<≪南の翼ウィアトルノ≫大大怪獣の目覚め>



 どこまでも青く青く続く夏空の下に、沢山の──本当に沢山の笑い声が木霊する。ここは、ワイルドファイア……プーカの森だった。
 プーカの子達と一緒に生レモンを齧りながら、ミニュイは会議の内容を纏めた綴りをもう一度見直していた。やがて現れた巨体が、緑の草むらに影を落とす。
「──皆、集まったであろうな?」
 プーカの聖獣。大きい様の登場であった。


「と、言う事で……皆さんには大運動会の前に、もうひと働きして貰いたいの♪」
 ミニュイは護衛士の皆を前に、にっこりと笑った。

 ウィアトルノ護衛士が発見した大大怪獣は、未だ完全には眠りから目覚めていないのだという。そもそも半球が一体何なのかも謎のままである。
「今回の大運動会は、大大怪獣を鎮める為に行うわけだけれど……」
 相手が半眠りの状態では、鎮められるのかどうかが良く分からないというのだ。だが、大大怪獣が目覚める時、ワイルドファイアに災いが起こるのでは無かったか。
「そうなの。そこで、大大怪獣に『気分良く』目覚めて頂いて、大運動会をしっかり見て貰う必要があるのよ」
 ミニュイは手元の綴りをちらりと見て頷くと、そう言った。
 では、どうやれば『気分良く』目覚めて貰えるのか? 上がった声にミニュイは首を振る。
「それについては、プーカさん達の協力があるから大丈夫みたいなの」
 聖獣の話によると、何やらプーカ達の秘策があるらしく、既にプーカ子の一団が大大怪獣へと旅立っていると言うのだ。
 何か、儀式というか踊りの練習をしていたみたい、とミニュイは言い足した。
「でも、大大怪獣への道のり、それから大大怪獣の周りには危険がいっぱいでしょ?」
 先ず危惧されるのは迷子。次に危惧されるのも迷子。迷子がなくとも大大怪獣の周辺には、何故か怪獣が闊歩しているのだ。取り敢えず何か危険な事は確かである。
「──分かった」
 表情を変えずに立ち上がったディルムンがそう呟いた。
「要するに、護衛をしろと言う事だな」
「当たり」

 道中の警護というか見張り。それから、沢山のプーカ子達が飽きない工夫……当然、彼らの悪戯に対抗する必要もあるだろう。

「それから、『気分良く』目覚めたとしても、大大怪獣の目覚めに何があるかは分からないそうなの。もしかしたら、現場はとても危険な状態になるかもしれないわ。目覚めたら直ぐに撤退、との事だから、撤退の準備もしっかり──1人のプーカさんも、誰も巻き込まれる事の無いようにお願いね」
 そういってミニュイは片目をきゅっと瞑った。



■参加作戦選択解説

 みなさんには、プーカ達が大怪獣を目覚めさせるのをお手伝いして頂きます。
 主な仕事は上でミニュイの説明している通りです。
 大運動会の開催の為に、無事に儀式を成功出来るよう頑張って下さいね。

!注意!
 このリアルタイムシナリオは、ワイルドファイア護衛士専用です。
 なお、このリアルタイムシナリオに失敗すると、ワイルドファイア大運動会2006が中止となります。

 

<リプレイ>


 みよ おおいなるそうきゅうへとそびえるけわしいやまやまを
 かれらはだいちのまんなかで はてないそらをささえるようにせをのばす

 だいちのしんだいによこたわり あおのてんまくをまとうもの
 かれはどこかからきたりて ついにはすべてをこわすもの

 ひとをひごするために すべてはこわされて
 ひとがたびだつために すべてはのこされる

 ひとのこよ けしてかれをおこしてはならぬ
 いつかおのれのきょごうをくいる そのひまで

 ひとのこよ けしてかれをおこしてはならぬ
 いつかおのれのきぼうがみちた そののちも
 
              ──とおくうしなわれたことばより


 ワイルドファイアの中央に聳える険しい山岳地帯によって守られるようにして、大大怪獣ワイルドファイアは、大いなる眠りについていた。
 怪獣の、そして常夏の楽園ワイルドファイア。
 大大怪獣ワイルドファイア目覚める時、怪獣の数は2倍、強さは3倍、凶暴さは4倍になるのだという。そうして、大大怪獣ワイルドファイアの7匹の下僕が蘇りし時、ワイルドファイア大陸は、大きなくしゃみをして上に乗ってる人達は皆ひっくり返るのだ。

