<第4競技:大障害・耐久ペアマラソン>

参加受付:8月30日(土) 16:30
参加締切:8月30日(土) 18:00

 1日目の最終競技です。
 ゴールはなんと「2日目の朝」という、文字通りの耐久レースです。

 各組から選抜されたペア達が、夜を徹して、大大怪獣ワイルドファイアの周囲にある長大なコースに挑戦します。ペアを組んだ冒険者同士で欠点を補いあい、長所を生かしあってゴールを目指してください。

イラスト:わしみゆーこ
 なお、参加ペアは、同じ組の中ならばどのような組み合わせでも構いません。
 各組毎の順位点を計算し、1位の組には200点、2位の組には100点、3位の組には50点の得点が加算されます。
 この耐久ペアマラソンは、リアルタイムシナリオの形式で判定されます。

●参加方法

 ペアマラソンには、3つの『大きな障害』が待っています。
 ペアは下の「プレイング」フォームで、『一緒に走る人のキャラクターID』と『最も力を入れる障害』、『プレイング』の3つを記入し、送信してください。
 (自分の名前ではなく、相手のIDを書くので、注意してください)


<危険な3つの障害を紹介!>


 コース中の最も危険な3つの障害を紹介します。

●第1障害 とっても危険なロッククライミング
 耐久ペアマラソンの第1障害は、命綱で繋がれた2人のペアが危険な山岳地帯を走破するという、大スペクタクルパノラマ浪漫となっています。

 今回は特に、『これは道ではない。壁だ!』と言わしめる、高難度コースを用意致しました。
 2人の力を1つに合わせ、人間の征服を拒む絶壁を踏破しましょう。
 運命の命綱が2人の心と体を、ガッチリ結び付けてくれるでしょう。
 ……当然ながら、落ちる時も一緒です。

 この障害では、ロッククライミングにおける役割分担をいかに上手く行うかが鍵となります。
 2人の体格差や得意分野などを踏まえ、色々考えてみましょう。

 なお、命綱をつけてさえいれば『ペアの相方を背負ったりおぶったり』する事に制限はありません。ですが、この障害を『お姫様だっこ』で踏破したという例はありませんので、挑戦しないように気をつけましょう。

●第2障害 巨大湖をリズムで渡れ!
 第2障害に差し掛かると、参加者の前には広大な湖が広がります。
 この湖の端ではヒトノソリンの係員が待っており、やって来た参加者に、上に大人2人が乗って踊れる程の大きさがあり、「リズムハス」の葉を1枚だけ渡してくれます。
 「リズムハス」の葉は、『水の上に置いてその上で踊ると、くるくる回りながら進んで行く』という不思議な性質があります。

 そう、参加者はリズムハスの葉の上に乗って、湖を渡り切るまで踊るのです!
 2人の心を一つにし、息のあったダンスで湖を渡り切りましょう。

 ですが、万が一他の参加者が乗ったリズムハスと衝突したり、踊りを止めたりすると、リズムハスは沈んでしまいます。
 そうした時には、もう一度ヒトノソリンの係員がいるところまで泳いで戻り、リズムハスの葉を受け取って、もう一度最初から踊らなければなりません。

 なお、ダンスの形式に制限はありませんが、勢いをつけ過ぎてリズムハスの葉から落ちないように気をつけましょう。

●最終障害 二人三脚でゴールを目指せ!
 最後の障害は、距離です。
 ジャングルの中に作られた1周約3kmのコースを、二人三脚マラソンで10周走り抜けます。
 そして、最後の『10周目』に差し掛かったペアには、ワイルドサイクルで取れる、輝く美しい水晶で飾られた、『幸せのタスキ』が掛けられます。
 このタスキを飾る水晶は「幸せを呼ぶお守り」とされており、幸せのタスキをつけてゴールした2人の幸せを、さらに確かなものとしてくれるでしょう。
 様々な障害を潜り抜け、更に固くなった2人の絆を確かめつつ、ゴールに駆け込んでください。

 ですが、最終障害が走るだけで終わるはずもありません。
 幸せのタスキをかけたペアに対しては、『重傷になりそうな危険なものを除いた、あらゆる妨害行動』が許可されるのです。
 妨害によって幸せのタスキを失ってしまったペアは、ゴールの場所でもう1度タスキをかけてもらい、さらにもう1周走り続けなければなりません。
 幸せのタスキを掛けてゴールに駆け込むその時まで、この障害物マラソンは終わらないのです。

 さぁ、死力を尽くして、2人でゴールを目指しましょう!



<結果発表>

 大障害・耐久ペアマラソンの結果を発表します。
 総合1位と2位が『夏組』、3位は『秋組』という結果となりました。
 この結果により、夏組に300点、秋組に50点が加算されます。


●第4競技の得点

参加ペア数27ペア28ペア21ペア23ペア
獲得得点0点300点50点0点



 なお、上位入賞者は下記のようになっています。
 優勝したフィルフィスさんとルッフェさんは、この競技の伝統を守るためにも、必ず幸せになってくださいね。それでは、発表です!

●上位入賞者

優勝:夏組!

精粋に身を沈めし水玉・フィルフィス(a37827)
旋風の医術士・ルッフェ(a51358)ペア

2位:夏組

天狼の黒魔女・サクヤ(a02328)
夢風幻奏・コーガ(a26362)ペア

3位:秋組

風纏・シアン(a68253)
ドリアッドの医術士・ティアン(a68255)ペア


<リプレイ>

●競技開始は華やかに〜第一の関門〜
 春夏秋冬4組の勝利祈願応援合戦が終わるやいなや、ペアマラソンのスタート地点はこの過酷な競技に参加するランター達に埋め尽くされた。さらに彼等を応援する者達が遠巻き囲み、大変な混雑ぶりだ。
「よろしくお願いしますね」
 丁寧に挨拶をする肖像画の中の幻影・リディア(a33408)に、けれど永久に我が舞姫の側を望む者・ファル(a33563)はついそっぽを向いてしまう。
「フェリシスとは走れないし、仕方ないか」
「何か言いましたか?」
「いや、よろしく頼むな。最後の二人三脚に全力を出しきるぞ」
「はい」
 リディアは素直にうなずく。

