<リプレイ>
●蒼月の元に 浮かぶ蒼い月が美しい夜。 霊査士の少女の情報を元に冒険者達が目指したのは、村に程近い小高い丘。 「ここから高見の見物をしようと言う訳ですか。……気に入りませんね」 眼下の村を見つめる旅人の篝火・マイト(a12506)。 冒険者達が事前に村に行き、事情を説明して協力を求めたお陰でもあるのだが……静かな村の家々からは明かりが消え。 灯る篝火を隣で見ながら、蒼浄の牙・ソルディン(a00668)が苦々しい表情で。 「街道沿いの村を襲っていたか……危険極まりない存在ですね」 シェラフィさんのような境遇を持つ人を量産していた訳ですから、と。 続いた言葉に、友人達に会えた嬉しさを胸に秘めて、平和を望む剣・ローズマリー(a00557)も頷く。 「金髪の乙女、元はどんな冒険者だったのかしら……」 ふと、湧き上がる疑問。 彼女の金色の髪を、星影・ルシエラ(a03407)はじっと見つめて。 「金色の髪は、月の光に照らされると綺麗だよね。優しい歌が……似合ってただろうな、昔」 その呟きに、仲間達の胸に去来するやるせない想い。 彼女がどういう経緯で心を失ったのかは判らないけれど。 「このモンスターから生まれる悲しみは、ここで終わりにさせないと……!」 自然と昼寝愛好家・ファンバス(a01913)の目に輝く強い意思。 「そうだね。……私達にはそんな事くらいしかしてあげられないから」 心優しい少女の未来に、これ以上暗い影が宿らぬように。 祈るように呟いた舞月の戦華・アリア(a00742)に、三代目雲龍の刀匠・レイド(a00211)は拳を握り締めて。 「おう! 二度と悲劇は繰り返させねぇぜ!! 絶対にな!」 「そうですっ! 悪人に乙女を名乗る資格はありませんっ!」 彼の心からの叫びに、勢い良く答えた紅き紋章を描きし乙女・ショコラ(a02448)に、頷く総員。 「……良いか。回復役の者は、必要以上に歌の効果範囲に近づかぬように」 それまで黙って話を聞いていた月夜に永遠誓いし剣士・カズハ(a00073)の重い一言。 それから……と、彼は続ける。 「俺が混乱して、正気に戻らぬようなら容赦なく討て。仲間を討つくらいなら、討たれた方がいい」 「その言葉、そっくり返すぜ。相棒」 そう言って、カズハの胸を叩くレイド。 「嫌だよ。そんなの、絶対に嫌だ……!」 ファンバスの吐き出すような声。 長く苦楽を共にした大切な仲間を、自らの手で傷つけるなんて考えたくもなかった。 「……大丈夫。絶対に、そんな事はさせない」 決意に満ちた月夜の剣士・アヤノ(a90093)の静かな声に、カズハは驚いた顔を見せる。 「……珍しいな。お前がそんな事を言うなんて」 「身体張ってでも止めてあげる。……私だって役に立つんだから」 彼女の呟きに、彼は苦笑して。徐に大地を踏みしめ、勇猛の誓いを立てる。 引く事無く。惑わされぬように。仲間を傷付ける事がないように――。 「まあ、アレだ。万が一間違って殴っても今回はノーカウントな!」 「レイド……」 「……兄さん?」 その横で、物騒な事を言うレイドの口をむにーーっと引っ張って広げているローズマリーとアヤノに、仲間達から笑いが漏れて。 「ともかく、気を引き締めて参りましょう。この前ような悪夢は、二度と見たくないですから……」 「うん! がんばろー!」 すぐに厳しい表情に戻ったマイトと、えいえいおー! と腕を振り上げたルシエラ。 「しかし。モンスターを倒しても……シェラフィさんの両親は帰ってこないのですよね」 そして、呟くソルディンに、アリアは目を伏せて。 「……そうだね。だけど」 応えたのは緋炎断罪・ゴウラン(a05773)。 そこで言葉を区切ると、ぶんっ! と戦斧を振り回し、酒を口に含んで。 「落とし前はキッチリ付けるのがアタシの流儀さ♪」 吹き付けられた清めの酒に濡れて輝く斧。その向こうに見える、闇を揺らす存在――。 「……何か来る!」 「さあ、やっちまおうぜ!」 鋭く叫んだアリアに、ゴウランは獣のような笑みを浮かべて叫んだ。
