<東方大陸の伝承を求めて・弐>


●前回までのお話
 東方大陸の伝承を求めて


●東の小島へ
 『W.G探検隊』によって行われた調査は、一定の成果をあげた。
 沿岸にある小島には、東方大陸から漂流者が居るというのだ。
 沿岸の小島には漁師の小船で行くのは困難という事で、調査を切り上げる事になったが。

 その調査結果は円卓の間で報告され、更なる調査が行われる事となった。
 同盟東方の諸都市からの援助で、島に向かう船は確保された。

 後は……。
 実際に島に赴いて、頑張って頑張るのみだろう。

 東方大陸は本当に存在するのか?
 存在するのならば、そこにはどうやって行く事が出来るのだろうか?
 どんな人が住んでるのか?
 どんな文化があるのか?
 どんな脅威や敵が存在するのか?

 様々な疑問と夢と希望をのせて、冒険者は旅立つ。
 船の出港は6月18日の朝8時30分
 乗り遅れないように集合しよう!


 

<リプレイ>

「帆を張れ! 錨を上げろぉっ!!」
 朝8時半。朝日が水平線の向こうで輝く中、怪傑・ジョニー(a00066)は船の上で大声を張り上げ乗組員達に操船を指揮する。
「東方大陸に行きたいかぇーっ!!」
『おおおーーーっっ!!』
「罰ゲームは怖くないかぇーっ!!」
『おおおーーーっっ!!』
 一方、宵咲の狂華・ルビーナ(a00172)は甲板の上に集まった冒険者達を前に勢いに乗ったシャウト。皆の士気を上げる。罰ゲームって何だと突っ込む人もいない程に気合いに満ちている。
 カーネルGGからやってきた銀笛の風の術士・ユーリア(a00185)や星海の夜想曲・アヤメ(a02683)など船に慣れた者達は船乗り達と共に船を出発させる。
『頑張ってね〜!!』
 陸では先天性道化師症候群・ウィン(a08243)など、出航前に船の整備や準備に携わった者が手を振って見送る姿が見える。
 見送りとは別に船に乗らず気合が入った者数名が陸にいる様だが……?
「遠泳に挑戦してみるわ! 医術士(イロモノシ)の真髄みせてあげるわっ!」
 くわっ!とか言って目を見開いて叫ぶはノルグランドの薬物護衛士・フーリィ(a00685)。他には準備運動をする紅獅子姫・ラミア(a01420)や海パンが眩しいハイエナ・ジル(a03140)などがいるようだ。
 どぼっどぼどぼーん! 次々と海に飛び込んで船を追う様に泳ぐ彼ら。
 ユリシアが涼しい顔で『冒険者ならば泳いででもいける筈です』と言ったモノだから本気で泳いで行く気満々の面々。……頑張れ。

「……異常なしにゃん」
 さて、順風満帆に船は進み。東にあった太陽もすっかり高く登っている。とまとの・ヒカリ(a00382)はマストの上で海の様子を見るも敵らしい物は見当たらず平和な船旅続行中。
「壊血病にならないよーに果物はたっぷり取らねばのぅ……どろり濃厚ピーチミルクたっぷり飲むとよいのじゃ」
「食料としてロリエン食料管理委員会製カレーパンを提供します!」
 どろり濃厚ピーチ姫・ラピス(a00025)や華麗のお姫さま・ベルナデット(a05832)が色々食べ物飲み物を振る舞う。蒼戦狼・ゲイル(a01603)も団子を食しつつ船の周り警戒する。至って平和だ、船の外は。
「ううう……酔った……」
 船の中はさほど平和ではなかった。初めての船旅ではしゃぎすぎた加密爾列・アンゲリカ(a02465)は気持ち悪そうに横たわっている。他にも船に慣れぬ者達より船酔いする者続出。冒険者達が思っていたより船旅は長かった。
「船酔いにはミントティーが効きますよ♪」
 ハーブの葉っぱなど持参した緑のちび魔女・グリューネ(a04166)が船酔いした者に与えて回る。色彩を操る医術師・ナオ(a09228)なども体調を崩した者を看病して回っていた。
 波に揺られる事、実に約12時間。すっかり暗くなってきた頃。
「島に着くぞーっ!!」
 海の上に浮かぶ島。かすかに闇の中に見える明かり。目的の小島に着いた模様。
 だが、探索や村の者に話を聞くには遅すぎる。岸に船を着け、夜明けを待って行動を起こす事にした。


