桜色のパーティ



<オープニング>


 世界が桜色に染まる。

 桜の花が満開となり、どこもここも花の色に染められている。土壌や品種で微妙に色合いの異なる花が木々を甘い菓子の様な色に染め、そして風に揺れて散ってゆく。
「美しいですわ……もう言葉もありませんわ」
 日頃殺伐とした事件に係わることが多いエルフの霊査士マデリンは甘い色の風景を見つめ、ほぉ〜っと溜め息をつく。世界はなんて美しく……けれど、なんて儚いのだとうと思う。花は咲いてすぐに散ってしまうので、この景観を楽しめるのはもうあとちょっとの事だろう。
「勿体ないですわ!」
 何か思いついたらしく、マデリンはスクッと立ち上がる。白い華奢な椅子が背後でガッシャ〜ンと派手な音を立てて倒れたが、恐らく耳には届いてない。
「桜色の中で桜色だけのパーティをするのですわ。どちらを見ても桜色……きっとステキなパーティになりますわ」
 目はうっとりと彼方を見ている。空想が今、マデリンの中で妄想へと進化しているのだろう。
「テーブルや椅子も、お菓子や飲み物も桜色。そして! 勿論衣装も全て桜色です。はっ……花の命は短いのですもの、さっそく参加してくださる方を探さなくては!」
 白い衣装の裾を跳ね上げ、マデリンは走り出した。

  さっそくパーティの日程と主旨があらゆる手段を使って、冒険者達に伝えられた。

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参加者
NPC:エルフの霊査士・マデリン(a90181)



<リプレイ>

●桜色づくし
 人里から離れた桜の名所。ここでエルフの霊査士・マデリン(a90181)が企画した『桜色のパーティ』が開催されようとしていた。

 ひとのそサイズ・ウニクリ(a14146)の黒髪や肩に花びらが降り積もっている。寝袋を持ち込んで昨夜から先乗りしていたからだ。
「こっちなぁん。待ちくたびれちゃったなぁん」
 ウニクリは大きく手を振っている。
「寒かったのではありませんの?」
 ウニクリは大きく首を横に振る。
「飴ちゃんもあったし、このくらい平気なぁん」
「こんなに綺麗なんですもん、早くパーティの準備をしましょう〜」
 マデリンの右手を握り、桜の花咲く鎧姫・サクラコ(a32659)はウニクリが場所取りをしてくれた方へと引っ張る。サクラコの編み込みにされた髪の隙間からも愛らしい桜色の花が咲いていて、風やサクラコの動きに合わせてゆらゆらと揺れる。
「サクラコさんったら完璧ですわ」
 うっとりとマデリンはサクラコの全身を見つめる。
「どうだ! これならパーティに参加出来るだろ!」
 鍛冶屋の重騎士・ノリス(a42975)が身につけていたのは紅水晶が使用された鎧であった。似合っているが、パーティに相応しいかどうかは……微妙だ。
「着替えですわ」
「なにぃぃい」
「潔く諦めて脱げ! で迅速に着替えだ」
 ノリスの腕を素早く掴んだ愛人・イスカ(a30341)は、穏やかで落ち着いた静かな口調でサラリと言い、硬直気味のノリスをどんどん引きずっていく。
「えっと、あの……あたし、似合わないから普段の服で来ちゃったんだけど……」
 イスカに連行されるノリスを見つめ、幻緑のハリケーン・ルーティ(a15112)が手を挙げる。
「着替えていただきますわ」
 桜色のパーティでは桜色以外の色は排除されてしまうのだ。ルーティの右腕にそっと手を伸ばしたのはエンジェルの牙狩人・ラナリック(a28559)であった。
「私が責任を持つわ。特別なスカーフを持ってきたの。これを貸してあげるから。大丈夫……着替えなんて痛くないし、すぐ済むわ」
「そういう事じゃなくて〜」
 つぶやくルーティの肩がポンポンと叩かれる。戯の夢・スティアライト(a31359)だ。スティアライトも普段とは違う着慣れない桜色のドレスを着ている。
「パーティに参加した以上はルールを守らなくては。ちょっと恥ずかしかったり、気恥ずかしかったり……とっても恥ずかしかったりしても……」
 自分自身に言い聞かせる言葉なのだろうか。スティアライトはうつむいたまま声はどんどん低くなる。
「人生諦め……というか踏ん切りが大事なんだぜ。サクッと桜色に着替えて頭空っぽにしてわーっと楽しんだ方が良いぜ」
 天落喪失・レスター(a38182)は傲然と胸を張った。アクセサリーも日傘も桜色だ。これで後はぼ〜っと花を楽しめる。ルーティとラナリックが着替えのために離れていく。
「マデリンさん、これ作ってきたんで良かったら食べて下さい」
 氷銀の幸光心聖・ルシファー(a33953)が差し出したのは桜色のイチゴケーキであった。今日のパーティの為に試行錯誤を繰り返した逸品だ。
「マデリン様〜こんなに幻想的で美しいパーティをありがとう。これ、お気に召しましたらお近づきの印に受け取ってくださいな♪」
 元気良く駆け寄ってきた紫の魔女・マゼンタ(a45005)がルシファーの横からピンクの日傘を差し出した。バランスを崩したルシファーが必死にケーキを死守する。
 限りなく白に近いごく薄い桜色の衣装を身にまとった夢幻を操る紅焔の傀儡師・オキ(a34580)もマゼンダと同じ日傘を持っていた。
「マゼンダさんもですか? 花見には邪魔かと思ったんですけど、マデリンさんに似合うかなって」
「黒のマントは駄目ですわ。オキさんはギリギリ……」
 どことなく残念そうにマデリンが判定する。マゼンダのマントは深みのある黒だ。
「それならあの無骨な方だって!」
 マゼンダが灰鱗の拳を握る・デイト(a39069)を示す。花見酒を手にしたデイトは訳がわからず動きが止まる。
「なに? わたしの武道着か? これは常に身につけていて色はこれ以外になく……」
「ブブーですわ」
 マデリンは両手を胸の前で交差させ、バッテンの形を作った。
「うわああぁぁ」
 デイトの哀しい咆哮が桜色に染まった山野にこだまする。更にもう1人、鋼の心と真っ直ぐな瞳を持つ・エイリーク(a46004)の着替えも決定する。