●魔歌 風に揺れる長い金糸のような髪とドレスの裾。 人間と見紛う外見。これでは、村人が襲われるまで気がつかないのも無理はない。 冒険者の目を誤魔化せる程、擬態が上手い訳ではないようだが――。 ソルディンがそんな事を考えながら、チキンスピードの加護を仲間達に与えると、ファンバスとゴウランも次々と鎧聖降臨をかけ、来たるべき時に備える。 準備万端。それを察したローズマリー。 カズハのホーリーライトが周囲を照すと、彼女もランタンをかざし。 「ほらっ。こっちよ!」 その声に、乙女は微かに反応したが、止まる様子はない。 その先に村があるのを知っているかのように。真っ直ぐ向かおうとする彼女を遮ったのは、激しく眩い光。 「……貴女の遊び相手は私達です。こちらへ来なさい」 スーパースポットライトで頭部を光らせたソルディンの挑発的な声。 それで、目的通り遊び相手を彼と見定めたらしい。踵を返して向かって来る。 「よし! そのまま村から引き離せ!」 「判ってますよ……!」 レイドの威勢のいい声に、不敵な笑みを浮かべたソルディン。 ここはまだ、村に程近く。魔歌が村人に届く可能性がある。 時々誘うように立ち止まり。追って来るのを確認しながら、そのままひた走る。 「そろそろ頃合ですかね……皆さん、準備は良いですか?」 「うん! バッチリだよっ」 村との距離を目測したマイトに応えるように、ルシエラは矢を番えて。 「ショコラ、援護頼む」 「了解! いきまーす!」 走り出したアリアに頷き返し、大地に巨大な紋章を描くショコラ。 彼女のエンブレムフィールドが、戦闘開始の合図となり。 掛け声と共に走りこむ前衛。 蒼い人物を追っていた乙女は、その存在に気付き。立ち止まると、近づくなと言わんばかりに高らかに歌い始める。 その歌は高く低く、風に乗り。 「はわわっ。離れないとっ」 「……村の様子はっ!?」 乙女から距離を取ろうとするショコラに頷きつつ、慌てて後方を振り返ったファンバス。 「大丈夫っ。届いてないみたいだよっ」 遠ざかった村に目を凝らし、耳を澄ましていたルシエラの声。 「そんなに効果範囲は広くないと言う事でしょうか……」 続いたマイトの呟き。その目線は、モンスターに向けられて……。 「……くっ」 距離を取り、魔歌の射程を測りつつ接近を試みるカズハの額に浮かぶ脂汗。 響いて来るその声は、直接頭の中を撫でられているようで――。 ――コロセ。コロシテシマエ。 伝わって来る、吐き気がする程の濃密な呪いの言葉。 ――スベテヲコワセ。コワセ。 それはただ、ただ訴え、叫ぶ。 「洒落になってねぇな……」 魔氷の拘束を狙って攻撃に転じたレイドは、額に流れる汗を拭う。 振るった手から滴る赤い色。 それは汗ではなく、血だ。 ――サア、コロセ。 痛みより何より、気持ちが悪い。 気力で正気を繋ぎとめているカズハの搾り出すような紅蓮の咆哮。 効いた様子はなく、魔歌は止まない。 ――コロセ、コロセ。コロセコロセコロセ……! 絶望を、殺戮を。負の感情を爆発させろと囁く声が。 苛立たしくてどうにかなりそうだ。 「コンチクショウ……ッ」 全身から血を流しながら、ゴウランは盾をかざしてどんどん前へ押し出ていく。 ……そのはずなのに、ちっとも進んでいる気がしない。 それどころか、ここが何処なのかすら覚束なくなりそうで……。 「皆、しっかりして!」 「今援護する!」 目に見えぬ戦いを強いられている仲間達の耳に入ったのは、ローズマリーとアリアの声。 2人の高らかな凱歌が、辺りに響く。 ……一体、何が彼女をこれ程までに絶望させたのだろう。 