「やっと着いたぁ……」
 朝。遠泳組はどうやらやっとついた模様。4〜5kmのつもりで泳いだ様だが、実は100km近くあったであろう。良く辿り着いたと言うか、流石は冒険者。
 その頃、島で唯一の小さな村に冒険者達は訪れていた。
「やった、帰れたんだ……ありがとうよ本当に!」
 胡桃の森の双子・タクト(a00050)が前回出会った漂流したという青年。彼の案内ですぐに村に辿り着く事が出来、村人も行方不明だった青年の無事に喜び涙する。
 青年の恩人、と言う事で打ち解け、調査の事を話すと村人達は快くそれに応じてくれた。
「それでは、早速お話を聞かせて頂くですの♪」
 青年に同行依頼した深閑なる錬金術師・ティーフェ(a02363)はW.G探検隊の仲間と共に彼の実家に案内して貰い、青年の祖父母など村の年寄りなどを呼び集めて話を聞く。
「さて、話を聞かせて貰おうかぁ!(くわっ)」
「聞かせて貰うわよっ!(くわっ)」
 笑劇の伝道師・オメガ(a00366)とゴッドハンドシスター・アルヴィース(a07051)はいきなり目を見開き威嚇する様に村人達に叫ぶ。かの芸能祭でバグウォッシュをビビらせた程の凶悪で化物の様な顔に村人達はいっぺんにビビる。
 ガスガスッ!
「仲間が失礼しました。改めて貴方方の祖先についてお聞かせ願いませんか」
 何だか鈍い音と共に他の冒険者達は二人を沈黙させ後ろに追いやり、闇風の奏者・ツキト(a02530)が穏やかな口調で警戒心を解く様に尋ねだした。

 まず楽風の・ニューラ(a00126)は持参した浴衣装束を老婦人に見せて聞く。
「見て頂けますか? 同じ様な物です……ね」
「そっちじゃ珍しいのかい? ここじゃ見慣れたもんじゃよ」
 続けて銀月の散歩者・レノリア(a02513)や朱なる牙の紋章・シエヌ(a04519)が矢継ぎ早に質問を投げかける。
「漂流して来た方はしっぽありです? なしです?」
「少なくとも儂の婆さんはヒトだった様じゃがのぅ」
「うわぁ、珍しい髪飾り。これは東方大陸から来た文化なの?」
「婆様の形見じゃよ。他にも手鏡とか刀とか、あんたらが身につけてる様なモンと変わらん物が残ってるかのぉ」
 他の者達も色々と質問をする。村人達は突然押し掛けたにも関わらずとても丁寧にゆっくりと答えてくれた。
 まず、現在この島には漂流者そのものは存在しないと言う事。あくまで彼らはその子孫であり、青年の四世代前……つまりお爺さんのお爺さんの世代が最後であると言う。
 冒険者達の多くは文献をこの島に求めた。が、この島唯一のこの村の人口はせいぜい百人。そんな小さな村で歴史や文化などをわざわざ本に残す様な事はしないし、実際誰もしていなかった。
 一通り質問が済んだ所で、今度は村人から同盟のある大陸の事について聞かせて欲しいと言ってきた。このような大陸から離れた孤島ではこうして余所の者が来る事自体非常に稀なのだ。
 では、と碧き旋律を奏でる者・カズハ(a01019)は竪琴を取りだして弾き語りを始める。歌いながら自分達の文化や最近の出来事、そして同盟に存在する御伽噺を聞かせる。村人が、冒険者達が耳を傾ける。
「……いかがでしたか?もし気に入って戴けましたら、次は貴方達の家に伝わるお話をお聞かせ願いたいのですが?」
「『受け継がれる唄や御伽話の中には昔の人が残したかった言葉がある』……あたしの島のばーちゃんがよく言ってたのね♪」
 しっぽをパタパタさせながら陽光の後胤・ナル(a01122)も微笑みお願いした。
 では、と村人が話した御伽話。

