<【円卓会議番外】バグウォッシュ審問>

●審問される者
 青鱗の大沼王・バグウォッシュ。
 それは、かつてリザードマン王国を統べていた大王。
 だが今は……。

「僕、どうなっちゃうんだろう? ……殺される…殺されない…殺される…殺されない……」
 どうやら、花占いをしているらしい。

 モンスター地域解放戦で捕虜になったバグウォッシュはインフィニティゲートを使い同盟領まで転移された後、厳重な警備の上で建物の一室に閉じ込められている。
 扱いに失礼の無いようにと、調度も豪華に整えられているが、軟禁されている事には変わりは無い。

「あぁ、僕はなんて酷い事を……。お花さんには罪は無いのに……」
 涙ぐむバグウォッシュ。
 どうやら、自分の花占いの為に毟られた花瓶の花達を哀れんでいるようだ。

 とその時、バグウォッシュの部屋の扉がノックされた。
 ビクンとして壁際に飛びのくバグウォッシュ。
「ぼ、ぼ、僕に、な、な、なんの用なの!」

 その狼狽ぶりに、哀れそうな視線を送るユリシア。
 そう、部屋に入ってきたのはユリシアと警護の一般兵数名であったのだ。

「バグウォッシュさん、あなたに円卓の間の決定をお知らせします」
 ユリシアは、そう言うと、円卓の間の票決の結果について説明を始めた。

「あなたには、冒険者による審問を受けていただきます。質問する冒険者の問いには、出来る限り正確に返答を行うようにして下さい」
 そのユリシアの言葉に、バグウォッシュはコクコクと頷いた。
「僕は、本当は君たちと戦いたくなんて無かったんだ。みんなで、仲良く暮らしていきたかったんだ。だから……なんでも話すよ」

 その返答に満足したのかは判らなかったが、ユリシアは儀礼的に微笑むと、素っ気無くバグウォッシュの部屋から出て行った。

 警護の一般兵も去り、残されたのはバグウォッシュ一人。

「審問……どんな事が起こるのだろう……とても不安だよ……」
 バグウォッシュのその言葉を聞く者はいなかった。

●審問する者
 そして数刻後、冒険者の酒場にユリシアが現れた。
「皆さん、聞いてください。円卓の間で決まった、バグウォッシュ王の審問の日程が決まりました」

 その言葉に、多くの冒険者達がユリシアの周りに集まってくる。
「審問の期日は5月17日です。バグウォッシュさんに言いたい事がある方は、5月17日の朝8時30分までに登録を行ってくださいね」
 そういうと、ユリシアはにっこり微笑して、こう付け加えた。
「バグウォッシュさんは一人しかいませんから、余りに沢山の質問には答えられないでしょう。同じ内容の意見が多いようでしたら、私の方で、代表して質問する人を決めさせて頂きます。また、過激な少数意見は採用されない場合もあるので、注意してください」
 と。

 なお、直接の意見だけでは無く、審問場所の警護や雰囲気作りなどを担当する事もできるらしい。

「私が見た所、バグウォッシュさんの知っている情報は限られているようです。その事も合わせて、何を聞くべきか考えてみてくださいね」

 ユリシアはそう言うと、冒険者達に頭を下げたのだった。


 

<リプレイ>

●矢は放たれた
(「こんな男のせいで同胞が何人も殺されたのかと思うと、虫唾が走るな」)
 エルフの牙狩人・パブロフ(a06097)は、年齢に似合わない辛らつな感想をもって、柔弱なバグウォッシュの様子を見る。
 こんな男が、仮にもそれを指揮した一国の主だったとは信じられない。だが……。
「だけど、それが事実なんだ。責任を取って、死ね!」
 そう叫ぶと、パブロフは貫き通す矢奥義でもって、バグウォッシュを撃つ。

「危ないものはもってはいっちゃだめですねぃ〜」
 と、翡翠の脱兎・リヒトン(a01000)のように武器の所持者に注意を払っていた者は多かったが、武器を装備していなかったパブロフが、アビリティで矢を作り出してそのまま投げるというのは想像していなかったらしい。
「びっくりしたんですねぃ〜」
 勿論、リヒトンだけで無く会場中がびっくりしていた。

「ルルっ。あなたは、皆に連絡して!」
 青い海燕・ティア(a06427)が、旅団長のルルに指示を出してバグウォッシュの元に駆け寄る。
 二人一組で警戒に当たっていた白狐荘の面々が走りこむ。

