<リプレイ>
「かつては志を持ち、その道を歩いていたモノ……そう、私たちの様に。今は相容れぬ魔物となって思うは、いったい何なのかしらね……」 せせらぎからの震え、吹き抜ける風の悪戯が、緑の木々を揺らし、蒼竜の賢姫・エリシャ(a16809)の青みがかった灰の髪をも、渦巻く水ような曲線で宙に漂わせる。 金の豪奢な装飾が施された、漆黒の甲冑をまとう偉丈夫――鈍牛・タナトス(a33160)は鉄仮面の奥から、年嵩の割には重苦しい物言いで自らの想いを口にした。 「モンスターといえども殺生は好まぬのですが、殺生の報い、その罪、未来を生きる生者のため、命をもって贖っていただかねば」 死した石工たちは、亡骸となってすら帰還できていない――暁の幻影・ネフェル(a09342)は視線を頭上で囁く木の葉たちに移した。魔物が身を潜めるための影は無数にあった。相手が豹のようになめらかに動くとなれば、なおさらである。 隆起する根によってめくれあがった土、特に湿り気を帯びてぬかるんだ部分には、先に森へと入り、ついぞ返らなかった人々の痕跡が、かすかにではあるが残されていた。 半白の金をした髪をうなじのあたりで無造作にまとめ、腰の裏側には丸みを帯びた曲線を示す狐の尾を揺らめかせる少年が、木のうろをのぞきこむようにして、何か歌を口ずさんでいる。甲帝・マージュ(a04820)の行った、歌による問いかけに答えてくれたのは、頬を木の実ではちきれんばかりにした、齧歯類の淑女だった。 やがて、冒険者たちは森の内奥へと辿り着いた。 そこに、木肌が掻きむしられ、白い内部が晒された樹木があった。頭上からの襲撃は怠らぬようにしながら、膨れあがった根へと飛び移り、幹に残された線条の跡に指先で触れてみる。傷跡は思ったよりも深く、また鋭利だった。正紺色の瞳を細め、天藍顔色閃耀・リオネル(a12301)は、こう皆に告げた。 「これが……魔物の爪痕なのかな……だとしたら……」 傷が残された樹木は、リオネルの指先が触れたものだけではなかった。真新しく、禍々しい傷口を求めて、マージュとネフェルが常緑の大樹へと歩んでゆく。 (「……なにかあった時はストライダーらしさ、活かせるかな――」) 二本の白い亀裂を確かめながら、マージュは樹木の幹に沿うようにして空を仰ぎ、疎らな木漏れ日が瞬いていることに気づいた。 そして、揺れる木の葉の合間に、紅玉のごとき赤い光が過ぎったことも――。 蒼天の名を持つ甲冑に、マージュが鎧聖の力を注ぎ終えた、その直後だった。大樹の幹を、まるで地へと落下するかのような速度で駆けおりた魔物たちが、ネフェルとマージュに襲いかかった。 その姿は、奇妙な果実と呼ぶに相応しいものだった。四肢に生えた鋭い爪によって、啄木鳥のように幹を打ち、黒光り背中には、六もの赤い瞳が瞬いている。そして、その姿は一体からなるものではなかった。三体が絡み合うようにして、奇妙な果実としての有様を呈しているのである。 弧状の刃が視界を飛び交った。ネフェルは、自らの肩や胸部に生じた深い亀裂が、目前にそびえる樹木に穿たれたものと同じと気づいた。指先に気によって練り上げられた複数の刃を含んだまま、彼は後方へと跳躍し、爪先が土の感触を覚えるより早く、飛燕を魔物の背へと撃ちこんだ。 「ふたりともいけるな?」 人生薔薇色・アルト(a22939)の問いかけに対し、マージュは親指を立ててみせ、ネフェルは静かに肯いた。ともに浅からぬ傷を開かれてはいるが、戦闘からの脱落を強いられるほどのものではない。死喰剣の黒光りする刀身に、灰の髪をなびかせて走る自らの横顔を宿し、アルトは体内を駆けめぐる気の力を切っ先へと駆けあがらせた。