 ワイルドファイア大会議の結果を受け、大大怪獣を鎮める為に大運動会が開かれる運びとなったのは良いが、肝心の大大怪獣が半眠りでは困ってしまう。
 しっかりと大運動会を見てもらうため、今、プーカ子達の一団は、大大怪獣を気分よく目覚めさせるために、大陸の中央を目指していた。
 だが、大怪獣の周囲は多数の怪獣が犇めく危険な地。
 当然、彼らを護り、大怪獣の元へと無事に送り届けるため、ワイルドファイアの護衛士達も集まっていた。声が聞こえる。 プーカ子達の歓声が響く中、暴れノソリン・タニア(a19371)達が何やら話し合っているようだった。
「クロタマの所までプーカたちを連れて行けばいいなぁ〜んね?」
「確か、この森を左手にまっすぐ……じゃなかった?」
 荷物を整えている征炎壁鋼・アガート(a01736)や全方位猟兵・ザルフィン(a12274)の隣で、灰眠虎・ロアン(a03190)達は大怪獣への道程を話し合っていた。彼らの中央には、宵闇月虹・シス(a10844)の記した手製の地図が置かれていた。
「ふむ……そういえば、あの山の形には見覚えがあるな」
 爆炎のカルナバル・ジークリッド(a09974)が目を細めながら辺りを見渡すと、視界の端々には赤い髪のプーカ、プーカ、プーカ。
 菓子をねだりに来た1人に、ザルフィンはどこか困ったように笑うと、「残りは向こうについてからだ」と言って頷いた。珍しそうな菓子で、プーカ達が隊から逸れるのを防げないかとザルフィンは策したのだが……こう頻繁に声をかけられるのでは堪らない。畳んだ毛布を黒衣の天使・ナナ(a19038)と一緒に纏めながら、アガートが面白そうに笑った。
「あれだけ集られたのに、まだどこに菓子が残っているんだ?」
「嘘も方便だ」
 ザルフィンの言葉にシスは思わず微笑んだ。
「いざという時には幸せの運び手もあるなぁ〜ん。大丈夫なぁ〜ん」
 ナナは言うと、水袋等を鞄に詰めた。

「大大怪獣起こしに行く子この指とーまれー!」
 前方でひと際大きな歓声が上がる。夜明けの星・サガ(a16027)を中心にプーカ子達が跳ね回っているのだ。
「まあ、一応やる気はあるみたいだな」
 そんな彼らの様子に、錆び付いた刃・エリアン(a28689)が呟いた。やる気さえあれば、先導と護衛は自分たちの仕事だ。
「怪獣がきたら、倒すくらいの勢いで攻撃して追い払うなぁ〜ん」
 旭日昇天・エスターテ(a26580)が言うと、エリアンは頷き、彼らに混ざって歩き出した。
「それにしても、もう少し早く……甘やかしてばかりでも駄目だし、強制的に引きずって運びましょうか」
 エルフの紋章術士・イルミナ(a00649)がそう呟いたときだった。
 ぬる、と嫌な感触が首筋を伝い、背中へと降りてゆく。
「カエル?」
 イルミナのマントの裾から飛び出した緑の生き物に、翼と共に在ることを誓う武人・フィロ(a12388)が思わず声をあげた。周囲ではプーカ達の笑い声が響く。
 悪戯には大人しく嵌ってあげよう、等と考えていたフィロも、背中にカエルはちょっと遠慮願いたいと後ずさった。
「でも、飽きさせない工夫って言ったら、やっぱり悪戯して楽しむのが一番だよね☆」
 大怪獣までの道程はまだまだあるのだ。七色の尾を引くほうき星・パティ(a09068)はプーカ達に混ざって、悪戯の相談に顔を出している。
「あっ! 耳ムニムニはだめ…なぁ〜…んっ!」
 むきゃーっと叫んだのは炎に輝く優しき野性・リュリュ(a13969)。プーカ子達が逸れないように見張り役で頑張っている所だった。