「よ〜〜い……いっけ〜〜〜〜!!」
 ワイルドファイアの霊査士・キャロット(a90211)が被っていた帽子を大きく振り回す。それを合図に水着姿のランター達は一斉に走り始めた。コースは大大怪獣ワイルドファイアの周囲を廻る途方もない距離を様々な障害をくぐり抜けていく耐久レースだ。皆、大切なパートナーと命綱を結び最初からかなり速度をあげて走っていく。すぐにスタート地点の人数は半減し、応援の者達も別の場所へと移っていく。

 コースは少しずつ傾斜していき、ついには全くの山道となる。そしてランナー達を待つ最初の関門が蛇行するコースの向こう側に見え始める。
「なんだよ、これ! これがマラソンのコースって事?」
 裏山の百鬼夜行・タクミ(a52755)はさすがに他の言葉が出ない。それは垂直方向へと進む絶壁という名の道であった。
「でもやるしかないよね。行こう、タクミさん!」
 風たる風の少年・カイ(a74705)はギュッと岩を掴む。タクミも飛びつくようにして岩にかじりつきカイよりも先行する。

「とりあえずガンガン昇っていくぜ」
 崖下に取り付いた座敷武道家・リューラン(a03610)は後ろも見ずに絶壁に挑み始めた。振り返らなくてもそこに白夜の鋼璧・キリア(a71164)が居てくれる事はわかっている。
「リューランさん、俺が少し先に登って手を貸しますなぁ〜ん」
「俺の方がてめぇよりも身が軽いんだぜ」
「でも、俺の方が力持ちですなぁ〜ん」
ニコニコしながらキリアはリューランを追い越し登っていく。

 津・スルット(a25483)と北海道勇払郡むかわ町の町魚・シシャモ(a31183)はがっしりと肩を組み、1つ1つ確実に登る作戦を実行しつつあった。しかし……少し登るとそれ以上はどうしても進みあぐねてしまう。組んだ肩が互いの行動の自由を大きく奪ってしまっているのだ。
「……のぉ、やはり……この作戦には無理があったのではないかのお?」
 見た目と実年齢のギャップが著しいシシャモはスルットに言う。
「奇遇ね。私も今あなたにそう言おうと思っていたところなのよ」
「気があうのぉ」
「だよね」
 互いに笑っているが、順位はほぼ最下位に等しい。

「そこ、気をつけろ、ユキ。結構脆い」
「はい、レトルトさん。ありがとうございます」
 動物看護士・レトルト(a67659)と幸いを祈る花・ユキ(a72129)も落下しないよう互いに肩を組み、足場を教えあいながら絶壁に挑んでいた。けれど、どうしても限界がある。
「ここからはどうするか」
「手も足も届きません」
 比較的安定した足場に2人で立っているが、そこから先がどうにも進めないのだ。レトルトとユキも最下位集団の中にしっかりと入っている。

「ここはタイミングをあわせてテンポ良く……」
「そうそう。それでもって1つ1つを正確に! だっけ?」
 崖を昇り始めた神を斬り竜をも屠るメイドガイ・イズミ(a36220)はすぐ横で、自分が作成した『ペアマラソン難所踏破心得』を反復する毎日を便利にお得に・ピタポン(a43671)に冷徹な目を向ける。
「何? ボクは悪くないよ。耳にタコが出来る程何回も繰り返したの、キミなんだからね」
「……そうでした。では、その心得のまま行きましょう」

「お姫様だっこで踏破しろという天啓! 確かに受け取った!」
 なまはげハンター・ミハイル(a08186)は命綱で結びあった命の抱擁やっちゃいます・アリア(a10359)を両手に抱きかかえ、無謀にも絶壁と呼ぶに相応しいコースをよじ登っていく。
「我々の哀の力を存分にお見せしましょう!」
「わははは、その通りだ! さぁ、逝こうぜ! 無限大の彼方へ!」
 破天荒にみえて、だがミハイルとアリアのペアは姿勢以外の点では慎重かつ周到であった。アリアが昇りやすそうな場所を指示し、ミハイルは躊躇なく全身を使って昇っていく。しかし、速度は出ない。

「こんな崖は私初めてみるよー!」
「ヒナさん、大丈夫? 疲れたらいつでも言ってよね」
 森閑の大地・ガイヤ(a06403)はペアを組む紫の紋章・ヒナ(a75181)を気遣い、何度も振り返る。崖に僅かに取り付きよじ登っているのだが、探せば身体を休める場所がいくつかある。
「うん、まだ大丈夫」
 ガイヤとヒナは腕と腕が強く握りあい、力を合わせて昇っていく。

「ニーナさん、あっちにゃあ」
 聖魔の女騎士・ニーナ(a48946)に背負われた猫にゃん・イオン(a02329)は登りやすそうなルートや安全そうな足場を探し、その都度ニーナに伝えていく。
「わかりましたわ。少し揺れますけれどしっかりと私に掴まっていて欲しいのですわ」
「わかったにゃあ」
 危なげない様子でニーナは確実に上を目指す。イオンが1人で登るよりも遥かに早い。

「あそこに手を掛けるといいと思うわ」
「どこだ?」
「もっと右よ、み〜ぎ〜」
「それは右上とか、2時の方向とか、もう少し的確に指示してくれ」
「厳しいわね」
 疾風の武人・ユウナギ(a13110)と日輪のオカリナ奏者・アサナギ(a43388)ペアは姉妹同士、多少ぞんざいでも息のあった様子で崖を登っていく。アサナギが指示しユウナギが先行する作戦だが、今のところ功を奏している様だ。

 夜舞蝶・シズル(a35178)は慎重に手がかりへと腕を伸ばし、足場を移動していく。
「絶対に落ちんように登らんとあかんと思うんよ。ちょっとばかり時間はかかるけどなぁ」「シズルさん、私の手を取ってください。大丈夫、絶対に離しませんから……」
「ほんまに?」
 小首を傾げにからシズルは先行し上から手を差し伸べる双心の紋章術士・ゼロ(a60940)の顔と手を交互に見つめた。そして触れあう手と手がぎゅっと握りしめられる。
「少し急ぎましょう」

