<リプレイ>
暇な時というのは、どうしても辺りの光景に目が言ってしまうものだと思う。 ほぅ、と軽く息をついて、静かなる白壁・フィラン(a27391)はぼんやり、村の様子を見やっていた。 そう大きいとも活気があるとも言い切れないが、穏やかな雰囲気は心地よく、豊かではある。 もっとも、それはこの村で暮らす彼らの働きあってこそ。 日々あくせく働いている野鳥の中に、籠の中の飼い鳥が順応できたものだろうか。 「何にしても、良い答えが出ると良いのう」 妙に年寄りじみた口調で呟いて。ふと、自分と同じ場所で同じようにぼんやりとしているスマイリー・レン(a90276)を見やる。 「…レンは、何か言いたいことはないかの?」 「んー。別に。俺があえて言うこともないかなぁって」 あえて、ということは何か考えていたのだろう。 けれど、託すことにした。 口下手な自分が、あえて見守る立場に立ったのと同じように。 ぼんやりと空を見上げ、レン独り言のように呟く。 「恋って、何なんだろねぇ?」 「さぁのう……」 広い広い空を見ていると、判らなくてもいいような気がした。
一方、サツキと薄からぬ縁のある者らは、依頼主が語る『もしも』に複雑な思いを抱きながら、それでも、彼を信じる思いと共に行動を開始した。 とりあえず、サツキ個人と話すためには、傍にいるヨシノを遠ざける必要がある。 「ヨシノ。少し村を見て回りたいのだが…」 不自然でないタイミングを見計らい、白キ死剣皇・レイル(a00842)が彼に声をかけた。 勿論、村長であるヨシノは快い頷きを返してくれた。 しばらく頼みますと、サツキに言付けて。二人がのんびりとした村巡りへと向かった、少し後。 「ちょっといいかな。初めての土地でね。案内を頼みたいのだけれど…いいかな?」 得意の芝居能力を活用して、品のいい青年を演じている探風人・ルフト(a20027)が、サツキを訪ねる。 実はサツキを女性だと思っていたルフト。誘惑で真意を聞き出そうとしていたが、男性相手に上手くやれるだろうか。 (「何とかなるだろ。めんどくせぇけど、仕事仕事…」) 自分に言い聞かせ、サツキを連れたルフトもまた、ヨシノらとは違うルートで、村を回るのであった。 さて。上手くヨシノとサツキをバラけさせることに成功したレイルは、小さな花畑に赴いていた。 上品な紫が、風に揺れて仄かな音を立てる。美しい風景。 「一つ、お尋ねしてもよろしいですか?」 「……何だ」 「レイルさんは、恋とはどのようなものだと思いますか?」 脈絡のない問いかけ。けれど、ヨシノにとってはサツキとのことを思い起こす度に考えていた、素直な疑問。 自分よりもずっと広い見解を持っている冒険者に、聞いてみたいと思っていたのだ。 数歩離れたところで、足元の紫色の花を見つめながら。レイルは、まるで独り言のように、呟いた。 「恋とは、『特別な出逢い』、だと思う。相手の事が頭から離れず。ただ、理解しようと考える。そんなものだとな」 それは思考を支配する力。 解き明かすには、きっと膨大な時間が必要なのだろう。 「…私の場合は、答えが出る前に終わってしまったがな」 ぽつ。零れた一言は、きっと無意識の産物。 一瞬の沈黙。断ち切るように、横目で見つめていたヨシノもまた、ぽつ、と零した。 「答え、探しに行かないんですか?」 「…気が向いたら、だな」 それはきっと、ありえないことだと自嘲する言葉。 しん…。また、沈黙がよぎる。 けれど、それをかき消したのは二人ではなく。 澄んだ、歌声だった。 「これは……」 それは、恋の歌。 巡り逢う幸福、悲劇、絶望…伴う、渇望。 歌声が紡ぐのは、柔らかな問いかけ。 「あなたにとって彼は、どのような存在ですか?」 