「この辺りで休憩にしましょうか?」
 久遠に遠き予兆・ウィヴ(a12804)が声を掛けると、柳緑花紅・セイガ(a01345)は頷いた。そろそろ進行の列が膨れ上がっていた所だったのだ。休む時は休む。進む時は進む、という具合に、メリハリをつけて進行したほうが良いに決まっていた。
「あっ おなかが減ってたらお菓子があるんだよぅ」
 銀槍のお気楽娘・シルファ(a00251)は鋼鉄の白兎・グリンダ(a16715)と一緒に用意した菓子を取り出して、草むらに腰を下ろした。お菓子目当てで集まったプーカ子達は、いつの間にかグリンダ達の冒険の話に耳を傾けていた。
「っ! 誰だ? 人の荷物にこんな──」
 蒼炎超速猛虎・グレンデル(a13132)の声が響いたのに、番紅花の姫巫女・ファムト(a16709)が顔を上げると、ざ、ざー、とグレンデルの荷袋からは、大量のドングリが転がりだしているところだった。

「どれ、手を繋いでやろうか?」
 再びの出発に四凶饕餮・ガルガルガ(a24664)が声をかけると、周囲に集まったプーカ子達で、たちまち両手がいっぱいになった。小さな手に一本ずつ指を引っ張られながら、ガルガルガはランドアースの歌を口ずさむ。
 黒衣の医術士・マナ(a18389)や流転の灯・シリア(a42531)が声を合わせると、プーカ子達も、適当に合わせて声を出す。
 歌は、やがて行進を動かす大きな歌になった。
 ハミングで参加しながら、青の記憶・セルリアン(a35913)は遠くへ駈けて行きそうな子供達に、ランドアースやホワイトガーデン。ここではない、異国の話を集めて聞かせている。
「知ってるか、この茸は食べれるんだぞ?」
「知ってるよ!」
 沢山の声が上がる。向こうでは流離う森の芽の担い手・セレスト(a16244)がプーカ子達を集めて、一緒に歩いていた。こっそり名前を聞き出して、せめて今傍に居る3人からは目を離すまいと頭に入れた。
「これか? これはこうやってな……」
 冬夜奏鳴・エリーシャ(a03760)は歩きながら、響いている歌声に合わせるようにオカリナを吹き鳴らす。
「危ないですよっ!」
 突然、エルフな紋章術士・サリナ(a01642)の声が聞こえた。自分の事だと気づいたエリーシャの進行方向には、いつの間にか踝が埋まるくらいの小さな落とし穴が用意してあった。勿論、プーカ子の仕業である。ちぇっ、という声があちこちから上がった。
「サンキューな」
 エリーシャは言って笑っているが、両手が使えない所に落とし穴はちょっと危険である。サリナが口を開く。
「困ったものです。きっちりいい含めなければ」
「いくら言っても聞かない悪戯プーカ子には、「お仕置き」も良いかもしれません」
 キャットレッドブルー・エリス(a00091)は言って、少し笑った。彼女の連れていたキルドレッドブルーの後を、珍しそうに歩いていたプーカ子達がそっと何やら耳打ちしたりしていた。

 やがて澄んだ高い青い空は、夜になると鮮やかな星を沢山連れてくる。細った月は穏やかに夜空から月光を降り注いでいた。
 折り重なるように休憩──睡眠を取っているプーカ達を、放浪者・クレスタ(a36169)は自分の広げた寝袋の中央で眺めていた。用意された毛布類を受け取った者もいたが、大抵が地面にそのまま横になっていた。町や村を持たないプーカ達は普段森に住み、樹上で眠っているのだという。同じように地で眠るのにも特に抵抗はないようだった。
「案外……静か……」
 野営時の脱走を危惧していた風舞淡雪・シファ(a22895)は、皆が大人しく眠っているのを確認して、ぽつりと呟いた。円のように広がる円周の端々にも誰か護衛士が警護についている筈である。抜け出そうとする子を見逃すつもりは無かったが、それにしても皆、良く眠っている。
「まあ……昼間あれだけ騒いでいれば、夜ぐっすりなのも納得ですけれど」
 夜目で一度遠くを見渡した名付ける者・エーデルワイス(a35697)の言葉に、クリスティンは、同感、というように口元にほんのりと笑みを浮かべた。