『角を持つ凶暴な巨人の群が巣食う山があった。
 人々が困っているのを見、若い勇気有る男が立ち上がった。
 男は三匹の動物と心を通じ合わせ、協力して見事に巨人達を退治した』

「まるで……モンスターを退治する冒険者の話みたいですね……」
 貧乳様の巫女・イチカ(a04121)はその話を聞いてそう呟いた。つまり、東の大陸にもこちらと同様に冒険者が、つまりはグリモアが存在すると言う事なのだろうか?
 聞いた事は悪戯猫小娘・キラ(a01332)が紋章筆記でしかと記録する。その間にも何人かの村人が家に古く伝わる物品を探して持ってきてくれた。
「これは……?」
 人類の敵・ディーラック(a02723)はその中から一振りの太刀を取り上げる。明らかに異国風の造りのそれ。ただし、刃はすっかりこぼれボロボロの年代物と化していたが。
 他にも手鏡や装飾品、日用品など異国めいた作りの古い品が色々出てくる。
「航海用の品は無いですわね……大きな船で流れ着いたのでしたら有っても可笑しくない筈ですのに」
 ランドアースの薔薇・アンジェラス(a04345)は首を傾げた。漂流者達がどうやって辿り着いたか。まだまだ聞く事はあるようだ。


 一方その頃。大陸の側で探索に出た者を見送って東沿岸地域を再調査している者達は、と言うと……
「スシ〜スシ食べたい〜!」
「いや、考える事はみんな一緒だねぇ」
「人の生活の中で一番差が出るのは食べる事っす。食文化について調べるっすよ!」
 ……スシ食ってました。
 観光気分でスシ食べる花一華・エリス(a00091)、お茶啜りつつ箸を運ぶ夜風の森から来た少女・グラ(a00110)、調べるとか言いながら味を調べる死留怒一代漢・ライナー(a07026)。極めて平和だ。
 彼ら以外にもちゃんと調査をしている者はいる。緋の残照・リシェール(a00788)や青き瞳の牙狩人・ライラ(a05587)は酒場でマスターや客に聞き込みをする。
「何でもいいさ、知ってる事とかあれば教えてくれないかい?」
「清酒って言うの? 何か言い伝えとか知らないかしら」
 また、ストライダーの忍び・ジンベエ(a03417)は民宿に泊まり込み、御簾の影に立つ者・シャーリー(a05234)などは漁村を回って聞き込むがどれも大きな進展になるような情報は出てこなかった。
 唯一聞けた事と言えば。潮の流れは東から西に向けて流れてくる様だ、という事か。


