リザードマン前哨戦:酔闇 よいやみ



<オープニング>


●リザードマン前哨戦
『リザードマンの列強グリモアを目標とした電撃戦』
 円卓の間の会議で決した方針は、リザードマンとの争いを一気に終結させる可能性を持つ強行策であった。
 敵勢力の中枢部に多数の冒険者を送り込む乾坤一擲の作戦。
 しかし、この作戦を成功させる為には幾つか条件がある。
 その一つは、各地に散っているリザードマンの冒険者達を聖域に近づかせない事。
 特に、同盟領再侵攻の為にリザードマン領の東部に駐留している軍勢が、今回の作戦に気づき聖域守備の為に軍を返すような事になれば、作戦の成功の確率はほぼ無くなってしまうだろう。

 これを危惧した冒険者達により、前回行われた襲撃作戦を再度行う事が提案された。
 それが、リザードマン領内に対して扇動や襲撃を行い、再侵攻の為のリザードマン側の準備を遅滞させるという作戦である。
 この作戦を行う事で、前線のリザードマン達に『同盟の戦術は防衛戦であり、その為の時間稼ぎを行っている』と思わせる事ができるというのだ。

 勿論、前回の教訓により、リザードマン側でも警備体制などを強化している可能性が高く、前回以上に作戦の成功は難しくなるだろう。
 作戦の成功が難しいと判断された場合は、敵に疑われないように心がけながら撤退・離脱を行って欲しい。
 作戦から帰還した冒険者には、そのまま電撃戦本隊への参加が期待されているので、命を失ったり重傷を負う事は、同盟側の決戦戦力の低下を意味するのだから。

 今回の作戦の目的は下記の通りである。
=======================
・東征を企てるリザードマン軍の作戦準備の妨害
・私腹を肥やし暴利をむさぼる大商人から食料・物資の強奪
=======================
 気をつけるべきは、これらの作戦が『真の作戦から目を逸らさせる為の情報戦』であるという事だ。
 目先の成功を望んで、大局を見失う事が無いように、心がけて欲しい。

 この一連の作戦の決行は『1月21日』からと定められた。
 この作戦に参加した者の帰還は、電撃作戦の開始直前となるだろう。
 ……同盟諸国の行く末を決める大作戦が、今、動き出したのだ。

●酔闇の宴
「依頼がある」
 青銀髪の霊査士は、何時もの様に冒険者達に話を切り出す。
「今。リザードマンに対する作戦が電撃作戦と決まり、其の作戦が始まった訳だ」
 そう、数ヶ月に渡る戦いに蹴りを付ける為の電撃作戦。今は作戦を確実とする為の、準備の時。
「場所は同盟諸国とリザードマン領が接する、ぎりぎりの端。其処を少し奥に行った所に小規模だが砦がある。今回は其処の襲撃だ」
 襲撃。其の言葉の重みを考え、無意識に押し黙る冒険者達。
 霊査士の言葉は続く。
「数は二十。予定通りの時間ならば、丁度宴も闌の頃合いだ」
 えん……?
 一瞬の違和感が。だが続く言の葉で其れは増大する。
「連中の大半は酔っ払っている。其の砦の備蓄も半分が酒で――」
 雲行きが怪しく成って来た。慌てて一人が待ったをかける。
「ん? 砦と言っても端過ぎてそうそうは戦場に成らん所、寧ろ保養地に近い。砦自体も平屋の周りに木の柵がある程度だ」
 説明を聞くにつれて、何の意味が……、と言う言葉が、口を突く。
「ただの嫌がらせだ」
 青銀髪の霊査士はきっぱりと言い切った。
「其れが不服ならば……敵の士気を挫き、戦闘意識を阻害、敵対行動の遅延化を狙うと言うのはどうだ? まぁ何にせよ、本筋の作戦を悟られない様にする為の依頼だ。幾ら酒が回っている相手と言えども冒険者だからな、甘く見過ぎていると痛い目を見るかも知れんぞ」
 淡々と続いていた言の葉が切れる。どうやら説明は以上の様だ。