地表にのぞいた根の弧を踏み台に、長大な刃を振りあげ、凝縮された闘気をまとう斬撃を、絡み合う魔物に叩きこむ。 「回復するのですよ〜」 たゆたうような響きを語尾に、仲間たちに告げたのは闇を照らす希望の光・ミュヘン(a19495)だった。天藍色の美しい瞳を見開き、口元から短い吐息を漏らすと、少年は胸一杯に森の空気を吸いこんだ、澄んだ響きのある声で凱歌を唄った。愛らしくも勇ましい歌声が、緑のさなかを響き渡り、マージュとネフェルの身体に残された深い傷を塞いでゆく。 魔物の到来を受け、キシュディム護衛士たちは即座の展開を見せていた。三方へと散開していたのである。マージュたちが魔物の正面からあたり、他の二班は左右から敵を囲い込むような形に位置する。 「森で豹か……やれやれとんでもない相手だな」 杞憂を言葉にしながらも、呟いた彼のリザードマンらしく長い口元には、かすかな笑みの曲線が含まれていた。凱羅の名を持つ胴着を身につけ、赤い果実が吊り下がる幹を目指し、疾風のごとく馳せたのは、暗き業宿りし者・キオウ(a25378)であった。鍛え抜かれ、鱗の厚くなった掌を、彼は魔物の背へと押しあてた。気の衝撃が体内を巡ったのだろう、赤い瞳の魔物から、獣じみた呻きが漏れる。 「そうですね、これからのこともありますし早めに解決しないと」 榛色の瞳に真摯な光を浮かべ、キオウの広い背へと指先を這わせるようにすると、桃風・ミヤクサ(a33619)は凱羅へと鎧聖の力を供与した。少し下がった目尻が、さらに柔らかな線を含む。手の甲に、淡い桃色の輝石が縫い止められた手套――桃花咲散――が指先にははめられていた。 班の後方に位置していたタナトスが、重厚な足音をたてながら駆け、キオウの傍らへと身を躍らせる。金の細工に縁取られた盾を高々と掲げ、彼もまた鎧聖の力を仲間へと分け与えることに傾注した。 「タナトスさん、ありがとうなぁ〜ん」 自らのまとう聖衣が、光の泡沫に包まれて、流れる水を思わせる優美な裾をはためかせる姿となるや、世界を駆巡る暴風・ノーラ(a40336)は重騎士に礼を伝えた。口元を薄く結び、闇色の杖で空を払い、少年は中空に滴り落ちるかのような輝きによって構成された、ひとつの紋章を浮かびあげた。 緩やかな弧を描く輝きが、黄金の驟雨となって、大樹の幹に四肢の爪を撃ちこんでへばりつく魔物どもに、次々と吹き込んでいった。 奇襲攻撃を繰りだした後、なすがままに攻撃を浴び続け、沈黙を続けていたかのように思われた魔物たちだったが、絡み合う三体が、弾け飛ぶようにして宙へと舞い、赤い六の瞳を瞬かせたかと思うと、鈍色の爪による斬撃を冒険者たちに浴びせかけてきた。 キシュディム護衛士正装をまとうリザードマンの狂戦士は、地龍骸の名を持つ防具を、さながら竜の背骨を思わせる容貌へと変え、守りの力を高めていた。魔物が四肢から繰りだした連続する斬撃にも、棘石竜子・ガラッド(a21891)の厚い胸板は屈することなく、後衛の術士たちを守り通した。 (「村人、護衛士……これ以上の犠牲は、絶対に出したくない。でも彼らの遺体はいったい……?」) 失われた姿を求めるのは、再び幹へと飛びついた魔物たちを倒してから――リオネルは無銘雪月華を両手に従え、月影を浴びて輝く雪を思わせる刀身をしたその苦無に、光すらも閉ざすかのような闇色の闘気をまとわせた。その瞬秒の後、無音の斬撃が、六の瞳が瞬く魔物の背を刻んでいた。 風になびく髪先にまで、瑠璃色をした魔炎の舌先を蔓延らせる姿で、エリシャは蒼麗華――七色の光彩を含む虹色霊布――をたなびかせている。その先端がゆらりゆらりと波打つに合わせて、少女の心の内奥から湧きあがった邪竜の力が、不可思議な色で燃え盛る魔炎となって顕在化する。