「最初から全力で頑張るなぁ〜ん」
 黒き咆哮・ルージ(a46739)は全力で崖を登り、少し先行しては下から上がってくる火炎六花・ルーシェン(a61735)を引き上げる。
「有り難うございます。先程からお手間を掛けて済みません」
「全然問題ないなぁ〜ん。ドンドン進むなぁ〜ん」
 もう随分上がってきたというのにルージは力強く崖を登り続け、少しも疲れた様子がない。

「ミーナ!」
「うん!」
 柳緑花紅・セイガ(a01345)の手を取ると、魂の継承者・ミーナ(a15330)は身軽にその手をロープ代わりにして崖を素早く駆け上がっていく。まるでここが断崖絶壁の途中ではないかのような躊躇いのない動作だ。
「よし、この調子でドンドン行くぜ。どうやらいいペースみたいだしな」
「まだまだ行けるよ。こんな崖、さっさと登っちゃおうよ」
 ミーナは余裕の笑みを浮かべる。

 草を撫でる風・スージィ(a63178)を背負って登る昏哭双蒼・グランス(a61725)は確実に岩を捕らえ、軽快な速度で壁を登っていく。
「グランスさん、もっと左寄りから登ると楽ちんじゃないかなって思うよん?」
 グランスの背にしがみつくスージィは岩場を検分し、少しでも登りやすそうなコースをグランスに提案する。
「そうかもしれないなぁん。ちょっと揺れるけど俺にしっかりと掴まっているなぁんよ」
「わかったよん!」
 岩と岩の間を飛び移るグランスとスージィは危なげない。

「アークさん、私……自分で登れるわ」
 信念を貫きし剣・アーク(a74173)に背負われた風の大地を流れる水・セシリア(a74884)はまた同じ事を言った。もう壁を昇り始めてもう3度も言っている。
「どこか辛いのか?」
 確実に手がかり、足がかりになりそうな岩を確かめながら登るアークも同じ事を尋ねる。セシリアはアークの背でかぶり振る。
「そうではないけど、アークさんが疲れてしまうもの」
「俺なら平気だ。それよりもここで前に出る!」

「あっ……」
 筋肉信仰者・アレクセイ(a67151)が手を掛けた岩の表面が脆くも崩れる。
「アレクセイさん!」
 ずるずると崖を滑り落ちるアレクセイに引きずられてシグルド流護法闘士・ガラン(a66761)も登ってきた崖を落ちていく。
「ファイトおおおー!」
「いっぱぁー……いたたたたっつ!」

「同じ様な掛け声を考えた人がいたんですね。ふあぁぁああ」
 遠くから聞こえる雄叫びに野に咲く花・エルシー(a10291)は眠そうに目をこすりながらあくびをした。お守りの某霊査士人形も睡魔を完全に払拭するには至っていない。
「エルシーさん、気合いを入れるのです! 気合いがあれば大抵の事は出来ます! 眠らずに絶壁を登ることだって! あの方がきっと見守っていてくれます!」
「ファイトー!」
「いっぱーつ!」

 登り切ったものの、崖の上では怪我を負った者達も何人かいる。
「ま、皆様諦めるのはまだ早いですわよ。わたしが手当して差し上げますわ」
「美味しいもの食べて、もう一度頑張りましょう? ファイトふぁいとです♪」
 宵闇猫街道・セラフィータ(a45009)は怪我人達に応急処置を施し、十九番騎士・シャルロッテ(a25672)はそんな相棒と自分の為に野営の支度をする。本当は湖の畔まで進んで置きたかったが、夜も更けているしどうやら今夜はここで仮眠を取る事になりそうだった。

●第2の関門〜湖上の舞踏会〜
 あたりはもう真っ暗であったが、コースは周囲は灯りが点在し走るのには不自由しない。ほとんど垂直の壁を登り切り休憩も取らずに走ってきたランナー達は、真昼の様に煌々と照らし出された広大な湖にさしかかった。空は天鵞絨の闇に宝石の様な星が降るようにちりばめられ、朝はまだ遠い。それなのに地上にある湖のあちこち、湖面にも突き出すように松明が掲げられ、湖面は空の星と月、そして松明を揺らめきながら映し舞踏会の磨き抜かれた床の様に広がっている。
「よく来たなぁ〜ん。これが『リズムハス』なぁ〜ん。そっと浮かべて葉っぱの上で踊り続けるなぁ〜ん」
 係員らしいヒトノソリンの娘が辿り着いたランナー達に葉を渡していく。

 ロッククライミングに重点を置いた大地を駆ける弓騎士・クリスタル(a15071)は先行して崖を登り、獄炎の覇者・シズ(a27395)を一気に引き上げることで時間の短縮に成功していた。
「ここからはシズさんにお任せなのよね」
「はい。クリスタルちゃんが頑張ってくれたから、うちも頑張るの。うちが歌を歌うから、そのリズムに合わせて踊って欲しいんや」
「わかったわ」
「勢いはあまりつけんでもえぇから、確実にゆっくりと踊ってくれたら上出来やと思うんよ」
「それもわかったわ。行きましょう」
「はい」
 リズムハスの葉が暗い湖に浮かぶ。

「結果的には遠回りしてもマナヤさんが楽に登れる道を探すことが正解でしたね」
 子供好きなグラップラー・ネレッセ(a66656)は嬉しそうに顔をほころばせる。
「うん、ボク、助かっちゃった。それもこれも、み〜んなネレッセのおかげだよ。本当にありがとう。ここからはボクに任せてよ」
 歌姫修行中・マナヤ(a72408)は自信満々にネレッセに請け合う。歌舞音曲は吟遊詩人の領域だ。
「ボクのやるように踊ってみてよね」
「わ、わかりました」
 ネレッセは嬉しそうにうなずく。