「そこまでだぜ」
 しかし、警護の為に参加していた100名以上の冒険者の中で、いちはやくパブロフの身柄を抑えたのは、これあるを予測して警戒していた放浪傭兵稼業・ダウザー(a05769)であった。
 武器無しでの貫き通す矢のダメージは大した事は無い。
 本当に暗殺するつもりは無かったのだろうが、それとこれとは話は別である。
「少し悪戯が過ぎたようだな」
 そう言って、猫の子のようにパブロフの襟首を掴んだダウザーは、のっしのっしと会場から出て行ったのだった。

 なお、可愛そうなパブロフ君は、審問が終わった後で3時間位お説教されたらしい。
 合掌。

●審問の開始
「不幸な事件はあったが、改めて、審問の開始するとしよう」
 司会を務める、求道者・ギー(a00041)はそう前置きすると、重々しくこう宣言した。
「希望のグリモアの名の元に、青鱗の大沼王・バグウォッシュに対する審問の開催を宣言致す」
 と。
 なお、会場内の警備体制はより一層の強化がなされ、かつ、屋外にも【アスティル隊】などによる巡回が行われるなど、厳戒態勢での開会宣言である。

「まず、何か言いたい事があれば発言するが良い」
 ギーの横では、白銀の星芒術士・アスティル(a00990)が紋章筆記で記録をつけ、それを歴史の声を聴く・マーナ(a08112)と無無六六闇花・ロッカ(a08591)とが補佐する形で、議事録が作成される手はずとなっている。

 ちなみに、ちょっとした怪我をしたバグウォッシュは非常に手厚い看護を受けた上、お花や紅茶やお菓子などがふんだんに与えられて、下にもつかせぬおもてなしとなっている。
 その様子は、まさに王侯貴族であったろう。

 そんなバグウォッシュの様子を片目で見やりながら最初に発言したのは、法の使徒・バルダッサーレ(a03343)であった。
「まず最初に確認すべき事は、リザードマンとの悲しむべき戦争が列強種族の理の中で行われたという事です」
 バルダッサーレは物静かに、こう告げた。
「列強種族は数百年の戦いの中で生きてきたのです、その意味で彼らは悪を行ったのではありません。勝敗は兵家の常であれば、勝者といえども傲慢になる事は慎むべきでしょう」
 と。
 ドリアッド領への侵攻、それに続く城塞都市レグルスの陥落と旧同盟量西方に対する略奪行為。
 それらを非難する事は容易いが、勇猛の聖域キシュディムへ奇襲を行った同盟の行動も、賞賛に値するとは言いがたいだろう。

 バルダッサーレの言葉は、冒険者達に冷静さを与える。
 この審問が敗者を貶める場となってはならない。
 この審問は、新しい歴史への礎にならなければならないのだ。

 そんな厳粛な空気の元、バグウォッシュへの審問が開始されたのだった。

●バグウォッシュに聞きたい事
 質問は当然ながらドリアッドの結界を破り、前回のモンスター地域の戦いでは西方の骨の城に姿を見せたという女邪竜導士に関する物が大勢を占めた。
 冒険者達も、バグウォッシュ本人よりも、彼が持つ情報にこそ価値があると判断しているのだろう。

「側近だったという邪竜導師の女性の名前は?」
「パンドラちゃんの事だよね。たしか、パンドラ・アルナリスって言う名前だったよ」

「気になる発言をした事はなかった?」
「いつも僕の為に頑張ってくれてたんだけど……。でも、僕を置いていっちゃったんだよ。その時……、そうだ! 僕が役立たずだからなんとか別の方法で時間を稼がなければならないって言ってたんだ」