全てを呪う程、辛い目に遭ったのだろうか。 死してなお、こんな願いを抱くのは悲しすぎる……。 ローズマリーの心を過ぎる想い。 アリアは、乙女の魔歌に勝るよう、全身全霊で希望を紡ぐ。 もう誰も悲しい想いをしないように。 当たり前の幸せが壊れないように。 全ての命が健やかで、その幸せが長く続くように……。 「……チャンスです!」 『魔歌』と『返歌』が続く中、突然のマイトの叫び。 歌った後、確実に相手の動きが止まる筈。そう、確信していた彼。 それが事実だったかどうかは判らないが……少なくとも、歌い終わるまで待つ必要はない。 何故なら。 歌う事に集中しているモンスターは、隙だらけだったのだ……! 「はーい。ビシっとやっちゃうもんねー!」 彼の声に応えるように放たれたルシエラのライトニングアローが、敵に突き刺さり、乙女が悲鳴をあげる。 「……歌が止んだ!」 仲間達の様子と敵を用心深く観察していたファンバスの鋭い叫び。 それは、絶好の好機――! 「これ以上歌う隙を与えるな!」 「あいよ! 任せときな!」 「ローズマリーとアリアはそのまま凱歌!!」 叫んで。血を流しながらも一気に間合いを詰めるカズハとゴウラン、レイド。 しかし、敵も自分の弱点は心得ているのか。 極力近づかれぬように後退しながら、鋭い爪で冒険者達の攻撃を受け流す。 そこに打ち込まれる、ソルディンのソニックウェーブとマイトのホーミングアロー。 流石にそれは乙女も避けきれず。確実に消耗させて行く。 だが、モンスターもただやられているだけではなかった。 「レイド! 左っ!」 ローズマリーの悲鳴に近い声。 刹那。踏み込んだレイドの脇腹を乙女の醜怪な爪が抉り、そのまま薙ぎ払われる。 「構うな! 凱歌を続けろ!!」 その衝撃で剣を弾かれ、倒れた彼に慌てて駆け寄ろうとしたローズマリーを制止する一喝。 ソルディンはレイドを一瞥すると、一段と厳しい顔になって。 「アヤノさん! 彼を連れて下がって下さい」 彼の声に頷いて、義兄に走り寄るアヤノ。 「馬鹿言ってんじゃねえ! 美味しいとこ持ってこうったって……ッ!」 「無理ですよ……っ」 こみ上げてきた血で最後まで続かないレイドの声に、オロオロと心配そうなショコラ。 癒しの魔法で止血したものの、とても戦闘を続行出来るようには見えず。 「……援護するから。続けて!」 満身創痍の彼の身体を引き上げたファンバス。驚いた顔をしている3人に苦笑を向けて。 「止めても聞かないからね、レイドは。……でも、絶対一緒に帰るんだからね!」 「来いッ! 雲龍!」 義兄弟の言葉に、レイドは頷いて。 青と紅蓮の炎を纏った彼の元に、白銀の剣が現れる……! 彼らがそんな事をしている間、後衛の者達も奮戦していた。 「村に向かわせるな!」 モンスターへ矢の雨を降らせるマイトに頷くルシエラ。 「ルシエラ、とっても怒ってるんだからね」 シェラフィ達の家族、他の沢山の大切な人達を苦しめて。 それがどんな事かも忘れている彼女には、ちゃんと眠って欲しい。 そんな想いを込めて。彼女も矢を放ち続ける。 彼らのお陰で足止めは成功しているものの、戦況は均衡を保っていた。 否。乙女が冒険者達と打ち合うのを避けている為、ひたすら追いかけていると言う方が正しいか。 このままじゃ埒があかないね。何とか、敵の動きを封じないと……。 ゴウランがそんな事を考えた時、ふとカズハと目が合って。 「カズハ兄ぃ。肉を斬らせて骨を断つって言葉知ってる?」 「……女のゴウランにやらせるのは気が進まんが、仕方ないな」 微妙にズレた会話。しかし、考える事は同じだったのか。 彼女は盾を捨てると、カズハと共に一気に踏み込んで――。 「……!? 無茶だ!」 その行動を理解したのか、青ざめて叫ぶアリア。 2人の身体に食い込む乙女の爪。振るわれた双腕をあえてその身で受け止める。 