異形の顔を生やすに到った時点で、炎の塊は宙を飛び交い、奇妙な果実を生やした樹木へと吹き込んだ。 緑に包まれた風景には慣れていた。忘らるる都――大きなうろを持つ骨貝の杖を手に、幾星霜の希望・ティーダ(a21932)はその漆黒の瞳を、けっして見慣れぬ奇妙な果実へと傾けながら、彼らのことを想っていた。 (「魔物討伐も街道整備も大事だけど、本当は、対ミュントス特務部隊のあの人たちと、せめて、心を一緒にしたい……。レルヴァ大遠征で、ずっと後ろで見守るだけが医術士の仕事じゃないって判ったの。戦うんだ。わたしも」) 杖を握りしめる、青いキシュディムの指輪がはめられた指先へ、もう一方の掌を這わせると、ティーダは瞳を閉じ、穏やかに春風が舞うかのような心から、優しい癒しの波をあたりに漂わせた。 三方から囲まれた魔物たちに、逃げ場は残されていなかった。そう、樹木の幹を駆けあがり、上方へと駆け去る以外には――。 だが、鍛え抜かれ、研ぎ澄まされたバトルアックスを手にするマージュが、魔物が見せるであろう動きの先を読んでいた。 「大地斬で切り倒すから」 少年は数度の甲高い音を幹から響かせると、ゆらゆらと揺れはじめた幹の根本から飛びすさり、時の流れた遅々とでもしたかのように倒れる樹木の行く末を見守った。 轟音が轟いて、ようやくと緑に息をひそめていたであろう鳥たちが、森のそこかしこから飛びたつ声が聞こえてきた。そして、木の葉と噴煙が噴きあがるさなかに、炎でいぶされえた虫のさながらに、六の目を持つ三体の魔物が、緑の隠れ家から飛びだすのも――。 「いました!」 忘らるる都で空を撫で、黄金の円を描きだしたティーダは、緑がかった金から淡い桃色へ、そして、鮮やかな瑠璃色へと移ろう光の弧を拡散させ、美しく耀うの槍は、次々と魔物たちの身体を貫いた。 幹にあった際には絡みついていた三体が、拠り所を失って分散している。刃の爪先は、樹上にあってこそ活きるもの……固い土に立つ姿は滑稽ですらあった。竜の牙を想起させる刀剣『大顎門』を構え、ガラッドは敵に詰め寄りながら声を張る。 「今だ! 攻撃を集中しろ!」 三方に散った仲間たちも、即座に動きだしている。その素早さに心強さを覚えながら、リオネルは一体の標的を正紺色の瞳に宿していた。気を巡らせた指先で天を仰ぎ、清冽な銀の輝きを吹くんだ糸を放射させ、六の赤い瞳を怪しく輝かせる魔物の体躯を、倒れた幹に縫い止める。 足元から立ちあがった瑠璃色をした柱状の魔炎に、エリシャは静かに肯きかけた。魔炎の舌先をはためかせながら、異形の焔は空を渡り、糸によって絡めとられた魔物へと襲いかかる。 目前に散った魔炎が消え失せるなり、ガラッドは地と水平に構えたまま、全身に漲るありったけの闘気を封じた大顎門の刀身を、凄まじい勢いで突きだした。 背を貫かれ、爆発的な気の力によって体内から破壊された魔物は、爛熟した果実のような有様となって、樹皮にこびりついた。 爪先に冷たい輝きを漂わせて、キオウが宙を滑るように跳躍している。狙いは、倒木の上に立ち、飛び跳ねる機会をうかがう魔物である。鈍色の弧が描かれ、まったく同形の傷口が魔物の背に開かれた。 桃花咲散で空を優しく撫で、淡い光のなかから美しい乙女の姿を描きあげると、ミヤクサは癒しの力の結実たる姿を、前方で戦う仲間の元へと届けた。刃の四肢によって穿たれていたキオウの背から、赤い刻印のごとき四点の傷口が姿を消す。 「逃亡はノーラが許さないなぁん!」 闇色の杖を虚空へと彷徨わせ、声を発した少年は無数の木の葉を噴出させた。それらは、中空に緑の螺旋を描いて魔物へと迫り、その周囲に渦巻いて、清冽な色彩からなる監獄を形成した。 