<マルティアス城砦掃討戦>


「お集まりくださり、ありがとうございます。本日は、マルティアス城砦解放について皆さんのお力を貸して頂きたく、お願いに参りました」
 粉雪纏いし霊査士・セイラ(a90009)は冒険者達の方を見て、そう話を切り出した。

 マルティアス。
 元ソルレオン領東部の軍事拠点。リザードマンとソルレオンの戦争時には前線となって、数々の戦争を経験してきた難攻不落の城塞都市。
 だが、レルヴァ遠征時のソルレオン領陥落により、今はモンスター達の住処と成り下がっている。

「マルティアスを解放し、西方への護りの要や移動の際の拠点にすると言うのが今回の作戦の目的となります」
 セイラはそう言いながら、お手製のマルティアス付近の図を開く。
「解放の方法はシンプルです。中に巣くっているモンスター達を、出来る限り倒して欲しいのです」
 そういって、図の1点を指すセイラ。
「マルティアスには城下町があります。リドマーシュ護衛士団による先日の調査と霊査により、この城下町全体におよそ100体のモンスターが徘徊していることが判明しています。協力していただける方は、まずこのモンスター達の掃討をお願いします。最悪倒せなくても、町の外まで追い出して欲しく思います」
 説明を終えると、セイラは指を図の上の方へと滑らせた。
「マルティアス城砦の城内は、同じくおよそ100体のモンスターが徘徊していることが判明しています。ただ、危険度としては城内の方が高いため、こちらはリドマーシュ護衛士団を中心にして事に当たるのが、協力を要請する者の筋と考えます。現在、護衛士達が城内攻略の協力者を集めていますので、もし要請があった場合は協力をお願い致します」
 セイラの指は、今度は城下町の外へと滑る。
「城を攻略している間に外部からの攻撃があっては困りますので、周辺の警戒にもご協力頂きたく思います。また、城下町の外に出てきたモンスターの掃討もお願いできればと思っています」
 更に指は下へと滑る。
「また、城を攻略している間、私達リドマーシュ護衛士団の本来の仕事である国境線防衛業務が手薄になります。筋違いであるのは重々承知の上で敢えてお願い致しますと、今回の作戦の間に国境線防衛を手伝って頂ける方がいると、私達としても助かります。よろしくお願いします」
 セイラは説明を終えると、改めて冒険者達の方を見た。
「今回は皆様の善意に頼る形になり、大変申し訳なく思っています。ですが……マルティアスを解放すると共に、元ソルレオンの人達を『解放』する為に、どうか皆様のお力を貸して頂きたく思います」
 セイラは最後にそうまとめると、ぺこりと頭を下げた。



■参加作戦選択解説

(1)国境線防衛
 手薄になっている元ソルレオン領との国境線を防衛します。
 手負いのモンスターが流れてくる可能性がありますので、油断は禁物です。
(推奨レベル無し)

(2)周辺警戒
 城塞都市マルティアスの周辺を警戒します。
 外部から来るモンスター、および城下町から出てくるモンスターの掃討も行います。
(30レベル以上推奨)

(3)マルティアス城下町
 マルティアスの城下町に巣くうモンスターを退治します。
 また、城内からモンスターが出てきた場合の掃討も行います。
(40レベル以上推奨)

(4)マルティアス城内
 城砦内に入り、モンスターを退治します。
 リドマーシュ護衛士団、および、陽光の砦 リドマーシュ支援旅団『Wings of Light』に所属する団員のみの選択肢です。

 

<リプレイ>

●出陣
 マルティアス城砦掃討戦の告知を出して数日。
 粉雪纏いし霊査士・セイラ(a90009)は、告知前を遙かに上回ってリドマーシュ砦の前に集った冒険者達を目にして、感謝の思いを素直に伝える。
「こんなに集まって下さり、ありがとうございます……」
 深々と頭を下げるセイラ。と、そこへ2人の冒険者が来た。
「団長。久しぶりだな」
 1人は暗闇の太陽・バド(a26283)。
「元リドマーシュ護衛士として、ちょっとお手伝いに来たですよ」
 もう1人は、白の荒野・ヘレイン(a34252)。ヘレインの言う通り、2人とも元リドマーシュの護衛士である。
「俺はもうリドマーシュを離れた身だが、セイラ団長に言ったことは覚えてる。護衛士は辞めるけど、何か助けが必要な時は駆けつけるって」
 バドの言葉に、セイラはバドが退団した時の事を思い出す。確かに、彼はそう言って辞めていったが、それは社交辞令だと思っていた。
 だが、彼は自らの言葉を違えることはしなかった。
「今が、その時だよな?」
「はい……ありがとうございます!」
 セイラは嬉しかった。例え護衛士を辞めても、まだここを覚えてくれている。その優しさに感謝した。
(「同盟の冒険者達を信じて……本当に良かった」)