答えを待たず、歌声――想いの歌い手・ラジスラヴァ(a00451)は、ひらり、気まぐれな風のように立ち去るのであった。 旅の吟遊詩人として村を巡る彼女が向かったのは、恋の半身。サツキの元。 遠くから響き、何気ない素振りをしながらルフトとサツキの前に立ち止まったラジスラヴァは、同じ問いかけを、サツキにも贈る。 その後は、やはり同じように、答えを聞かずに去っていくだけだったけれど。 「聞くのは、私の役目ではありませんものね…」 呟き、歌いながら。ラジスラヴァはふと願う。 『好き』という気持ちを伝えようとしたり、それを欲しがったりすること。それが恋。 恋だけではきっと、二人で生きてはいけない。 だから、この細い細い絆を少しでも強くするため、巡る恋を超えてほしい、と……。 去っていく背を見つめ、サツキは黙ってしまった。 村のこと、美味しい食べ物のこと、サツキ自身のことも、少し。 色々と聞いて回ってそれなりの好感を得ていたはずのルフトは、けれどその瞬間に、これ以上の誘惑に無意味さを感じながら、静かな声で尋ねた。 「好きな人、いるの?」 歌声が遠ざかり、消えてから。サツキは言葉を零す。 「とても、大切な存在だ。だが、私は彼を幾度も傷つけた。好意に気づくこともできず、酷い言葉をぶつけた」 思い起こすほど、自分が情けなくなる。 けれど、彼はそんな自分を、救ってくれた。 「ヨシノは笑って言ったんだ。私を、好きなのだと。ずっと好きだったのだと」 そう言って、ルフトを振り返るサツキは、声とは裏腹に、とても清々しい顔を、していた。
のどかだ。とても。 うっかり眠ってしまいそうになりながら、森羅を翔ける緑光の翼・レイヴ(a45138)はちらり、二人の青年を見やった。 「オレ、サツキとヨシノのこと全然知らないけど祝ってもいいかなぁ?」 この依頼を受けたタイミングが悪かったような気がすると、苦笑しながらの言葉。 けれど、それに応える二人の青年は、笑顔だ。 「すごく歓迎」 「二人とも喜んでくれると思うな」 「それは、よかったなぁ。これでもオレは人の幸せそうな姿を見るのが好きなんだよねぇ」 くす。肩を竦めて微笑むレイヴに、つられたように笑みを返す青年ら。 と、丁度村をぐるりと回ってきたレイルとヨシノに会った。 「サツキもそろそろ帰って来るかねぇ」 「多分な」 「だったら、私たちも動こうか」 微笑を浮かべながら、銀淵月華・アルファード(a15632) は傍らに控えている蒼穹を舞う天使・ルシュエル(a05555)に声をかける。 彼が頷くのを確かめると、ほぼ同時に帰ってきたサツキに、歩み寄った。 「お久しぶりです。ヨシノさん、サツキさん。お元気そうでなによりです」 深く、一礼をして。ルシュエルは気取られぬよう、アルファードに目配せした。 そうして、自分は目の前に立つサツキの手を、そっと握り締め。 少し恥ずかしそうな、躊躇いを帯びた瞳で、サツキを真っ直ぐ見つめる。 「ルシュエル…?」 戸惑いながらも見つめ返してくるサツキの瞳は、どこか、寂しげだ。 彼はルシュエルが自身を、アルファードとの関係を蔑ろにしようとすると、こんな目をする。 他人事でしかないだろうに、自分のことのように、嘆こうとする。 「サツキさんは、優しい方ですね…」 本心でもあるが、軽い誘惑でもある言葉。 合わせるように、アルファードもヨシノの髪に触れ、艶めいた瞳で彼を見つめだした。 「少し二人で歩かない?」 「ご案内でしたら、喜んで」 あしらわれているような気がする。だが、それを見やるサツキの表情は、かすかに変化が伺えた。 もう一押ししてみようか。思案が、よぎる。 「あぁ…そうだね、ヨシノの部屋とか、少し興味があるかな」 きっとサツキなら暗に秘めていることが判るだろう。案の定、先ほどよりずっと、険しい表情を見せた。 