その門番にして、断頭台の処刑人となったのは、黒剣『我が牙は汝が矛』を振りあげるタナトスだった。もっとも、魔物の体躯にはもとより頭部がなく、彼の放った苛烈な斬撃によって断たれたのは、胴体そのものであった。 死喰剣の柄が震えている。アルトが渦巻くような闘気を、その刀身に封じたからだった。天下第一の撃砕を見せてやる――心の裡で呟くなり、彼はネクロフィリアの刀身を翻し、宙に巨大な半円状の軌跡を描いた。身を立たれると同時に、気の爆ぜる衝撃を浴びた魔物は、地へと転げて、狂ったような痙攣をみせる。 片方の指先で手首を掴み取った右腕を、ネフェルは空へと突きたてて、練り上げられた気の力を、扇状にたなびく糸の束へと変えて、魔物の体躯から自由を奪い去った。 「街道建設は急がなきゃいけませんからね……工事をこれ以上遅らせないためにも……」 ネフェルの言葉に応じた少年は、彼の傍らを駆け抜けた。 「サクッと退治して、街道整備を進めますか。フェルビリアの方は、ほぼ済んでいるらしいしね」 頭上に浮かべた羽の塊ごと魔物へと迫り、マージュは言葉が終わるやいなやバトルアックスによる重厚な斬撃を、魔物の背に叩きこんだ。 口元を固く結び、ミュヘンは背伸びをするように、左右の指先を空へと近づけている。黒勁と白勁――彼の指先を守る術手套――が触れなんばかりのところには、濡れたように輝く黄金の光球が静止していた。 「これ以上好きにはさせませんよ。犠牲になった人たちやこれからのためにも!」 戦いが終えられ、護衛士たちが誰から告げられるまでもなく行ったのは、不明者たちの捜索だった。 マージュが獣たちへと歌で問いかける傍らで、アルトはある異変に気づいた。戦いのさなか仲間の手で切り倒された樹木の、頂点にあたる部分から、腐臭が漂っていることに……。 「ちゃんと埋葬してあげたいし、ノスに利用されでもしたら大変なぁん」 そう言ったノーラに肯く、タナトスは数体の亡骸を担ぎ上げた。 「こちらが、リザードマン護衛士の方みたいですね……」 全身を無惨にも切り裂かれた姿に瞳を細めながらも、ネフェルは死した男に対し敬意を感じていた。グリモアガード本部へ送り届けてやらねばならない。 森の魔物が退治され、不明者たちも帰還を遂げた。 「連れ帰った」 街道敷設のために設けられた天幕本部では、ガラッドからの知らせを受け取るなり黙祷が捧げられた。 そして、その後、漲る活気が高らかな掛け声となって響き渡った。死した彼らのためにも、フェルビリアへの街道を作り上げようというのである。 「倒すですよ〜」 工兵たちにそう告げるなり、ミュヘンは紋章の結実たる黄金の球体に樹木を薙ぎ倒させた。その威力に大人たちは目を白黒させているが、少年はけろっとしたものだ。 エリシャは戦いために入った森の状況を、工事を仕切る工兵に伝えている。リオネルとノーラは、工兵たちの護衛を兼ねながらも、一緒になって汗を流すことを選んだ。 ほっそりとした腕を袖口から露わとしつつ、ティーダも気炎をあげている。 「力仕事は苦手だけど、倒れるの上等です! はりきってがんばりましょうー!!」 様々な想いを乗せて西方へと伸びる道が、再び歩みをはじめた。

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参加者:12人
作成日:2006/04/11
得票数:冒険活劇5
戦闘28
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冒険結果:成功!
重傷者:なし
死亡者:なし
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