 集まった冒険者達は、希望に応じて配置され、城砦に向かう冒険者達は早々に出発となる。
 出発する直前に、セイラは漆黒の火狐・フィサリス(a90057)に尋ねた。
「結局、何人ほどが城砦に向かうのでしょうか?」
 フィサリスは辺りをぐるっと見回してから、微笑んで言った。
「数え間違えがなければ、今回集まった冒険者達の数は、およそ950。その内、国境線に大体270人が残るから、マルティアスまで行くのは、護衛士依頼のリドマーシュ護衛士も入れると700人くらいかな。その中で、城下町は400人ほど。周辺警戒は200人ほどだね」
 セイラは、自らの予想を上回る人数に、改めて驚く。
「……圧倒的ではないですか」
 マルティアスに巣くうモンスターは、城内に約100。城下町に約100と霊査されている。4倍程の兵力をぶつければ、城内はともかく城下町については早々負けることはないのではとセイラは思っていた。
「でも、油断は禁物だよ」
 フィサリスはそう言って、他の冒険者達の列に混じる。セイラも頷き、精一杯の声を張り上げて冒険者達に告げた。
「それでは皆さん、よろしくお願いします!」
 冒険者達は声を上げ、北へ向かって進軍を始めた。

●城下町
 マルティアスまでの街道を、冒険者達は北上する。
 その道は5ヶ月前に敗走し、決死の撤退戦を行った最後の場所。
 レルヴァ大遠征のあと、この街道はモンスターの闊歩するところとなっていたが、同盟の冒険者が西方国境のモンスターを駆逐していったお陰で、その数はかなり少なくなっている。お陰で、一行の道中に不安はなかった。

 1日の行軍の後、街道を抜けた冒険者達は城塞都市マルティアスに到着する。
 紅の奇術師・シン(a11563)は砦を見上げ、【紅幻影隊】の仲間達と共に城下町への入り口へと向かった。
「奪還屋、マルティアス奪還に参上だ!」
 他の冒険者達も、周辺地域と城塞都市内にわかれ、配置に付く。そんな中、城下町配置のチームの中で一大勢力であった【六風部隊】のリーダー。六風の・ソルトムーン(a00180)が声を張り上げた。
「六風旗と我らの矜持は折れはせぬ。進めィ! 敵を駆逐せよ!」
「応!」
 その声を合図にしたかのように、城下町班は次々と城下町へ進軍した。

 今回の戦いは、普段の戦争と少しだけ違うところがある。それは、敵への思い。
 螺旋の騎士・ビクトリー(a12688)は、『達人の一撃』を惜しみなく使い、モンスターを倒していく。
「今の姿は見るに忍びない。その命絶つことで、貴方達のかつての矜持と誇りを守るとしましょう」
 そう。今回の戦いは、モンスターとなってしまった元ソルレオンへの様々な思いを持って戦う者が多かったのだ。
 ただ、それが良い方向に向かったかと言うと、必ずしもそうではない。
(「敵は元ソルレオンっすか。やりづらいっすね」)
 緑の記憶・リョク(a21145)は傷つく仲間達を癒しながら、心の中に巣くう何かを感じていた。思わず回復の手を止めるが、その目の前でまた1体のモンスターが倒される。
(「それでも、彼らの分まで生き残るために戦い抜くっす」)
 リョクは割り切った。そうしないと、自分の誓いが守れないから。

 実際の所、戦局はセイラの予想通りだった。数で上回る同盟の冒険者達は、次々とモンスターを倒していく。
「この程度の敵なら死にゃしねー! 楽勝楽勝!」
 抹殺の・バーン(a30610)は単騎で前線に立ち、迫り来る敵を投げまくっていた。彼のように単騎でもそれなりの戦果は上げる事が出来たのだ。
 だが、度を超えた前進で、深手を負ってしまう者もいる。
 赫き虚像・メイノリア(a05919)は顔無しの仮面を被り、単騎で無謀とも思われる敵へと突っ込んでいた。
(「命尽きるまで戦おう。多くの終演の友と殺し合おう……」)
 彼女は死ぬ気だった。叫び声を上げ、血塗られた手で空に紋章を描く。
(「最後まで、抗って……」)
 そして、彼女は血の海に沈んだ。だが、最後の糸が彼女をつなぎ止める。
「大変やなぁ〜ん! 人が倒れてるなぁ〜ん!」
 警戒に当たっていたチーム【白き鷲】がメイノリアを発見する。ちょ〜トロい術士・アユム(a14870)が回復を試みるが、彼女の傷は癒えない。
「すぐに安全なところまで運ぼう!」
 異邦人・コウイチ(a00462)の言葉で、【白き鷲】達はメイノリアを運んでいった。