 幾度か日が昇り、幾度目かの星が天頂を飾った日の事だった。
 これまで、護衛士達は、大大怪獣の目覚めに集まった怪獣達の群を、事前に把握し、迂回する事で戦闘をなるべく避けるようにしていた。勿論、プーカ子達の人数に、気づかれてしまった場合は、しっかりと警護担当の者達が対応していた。
 だから、この日の夜襲は、本当に不意を突かれたのだと言えよう。

 その辺りの草、狩った怪獣肉、それから少しの保存食、水、最後に幸せの運び手の夕食を澄ませて、プーカ達はそれぞれ寝床に良さそうな地面を選びにかかっていた時間。
 空にそびえる鉄の・シロ(a46766)が仲良くなったプーカ子達と一緒に、今日の寝床を検分していた時である。
 歩いて来た後方、西の方角に無数の目が瞬いたような気がして、シロは振り返った。陽は落ちたものの、まだまだ辺りは残照に照らされてほんのりと明るい。昼間動くものたちは寝床へ帰るだろうし、夜動くものたちはようやく目を覚ます時間帯。
 沢山の目は空に紛れるように柔らかく瞬いていた。

「戦闘は避けられないか……皆、避難してくれ──!」
 最後尾で警戒していた剣の刃塵降雨・アネット(a03137)の一声で皆が動く。戦えるものは前へ前へ。プーカ達を避難させる者達は、近くに居る子達の手を取り、声をかけて動く事になった。
「ほら、こっちこっち……あ〜尻尾引っ張んないで〜(汗」
 宇宙・ジン(a33296)は周りを見ながら、プーカ子達の背を追いかけた。手招きしながら、黒夜鴉ノ偽造羽根・レンヤ(a28482)も皆に声をかける。
「そっちにゃ何もおもろいことあらへんでー、こっちおいでやー♪」
 お元気料理人・ルーリ(a30381)も小さな子達と両手それぞれに手をつなぎ、前へと駆け出していた。紅蓮の兎・ソロネ(a32518)は刃を盾に、プーカ子達を庇いながら後退する。あたまがはるの・ウズラ(a21300)は追いすがる敵に作り出したカードを打ち込んでやった。怪獣達と、本隊の距離が徐々に開いてゆく。

