<リプレイ>
●村の反逆児 周囲を山に囲まれた小さな村。それがその少年が15年間生活をしてきた村であった。とりたてて特産物があるわけでもなく、肥沃な土地であるわけでもない。けれど、母子2人でも朝から晩まで畑仕事をすればなんとか生きていける……そういった土地柄であった。
「そんなに手を掛けなくても、育たないってわけではないのですわね。生意気ですこと」 少年の母親としばらく話をした後、ぶらぶらと村のはずれを歩きながらエンジェルの紋章術士・シャーリー(a19235)はつぶやいた。乾いた土にささやかな葉もの野菜が生えている。少年の母親が出してくれた白湯だけでシャーリーの胃袋が満たされるわけはない。ほとんど衝動的に手が作物に伸びてていた。
村からほんの少し離れた川っぷちに痩せた少年がいた。体つきはまだ子供っぽいが、表情は暗く目つきも悪い。 「キミ……そこの村の人……だよね?」 砕ケ散ッタ羅針盤・ジャック(a24002)は少年に警戒心を起こさせないよう、ゆっくりと近づき穏やかに声を掛けた。少年は顔を上げてジャックと、そしてその横にいる国産白毛和牛・ユザール(a42212)を見たがすぐに視線を降ろす。 「……俺に村なんかねぇよ」 少年は自分を無頼者の様に言う。格好つけたい年頃なのだろう。誰かの受け売りかもしれない。 「わしにも『なんかもやもやする』って気持ちはわかるのじゃが、度を超した悪さは仕置きされねばならなくなる。わかるなぁ?」 ゆるく腕を組みユザールは古風な口調で言った。そっぽを向いた少年はユザールの言葉を聞いているのかどうかわからないが、その場を立ち去ろうともせずじっとしている。 「僕たちが言っている事がなんなのか……その意味は判るよね。今ならまだ引き返せるんだよ」 一瞬の間。けれど、少年は立ち上り背を向けた。 「あんな村……どうにでもなっちまえばいいだぁ!」 叫ぶなりダッと走り出した。
「やっぱり引っ込みがつかなくなっている様ですね」 立木の影からひょっこりと月下樹影・ダイアナ(a45372)が顔を出す。長い髪が揺れる。 「若いときは上手く世間と折り合いを付けられないってこともあるからねぇ〜自分でもそれが判っていても……どうにも出来ないもどかしさってあるんですよぉ」 己の追憶に浸っているのか、リザードマンの吟遊詩人・アカネ(a43373)は虚空に視線をさまよわせる。アカネ自身も順風満帆な人生を歩んできたわけではないから、ちょっと遡れば苦い思い出などいくつも思い当たる。その1つ1つが今のアカネを作っているともいえるのだが、そういう風に達観するにはやはり時間が必要なのかもしれない。 「しょうがねぇですよ。若ェ時っつうのは誰でも道に迷うモンでしょうよから……」 ヒトの武人・ロイド(a46424)は渋い苦笑を浮かべてみせた。道に迷った時にどうするのかで性根が試されるのかもしれないが、どうやら少年は逃げているだけのようだ。 「しばらく泳がせてみるか。様子がわからないんじゃ打つ手も決まらないからな」 流浪の日和見風見鶏・デラガ(a39324)は身を潜ませていた木陰から出ると、走っていく少年の後を追って走り始めた。ジャックやユザール、ダイアナやアカネもデラガと一緒に走り出す。 「で、どうするんでぇ? あの子供……ジルカの後を追いなさる気はないですかい?」 ロイドは終始無言であった言いくるめのペ天使・ヨウリ(a45541)に声を掛けた。皆は少年が盗賊と接触するかどうか見極めたい様で、ヨウリとは行動方針が異なっている。 「……どうやら……わしの出番はまだ先の様じゃのう」 ヨウリはロイドに顔を向けて笑った。その笑顔は単純そうではなかったが、焦りの色はなかった。
●はぐれ者の人脈 やはり村から少しだけ離れた丘の上。ジルカ少年の隣には同じ年頃のエンジェルがいる。 「あんた、名前は?」 ジルカが尋ねると少し早口にエンジェルは言った。 「名乗るほどじゃないけど、知りたいなら特別教えてあげる。人呼んでトンビマン……横から油あげををさらうトンビのトンビマン!」 「あぶらあげ? トンビ?」 ジルカには良くわからなかったようだが、なんとなくうなずく。 「見たところ、キミもはぐれ者みたいね。よかったら仲間にしてやってもいいけど、それには色々と喋って貰わないとね」 「……なんでだよ」 「そ、それは! 身元はちゃんとわかってないとダメなの。組織ってそういうモノなんだから」 少し焦ったがなんとか理由を言う。自信を持って言えば多少の無理は押し切れるのだ。