 城下町のモンスターはあらかた駆逐された。そうなると、次に気になるのは城内である。
 城下町班が進軍した後、少し遅れて城内班は突入していた。程なく、モンスターが何体か、城内から城下町へと流れてくる。六風部隊や、バドの居るチーム【黎明1】、そしてチーム【城壁隊城下組】はそこに待ちかまえて、城内から出てくる敵を殲滅していった。
「どうか安らかに……」
 焔纏風往・セルシオ(a29537)は『電刃衝』で出てくるモンスターを切り捨て、そう最後の言葉を掛けた。
「大丈夫でしょうか……。参戦されて居る方も少ないと聞きますし」
 チームの仲間から心配そうな声が上がる。だが、今は信じて待つしかなかった。

●周辺警戒
 城下町班が城下町で戦っている間、城塞都市マルティアス周辺にて警戒に当たっている冒険者達もまた戦っていた。
 しかも、城下町はセイラの霊査でおよそモンスター100体とわかっているが、外に関しては、情報は一切無い。
 さらに言えば、トロウルの襲撃などの不測の事態が起こる可能性も0ではないのだ。
 だが、冒険者達はそれでひるむような事はなかった。
「いいか諸君! 死ぬ事は許さん! 必ず生き残れ! そして哀しき叫びを上げる彼らに安らぎを与えてやれ!」
 チーム【魎月】のリーダー、紅赤朱・レオン(a42618)のその言葉が、周辺警戒班の心意気を最も良く語っていたと言えよう。迫り来るモンスターを倒す事が、志半ばにてモンスターになってしまったソルレオンを救う、たった一つのやり方なのだ。

 周辺警戒班で最も勢力の大きいチームは、【竜剣衆】であった。
「ようやく俺の出番だな! 気合い入れていくぜ!」
 黒剣の竜・グランデイル(a02527)は言葉通り気合いを入れると、横にいた団長の無の・ディーラック(a02723)へ話しかける。
「何匹やれるか、勝負だぜ!」
 ディーラックはそれには応えなかったが、仲間達に配置を指示し、自分は剣を取る。その姿を見て、グランデイルも敵へと剣を向けた。

 周辺警戒班は、主に3つの点に気を配っていた。
 1点目は周辺地域にいるモンスター。これは随時殲滅していく。
 2点目は、先程も述べた、西方から来ると考えられるトロウルの襲撃などの不測の事態。可能性が0で無い以上、警戒しておくに越した事はない。
 そして、3点目は城塞都市内からのモンスター。これは城下町班の戦力的に考えればほとんど無いと考えられるが、油断は出来ない。
 実際の所、こういう事もあった。荒波を穿つ海賊娘・ランディ(a36144)達チーム【青鉤】が城下町入り口を監視していると、ふらふらと出てくるモンスターの姿を発見したのだ。
 ランディは早速仲間達に声を掛け、そこに向かう。
「ここまで逃れてきたのは運が良かったのか? だが、そこまでだ!」
 仲間達の一斉攻撃で、そのモンスターはあっという間に倒された、とか。

 3つの点のうち、1と3に関しては圧倒的な数で冒険者達が有利だった。だが、2に関しては不安が残る。
 そんな中、リドマーシュ護衛士の重騎士・ディック(a06869)が所属するチーム、その名もずばり【西の警戒】は、城塞都市の西方向を警戒していた。
(「手負いのモンスターを西に逃がして、現段階でトロウルなどに気取られたらまずい」)
 彼らは極力西へはモンスターを逃がさないように殲滅し、仲間達と共に痕跡も出来る限り消去するように務めた。
 他にも数チームがこちらの方面の警戒に当たる。だが、幸か不幸か、彼らの警戒で不測の事態が起こることはなかった。

●城内
 城下町や周辺地域で冒険者達が戦果を上げている頃、リドマーシュ護衛士団を中心にした城内班もまた、城内のモンスター討伐に全力を尽くしていた。
「砦、頂きに参りましたのよ」
 【9班】所属の天鵝・チグユーノ(a27747)が、そういいながら迫り来るモンスターに『黒炎覚醒』の『ブラックフレイム』を放つ。

 城内は相談の結果、12の班を編成していた。ただ、【12班】は人数が足りなかったので、班に所属せず行動していた人やフィサリスを臨時に加え、支援部隊として置く事となる。結果として、城内を進む班は11班となっていた。
 もちろん、班に所属しないで城内を進む者もいる。だが、1人で出来る事には限界もあるものだ。自ずと、深手を負うことも増えてしまう。
 【12班】所属の棘草の君・フランチェスカ(a32574)は、支援部隊である事を生かし、城内を少しずつ回って戦闘不能者の救助を試みていた。
「む。あそこに倒れて居るのは……」
 駆けつけて確認すると、そこに倒れていたのは新生黒狐盗賊団長・ヴァゼル(a24812)。その下には、ヴァゼルに匿われるように気まぐれ山猫・エル(a46177)の姿がある。どうやら怪我を負ったエルを、ヴァゼルが身を挺して守っていたらしい。
「……おや……?」
 ヴァゼルはわずかながら意識を取り戻したが、すぐにまた気を失ってしまう。12班の面々は早速2人を担いで、攻撃を喰らいながらも2人を安全なところまで連れて行った。