 真銀の聖騎士・カイト(a15070)と魔曲の剣士・ルナ(a18266)も重点を置く競技をロッククライミングとダンスに分けていた。
「カイトさん、疲れていないですか?」
 終始ルナを背負って崖を登り切ったカイトにルナは心配そうに見上げて言う。
「大丈夫だよ。ルナは小さくて軽いから、少しも疲れてなんかいないよ」
「よかったです」
 本当にホッとしたようにルナは微笑む。
「でもここからは僕はちょっと苦手かもしれない」
「ダンスが、ですか?」
「水の上だしね」
「それならここは私に任せてください」
 ルナは嬉しそうだ。

「無理せずマイペースで頑張ろうぜ、リン」
 断崖絶壁を登り切り、巨大な湖の端まで来るとお子様な犬牙狩人・ディス(a64561)は走り出そうとした とらぶるめぃかー・リン(a65334)を押しとどめた。
「何するなぁ〜ん。マイペースはわかってるなぁ〜ん。でも、これは競技だから時間が短い方が優勝なぁ〜ん」
「それはそうなんだけどな。リンに怪我をさせるわけにはいかないだろう? だから、注意して進まなきゃいけないんだ」
 夜道は暗しな、とディス言い添える。
「……わかったなぁ〜ん。リンは先にいかないから、ディスさんがもっと先を行くなぁ〜ん」
「お、おいおい……」
 リンに背中を押され、ディスは否応なく湖へと向かわされた。

 リズムハスがクルクルと廻っている。陣風若旦那・ミヒャエル(a01793)と誓いの守護剣士・ヴィクス(a58552)を乗せた葉が湖の上に浮かんでいる。
「崖の礼にここはおいらが責任もって先導しうる! ウーマンボ!」
 腰に巻いた薄い布をヒラヒラさせ、ミヒャエルは腰をヴィクスに押しつける。
「おい、これが本当にダンスなのか?」
「当然だぜ! ウーマンボ!」
「誰もそんなに騒いで踊ってないぞ」
「これが普通! マンボ!」
 夜の闇と淡い灯りに他のランナーの踊りはあまり見えないし、ヴィクスも舞踊に詳しい方ではないのであまり強くは反論出来ず、踊りを続けるしかない。

「ここも勝負のポイントだぜ」
 とんでもない絶壁を登り切った体は雑草で出来ている・アーク(a29905)は夜の闇に沈む巨大な湖を見るとそうつぶやいた。
「そのようだな」
 相棒である風に柳・デリコ(a67423)もアークの横に並び、同じように腕を組む。
「ロッククライミングは2人で力を合わせ、結構短い時間で登れたんだ。次も力を合わせるしかなんじゃねぇの?」
「まぁそうなるな。格闘演舞なんてダンスは1人じゃ出来ないし」
「そうだな」
「じゃ行くか」
 2人はリズムハスを渡してくれるヒトノソリンのところへと走り出す。

「僕、ダンスって苦手です」
 巨大な湖のほとりで故大道芸人・シキヤ(a50327)はサラリと言った。東海の羅針盤天使・イアーゴ(a18036)は肩をすくめる。
「第一の関門ではあなたに大変お世話になりましたから、ここは私がエスコートします。どうぞご安心下さい」
「助かります。イアーゴさんって頼りになりますね」
「いえ……簡単なステップさえ覚えて頂ければ、踊る曲はゆっくりととしたテンポのものですから難しくはありません」
「……はい」
「では先ず基本のステップです」
 星明かりのもと、イアーゴの簡単レッスンが開講した。

「これ、とっても楽しいんですの。ラトレイアちゃん、ほら、ほら!」
 踊るたびに葉はクルクルと回転し、少しずつ湖面を滑るように移動していく。仕組みはわからないが、蠱惑の妖狐・ライカ(a00857)は魅せられた様に葉の上で踊り続ける。次第に踊りのテンポはあがり、葉の回転もあがってくる。
「あ、ライカさんエスコートしてくれるならもうちょい優しくっ……あああぁぁ」
 振り回される踊りも、はみ出してしまいそうな葉の回転も目が回る。自分らしく輝いて・ラトレイア(a63887)はライカへの言葉さえも悲鳴に変わり最後まで言えない。

「ルストさんがこんなに踊りが上手だとは思いませんでしたわ」
 普段よりも柔らかな口調で慈愛に満ちた旋律を紡ぐ幻蝶・ロイリィス(a72224)が踊りながら囁く。こんなにも心が柔らかくなってしまうのは、この満天の星空のせいなのか……それとも目の前にいる狩人・ルスト(a10900)のせいなのか。
「そんなことはありません。ロイリィスさんが……」
「あっ……」
 僅かにバランスを崩しロイリィスが葉の外に出てしまいそうになるのを、ルストが抱き留めた。見つめ合う2人……けれどそのままリズムハスは沈んでしまった。

「このぐらいのテンポならば大丈夫ですか?」
 漆黒の風・リュウナ(a65284)は踊りながら優しく、穏やかな時を望む・リーディア(a10313)へと微笑みかける。ゆったりとした踊りのせいなのか、リズムハスの回転も移動速度も緩やかだが、2人を乗せて音もなく星を映した湖面を移動していく。
「えぇ大丈夫。絶壁を登るときも今も、いつも助けて貰っちゃって……」
「私達、ペアですから」
「そうね」
 ステップを踏む2人の位置は軽やかに変化する。

 清廉雫の蒼蛍・ロレッタ(a35762)とドリアッドの忍び・ティータ(a74221)は踊りながら軽快で陽気な歌を歌う。歌に合わせて2人はステップを踏み踊り続ける。リズムハスは優しく2人を抱き留め、踊りにあわせて進んでいく。
「ペアマラソンってずっと過酷なんだって思ってたから、ボク、こんなに綺麗な場所があるなんて知らなかったです」
 歌や踊りの合間にロレッタは早口で言う。
「ボクもだよ。でも一緒にいるのがキミでよかったよ。ねっ」
 両手を繋いでクルリと回る。可愛らしくて元気な踊りだ。

 月夜の闇に吹く風・マニナ(a25919)と神速の楽器奏者・チェシャ(a62505)はなるべく湖の中央を葉が進むように微調整しつつ踊っていた。
「誰ともぶつかる心配はないし、良いコースをとったわね」
 マニナの口調は普段よりもずっと優しい。星明かりを仄かな松明の光が2人を柔らかく照らしている。
「うん。ボクの中にある音楽がボクを踊らせる。だからボクに合わせてね」
「……はい」
 少しばかり遠回りになったが、障害のないコースをリズムハスはしずしずと進んで行く。