物陰から2人のやりとりを見つめている方はハラハラしていた。 「シャーリーさん、盗賊のふりをしているみたいですね」 そっと小声でダイアナが言う。 「あの少年が本当に盗賊と接触するのか、それともだたのハッタリなのか……これじゃあまだ判断出来ないぜ」 小さくデラガは舌打ちをした。まさか衣装も普段通りのシャーリーが『盗賊』として少年の前に現れ、そして少年がそれを疑いもせず受け入れるなど予想外の事であった。 「本来は疑い事を知らない素直な良い子……なのかもしれないのぉ」 苦笑しつつユザールが言う。 「そうだね。シャーリーにああやって話をしているということは、もし本当に盗賊にツテがあるとしても、そんなに強いものじゃなさそうだね」 シャーリーとジルカの様子を探りつつ、やはり小声でジャックが言った。 「強がりを言いたい年頃ですからねぇ」 「まぁ男は……そういう事も必要でしょうからねぇ」 アカネとロイドも賛同する。
シャーリーこと『トンビマン』は首を振った。 「村を襲うなんてダメに決まってる!」 普段とは多少違う口調で叫ぶ。 「なんだよ! ケチ! 俺は……俺はやるって言ったらやるんだ!」 ジルカは立ち上がると村とは逆の方へ走り出した。何かあるとすぐに走り出す様だ。 「追うぜ!」 デラガを先頭に皆がシャーリーの横を駆け抜ける。シャーリーも急いで立ち上がり皆の後を追って走り始めた。
辺りはもう随分暗くなっていた。ジルカは人相風体の良くなさそうな男と会っている。やっぱり村からはそう遠くない街道沿いだ。 「だからさ、俺の村を襲ってくれよ」 「馬鹿いうなって。そんなシケた村を襲って何の得があるんだ」 「俺、村長やお袋に言っちゃったんだよ」 「ば〜か。ガキのハッタリに付き合いきれるかよ」 男はジルカの話など少しも真剣に聞いてくれない。 「あんた盗賊じゃないのかよ! 盗賊なら村の1つや2つ襲ったりするんじゃねぇのかよ!」 立ち去る男の背にジルカはなおも叫ぶ。大声で話して良い内容ではない事もわかってないらしい。 「おめぇの都合なんざ、関係ねぇんだよ」
その時、暗闇にまばゆい光が現れた。デラガの明るい色のとさか付近から目も眩む光が放たれた。ジルカと、そしてジルカの知り合いらしい男の目を惹きつける。ユザールが男の足を払う。ジルカはロイドに強く腕を掴まれ男から引き離される。どこからともなく現れたジャックが男を手早く拘束する頃には2人ともぐったり動かなくなっていた。アカネの歌で眠り込んでしまったのだろう。 「ちょっとの間、わしに預けてくれんかのぉ」 何時の間にかヨウリがすぐ側にいた。そして、眠り込んだジルカを持参してきた『どこでも説教部屋』へと放り込んだ。特別にあつらえた丈夫なテントらしい。
翌日、すっかり心を入れ替えたジルカは素直に村へ戻ることに同意した。ジルカと一緒にいた男は盗賊団に所属しているわけではなかったが、盗みを働いた事がないわけではなかった。 「あのガキにはついデカイ事を言っちまったんだよ。出来心っての?」 目が醒めた男は必死に弁解する。 「……まぁそういう気持ちもわかりやすがねぇ」 ロイドは苦い表情を作る。 「良いことなんかないないづくしの人生だって、まぁあるっちゃあるから……なんか身につまされるねぇ」 すっかりアカネもしんみりする。 「ではこの方の身柄はどうしましょうか?」 ダイアナは困ったように小首を傾げた。放逐するわけにもいかないが、冒険者が断罪するのも違う気がする。 「近くの村にでも預けるしかないね。確か、家畜を盗まれた村があるとかって聞かなかった?」 「そうじゃのぉ。そう言えば、そんな話も聞いた様な……」 ジャックが思いだしながら言うと、すぐにユザールも口を開く。 「……決まりだな」 溜め息とともにデラガが言った。
翌朝、すっかり素直になったジルカは冒険者達に詫びを言う。 「なんか……すっかり迷惑かけちゃって……ごめんなさい」 「お母さんにも謝れるじゃな?」 「はい」 ヨウリは優しく笑った。
1人の少年が家に戻り、1人のこそ泥が捕まった。そして、伝説の盗賊『トンビマン』の噂はまったく広まらなかった。

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参加者:8人
作成日:2006/04/14
得票数:ほのぼの10
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冒険結果:成功!
重傷者:なし
死亡者:なし
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