「何か望みのようなものを言っていなかったか?」
「パンドラちゃんは、いっつも、僕がこの大陸を統一する事が望みだって言っていたよ」

「出会った経緯は? 紹介なのか?」
「僕が眠っている時に枕元に急に現れたんだ。最初はびっくりしたけど、しばらく話してみて信用できる人だなって判ったんだ」

「何故信用したのか?」
「えっ、何故って? 理由は……ごめんなさい、今考えると良く判らないです」

「彼女が逃亡の際に置いていった持ち物などはありませんか?」
「僕、無理矢理ここに連れてこられたから、自分の持ち物って着ていた物位しかないし……」

「いつごろからあの女邪竜導士は貴方の国に取り入ってきたんですか?」
「2年位前になるね」

「どんな事を提案されたか?」
「争いばかりの世界を平和にする為には、僕が世界を統一するべきだって。そう言っていたんだ」

「北の国へ奇襲攻撃を行った理由は『北の国がソルレオンと組んで攻めて来ようとしている』という謎の術士の進言を聞き入れての事だそうですが…詳しい話を聞かせて頂けませんか?」
「ソルレオン達が僕達の国を滅ぼそうとしていたのは本当だよ。これは、アイザック君に聞いてもらってもいいよ。パンドラちゃんが教えてくれたのは、北の国の冒険者が、一箇所に集まっていて聖域が手薄になっているって事だったんだ」

 矢継ぎ早の質問に、ゆっくり思い出しつつ答えるバグウォッシュは、嘘をついているようには見えなかった。
 勿論、演技かもしれないが……。

 多少の疲労の色を見せるバグウォッシュであったが、多くの冒険者達のフォローによって頑張って質問に答えているようだ。
 続けて、女邪竜導士以外の質問が行われる。

「北方に残ったアイザックさんの元部下達の消息について知っていますか?」
「同盟の冒険者達に倒されたって聞いてるけど、違うの?」

「首都から逃げた後、モンスターばっかりの地域のど真ん中でどうやって暮らしてたのにゃ?」
「パンドラちゃんが、アンデッドとモンスターを戦わせてくれて、大丈夫だったんだ」

「その様子だと武断派と色々あって大変そうな気もするが……。弟さんとはどうだったのかな?」
「僕は、奉仕種族の皆も合わせて一緒に幸せになれる国を作りたかったんだ。その為には、世界を統治する優しい王様が必要だって……。世界を平和にするにはアイザック君みたいに戦ってばかりじゃダメなんだよ」

「庭園管理官のシュリーガーはバグウォッシュ・ダリオにとって何者であったのか?」
「僕の大切な友達の一人だよ。あの戦いの中で行方不明になって、心配してるんだ。ねぇ君達は、シュリリンの消息って知ってるかな?」

「『ドリアッド領への侵攻』の真相が聞きたいです〜。バグウォッシュさん自身の意見〜? 誰かの強い推薦なんですか〜? ドリアッドを滅ぼす気だったんですよね〜?」
「ドリアッドの国には、降伏勧告をしたけど聞いてくれなかったんだ。僕は平和な世界を作りたかった。そのためには、世界を統一する優しい王様が必要だったから……だから、仕方なかったんだよ」

「同盟への侵攻に対して止める者はいなかったのか?」
「同盟って国があるなんて、僕は知らなかったんだ。パンドラちゃんも知らなかったみたいでびっくりしてたよ」

「カディスの将ラドックってどういう人?」
「えっ、ラドック? 怖い人だよ。いつも怒ってばっかりで、僕、殴られた事あるんだ。だから、サーちゃん達にお願いして、会わなくていいようにしてもらったんだ」

「あなたとアイザック王が揃えば彼を説得して内戦を止める事が可能か?」
「絶対無理。ラドックが僕の言う事なんて聞く事無いよ。そういうのは、アイザック君に頼んでよ。たしか、ガウロー君とかと仲良かったと思うけど……」

「ところで、食べ物で、例えば魚と肉どっちが好きですか?」
「うーん、魚かな。でも本当は果物が大好きだよ」

「北方にいる旧リザードマン軍に同盟に入るのを説得することが不可能でないか」
「僕は、誰が残ってるか知らないし……。というか、残ってるのかなぁ」

「最近のアンデットについて何か知ってる事は?」
「うーん。最近、何か変わった事ってあったっけ? あぁ、そうだ。アンデッドって実はモンスターと仲が悪かったんだね、パンドラちゃんが、アンデッドとモンスターを戦わせていたもの」

 ここまで話した所で、司会のギーが木槌を叩く。
 それは、昼食と休憩を挟んで審問を続けるという合図であった。

●優雅で平和な休息時間
 休憩時間は、とても静かに過ぎた。
 どろり濃厚ピーチミルクなどの危険物を持ち込もうとした冒険者もいたが、それを警戒する冒険者も多く果たせなかったらしい。
 音楽が奏でられ、舞が舞われ……。
 その様子は、とても審問の場とは思えない程だった。
 ウェートレスの給仕を受けて、バグウォッシュも優雅なお茶の時間を楽しみ、疲れを癒す事ができたようだった。