「では。行って来い」
 淡々と、彼女は冒険者を見送った。

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参加者
剣風の・ウォレス(a01767)
ストライダーの牙狩人・ジースリー(a03415)
冷淡なる監視者・グレイシャル(a04193)
祝福と毒と下心・セイ(a04257)
百合の導き手・シンシア(a04647)
猫又・リョウアン(a04794)
黒劒・リエル(a05292)
銀鷹の重騎士・イプシロン(a05674)


<リプレイ>

「ふわわ……暇臭ェ……、まぁきっとこんなこったろうって事ぐらい解ってたけどよぉ……」
「ぼやくなパパーク。俺達は下っ端なんだから仕方ないだろうが。もう少しはシャキッとしろ」
 柵には門すら設けられていない砦の入り口に、見張りが二人。一人は疲れた様にしゃがみ込んでいた。
「こちとら仰々しく甲冑なんざ着てるから重てぇんだ。どーせ、ンな辺鄙な所何にも出やしねぇよ。野犬一匹出るかすら怪しいっての」
「だが其のやる気の無さは。見つかったらどやされるだろ」
「ダレがどやしてくんだよ、上は皆酔っ払ってグダグダ、其れに気持ち良く飲んでんだからわざわざ自分から気ィ悪くする様な事しねぇだろ」
そう言って、柵に寄り掛かり身体を伸ばす。大きな欠伸が再び漏れた。
「そう渋い顔しなさんな。ったくサーザウさんは神経質でいけねぇ。今頃裏っかわのアイゴート達も同じだろうさ」
「こんな所を襲われたら其れこそ一溜りもな――、え?」
「んぁっ?」
 唐突に。其れは酷く唐突に。

 しゃがんでいたパパークの肩に、漆黒に揺らめく矢が生えていた。

「ほーんと、砦っぽく無いわねぇ? まぁ、適度に木が生えてるおかげで隠れて近付けるわぁ」
 遠めに砦を眺め、百合の導き手・シンシア(a04647)が感想を漏らす。
「さっさと終らせて、帰ったら酒盛り……は私が無理ね。皆で食事でもしましょっかッ」
 琥珀瞳の獣・リエル(a05292)が皆に明るく提案する。其の口振りには微塵も不安が感じられなかった。
「あぁ。先ずは俺達の出番だ、任せておけ。蜥蜴の連中に目にもの見せてやる」
 冷淡なる監視者・グレイシャル(a04193)は頷くと気配を消し、ストライダーの牙狩人・ジースリー(a03415)と共に匍匐前進で忍び寄った。

「……はっ、見張りの連中随分気が緩んでる様だな。好都合だ」
「……」
 小声の会話。コクリ、とジースリーが頷く。
「俺が立っている方を殺るから、しゃがんでる方を頼む」
「…………」
 再びコクリとジースリーは頷くが、其の視線は見張りへと注がれている。
「………………」
 じっと。
「……………………」
 ずっと。
「…………………………」
「んん……まぁ、始めるか」
 何か疲れた様なグレイシャルの言葉に応じて、ジースリーが弓を引く。
 其処には、闇色に輝く漆黒の矢が番えられていた。

「んぁっ? ……あ、ぁアアあッ!?」
「おいッ!? 之は……ッ!! てッ、敵しゅ――グゥッ!?」
 矢筒から矢を引き出しながらのサーザウの叫びは、針よりも細い矢に音も無く切り裂かれた。一撃。
「てめッ!? 偉そうな事言っといてイッパツでオネンネたァ情け無ェぞッ!! チィィ……ッ!!」
 崩れ落ちる牙狩人に悪態をつくも、其の身には次々と矢が突き刺さる。
 母屋に目を走らせるが、宴会の喚声は今も続き、気付く様子は之っぽっちも無い。
 脚を射抜かれ、倒れるのを自覚しながら、憎々しげに彼は呻く。
「クソッたれ……ッ!!」

「……よし。気の抜けた見張りは、やはり大した事無いな」
 グレイシャルが後ろに合図を送り、皆が素早く母屋へと接近する。
「……たく、無粋だが仕方ねぇか」
 ぼやきつつ剣風の・ウォレス(a01767)と、シンシアが扉の両側に張り付き、ジースリーへと視線で合図を。
「んじゃ……いっちょ始めっとすっか」
 頷き、シンシアが扉に手を掛けると。勢い良く開け放った。