それは、見事に乙女の行動を封じ――。 「……今だ! やれ!」 仲間の捨て身の攻撃を見逃さず、駆け込んで来たレイドとローズマリーの連携の取れた攻撃。 そこに、アリアの斬鉄蹴が重なって。 「シェラフィの仇、取らせてもらう……」 「いや、それだけではなく……これまで殺めた人々総ての仇を今ここで討つ!」 そして、マイトとソルディンの叫び。 2人の攻撃がモンスターの身体に吸い込まれ。 「テメェの下手くそな歌じゃあ、アタシの心は動かないよ。あの世で修行を積んできな!」 続いたゴウラン。 彼女の渾身の力を込めたホーリースマッシュとカズハのデストロイブレードが思い切り叩きつけられる……! 闇に響く断絶魔。両手を固定されて、避ける事すら叶わなかった乙女。 月明かりの下、乾いた大地にその身を横たえたのだった。
●無垢なる手 「おかえりなさいー!」 「あっ。シェラフィちゃんだ〜♪」 「元気だった!?」 見慣れた少女をぎゅむっと抱きしめるルシエラとファンバス。 モンスターを手厚く埋葬した後、冒険者の酒場に戻ると、シェラフィが彼らを待っていた。 どうやら、ミュリンが気を利かせて呼んでくれたらしい。 ゴウランは痛む身体に鞭打って、少女の頭をそっと撫でる。 「パパやママを虐めた悪い奴はぶっ飛ばしてやったからね」 「……怖いヒトいなくなったの?」 「ええ。もう心配ないですよ」 微笑を浮かべたマイトに、彼女は嬉しそうに頬を染めて。 「じゃあ、パパとママ早く帰って来られるかな。でも、そのせいでお姉ちゃん達がお怪我しちゃったんだよね……」 ごめんね、と続けた少女に首を振ったアリアの視界が涙で滲む。 ……いつか帰ってくると信じている両親の死も、いつかは気づいてしまうだろう。 でも、もうこれで。彼女が復讐という炎に身を焼かれる事はない。 自分の髪を撫でる、穢れを知らない優しい手を……少女の未来を、守る事が出来たのだ。 「倒せて良かったですよね……」 彼女の想いを現すようなソルディンの呟き。 「よし。勝利を祝って酒だ、酒!」 「怪我人が何言ってんですかっ」 手当てを受けながらいつもの調子のレイドをショコラが小突いて。 それを微笑ましく見ていたローズマリーだったが……ミュリンに元気がないのに気が付いて。 「どうしたの?」 「……あの。覚えてるかな。アヤノちゃんのお兄さんを殺害した犯人」 目を伏せたミュリンを不審に思いながらも頷く彼女。 義姉妹とその家族を酷い目に遭わせたのだ。忘れるはずもない。 「あの人がね、脱獄して逃げたって、報せが入って……」 続いた言葉に表情がなくなる包帯姿のカズハ。そのまま、馴染みの霊査士を見て。 「……アヤノには?」 彼の問いに首を振ったミュリン。さすがに言えなかったのだろう。彼女は俯き、溜息をついて。 「何かね、嫌な予感がするの。すごく、嫌な感じ……」 「判ったわ。皆に伝えておく……何か判ったら、すぐに知らせてね」 ローズマリーに励ますように肩を抱かれ、ミュリンは頷いた。 こうして、孤独な少女に纏わる事件は終焉を迎えた。 しかし。運命は、冒険者達とアヤノをまた新たな渦へと巻き込もうとしていた。

|
|
参加者:10人
作成日:2006/04/13
得票数:冒険活劇12
戦闘4
|
冒険結果:成功!
重傷者:月夜に永遠誓いし剣士・カズハ(a00073)
三代目雲龍の刀匠・レイド(a00211)
緋炎鋼騎・ゴウラン(a05773)
死亡者:なし
|
|
あなたが購入した「2、3、4人ピンナップ」あるいは「2、3、4バトルピンナップ」を、このシナリオの挿絵にして貰うよう、担当マスターに申請できます。
マスターより許可を得たピンナップ作品は、このページのトップに展示されます。
|
|
|
シナリオの参加者は、掲載されている「自分の顔アイコン」を変更できます。
|
|
 |
|
|