「大丈夫。私がサポートしますから……ね?」
 嵐と共に進みゆく・ヴィナ(a09787)は気まぐれ野戦山猫・エル(a46177)の手を優しく握りしめる。暖かいぬくもりが2人繋いだ手から手へと伝わっていく。
「無理、しなくていいよ? ボク、負けないけど無理はあんまりしないよ」
「多少は無理しないと優勝は出来ません」
「そうかなぁ?」
 空の星と湖面に映る星の狭間で2人はクスクスと笑い、緩やかに踊り続ける。

 典雅なステップを披露し令華・キャメロット(a16356)はリズムハスという小さな舞台で踊り続ける。ペアである宵藍・リュー(a36901)も同じように手をつなぎ、対となる踊りを優雅に続ける。
「あっ……」
「大丈夫です」
 そっとリューの手がキャメロットの腰を支え、すぐに建て直したため踊りは途切れない。
「わたくしの事、ずっと見ていて下さいましたのね?」
「勿論です」
 リューの目には星明かりの中でもキャメロットは輝いている。

「もう少し左……ではなく、右寄りでないとぶつかってしまいます」
 死の恐怖・シオン(a16982)は踊りながら左右前後を目の端に捕らえる。
「わかったにゃん。1,2,3 それ!」
 踊りながらタイミングを取り、月にうさぎ月夜に黒猫・タンゴ(a36142)の声に合わせて踊りを変える。掛け声の他は目と目を見つめるだけ。それだけで2人のリズムはシンクロしていく。ギリギリで他のリズムハスをすり抜け、クルクルと廻る葉が湖面を滑っていく。

「キオウさん!」
「リューシャに合わせるよ」
 軽やかに跳ねる靴音・リューシャ(a06839)と難攻不落の渇き・キオウ(a25378)を乗せたリズムハスは軽やかに回転しながら湖の上を進んでいく。
「随分と息が合ってきた様な気がしませんか?」
「そうだね」
 最初はぎこちなかった葉の動きも今は滑らかになっている様に感じる。もう岸辺は闇に飲まれて見えなくなり、まるで2人だけしかこの湖にはいないかのようだ。

「なぁ〜ん♪ なぁ〜ん♪」
 満天の星、篝火に浮かぶ湖面、そしてリズムハスには2人だけ。歌おう牽引のピンクノソリン・ミリア(a26181)は最高のシュチエーションに酔わずにいられない。次第にペアである元独立第三小隊隊長・フィリス(a44284)に身を寄せていく。
「こ、こら寄るな。私は女性は苦手なっ……にゃぁぁっ?!」
「なぁ〜ん♪」
「や、やめい!」
フィリスの声が聞こえていたのかいなかったのか。ひしっと抱き合う2人の乗るリズムハスはずぶずぶと沈んでいく。
「そこの2人、やり直しなぁ〜ん」
 遠く岸辺から係員の声が聞こえた。

 精粋に身を沈めし水玉・フィルフィス(a37827)と旋風の医術士・ルッフェ(a51358)を乗せたリズムハスは徐々に回転と速度をあげていく。最初は慎重に様子をみていたのだが、慣れてきたのでテンポをあげてきたのだ。
「その調子よ、落ち着いてね」
「ルッフェさんも、足元気をつけて……下さい、ね?」
「わかってるわ」
 自然と笑顔が浮かび、葉の上だというのに踊りが大きくなる。その都度、リズムハスの動きもまた軽快になっていくのだ。

「アスタには世話になるよね」
 その手に取るは鋼鉄の剣・ジェフ(a48874)は照れくさそうに笑う。それでもいつもより素直になれるのは、ここには他に誰もいない……と思う程静かだからだ。微かな水音だけがこの舞踏会の音楽だ。
「ここは私がリードしてあげるわ。だって舞踏は得意なんだもの」
 いうだけあって、アスタのステップは優雅で軽やかだ。自信は姿勢にも現れる。
「眠くないかな?」
「ううん」

 紫月姫・シュビレ(a31087)と千紫万紅・ミレイラル(a43722)は他のランナー達とぶつからないよう、慎重に葉を進めていた。揺れる炎の光に浮かび上がる2人はゆったりとした動きを踊っている。リズムハスもまた静かに確実に湖面を進んでいる。
「疲れませんか?シュビレさん」
 ミレイラルは優しくパートナーを気遣う。シュビレはすぐにかぶりを振り、ニッコリと笑った。
「わたくし、湖の上で踊ったことはありませんでしたわ」
「私もです」

「よっし! オリエさん踊ろー♪」
 受け取ったリズムハスを湖面に浮かべ、桜奏・チェリート(a16606)はトンと飛び乗ると清麗なる空牙の娘・オリエ(a05190)に手を差し伸べた。
「うん! わたし、踊るのは得意だよ」
 オリエはチェリートの手を取り、葉の上で軽やかに踊り出す。クルクルと葉が回り出し動き出す。
「踊りには音楽が欲しいね。わたし、演奏得意なの」
 甲高いホイッスルの音が湖にこだまするが、リズムを刻むのは難しい。
「あっ!」
 あっと言う間に2人の乗った葉だけではなく、周囲の者達までリズムを崩し次々に轟沈した。

 紅の奇術師・シン(a11563)と天上の演奏家・フィーナ(a18985)はリズムハスの真ん中でしっかりと抱き合い、踊っていた。ただ、どうにもその状態ではリズミカルなステップを踏むというわけにはいかない。それでも踊りは続けていたので、リズムハスは沈んだりはしなかったが、ただ湖面を漂っているに等しかった。もし、もっと他のランナー達が見えたのなら自分たちの低速度を認識できたかもしれないが、ロマンティックな星明かりに照らされて抱き合う2人には互い以外に見えるものはない。
「シンさん……いつもありがとう」
「どうしたんですか? 改まって……」