●バグウォッシュに言いたい事
 そして、審問も後半に入る。
 後半の審問の議題は『バグウォッシュに言いたい事』であった。
 意見を持つ冒険者達の幾人かが、バグウォッシュに向けて言葉を発する。

 休憩を挟んでゆったりとした雰囲気の中での再開だったが、
「現在、リザードマン領は内戦の危機にあります。バグウォッシュ殿には、現王アイザックに対する忠誠を誓って貰いたい」
 リザ国漫遊吟遊詩人・ドン(a07698)がいきなり重い発言をして場を凍りつかせてしまった。
「えっと、あの……」
 返答に窮するバグウォッシュに、ユリシアが助け舟を出す。
「そういった政治的な議案については、円卓の間などでの議決を経て行っていただきましょう。審問の席で軽々しく扱う事では無いように感じます」
 と。

 その後も、王としての責任を問う言葉や、戦死者への責任の取り方などを問う発言が続いた。
 情けないとか苦界に生きて足掻くが良いといった言葉は、数は決して多くは無かったが、バグウォッシュの繊細な心には大きなダメージを与えたようだった。

「ごめんなさいごめんなさいごめんなさい。僕が悪かったんだよ」
 何か言われる度に、ビクビクしながらそう答えるバグウォッシュに、周囲に侍る元気付け隊も手の施しようがないようだ。

 列席した冒険者達も、さすがに気の毒に思えてきて、互いに顔を見合わせる。
「どうしたものか?」
 皆が、そう思った時、一つの声が天啓のように閃いた。
 それは……。

●会議の終わりと争奪戦
「まぁ、なんだ。今回の審問はこんなもんだな」
 良く通るその声は、振り返ればオペしてる・ドクター(a04327)であった。
 彼は、ドクターマントをバサリとしながら司会のギーにそう問いかけたのだ。

 確かにこれ以上、バグウォッシュを責めても実りはなさそうだ。
 片眼鏡の位置を直しながら、ギーは思慮深そうな面持ちで、こう答えた。
「うむ、そうだな。これ以上続けても実りは無いか……」
 それは、実質的な閉会宣言だったのだろう。

 だが、それを聞いたドクターがニヤリと笑ったのだ!
 そうニヤリと。
 そしてドクターは、やおらバグウォッシュの手を掴むと、小鳥のように震えるのにも構わずに、こう宣言した。
「一人の冒険者として戦後の復興に協力せんか? 我がDr.ケイツ診療所はお前の力を必要としているだけでなく、お前自身にも心安らげる居場所を提供できると思う!一緒に来い!!(くわっ)」

「ちょっと待った!」
 それを聞いた、探検隊隊長・ワイドリィ(a00708)が、大声でちょっと待ったコール。
「今、俺たちは『新大陸』を探しているんだが、どうだ、バグウオッシュ? 一緒に目指してみないか?」
 という事らしい。
 だが、このバグウォッシュ勧誘はこの2旅団に留まらなかった。
 更に幾つもの旅団が、バグウォッシュという新人獲得に名乗りを上げたのだ!

 最後にはクジ引きで決めようなどと言い出す始末。
 理由は良く判らないが、なんだか凄い人気のようだ。
 ちなみにバグウォッシュは、ドクターとワイドリィに右手と左手を掴まれたまま硬直しているようだ。

「静粛に! 落ち着くのでごじゃる!」
 騒ぎを止めようとする天衣無縫の流浪貴族・ユキマル(a05214)なども、そのパワーに押されぎみ。
 結局、この騒ぎが収まるまでには10分程掛かったらしい。

 で、結局、
「今日のような襲撃もあるかもしれません。すぐに旅団に所属するという事は無理だと思いますよ。暫くは、安全な地域の護衛士団のどこかに身柄を預けて、その様子をみながらというのが良いと思います」
 という事で、結論は先延ばしにされたらしい。

 そして、
「あまり実りは無かった気もしますが、バグウォッシュさんも疲れているようです。これで審問は終了としましょう」
 というユリシアの言葉で、バグウォッシュ審問は閉幕したのだった。

【END】