 強制着替えが増える一方、会場造りも協力し合って進められていた。
「手の空いている方がいらっしゃったらそちらの端を持っていただけますか?」
 テーブルの上にクロスをかけようとしていた桜花ノ理・エメルディア(a20562)が声を掛ける。エルメディアの髪も服装も文句のつけどころがない。持参してきたバスケットの中には桜色の食器や桜色の菓子が沢山詰め込まれている。
「わらわが手を貸そうかのう。ついでにわらわが持って参ったテーブルクロスを使って欲しいのじゃが……」
 久遠の赫実・リンゴ(a22920)は身軽に立ち上がった。ふんわりとクロスがテーブルを包むとそれだけで場が華やいできた。リンゴが持参したのは桜柄のクロスも花のように広げられる。
「ふふ、素敵なパーティーになりますわね♪」
「その様じゃ。ここならば、わらわも楽しく花を楽しめそうじゃ」
 エメルディアもリンゴもふわりと笑う。

●刹那を愛でよ
 眠れる森の少女・エリス(a41344)は一人降るように舞う桜の花びらを見つめていた。あまりに美しくて目が離せない。それほどの蠱惑的な美が目の前にある。
「何時見ても……桜は綺麗だね。綺麗すぎて怖いくらい」
 少し歩いては花を眺め、また少し場所を移動しては花を見る。
 桜色のぬいぐるみを手にした希望を謡う沙羅双樹・ホーリィ(a32537)は、軽い足取りで移動しつつ、舞い散る花を楽しんでいた。見上げていると逆に自分がふわりと浮かび上がってしまいそうな気さえしてくる。それほど幻想的で綺麗な……素晴らしい光景であった。ホーリィの髪の色もふわふわな服の色も桜色一色で染め上がられている。
「桜色に囲まれたパーティ♪とっても素敵なのですぅ〜!」