「ご夕食でしょうか? ……せめてあと数刻待って頂きたかったですね」
 プーカ達が眠りにつき、寝袋に包まれていたならば、避難は最小で済んだだろう。三日月の導師・キョウマ(a06996)は銀杖を目の前に起こすと無数の針を喚び起こした。
 歩揺の桜・リラ(a27466)はプーカ達を背に守り、突風で怪獣達との距離を取る。 眠らぬ車輪・ラードルフ(a10362)とやぁオレは・ラージス(a17381)は次々と作り出したリングを走らせ、隊列の盾とした。
「距離を置く迄は、積極的な戦闘はプーカの子供達を脅えさせる事になるかもしれないな──」
 隊の側面を守っていた夜駆刀・シュバルツ(a05107)は小さなカードを作り出すと追いすがる怪獣へ向かわせる。青眼の重騎士・バガン(a41260)は敵の足を食い止めるべく、赤龍斧を手に、地に足を止めた。不破の蒼騎士・レイン(a45840)も同じである。一緒に遊んだプーカ達が後方へと退避するのを確認すると、地を割る斬撃を叩き付けた。
「こっちです!」
 天舞光翼の巫女姫・ミライ(a00135)はスポットライトで怪獣達の関心を己に引きつける。集まった怪獣達には陽光の武道家・ティル(a13971)が拳を叩き込む。
「もうそろそろ距離が取れたかしらね」
 曲弦師・フェリス(a34382)は一瞬振り返り、呟くと鋭い波動を蛟から生み出した。敵とこちらの数が多い。混戦の様子を嗅ぎ取った静かなる・プラム(a04132)は後衛からいつでもノヴァを打ち込めるように待機する。
「それにしても、団体さんでいらっしゃいましたね……」
 赤烏・ソルティーク(a10158)は紋章の雨を周囲に降らせながら、呟いた。次第に積もる闇に、まだいくつもの目が輝いている。
「行くよ、相棒」
 純粋なる愛を唄う桃姫・ハルト(a21776)が前を見据えたまま頷くと、純粋なる愛を唄う苺姫・ヤツキ(a21261)は手を伸ばす。ヤツキの鎧聖降臨を受けると、ハルトは剣を手に構えた。
「プーカの皆さんのところへは行かせませんの!」
 可憐な心を映す蒼と碧の双紋・ウィス(a39971)は後方を守りながら、傷ついた仲間達をいやして行く。
「邪魔はさせない。消え失せな」
 流水円舞闘の使い手・オルガ(a49454)もウィスの隣で、後方からの攻撃を行っていた。プーカ達の本隊とは、かなり距離が開いたのが分かる。
「半球まではあと少しなんだがな……」
 作り出した蜘蛛糸で、怪獣の足を止めながら、魔戒の疾風・ワスプ(a08884)が呟く。半球の周囲には怪獣が多く集まっているようだが、極近くには全くいなくなるのだ。そこまで辿り着ければ。
「でも、プーカっ子にボクの変形姿を見てもらいたかったな〜、なんて」
 鋼鉄の乙女・ジル(a09337)が斧を振り上げると、後方から声がした。
「ジル姉ちゃん、かっこ良いよ!」
 聞き慣れた声はロロテアのもの。手のひらに気を込めると作り出した刃を闇に光る目へと放った。
「一緒に逃げなくて大丈夫か?」
 やはり防御に徹していた星深の戦騎・シフォン(a17951)も、マティエやオプレイの姿を見つけて声をかけた。
「大丈夫です」
「だって俺たち、勇者なんだからなっ」
 言うと、オプレイはわにゃにゃわにゃんこ〜・ワニャ(a15368)のライトニングアローの軌跡を追わせるように、衝撃を纏わせた刃を振り払った。

「さ、大丈夫だからな」
 紡ぎ手・ディーバライナ(a42297)は小さなプーカ子に声をかけると、ひょい、と持ち上げた。肩に乗せると遠く迄見えるだろう。戦いの剣戟が小さくなっている。直に彼らもこちらへ追いつく事が出来るだろう。お元気料理人・ルーリ(a30381)は手をつないでいた子にそう説明すると、息を吐いた。
「私はお姉さんじゃなくてお母さんかしら……?」
 セラフィムの夜・ルービン(a51542)は用意したぬいぐるみを手に、1人のプーカ子の相手をしている。そろそろ眠いのか、時折こくり、と頭が下がるのが愛らしかった。
「あともう少しだ。帰ったら皆にもウェンブリンを教えてあげるよ」
 思念詩想・アレス(a10579)は言って、瞼の重そうな1人の枕元にそっとウェンブリンボールを置く。
「皆無事だと良いが」
 砂漠の民〜風砂に煌く蒼星の刃・デューン(a34979)が覗いた遠眼鏡に、淡い月明かりを浴びた人影が映った気がする。
「戻ったら、今度は大人の点呼ですね」
 プーカ達の点呼を担当していた誓月冰樹・アスト(a31738)がそう言って笑った。蒼銀の癒手・ジョゼフィーナ(a35028)はけが人を癒すべく、後方へと歩き出した。
「明日陽が登ったら出発……もうすぐだろうね」
 蒼氷の忍匠・パーク(a04979)は夜空を見上げながら呟いた。