 闇風の貴公子・ルシフィ(a69843)と蘭の愛し子・フウラン(a75362)の2人も浮かぶリズムハスの中央で向かい合い、緩やかに優雅な踊りを続けていた。その為、リズムハスの移動速度もまた緩やかだったが2人とも焦ることはない。
「ルシフィ、作戦通りにゃ」
 フウランは悪戯っ子めいた笑顔でクスクスと笑う。
「先はまだ長いからな。ここらで体力を温存しておかないとゴールまで保たないだろう」
「うん、ルシフィとフウランちゃんの作戦勝ちなのにゃ!」
 しゃかりきに進もうとする別のペアを軽くかわし、2人は踊り続ける。

 逆に蛇神の加護を受けし者・ミズキ(a74396)と蛇神に仕えし者・アオイ(a75567)はリズムハスの両端に乗り、重さが均等に掛かるように努める。また、回転系の踊りを多用せず縦方向の動き、ジャンプをする。
「これでいいのか?」
 ミズキの言葉に踊りながらアオイはうなずく。
「クルクル回ると酔ってしまうかもしれないでしょ。こういう踊りならバランスも取れるし葉から落ちちゃうこともないと思うよ」
「わかった」

「お手をどうぞ、お姫様」
 おどけて最敬礼し手を差し伸べる赤棘・ルーク(a56500)にニッコリ笑ったまま祝福してあげなくもない・フェニモール(a53081)は大仰に手を乗せる。
「私の手を取ったのだから、共に栄光への道を目指しましょう」
「勿論!」
 芝居がかった仕草を捨て、2人は軽やかにリズムハスに飛び乗る。そのままクルクルと踊り始めた。2人を乗せた葉も回転と移動を始める。ずっと一緒に育ってきた幼なじみ同士のペアだ。息はピッタリと合っている。

「こういうのは、器用さと度胸だよ。思い切って踊ればなんとかなるって!」
 悪戯狩人・フェロル(a71274)は我が道をゆく白きサザンクロス・シュトーカ(a70658)の手を取り、ダンスのリードを取る。
「うん、そ、そうか。ダンスって奴も奥が深いぜ」
 慣れないダンスのステップに必死に足元を見つめながら、シュトーカは必死に足をさばく。せめてフェロルのリードに合わせて踊りたい。
「そうそう。その感じ!」
「そうか!」
 嬉しそうにフェロルを見た瞬間、両足がもつれ……派手な水音がして2人とも湖にダイブした。

 安定した踊りをみせたのは風纏・シアン(a68253)とドリアッドの医術士・ティアン(a68255)であった。ティアンがアレンジしたオリジナルの振り付けは音のない静かな湖面の舞踏会でもテンポを取りやすく、ダンスが途切れない。
「ティアンさんのお陰だね。僕達のリズムハスは随分と速度が速くて軽快に湖を滑っていくようだよ。ありがとう」
 シアンの言葉に褒められたティアンははにかんだ笑みを浮かべる。
「以前、旅の一座で教えて貰った技量を活かしただけで、元はシアンさんが覚えた踊りです。ですから私のお陰なんかじゃありません」
 静かにティアンは首を振る。

 優雅に2人の立ち位置がクルクルと回転し変わっていく。約束の場所・レイザス(a66308)と始まりはいつも突然・ヤミー(a66309)の踊りは息のあった調和を見せる。「タイミングは私に任せろ。安心して自由に踊れ、ヤミー」
 小柄だが紳士然としたレイザスは背伸びをしてヤミーの踊りをフォローする。
「お兄様のエスコートで踊るなんて、もう何年ぶりでございましょうか。とても、とても懐かしゅうございますわ」
「感傷的な……今は競技の時だぞ」
「そうでしたわね。なんだかこんな場所で踊っていると忘れてしまうそうですわ」
 軽やかな2人の踊りは途切れることがない。

●最終障害〜幸せのたすきの果てに〜
 巨大な湖を踊りながら優雅に渡ったランナー達を待っていたのは最後にして最大の難関、密林の中を廻る二人三脚での長距離走であった。

「リズムハスも順調でしたし、二人三脚でもこの調子で参りましょう」
 天唄・ソウェル(a73093)は白狼の傭兵騎士・シーナ(a02280)へと笑顔を向ける。確かに緩急を付けたダンスにより、2人は別のランナー達と衝突すると来なく巨大湖を抜けてきたのだ。
「最終まではペース配分して力を温存するぞ」
 シーナは全力疾走で最後の1周を駆け抜けるつもりだった。
「承知致しましたわ」
 しとやかなにソウェルは一礼する。

 半眠医術士・マナル(a17573)と灰影・ハヤテ(a59487)のペアは最初の絶壁での先行をこの二人三脚まで持ち越していた。ハヤテが先行しマナルを先導する作戦を功を奏したのだ。
「トラップは俺に任せろ! そして一気にゴールへと駆け抜ける!」
「それもまた良き作戦じゃろう。どれ、そろそろ実戦の時間じゃろう」
 右でも左でもやってきたランナー達が二人三脚を始めている。マナルとハヤテも足を結び、掛け声とともに走り出した。

 同じく彷徨い人・シヤク(a14804)と赫飃儘趨・ナジャ(a41098)も最初の関門であるロッククライミングで順位をあげているペアであった。
「これが作戦勝ちってやつだな」
 互いの特技や長所を生かし、ロッククライミングはナジャがリードを取り、二人三脚はシヤクがタスキを守る。
「とにかく先ずはタスキを取らなくてはどうにもなりません。9周、走りますよ」
「望むところだ。遅れたりしたら尻を蹴り上げるよ」
 ナジャは笑いながらいう。

 そのすぐ横と灰色の貴人・ハルト(a00681)と天狗のマサタダ・セイジ(a26709)のペアが走っていた。このペアもセイジがロッククライミングで実力を発揮し、防御に長けたハルトが最終周でのタスキを守る作戦だ。
「ここまで走ってみると、巨大湖のダンスが一番きつかったぜ。肉体的にも精神的にもな」
「あの葉は男ふたりには少し手狭だったからね」
 標準よりも大柄な2人には尚更だったろう。ペース配分に気を使いながら、2人は妨害や罠にも気をつけながら先を急ぐ。
「まぁ、こっからは全力だぜ」
「勿論だ」