「悪いけど。死んでくれる?」

 突然扉が開け放たれると、其処には見知らぬ女が立っていた。かなりの勢いで開けられたらしく大きな音を立て、皆の目を引く。酔った頭でも直ぐに解った。女は、リザードマン、ではない。
「てめェ、なにも――」
 誰何の言すら皆まで聞かず、何か朗々と言い放つと、其の女は一旦脇へ退ける。
 そして彼等の目に飛び込んで来たのは、闇を裂き飛ぶ、燃えゆる紅き炎の矢。

 炸裂。
 炎は弾け、窓を破り戸から溢れ、空気を揺らす。
「行くゼッ!」
 ウォレスが叫び、熱された空気が冷め切らぬ内に突入する。シンシアが続き、皆が。殿はジースリーとヒトの重騎士・イプシロン(a05674)が務めた。
 ジースリーの放ったナパームアローにより、入り口から前半分は掻き乱されていた。この砦の殆どを占める部屋だけあり、爆風は全てを舐める事敵わなかった様だ。椅子は転がり、机は倒れ。食器類は粉々になり散らばっている。蜥蜴共も幾らかは転がってはいるが、腐っても冒険者、其れだけで戦闘不能と成ったものは居ない。
「泥酔だろうと上官は上官、先に無力化するのが上策。覚悟しなッ!」
 奥に居る泥酔者を上官と推測し、ウォレスがフレイルを振り回し飛び掛る……が、如何せん距離がある。ブォンと空気を震わせ襲い来る碧の物体に阻まれた。仕方なく、飛び退り難を避ける。
「ぅひっく……よえぶぁようだけつよくなる……かかってこひっ!」
 どうやら今のは尻尾で、こいつは武道家らしい。酔拳と主張したいらしく、かなり千鳥足だが、確かな敵意を向けてくる。
「面倒な野郎が残ったもんだぜ……」
 シンシアが突入した直後に歌った眠りの歌で、転がっていた奴の大半はネンネと相成ったが、変にテンションの高い連中には効かなかった様だ。
「酒臭い……腹ごしらえの量を制限して来て正解ですね」
 山猫・リョウアン(a04794)が顔を顰めながらも拳を構えた。
「ちいっ、ぶすいなれんつうだっ! やってしまへっ!!」
 隊長の呂律の回らぬ号令で、我先にと襲い掛かってくる。
「ほぁちゅあぁっ! ……ぁっ? みぎゃーッ!?」
 件の酔拳リザードマンが、怪鳥音を響かせ飛び掛ってきたかと思うと、転がっていた酒瓶でスッ転んだ。そして後続に無残にも踏み拉かれる。しかも誰一人気付かない。流石は酔っ払い共。
「あれ……。もしかして、私のアビスフィールドが効いちゃったのかな?」
 針の雨を降らせていた陰と陽を統べる者・セイ(a04257)が、おやまぁと言う顔で呟いた。何にせよ敵が減ったのだから問題は無い。

「何だ何だッ!?」
 戸口に二人のリザードマンが現れた。実はこの砦、良く見ると母屋に勝手口が無い。出入りは正面の扉しか出来なく、やっと裏から見張りが回ってきた様だ。
「戸口に立たれる訳には参りませんッ!」
 振り向き様にイプシロンが砂礫陣を御見舞いする。一つしかない出入り口を塞がれては退路を失ってしまう。
「おっと、あっちの見張りも来やがったな」
 砂礫を浴び、怯む見張りにグレイシャルは悠々と矢を射放った。

 戦いは否応にも乱戦だった。
「本当に……酔っ払いはタチが悪い、ですねッ!」
 其の紅きに輝く刃で振り回されるランスを受け流しつつ、イプシロンが吐き捨てる。酔っ払い共の攻撃は皆が皆大振りなのだが、こういう時に限って得物が大槍だの、鎖鉄球だの、ハルバードだのと、無闇にぶん回されては困る物ばかり。しかも酔っ払い、遠慮が無い。机を粉砕し、床を抉り、天井を裂く。味方に当たる事を全く考慮しない戦い振り。既に幾人も味方の得物で沈んでいる。酒で気が大きくなっている連中には怖い物は無いらしい、巻き込む事に構わずナパームアローが打ち込まれ、砂礫陣が吹き荒れる。互いに消耗は激しかった。
 そんな中、リョウアンの判断は正しかった様だ。機動力に重きを置いて行動し、酔っ払いは避けるか盾で往なし、頭や臓物を破鎧掌で揺らしてやる。自分の被害は最小に押さえ、確実に相手の動きは鈍っていった。