 一夜が明けると素晴らしい昊天だった。昨夜の戦闘を気にもせず、プーカ子達が次々に起きだしてくる。
「なぁ〜ん、なぁ〜ん」(皆、朝ご飯なぁ〜ん)
 どこでもヒトノソリン・メルフィ(a13979)がノソリンの格好でプーカ子達を呼び寄せる中、一緒に起きてきた堕ちる雫・ルティチェ(a36670)は皆に挨拶しようと、立ち上がった。
「足が……なんだか重いんだよぅ…」
 立ち上がって、左足を踏み出そうとすると右足が引きずられる。
「あっ!」
 ブーツだ。右足のベルトが左足の金具に閉じられているのだ。プーカ子の仕業に違いない。
 やったな〜! そう思う間もなく、顔面から勢い良く転んだルティチェの頭上には、沢山の歓声が飛び交っていた。

 簡単な朝食を済ませ、出発の準備。今日の昼にはきっと辿り着けるだろう。
「よ〜し、大怪獣まで後少し。大大怪獣の元に誰が最初にたどり着くか競争するよー」
 赤き陽炎の怪盗姫・キサラ(a01454)指を空に掲げて大きく声を上げた。
(競争、遊び感覚なら途中で飽きたりしないでイケそうだと思う! キサラってば賢いー♪)
 ぎゅっと拳を握ったとなりで、ぴ、ぴ、ぴ、と音がする。同盟を奮い立たせる応援団長・ルシア(a35455)の笛だ。
「キサラさん」
「な〜に?」
「もう、みんな出発しています」
「え〜!」
 二人は足並みを揃えて駆け出した。

 黒い謎の半球。山岳程の巨大な棒のようなもの。
 これらは大大怪獣の一部であり、そしてそうではない。
 でも、確かにこれが手掛りなのだ。
 大きい様に言われた通り、儀式の準備、隊列を整え始めたプーカ子達を、警護の護衛士達が見守っている。
「なぁ〜ん。そういえばプーカの秘策って何だったのなぁ〜ん?」
 森羅万象の野獣・グリュウ(a39510)の言葉に、オプレイが笑った。
「俺たちには凄い力があるだろ?」
 例えば、眠っている人のほっぺに渦巻きを書いたり、マンゴーを枝から落としたり、人の背中に蛙を入れてみたり。
「悪戯パワーなぁ〜ん?」
 グリュウの言葉にオプレイはにかっと笑うと整列しているプーカ子達に混ざってしまった。

 ゆっくり、やがて元気に踊りのようなものが始まった。
「怪獣が近付いてこないか、周囲を見張るですね〜。来たら慈悲の聖槍でぶすっと行くですよ〜」
 ここ迄来て、邪魔をされたのでは敵わない。うっかり医師・フィー(a05298)はしっかりと周囲を警戒していた。
「あれだけ苦労して探したんだ…目覚めてくれたって罰は当たらないよね……?」
 シャオリィはプーカ達の踊りを見つめながら呟く。いつ、どんな大大怪獣が目覚めるのだろう。
「遂にワイルドファイア様に会えるのですな……どきどきしますね」
 ウィヴは言って空を見た。いつもと同じ青い空。だけど、今日はどこか輝いて見える。
「さて、寝起きが悪くないことを祈るのみだな」
 ザルフィンの言葉に、まったくです、とジルが笑った。