 城内を進行する11の班の内、最も先まで進んだのは【2班】だった。他の班は5人編成なのだが、ここだけは何故か7人いたためだ。
 【2班】が最終的にたどり着いたのは、聖域の前だ。そこには未だ門番の姿があったが、耳を澄まして音を良く聞くと、聖域の中の戦闘は終わりに近づいていたようだ。
 程なく、外の様子を確認すべく、中から護衛士達が姿を見せる。その視線に気づいた大天使長・ホカゲ(a18714)は、他の仲間達に告げた。
「……今です。一気に押しつぶしますよ」
 ホカゲは『レイジングサイクロン』を放った。併せて、夢語りの蛍・ユウノ(a10047)が『高らかな凱歌』でフォローし、部屋の中から出てきた護衛士と共に、門番を挟み撃ちにする。疲弊していても、17対2では冒険者達の方に分があった。
 程なく門番は打ち倒され、聖域の開放は成功する。その報は、すぐに他の班にも伝わることとなった。

 【1班】は他の何班かと協力し合い、城の中心部を急ぐ。
「一人ニ殺、五人で十殺ですね」
 護る盾・ロディウム(a35987)が、そう確認をした。1つの班で十体倒せば、11班で百十体の殲滅が可能である。もちろん、そうは上手くいかないこともあるのは確かだ。無理をせず、全員が生きて帰れるように戦うのが、最重要である。
 程なく、1班は最もモンスターが多いと思われる『団長室』の付近にたどり着いた。だが、普段ならモンスターが多数徘徊しているはずが、今は散漫に暴れているのみ。
 と、そこへ勝ち鬨の声が聞こえてくる。1班は団長室へと急いだ。そこには、戦いを終え互いに体を支え合う護衛士達の姿。中の一人が死体から1本の剣を取る。
「……ごめんね。安らかに眠ってね」
 黙祷を捧げる護衛士達。それが終わったのを見て、侠盾・ウルカ(a20853)はトランペットを吹き鳴らした。
 それは、負傷による撤退の合図ではない。解放を完全に成し遂げた勝利の凱歌だ。

●国境線。そして……
 マルティアス砦へ向かった冒険者達を見送った後、国境線防衛にあたる冒険者達も動き始める事にした。
 と、言っても、普段はリドマーシュ護衛士が手分けして巡回して事足りる仕事だ。300人近くの冒険者がいても、普通の巡回では余剰人員が多すぎる。
 だが、実際の所はそれほど余剰人員が多かったという話はなかった。というのも、ある程度手に負えるモンスターなら、自分達で倒してしまうと言う冒険者達が多かったからだ。
 それでも、戦局は冒険者達に有利だった。国境線のモンスターは、冒険者達の討伐クエストのおかげで大分減ってきていたからだ。
「ひとまず、私にできる最大限のことをするだけ」
 弓腰姫・ヴェルーガ(a42019)をリーダーとしたチーム【弓腰】は、チームで連携をして、国境線に近づく敵を掃討していく。他の冒険者達も、時に連携をし、時に単独で迫り来る敵を掃討していった。


 冒険者達がマルティアスに向かってから3日目の朝。
 国境線の掃討を進めていく内に、少しずつだが手空きのチームが増えていく。敵は無限ではないのだ。
 チーム【アルテB】のリーダー、その手に取るは鋼鉄の剣・ジェフ(a48874)は状況を見計らって、チーム全員で哨戒に出る事にした。
「マルティアスで戦っている皆さんのためにも、ここは守り通さないと」
 ヴァイスブリッツ・エーファ(a35803)の決意は、やがて現実へとなる。先へ進んだ彼らの目に映ったのは、無事マルティアスを奪取し、戻ってきた冒険者達の姿だったのだ。
 その報は、物見櫓から北方を監視していたストライダーの忍び・ジンベエ(a03417)より、リドマーシュ砦に届けられた。セイラは居ても立ってもいられず、砦前の広場に向かう。そこへ無事帰還する、冒険者達。
 報告を受け、団長室にいたモンスターの持っていた剣を受け取ったセイラは、集まった冒険者達に深々と頭を下げる。
「……皆さん、ありがとうございました」

 こうして、城塞都市マルティアス攻略は誰も死亡することなく、完了した。
 だが、これで終わりではない。反撃の狼煙は、これから上げるのだ。