 水底に沈む碧い空・シリクス(a48944)は狂気月吼・ルビィ(a25979)の手をギュッと握っていた。
「何があってもこの手だけは離さないよ」
「うん。わかってる」
 シリクスの誓いにも似た言葉にルビィは淡く微笑む。その手にも頬にもまだ巨大湖で踊ったときのシリクスのぬくもりが残っている。リズムハスのバランスを崩さないよう、でもシリクスに楽しんで貰えるよう踊ったつもりだ。
「絶対に完走するよ」
「うん」

 黎明の閃光・ヴェローナ(a51653)と貴方を追い求める・レラージュ(a72578)も重点を置く競技を分けてきていた。
「なんとか無事に踊りきりましたけど、最後は二人三脚ですね」
 レラージュは素早くヴェローナと自分の足を結んでいく。まだダンスの余韻に浸っていたい気持ちはあるが、ペアマラソンはまだ終わっていない。
「声を出していくぞ。シンクロの基本は声の掛け合いだからな」
「そうですね」
「必ずタスキを守ってゴールを目指す。我についてこられるか?」
「はい」
 満足げな笑みを浮かべ、ヴェローナとレラージュは走り出す。

「やっとダンスが終わったかと思ったら、もう二人三脚なんですね」
 パタパタ中堅観察者・エリン(a18192)は小さくため息をつく。まだ足元は葉の下で頼りなく揺れる水面を覚えているようでふらふらする。
「10周めになったらタスキをもらいますよねぇ。そうしたらぁ、これは幸せのタヌキです〜っていうんですぅ。絶対に大きな声でいうんですぅ。絶対敵は誤魔化されちゃうですぅ」
 うっかり医師・フィー(a05298)はその時の事を思い描くのか、クスクスクスクスわらている。
「と、とにかく走りましょう。マラソンは夕陽が沈むまでに戻るのがお約束ですから」
「まだ朝日が昇る前ですよぉ?」
 エリンの言葉にフィーは不思議そうに言った。

 真夏の蒼穹・フィード(a35267)と闇陽落華・モニカ(a46747)も二人三脚へと進んでいた。フィードの背中合わせにリズムハスに乗り、周囲に注意しつつ踊る作戦のお陰で随分と早く巨大湖を脱出することが出来ていた。
「ここからの作戦は……ただ走る! だ。シンプルで解りやすいだろう」
「無策ってことじゃないのか?」
「そうではないぞ! 積極的に他人の妨害はせず、一気にゴールを狙うのだ」
「……まぁそれも悪くはないか。一気に突破するしかないよね」
「その通りだ。では行くぞ!」
 最初から猛スピードで2人は走り出す。

「シルクさんとマラソン! 燃えます!!」
 この競技中にもう何度同じ言葉を口にしただろうか。それほど地を駆ける金狐・シャンティ(a48412)にとって孤独を映す鏡・シルク(a50758)と走るこの夜はかけがえのないものであった。
「ダンスは終わりましたけど、とうとう次は最後の障害ですね」
 夜通し走ったり踊ったりの疲れも見せずシルクはニコニコとシャンティに笑いかける。湖での踊りはシルクがタイミング良くテンポを取り、一度も沈むことなくクリアしている。
「最後ですから気合い入れて、息を合わせてゴールを目指しましょう! いろんな意味で!」
「え?」
「ごー! はい、いちにーいちにー」
 うやむやのまま、2人は走り出す。

「とうとう二人三脚だね。長い競技って思ったけど、もうすぐ終わっちゃうんだよね」
 ほんの少し寂しそうに蒼氷の忍匠・パーク(a04979)は言う。
「あの絶壁をパークを抱えて登り切ったのはもう随分前みたいに感じるけど、まだ数時間前の事なんですよね」
 溜め息をつきながら片羽のお業・レイ(a07113)もつぶやく。もう競技が終わったかのような雰囲気だが、最後の密林レースはまだ始まってもいない。
「まだ終わってないよ、レイ」
「そうでした。では、このレースでも良い思い出を作りましょう」
「はい」
 足と足をぎゅっとしばり、パークとレイは走り出した。

「行くぜ、とにかく最初から飛ばす!」
「この走りに集中だ!」
 テュガマフマフ・ギーファ(a36743)と相棒の猪突妄進・スズ(a02822)は二人三脚の紐を足に縛るといきなり全速力で走り始めた。ペース配分も何もかも関係ない。
「妨害は左に受け流すぞ」
「承知した!」
 爆走する2人を止める者はいまのところ……ない!

キリ番の華を望みし戦女神・フィリス(a22078)とキリ番の華を夢みし戦乙女・フィリア(a35920)は親子での参加だ。互いの足を縛り、軽快にコースを走っていく。
「「親子の絆、見せてあげますわ!!」」
 気合いのこもった叫びはシンクロしつつ密林にこだまする。

「ミユリさん、力を合わせて頑張ろ〜ね♪」
 不思議の卵・ロイナ(a71554)はペアを組んでいる深緑の枝を撫でるそよ風・ミユリ(a74301)にニッコリと笑いかける。
「うん。優勝は出来ないかもしれないけど、絶対に完走したいんだ、ボク。だから最後まで一緒に走ってくれる? ロイナさん」
「勿論です! でも優勝も狙っちゃいましょう」
「そうだね」
 クスッと笑い、2人は呼吸を合わせて走り出す。

「ん、頑張りましょうか。ここを抜ければゴールですし」
 最後の障害、二人三脚のスタート地点で双刀の女装護剣士・ファル(a21092)は疲れも見せずにペアを組む薄衣と意志を継いで・フィリス(a29867)に笑いかける。冒険者達にとっては日中身体を思いっきり動かした後でも、一晩中駆け続けるなどさして疲れることではないのかもしれない。
「しかし最後こそ肝要。ゴールを駆け抜ける時まで気を抜かないことこそ一番重要でござるよ」
「そっか、それもそうだね」
 ファルは小さくうなずく。