 いつまで続くのだと、皆が見守る中、プーカ達の踊りは唐突に中断された。恐ろしい、轟音によって。足の下から何かがせり上がってくるような感覚に襲われて、幽星・シェーラカーナ(a09604)は思わず声を上げた。遠くに見えた黒い半球が微かに輝いているように見えるのは気のせいだろうか。
「きっとうまく行ったと思うぞ!!!」
 ロロテアが飛び込んで皆にそう叫んだ。プーカ達も既に隊列を乱して、護衛士達の方へと駆け寄っている。
「よし、撤退しよう!」
 半球から、退路を確保するために動いていた黎明の燕・シェルト(a11554)が皆にそう告げる。温・ファオ(a05259)は頭上にホーリーライトを灯し、退路の目印となるべく前へ出た。
 突然、立っていられない程の縦揺れが周囲へ広がりだした。砕蜂系セクシーくのいちの・ヨイヤミ(a12048)は『お帰りはコチラ』と書かれた立て看板を杖代わりに身を起こし、改めて皆へと撤退を呼びかけた。
 鰐娘・ジョディ(a07575)は立ち止まっているプーカがいないか目を凝らす。何か大きなものがこの大地を揺るがしている。早く、その中心から退避しなければ──。
「さあ、プーカの聖域まで競争ですよ!急げー!」
 小さなプーカの子達へ、白翼の騎士・レミル(a19960)が声をかけて応援する。雪ノ下・イージス(a20790)は殿を守って、プーカ達の足取りを目で追いかけた。
「きゃあっ!!!」
 突然、轟音に紛れて、あちこちから悲鳴があがる。突然、大地が大きく裂け始めたのだ。
 南海全開ねずみ娘・キナ(a10835)は、誘導していたプーカの子が裂け目に足を取られたのに気づいて、素早く手を伸ばす。
「キナ殿! プーカ殿!」
 爆発寸前・ヒッサー(a17539)が見たのは、振動によって裂け目に叩き落されるキナとプーカの二人。それから、その二人を守るように大きなシャボン玉のようなものが現れる所だった。
「──浮かんでます」
 炎風姫・サン(a48059)が顔を上げる。二人を包んだシャボン玉のようなものは、地割れを越えてふわふわと浮かぶと、やがて、ぱちんとはじけて消えた。二人は地面に降り立った。
「混乱していますね……これは、逃げるのが先ですね」
 凱風の・アゼル(a00468)はスーピー君を誘導用に走らせて、撤退を援護する。しいて言やワタシ流・ティエン(a33937)は逃げ遅れたプーカ子が居ないかどうか、目を凝らして見守っていた。
「押さない、走らない……のは無理か」
 とにかく安全に、と言いおいてそよ風が草原をなでるように・カヅチ(a10536)がプーカ達を誘導する。ようやく赤い髪の子供達が退避できたであろう頃、揺れも幾分おさまっていた。
 蒼き仙人掌の華・サラティール(a23142)は後背に佇む巨大な、巨大な影に気づき、振り返った──。
 そこにあったのは山よりも大きな巨体だった。

 突然、何かが切れる音がする。
「虹だ!」
 プーカ子の一人の叫びに護衛士達は空を見た。

 長い眠りを篩い落とすかのように、大地のひび割れたあちこちから高く高く地下水が吹き上がっていた。風に舞う水滴は陽を浴びて一面に虹色を作り出す。大量の水は大大怪獣の足下に巨大な巨大な湖を広げていった。

──うわああああああああああああああああ!

 プーカ達の上げるもの凄い歓声の中、一面の視界を染めるのは赤の巨体。
「なんじゃこりゃあぁぁぁぁぁぁぁぁあッ!!」
 ワスプは叫びながら、巨大な半球が大大怪獣のただ片眼であったことを思い知るのだった。
「なぁ〜ん、おっきいなぁ〜ん! 凄いなぁ〜ん!」
 ティルは跳び上がって手を挙げる。レインやエリーシャは言葉もなく、ファオはただ手を叩くばかり。ロアンは日差しを避けるように腕を上げると大きく口を開いた。
「うわー…こんなすごいのが埋まってたのか!」
「…い、いや…想像をはるかに超えてるぞ、これは……」
「すっげーなー! 迫力満点って感じだー!」
「と、とんでもないなぁ〜ん……!」
 皆が思い思いの感想を上げる中、シファがそ、と息を吐いた。
「…これ、で…大事ならずに…すみます、ね」
「大運動会ができますね♪」
 ミライの言葉に猫少女紋章術士・キラ(a01332)がわくわくと頷いた。
「そうにゃ。これでワイルドファイア大運動会が開けるにゃ!」
「じゃあ、皆さんで帰るとしましょうか」
「大大怪獣さん…おはようございます、なんだよぅ。ボク達の仲のいい所、しっかり見てほしいんだよぅ」
 シルファはそう呟くと、くるりと身を翻した。

 大大怪獣は穏やかに、まだ止まぬ水流の中に静かに佇んでいるのだった。