさんの両親は帰ってこないのですよね」
 そして、呟くソルディンに、アリアは目を伏せて。
「……そうだね。だけど」
 応えたのは緋炎断罪・ゴウラン(a05773)。
 そこで言葉を区切ると、ぶんっ! と戦斧を振り回し、酒を口に含んで。
「落とし前はキッチリ付けるのがアタシの流儀さ♪」
 吹き付けられた清めの酒に濡れて輝く斧。その向こうに見える、闇を揺らす存在――。
「……何か来る!」
「さあ、やっちまおうぜ!」
 鋭く叫んだアリアに、ゴウランは獣のような笑みを浮かべて叫んだ。

●魔歌
 風に揺れる長い金糸のような髪とドレスの裾。
 人間と見紛う外見。これでは、村人が襲われるまで気がつかないのも無理はない。
 冒険者の目を誤魔化せる程、擬態が上手い訳ではないようだが――。
 ソルディンがそんな事を考えながら、チキンスピードの加護を仲間達に与えると、ファンバスとゴウランも次々と鎧聖降臨をかけ、来たるべき時に備える。
 準備万端。それを察したローズマリー。
 カズハのホーリーライトが周囲を照すと、彼女もランタンをかざし。
「ほらっ。こっちよ!」
 その声に、乙女は微かに反応したが、止まる様子はない。
 その先に村があるのを知っているかのように。真っ直ぐ向かおうとする彼女を遮ったのは、激しく眩い光。
「……貴女の遊び相手は私達です。こちらへ来なさい」
 スーパースポットライトで頭部を光らせたソルディンの挑発的な声。
 それで、目的通り遊び相手を彼と見定めたらしい。踵を返して向かって来る。
「よし! そのまま村から引き離せ!」
「判ってますよ……!」
 レイドの威勢のいい声に、不敵な笑みを浮かべたソルディン。
 ここはまだ、村に程近く。魔歌が村人に届く可能性がある。
 時々誘うように立ち止まり。追って来るのを確認しながら、そのままひた走る。
「そろそろ頃合ですかね……皆さん、準備は良いですか?」
「うん! バッチリだよっ」
 村との距離を目測したマイトに応えるように、ルシエラは矢を番えて。
「ショコラ、援護頼む」
「了解! いきまーす!」
 走り出したアリアに頷き返し、大地に巨大な紋章を描くショコラ。
 彼女のエンブレムフィールドが、戦闘開始の合図となり。
 掛け声と共に走りこむ前衛。
 蒼い人物を追っていた乙女は、その存在に気付き。立ち止まると、近づくなと言わんばかりに高らかに歌い始める。
 その歌は高く低く、風に乗り。
「はわわっ。離れないとっ」
「……村の様子はっ!?」
 乙女から距離を取ろうとするショコラに頷きつつ、慌てて後方を振り返ったファンバス。
「大丈夫っ。届いてないみたいだよっ」
 遠ざかった村に目を凝らし、耳を澄ましていたルシエラの声。
「そんなに効果範囲は広くないと言う事でしょうか……」
 続いたマイトの呟き。その目線は、モンスターに向けられて……。
「……くっ」
 距離を取り、魔歌の射程を測りつつ接近を試みるカズハの額に浮かぶ脂汗。
 響いて来るその声は、直接頭の中を撫でられているようで――。
 ――コロセ。コロシテシマエ。
 伝わって来る、吐き気がする程の濃密な呪いの言葉。
 ――スベテヲコワセ。コワセ。
 それはただ、ただ訴え、叫ぶ。
「洒落になってねぇな……」
 魔氷の拘束を狙って攻撃に転じたレイドは、額に流れる汗を拭う。
 振るった手から滴る赤い色。
 それは汗ではなく、血だ。
 ――サア、コロセ。
 痛みより何より、気持ちが悪い。
 気力で正気を繋ぎとめているカズハの搾り出すような紅蓮の咆哮。
 効いた様子はなく、魔歌は止まない。
 ――コロセ、コロセ。コロセコロセコロセ……!