 桜色に染まって景色を眺め、喧風来遊・ザクロ(a24469)は目を細めた。
「もう桜の季節か。早ぇもんだ……」
 思わず感慨にふける。
「良いお天気で……誰の『日頃の行い』がよかったのでしょうね」
 クスッと楽風の・ニューラ(a00126)が笑う。ニューラの装いは完璧であった。上から下まで微妙に異なる桜色をまとい、召喚獣まで桜色だ。
「酔いも程良いですし、何か弾きましょうか」
 ついっと楽器を手元に引き寄せる。
「おぉ、やってくれ! 景気の良いのをだぜ。俺が踊ってやる」
 ザクロがふらりと立ち上がる。今日はサラシまで桜色だ。
「ザクロさん、飲み過ぎでしょう。パーティはまだ始まったばかりですよ」
 足元のふらつくザクロに双風円舞・ルナ(a43935)が手を差し伸べた。
「平気だって……ニューラ! これ誕生日の歌じゃねぇ〜か」
「4月生れの方々と、終わってしまったけれどマデリンさんへです」
「ザクロさん。しっかり」
 全身桜色に染まったのザクロに、ルナは小さく溜め息をついて団扇で扇ぎだした。

 黎燿・ロー(a13882)も着替えさせられたクチであった。桜の意匠の服であったのだが、地色が良くなかったらしい。立派な紋章入りのコートはだけは小脇に抱えている。
「実に見事な桜だな。そう思わぬか?」
 ローは傍らに立つ紡ぎ手の邪竜導士・ウィー(a18981)に声を掛ける。目の前には陸の知識に欠けるところのあるウィーに見せたい風景が広がっていた。
「見事というか……なんだか圧倒されるね」
 ウィーは素直に思ったままを口にする。これ程の花を見たことはなかった。
「それはこの花の散りゆく様が儚く潔いからだろう……な」
 闘いに身を置く者が一度は我が身になぞらえる、それはこの花であった。

 赤雷・ハロルド(a12289)と天藍顔色閃耀・リオネル(a12301))は仲良く強制的に着替えさせられていた。
「やっぱりこういう事は厳格にしたほうが良いと思うんですの」
 マデリンは3分ほど唸った挙げ句に2人にも『ブブー』を下した。可愛らしい色合いの服に着替えた2人は互いを見て先ず爆笑する。
「僕、こういう色は似合わないんだよなぁ」
「オレだって桜色はムリだって」
「しょうがないよ。女の子はこういう約束事が好きみたいだから。あ……」
 リオネルは風に沢山の花びらが散るのに目を奪われる。
「来年もこの桜を一緒に見たいな」
 ハロルドは腕を空へと伸ばす。
「そうだね……本当にそうだよね」
 何故かリオネルの胸は切なさでいっぱいだった。

 人がまばらな静かな場所もある。
 薫風の護り手・ジラルド(a07099)は白い薄手の上衣を着ていた。これだけなら『着替え』なのだが、蘇芳のシャツが透けて奥行きのある桜色に近い色味が浮き上がる。
「これは不思議なお茶だな。色が一瞬で変わったぞ」
 着衣から召喚獣まで桜色に染めた黒葬華・フローライト(a10629)はジラルドとテーブルをはさんで座っていた。口調は態度はいつもと変わらないフローライトだが、柔らかい桜色のワンピースはフローライトによく似合っている。
「……本当に可愛いですね」
 つい思いが言葉となってジラルドの唇から零れる。丁度手作りのケーキを取り出そうと奮闘していたフローライトの手が止まる。
「な、なんだよ突然に! 危うく落とすところだったぞっ」
「僕がお手伝いしますよ」
 ジラルドが立ち上がり手を添えた。

 この光景も美しいが……やはりエンジェルの邪竜導士・アッシュ(a18468)の目はすぐ横を歩く雪の華・スノウ(a39043)に釘付けであった。スノウと視線があう。寂しげな表情をしていることが多いスノウだが今は笑顔をアッシュに向ける。
「スノウ……パーティー……初めて。ちょっと……緊張……する。でも……誘ってもらって……とっても嬉しい」
 スノウはゆっくりゆっくりそう言うと、小さなバッグから布包みを取り出す。
「ボクに?」
 聞き返すアッシュにスノウはコクリと無言でうなずいた。包みを開くと手作りの焼き菓子が入っている。

 無月天空・セリオス(a00623)は桜色を服をなるべく意識しないようにと散りゆく桜を眺めていた。だが本当に見ているのは花よりも美しい人だ。視線に気が付いたのか、天藍守護天使・ティエラン(a18341)が問いたげな表情で視線を合わせてくる。
「……セリオスさん?」
 気が付けばテーブルに並べられた弁当や菓子にも手がつけられていない。
「ん? 花より団子よりティエランだと思ってな」
「私?」
 いつもは長く背に流れる髪を今日はゆるくまとめて桜の花かんざしで飾っている。
「なによりティエランを見ていたいって事だ」
「でも……」
 ティエランは僅かに表情を曇らせる。こんな幸せなひとときはいつか終わりが来る。
「何があっても……俺はいつでもここにいる」
 セリオスはティエランの胸の中央をゆびさした。