そこにある思いが言葉になるまで、迫るのをやめようとは思っていないわけだが。 「ねぇサツキ、今ここで私がヨシノを欲しいって言ったらどうする?」 冗談めかしたような、けれどどことなく本気のような装いを持った瞳。 それに、サツキが返したのは激情だった。 言葉より先に伸びた手は、アルファードが帯びている剣を引き抜こうとして。 けれど、そっと添えられたヨシノの手が、それを制した。 「サツキさん」 諭すような声。冒険者であるアルファードよりもずっと早い反応は、恐らく彼が、サツキのことをよく知っているため。 柄を握ったまま、泣き出してしまいそうな顔をしていたサツキは、アルファードを見上げ、絞り出すような声で、言った。 「私から、ヨシノを奪わないでくれ…!」 暫しの沈黙。次いで、アルファードが返したのは、微笑だった。 「勿論だよ」 よかった。その言葉が聞けて。 安堵を示しながら、数歩、離れれば。ヨシノは逆にサツキを引き寄せて。 「私からサツキさんを奪うのも、やめてくださいね」 深い怒りを伴った瞳でルシュエルを一瞥したかと思うと、まるで見せ付けるかのように、サツキに、口付けた。 とっても偶然にその現場に居合わせてしまったピンクオヂノソ・ミニッツ(a42714)は、はっとして顔を真っ赤にする。 「オヂサンにはちょっと刺激的過ぎるなぁ〜ん」 見てないというように両目を覆い、おろおろしだすミニッツ。 見せ付けられた二人は、くすくすと微笑ましげに笑うのだが。 「仕方ないよ。恋って言うのは、一度掛かったらなかなか抜け出せなくなる甘い罠みたいな物…周りのことが見えにくくなってしまうものなんだよ」 自分が、そうであるように。 苦笑はすれど、そういう『溺れる』恋も悪くはないと思っている。 一方のミニッツは、恋というものを経験したことがないためか。きょとんとしている。 「恋…その言葉は少し恥ずかしくなるなぁ〜ん。なんだか甘酸っぱいものを感じるんだなぁ〜ん」 「あの…もしかして僕たちはお邪魔…ではないでしょうか……」 そういえばそんな気もする。 伺い見るのも憚られながら、彼らはそっと、場を離れて。 それから、少し落ち着く時間を待ってから、再び見えた。 「サツキ。ヨシノと一緒の生活はたのしいかなぁ〜ん?」 真剣だけれど、口調と笑顔はまったりで。 ミニッツはにこやかに、尋ねた。 「あぁ。とても、楽しい」 返されたのはとても簡潔な応え。だが、添えられた笑みが、深い心内を十分に語っている。 うんうんと嬉しそうに頷いて、ミニッツは祝いの言葉代わりにと、オカリナの演奏を贈った。 少し、調子っ外れな演奏を。 「ヘ、ヘタクソは禁句だなぁ〜ん」 オカリナを演奏するのが生まれて初めてだというのは、自分自身がよく判っていることなのだから。 それでも、せめてもの手向けに、と奏でられたメロディーは、穏やかで。 のどかな村の空気に、心地よく、染み渡っていった。
冒険者が各々にサツキに問い、または祝いを述べて。そんなやり取りを見守りながら機会を待っていた不夜王・フェイト(a33971)は、サツキが一人きりになったのを見計らって、声をかけた。 「久しぶりだな。俺のこと、覚えてるか?」 「フェイト…あぁ、覚えている。フェイトには、とても世話になった。礼を言っても足りないほどだ」 応えに、そうか、と淡白な返事を返し、さて、と一つ間を置いたフェイトは、不意に真剣な目をして、サツキを見つめた。 「今、幸せか?」 「あぁ」 「何で」 「ヨシノが、いてくれる。何も知らない私に色々と教えながら、一緒にいようと、言ってくれる」 それなりの時間を生きてきたが、これほどに満たされたことはないような気がする。 ゆっくりと語るのを頷きながら聞きとめ、フェイトは最後に、もう一つだけ、尋ねた。 