 絶望を、殺戮を。負の感情を爆発させろと囁く声が。
 苛立たしくてどうにかなりそうだ。
「コンチクショウ……ッ」
 全身から血を流しながら、ゴウランは盾をかざしてどんどん前へ押し出ていく。
 ……そのはずなのに、ちっとも進んでいる気がしない。
 それどころか、ここが何処なのかすら覚束なくなりそうで……。
「皆、しっかりして!」
「今援護する!」
 目に見えぬ戦いを強いられている仲間達の耳に入ったのは、ローズマリーとアリアの声。
 2人の高らかな凱歌が、辺りに響く。
 ……一体、何が彼女をこれ程までに絶望させたのだろう。
 全てを呪う程、辛い目に遭ったのだろうか。
 死してなお、こんな願いを抱くのは悲しすぎる……。
 ローズマリーの心を過ぎる想い。
 アリアは、乙女の魔歌に勝るよう、全身全霊で希望を紡ぐ。
 もう誰も悲しい想いをしないように。
 当たり前の幸せが壊れないように。
 全ての命が健やかで、その幸せが長く続くように……。
「……チャンスです!」
 『魔歌』と『返歌』が続く中、突然のマイトの叫び。
 歌った後、確実に相手の動きが止まる筈。そう、確信していた彼。
 それが事実だったかどうかは判らないが……少なくとも、歌い終わるまで待つ必要はない。
 何故なら。
 歌う事に集中しているモンスターは、隙だらけだったのだ……!
「はーい。ビシっとやっちゃうもんねー!」
 彼の声に応えるように放たれたルシエラのライトニングアローが、敵に突き刺さり、乙女が悲鳴をあげる。
「……歌が止んだ!」
 仲間達の様子と敵を用心深く観察していたファンバスの鋭い叫び。
 それは、絶好の好機――!
「これ以上歌う隙を与えるな!」
「あいよ! 任せときな!」
「ローズマリーとアリアはそのまま凱歌!!」
 叫んで。血を流しながらも一気に間合いを詰めるカズハとゴウラン、レイド。
 しかし、敵も自分の弱点は心得ているのか。
 極力近づかれぬように後退しながら、鋭い爪で冒険者達の攻撃を受け流す。
 そこに打ち込まれる、ソルディンのソニックウェーブとマイトのホーミングアロー。
 流石にそれは乙女も避けきれず。確実に消耗させて行く。
 だが、モンスターもただやられているだけではなかった。
「レイド! 左っ!」
 ローズマリーの悲鳴に近い声。
 刹那。踏み込んだレイドの脇腹を乙女の醜怪な爪が抉り、そのまま薙ぎ払われる。
「構うな! 凱歌を続けろ!!」
 その衝撃で剣を弾かれ、倒れた彼に慌てて駆け寄ろうとしたローズマリーを制止する一喝。
 ソルディンはレイドを一瞥すると、一段と厳しい顔になって。
「アヤノさん! 彼を連れて下がって下さい」
 彼の声に頷いて、義兄に走り寄るアヤノ。
「馬鹿言ってんじゃねえ! 美味しいとこ持ってこうったって……ッ!」
「無理ですよ……っ」
 こみ上げてきた血で最後まで続かないレイドの声に、オロオロと心配そうなショコラ。
 癒しの魔法で止血したものの、とても戦闘を続行出来るようには見えず。
「……援護するから。続けて!」
 満身創痍の彼の身体を引き上げたファンバス。驚いた顔をしている3人に苦笑を向けて。
「止めても聞かないからね、レイドは。……でも、絶対一緒に帰るんだからね!」
「来いッ! 雲龍!」
 義兄弟の言葉に、レイドは頷いて。
 青と紅蓮の炎を纏った彼の元に、白銀の剣が現れる……!