 同じセリオスの名を持つ螢火惑惹者・セリオス(a19414)も幸せな午後を満喫していた。家族で過ごす花見の宴。降りそそぐ花びらはセリオスの頭を染め、そして螢火夢幻乱飛・メディス(a05219)が動くたび、桜色のエプロンドレスから花がヒラヒラと落ちる。
「頭に花びらが積もってますよぉ」
 メディスはそっとセリオスの髪にかかった花びらを払う。それから用意してきた包みを解いた。中からは特製『桜パフェ丼』が姿を現す。
「何もかも同じ色っていうのもなんだか妙な感じだね。絶景ではあるんだが……」
「うん?」
 花びらを見つめるセリオスにメディスが首を傾げる。
「ふむ、桜の花もきれいだけど・・・メディスも綺麗だよ」
 そっと唇を耳元に寄せ、セリオスは甘く囁いた。

●宵桜
 白銀の陽炎姫・リタ(a44019)は音楽が聞こえてくると、その方向へ歩き始めた。こういう花見のパーティは初めてなので全てが珍しい。
「素敵」
 思わず溜め息が出た。踊っているのは忘却武人・ラン(a20145)、演奏は声を失った歌姫・ミリル(a42117)、そして歌を歌っているのは蒼桜雪の斎女・オウカ(a05357)であった。ミリルは女性モノの服と装身具をまとい、横笛を吹いている。凛とした音色が野山に響く。桜色の優美なドレスを着たオウカの歌も幻想的であった。歌詞のない歌だが、声に心が宿っている。
「花見とは良いモノですね」
 花も見事で美しいが、皆で花を愛でて過ごす時間もなんとも素晴らしいと思う。
「夜桜になればもっと幻想的な雰囲気になりますやろうなぁ」
 ニコッと笑って銭っ娘・ヴィルヴェル(a45822)が言う。
「おぉ」
「月夜に照らされた桜は……これもまた見事なものなんですよって」
 ゆったりとした口調でヴィルヴェルが言う。
「マデリンさん! このお餅もムースも美味しいよ〜」
 燦の魔女・ファムル(a46695)は椅子から身を乗り出してマデリンを呼ぶ。リボンもドレスも靴も桜色だ。
「あら? 本当……」
「マデリンは手作りのお菓子とか作ったりせぇへんの?」
 金襴緞子の道を征く・イェンファ(a42634)目をキラキラさせながら聞いてくる。
「お菓子作りは難しいですわ」
「うちもそうなんや〜」
「お菓子作りって奥が深いよね」
 ファムルもウンウンとうなずく。
「お茶も美味しいですよぉ。桜色のハーブティも飲んでみませんかぁ?」
 淡い桜色のふわふわとしたドレスを着た銀露吟望・リンカ(a23298)が、菓子作り談義に燃えそうな3人に声を掛けた。リンカのすぐ前には可愛らしい茶器が揃っている。
「桜色の砂糖もあるんです。使ってみませんか?」
 温・ファオ(a05259)が持ってきたのは、珍しい色の砂糖であった。形も丁度桜の花びらをかたどっている。小さくて上品な一品だ。ファオが持参した小物類はどれも桜の意匠があって可愛らしい。
「とっても可愛いですぅ」
 リンカがコースターを手に取る。どうやらファオの手作りらしく手が込んでいる。

 少しだけ離れた場所で大地の永遠と火の刹那・ストラタム(a42014)はパーティを楽しむ人々を見つめていた。その目はゆっくりと舞い散る花から地面に積もる花びらへと移る。雪の様にハラハラと降りしきる花も美しいが、地面に散った花が僅かな風に転がるように吹かれていくのも可愛らしいと思う。
「……思い出を戴いても良いですよね」
 ストラタムは風に飛ばされた花びらをついっと1つ手に取る。傷のない綺麗な薄紅の花びらだった。それを大事そうに詩集にはさむと、燭台を探しに歩き出す。辺りは少しずつ暗くなり、夜桜パーティへとなりつつあった。


マスター:蒼紅深 紹介ページ
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参加者:42人
作成日:2006/04/16
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