「サツキ、お前はこれからどんな気持ちをもってここにいたい?」 深い色の瞳を見つめれば、サツキはただ、微笑だけを浮かべて。 「ヨシノを、幸せにしたい」 はっきりと、告げるのであった。 真剣だった空気が、ふっ、と、フェイトの笑みで和らげられた。 「ヨシノの前でも、そうやって笑ってやれよ」 絶対、喜ぶから。 付け加えれば、照れたように視線を逸らされた。初々しいものだ。 そのまま立ち去ろうとしたフェイトに、呼び止めるような、問いかけが投げられる。 「恋とは、何なのだろうな」 自問のようにも聞こえるそれを、聞きとめて。少しの間をおいてから、皮肉めいた微笑を浮かべて振り返る。 「恋はしたことがない。だからそれが何かなんて考えたことはないな」 肩を竦めて返せば、サツキは少しだけ寂しそうな顔をして、それから、微笑んだ。 「一度、本気になるといい。異性でも、同姓でもいい。恋を、してみろ」 懐かしむような目で。はっきりと紡がれた言葉。 「私の好きな言葉だ……他人の、受け売りだがな」 以前はきっと理解できなかったであろう言葉。今、本気になった彼はきっと、より深く身に刻んでいることだろう。 「…まぁ、考えとく」 ひらり、手のひらを振って。フェイトは今度こそ、立ち去るのであった。
時というのは瞬く間に過ぎて。サツキの意思を確かめることにも成功した冒険者らは、簡単な別れを済ませ、岐路についていた。 「ルシュエルさん、フェイトさん」 にこ。呼び止め、小首を傾げるようにして微笑んだヨシノは、二人の手に、そっと何かを握らせる。 「村に咲く花で作った香水です。せめてものお礼に、どうぞ」 見れば、小さな瓶に淡い色の液体が揺れていた。 礼を述べようと顔を上げた彼らに、ヨシノはそっと、今度は耳打ちをした。 「奥様に宜しくお伝えくださいね」 「ご存知…だったんですか…?」 「いえ。そんな気がしただけです」 「お前、勘よすぎだな…」 それは冒険者の態度がおかしかったから。 くすくすと笑いながら告げるヨシノに、苦笑しながら。ルシュエルは改めて、深く、頭を垂れると。 「お二人とはまた何時か、この様にお会い出来る事をお祈りしております。どうか、お幸せに」 ふわり、暖かく微笑んだ。 「全てに決着が付いたんだ、俺もようやく安心できそうだ」 にっ、と笑って見せ、フェイトも賛辞を贈る。 はい、と真っ直ぐに返したヨシノは、ふと、思案めいた表情を見せて、呟くように尋ねてきた。 「恋というのは、どのようなものだと思いますか?」 すでに答えを返しているフェイトは、「さぁ」というように肩を竦めるだけ。 対し、考えるような仕草を見せたルシュエルは、些かの間をおいて、応える。 「恋、ですか…。蕩ける様に甘くて、時々苦い…チョコレートの様な物でしょうか?」 とても真面目な瞳なのだが、ヨシノは、くす、と笑う。 そうして、きょとんとしているルシュエルを見つめながら、 「素敵ですね。とても、素敵だ…」 羨ましそうに、呟いた。 捉え方は人それぞれ。複雑なものだ。 それでも、思う。 「なんかいいよね。『恋』って」 暖かい気持ちに満たされながら。微笑ましげに呟くレンの言葉が、空に消えていくのであった……。

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参加者:9人
作成日:2006/04/14
得票数:恋愛2
ほのぼの18
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冒険結果:成功!
重傷者:なし
死亡者:なし
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