 彼らがそんな事をしている間、後衛の者達も奮戦していた。
「村に向かわせるな!」
 モンスターへ矢の雨を降らせるマイトに頷くルシエラ。
「ルシエラ、とっても怒ってるんだからね」
 シェラフィ達の家族、他の沢山の大切な人達を苦しめて。
 それがどんな事かも忘れている彼女には、ちゃんと眠って欲しい。
 そんな想いを込めて。彼女も矢を放ち続ける。
 彼らのお陰で足止めは成功しているものの、戦況は均衡を保っていた。
 否。乙女が冒険者達と打ち合うのを避けている為、ひたすら追いかけていると言う方が正しいか。
 このままじゃ埒があかないね。何とか、敵の動きを封じないと……。
 ゴウランがそんな事を考えた時、ふとカズハと目が合って。
「カズハ兄ぃ。肉を斬らせて骨を断つって言葉知ってる?」
「……女のゴウランにやらせるのは気が進まんが、仕方ないな」
 微妙にズレた会話。しかし、考える事は同じだったのか。
 彼女は盾を捨てると、カズハと共に一気に踏み込んで――。
「……!? 無茶だ!」
 その行動を理解したのか、青ざめて叫ぶアリア。
 2人の身体に食い込む乙女の爪。振るわれた双腕をあえてその身で受け止める。
 それは、見事に乙女の行動を封じ――。
「……今だ! やれ!」
 仲間の捨て身の攻撃を見逃さず、駆け込んで来たレイドとローズマリーの連携の取れた攻撃。
 そこに、アリアの斬鉄蹴が重なって。
「シェラフィの仇、取らせてもらう……」
「いや、それだけではなく……これまで殺めた人々総ての仇を今ここで討つ!」
 そして、マイトとソルディンの叫び。
 2人の攻撃がモンスターの身体に吸い込まれ。
「テメェの下手くそな歌じゃあ、アタシの心は動かないよ。あの世で修行を積んできな!」
 続いたゴウラン。
 彼女の渾身の力を込めたホーリースマッシュとカズハのデストロイブレードが思い切り叩きつけられる……!
 闇に響く断絶魔。両手を固定されて、避ける事すら叶わなかった乙女。
 月明かりの下、乾いた大地にその身を横たえたのだった。

●無垢なる手
「おかえりなさいー!」
「あっ。シェラフィちゃんだ〜♪」
「元気だった!?」
 見慣れた少女をぎゅむっと抱きしめるルシエラとファンバス。
 モンスターを手厚く埋葬した後、冒険者の酒場に戻ると、シェラフィが彼らを待っていた。
 どうやら、ミュリンが気を利かせて呼んでくれたらしい。
 ゴウランは痛む身体に鞭打って、少女の頭をそっと撫でる。
「パパやママを虐めた悪い奴はぶっ飛ばしてやったからね」
「……怖いヒトいなくなったの?」
「ええ。もう心配ないですよ」
 微笑を浮かべたマイトに、彼女は嬉しそうに頬を染めて。
「じゃあ、パパとママ早く帰って来られるかな。でも、そのせいでお姉ちゃん達がお怪我しちゃったんだよね……」
 ごめんね、と続けた少女に首を振ったアリアの視界が涙で滲む。
 ……いつか帰ってくると信じている両親の死も、いつかは気づいてしまうだろう。
 でも、もうこれで。彼女が復讐という炎に身を焼かれる事はない。
 自分の髪を撫でる、穢れを知らない優しい手を……少女の未来を、守る事が出来たのだ。
「倒せて良かったですよね……」
 彼女の想いを現すようなソルディンの呟き。
「よし。勝利を祝って酒だ、酒!」
「怪我人が何言ってんですかっ」
 手当てを受けながらいつもの調子のレイドをショコラが小突いて。
 それを微笑ましく見ていたローズマリーだったが……ミュリンに元気がないのに気が付いて。
「どうしたの?」
「……あの。覚えてるかな。アヤノちゃんのお兄さんを殺害した犯人」
 目を伏せたミュリンを不審に思いながらも頷く彼女。
 義姉妹とその家族を酷い目に遭わせたのだ。忘れるはずもない。
「あの人がね、脱獄して逃げたって、報せが入って……」
 続いた言葉に表情がなくなる包帯姿のカズハ。そのまま、馴染みの霊査士を見て。
「……アヤノには?」
 彼の問いに首を振ったミュリン。さすがに言えなかったのだろう。彼女は俯き、溜息をついて。
「何かね、嫌な予感がするの。すごく、嫌な感じ……」
「判ったわ。皆に伝えておく……何か判ったら、すぐに知らせてね」
 ローズマリーに励ますように肩を抱かれ、ミュリンは頷いた。
 
 こうして、孤独な少女に纏わる事件は終焉を迎えた。
 しかし。運命は、冒険者達とアヤノをまた新たな渦へと巻き込もうとしていた。


マスター:猫又ものと 紹介ページ
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