「漂着した人がいると言う事は、普段から船で航海する事がある様な、島が沢山ある国なのかなぁ」
 卓越した謎の技師・ホノカ(a00021)はそう首を傾げながら、かつて漂流者達が辿り着いたと言う島の東側の海岸を見渡していた。
「漂着というからには巨大な船でという線は薄いと見た。それなら残骸くらい残っていそうだしな」
 木片すら残っていない砂浜を見て探検隊隊長・ワイドリィ(a00708)は唸る。黒博士・ユーヴィ(a02297)や語る者・タケマル(a00447)は一緒に考え推理してみる。
「普通に考えれば潮の流れが東方大陸から東の小島に向かっているのだろうが……普通過ぎて詰まらんな」
「確かに理由で一番考えられるのは潮の流れですが……そんなオチじゃつまらないっ!」
「いや……オチ求めなくて良いから」
 呆れた表情で突っ込むワイドリィ。その間にも黒陽・リエル(a05292)は
「後続の無い事から『偶然に・全く図らず』漂着したと考えるわ。小さな舟やボートで流され辿り着いたと考えるのが自然ね」
「島近辺の海流速度については島の漁業関係者から聞くのが一番確実ですかね?」
 魔弾の射手・ファル(a01548)はここまで案内してくれた村人に、そう笑って問いかけた。
 話に寄ると、この沖の方には東に流れる早い海流があるらしく、それに乗ってしまうと『流されて帰ってくる事が出来ない』らしい。
 話を聞き終えた頃、黒剣王・グランデイル(a02527)が仲間達と共に村の小舟を借りて東の沖に出ようとしているのが見えた。それ見て村の男は大慌てで彼らを引き留める。
「おいおいあんたら、止めといた方が良いぞ! こっから東の沖に行っても小さな無人島しか無いし、その先には……」
「先には?」
「海のモンスターがな、沢山出現する、魔の海域があるんだ。襲われて死んじまうよ」
 モンスターの出る海域。その言葉に皆に戦慄が走る。
 だが、『行ってはいけないタブーの場所』と言う事はそれだけ知られていない場所であり、モンスターが出ると言う事は何かあるかも知れない。そう思った銀ギツネ・ルナール(a05781)は更にその場所について問う。
「そこには島とか、何も無いのかしら?」
「島……ねぇ?」
 首傾げる村人。そこに若い男がおずおずと手を挙げて言う。
「お、俺……実は昔一度だけ魚の群を追って魔の海域に行った事、あるんだけどよ……」
「ば、ば、馬鹿野郎! あれだけ行くなと言われてるだろうに! 生きてるから良いけどよ!」
 怒鳴りつける年輩の男をなだめ、詳しく話を聞かせてくれと促すと、男は思い出しながらゆっくりと語る。
「一つポツンと島、見えたんだよ。そこにな、赤っぽい建物みたいのが見えた気が……」
「建物ですって!? 遺跡かしら!?」
 未知のドラゴンズゲートの可能性を求めて調べていた紅の女子大生・ルビナ(a00869)は目を輝かせて男に詰め寄る。ええと、と首を傾げながら男は必死に記憶を探る。
「赤っぽい建物だったと思う。けど、自然の木の見間違えかも知れないし……でも、赤っぽい建物だったと思う」
「はっきりしませんね……だが、嘘を言っている様でも無いですし、何か存在する事は確かな様だ。もしかすれば『ドラゴンズゲートによる往来』の可能性が出てきたのでは……」
 浄火の紋章術師・グレイ(a04597)は苦笑しながらもそう纏める。東からこちらには海流の流れでやってきた。こちらから東に行く為には……その足がかりになるかも知れない。


 幾多の話や手がかりより、東方からの漂流者は大きな外洋航海船ではなく小さな舟で言葉通り『流されてきた』と考えるべきだろう。意図的に船で渡ってきたものではなさそうだ。
 そして東の沖、海のモンスターが巣食う『魔の海域』。そこに存在する島の建造物らしきもの。これは調査が必要だろう。
 だが今回乗ってきた船は借り物である上に、船乗り達はモンスターの出る様な所まで行きたくないと怯えて拒否した。危険な所に行く準備は心体共に必要だ。
 また、実際遺跡を調査しに行くとしても海域に船で乗り込んでは沈められる可能性がある。安全圏まで船で行き、そこから泳ぐのが妥当であろう。
 しかし泳ぎながら海のモンスターと戦うのは極めて至難の業である。
 以上の事を考え合わせれば、今回は一度戻って改めて遺跡の調査の為に志願者を募るというのが妥当な判断となるだろう。


「バランの大渦の様に、海に沈んだドラゴンズゲートで無いとも限りません。何か繋がる道がある筈です……」
 帰りの船の中でロリエンの若き賢者・アカシック(a00335)は謎の遺跡について思考し呟く。炸裂紅茶野朗・デュラシア(a09224)はそれ聞いて首傾げた。
「繋がる道ってそこから海底トンネルとかが東の大陸に繋がってるとかかよ?」
「い、意味が違います……。可能性は否定しませんけど」
 果たして、その魔の海域にある謎の遺跡は東の大陸の鍵となり扉となるのか。
 穏やかな波の上、東に広がる水平線を見つめ、冒険者達は新大陸に思いを馳せるのであった。