「やっと減ってきたわねぇ〜」
 無数の連撃を浴びせ、鎖鉄球のリザードマンを斬り倒したシンシアが声を上げる。
「酔っ払い共めッ! 梃子摺らせやがってッ!!」
 怒気と共に放たれたウォレスの居合いが、隊長の胸を捕らえ打ち倒した。
「よっしゃッ、之で粗方ださっさと撤収するぞ!」
「じゃぁよぉ〜く燃やしておかないとぉ♪」
 シンシアが嬉々として母屋を燃やす準備を始める。
「私は備蓄庫を燃やしてくるわ♪」
 いそいそと火口箱と襤褸切れを取り出してリエルが出て行く。

「……あんた達、何をしてるの?」
「えっ? 嫌だなぁ、私は別にサボってリザードマンの酒を物色して何ていませんよ? ホントに」
「……私も」
 言いながらセイはさり気に背中へ瓶を隠す。リョウアンは何故かせっせとリザードマンの尻尾を酒瓶に詰めていた。何時の間にやら抜けて来たらしい。
「まぁいいけど。ほら、さっさと燃やして帰るわよー」
「あぁッ!? そっちはまだ見ていないのに……」
 セイの悲痛の言葉は綺麗さっぱり無視され、瓶を割り樽を倒すと火を点けられた。

「おお、砦が燃えている……」
「可っ哀想な蜥蜴さん、めらめら燃える赤い火にっ、巻かれてっ、焼かれてっ、食べられてっ♪ っと」
「何だい其の……歌?」
「料理人の残酷童話よッ♪ 文句ある?」
「いや、別に……」

 砦は煌々と、闇夜の空に華やかに映えた。

「女給さ〜ん。どんどん持ってきて〜」
「全員無事でよかったわね♪ ちょっと、私は御酒飲めないんだからあまり頼まないでよ?」
 へらへらと注文するセイにリエルが難色を示す。
「あ〜シンシア御腹空いちゃったわぁ、酔っ払いの相手疲れるんだもぉん」
「私も、御腹が空いてしまいました」
 シンシアの言葉にイプシロンが頷いた。
「……」
「……本当、あんた喋らない人だな」
 全く表情の変わらぬジースリーの様子に、グレイシャルが呆れる。
「うむ。皆御苦労だった」
 何時もの酒場。ポメグラネイトが料理を持って来てはドカドカとテーブルに置いて行く。
「酒飲みの邪魔したってェのに其の俺達ぁ今度は自分等が酒飲んでるのか、何とも言えねぇな……だが、之からが本番だ」
「おっとぉ? なぁに纏めっぽい事を言ってるのさぁ」
 ウォレスの言葉にセイが茶々を入れる。
「えぇい、茶化すんじゃねぇ。実際之からが本番だろうがッ」
「そんな堅い事言わないでさ、先ずは目の前の成功を祝えば良いんだよ。おー、女給さん良い御尻してるね」
「ひゃッ!?」
 再び料理を置いて戻る所を不意に尻を撫でられ、ポメグラネイトが銀盆を胸にあられもない声を上げ飛び上がった。
『あーッ!!』
 女性陣の声が唱和する。ポメグラネイトは顔を真っ赤にしてフルフルと銀盆を振りかぶっている。
「ゑッ? いや、之は……ほら、紳士の嗜みとして……駄目? ゴメンナサイゴメンナサイ、縛らないで……駄目だって……!」
 第一回。セイ吊るし上げ大会開始。

 其の傍らでは。
「酒にリザートマンの尻尾を漬け込んだトカゲ酒って売れますかね? えっ、駄目? そうですか……」
 リョウアンが砦で自作した酒をマスターに渋い顔で断られていた。


マスター:新井木絵流乃 紹介ページ
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