 ちょうちょ結びの・リボン(a29596)とはじまりは・プルミエール(a90091)は呼吸を合わせ、掛け声をかけあって走る。
「プーミン! えっほ」
「リボりん! えっほ」
 手を取り合い、時折顔を見合わせて走る。まだまだ先は長いけれど、2人の意気は少しも衰えていない。

「とうとう最後の障害ですぅ。この最終障害……私達の心の絆で乗り越えてみせますよ」
 爆発乙女な永遠の姉御様・クロル(a59137)はパートナーであるプーカの忍び・シロメ(a73481)声を掛け合い、二人三脚に果敢に挑む。
「最終障害……ボク達は無敵だから!」
 シロメも自信満々に走り続ける。

「イチ、ニ。イチ、ニ」
 チキンレッグの吟遊詩人・シュトレイマー(a65926)は身体ごとリズムを取り掛け声をかける。
「我らの辞書に不可能の文字はなしっ! 行くよ」
「どこまでも!」
 最果ての君・クール(a09477)の強気な言葉にシュトレイマーは即答する。汗の光る顔には笑顔が浮かぶ。

「リリカ! 遅れんなよ!」
 暗夜瞬星・リルト(a13370)は即席ペアであるにんじん畑の・リリカ(a61449)に気合いのこもった声を掛ける。
「うん! 僕、お兄さんと一緒に元気に頑張るよー♪ゴールまでまだまだ頑張れるよ!」「良く言った! おらおらおらおら!」
「ひ、ひやあああぁぁぁ!」
 いきなり全力疾走しはじめるリルトにリリカの身体はなかば引きずられるようにして進んでいく。悲鳴が遠くこだまする。

 実際、ここまでの競技ですでに異邦人・エディ(a26030)の体力は限界に近かった。逆にパートナーである緑の風の魔女・フィルメイア(a67175)はほとんど疲労していない。
「ちょっと荷車を引くノソリンの如く働かせすぎたかしら?」
 フィルメイアは屈託のない笑みを浮かべる。
「や、やはり〜二人三脚に必要なものは、お互いに合わさったリズムなので〜あれ?」
「きゃあ! ちょっと、エディ?」
 前のめりにパッタリと倒れたエディはフィルメイアが突いても動かない。

 先頭集団からはかなりかなり遅れていたが、それでもクイーン・マリー(a20057)もアベノ・メディックス(a49188)も諦めてはいなかった。
「気合いを入れて一心不乱にゴールを目指すんが競技者の務め、いうものやろ? それと途中で投げ出すなんて、うちにはよう出来しまへん」
「貴殿の言われることは尤も至極。私も気合いを保ったまま、一心不乱にゴールを目指すつもりだ」
「さすが、うちが相棒にと見込んだお人や。ほな、行くで!」
「わかった」
 2人は速度を更に上げる。瞬く間に5つのペアを追い抜いていく。

「キャロット、疲れちゃった? ボクの掛け声、聞こえる?」
 二人三脚が始まってから天駆ける翼・カグラ(a31332)はずっと掛け声を欠かさない。まだ幼い神風・キャロット(a59243)を気遣い、カグラはのぞき込むようにして表情を伺う。
「大丈夫だよ! ボクカグラちゃんの声ちゃんと聞いてるよ、ね」
 キャロットは足元を視線を示す。カグラは僅かにうなずいた。
「うん、頑張ろう!」

「アヤメさん……」
「どうしたの? リツさん」
 悲しげな万寿菊の絆・リツ(a07264)の声に透花・アヤメ(a29764)は問いたげな表情を浮かべる。二人三脚の行程はまだ半分も過ぎてはいない。
「私、アヤメさんの様に俊敏には動けません。足手まといになっているのではないかと思うと……」
「そんなこと言わないで! 私達はペアなのよ」
「……はい。ありがとうございます、アヤメさん」
「走りましょう、最後まで!」
 心の絆を結び、2人は力を合わせて走り続ける。

「ここまで頑張ったんたから、絶対にゴールしないとなぁ〜んね!」
 黒衣の天使・ナナ(a19038)は相棒である蒼き瞳の聖女・セリア(a36094)に目を向ける。長いようでもうペアマラソンのコールは半分以上を走破している。あとはこの密林のコースを廻るだけだ。
「当然ですわね。私とナナ様がここまで頑張っているのですから、棄権など今更ありませんわ」
 ナナとセリアの歩幅やテンポは自然に揃っている。このままどこまでも走っていけそうだ。

「アイドルコンテストソロ出場同士というのも妙な縁だがね」
 それいけマザコン勇者様・リリーナ(a37239)は隣を走る相棒、ウィング・クリス(a24007)に走りながら声を掛ける。
「まぁ、それも縁かもしれないしね」
 クリスは表情を変えずに答える。リリーナにもクリスにも大事なモノがある。例えそれを他人に理解されなくても、心に抱き続けることを止めることは出来ない。
「走ろう!」
「そうだな」
 ただ走る……それだけであった。

「最終障害は二人三脚だ。二人で『イチ、ニ』と声を掛け合ってテンポよく走るぜっ」
 爆走する玉砕シンガー・グリューヴルム(a59784)は星の音色・チユ(a72290)と足を結び、もう5周は走っている。
「妨害は回避だったでしょうか?」
「そうだ」
 チユの言葉ににグリューヴルムは即答する。
「相手にして時間を喰えば思うつぼだからな」
「確かに……そうですね。さすがグリューヴルムさんです」
 チユが信頼の籠もった目でグリューヴルムを見つめる。

「妨害?」
 そんなもの知るか! といわんばかりの勢いで幻影魔女は戦士と共に生きる・シルヴィア(a32018)は密林のコースを走っていた。当然、相棒である安全第一危険は二の次・イコ(a43669)も同じように全力疾走中だ。
「とりあえずタスキさえ守ってたら、わい等の勝ちや! ぶっ飛ばしまっせ!」
「はい!」
 幸い身長はそれほど変わらなかったので、一緒に走るのは難しくはない。シルヴィアとイコは足を出すタイミングをあわせつつ、全力でダッシュをかます。

 天舞光翼の巫女姫・ミライ(a00135)と蒼閃の医術士・グレイ(a09592)のペアは意気を合わせ、慎重に……でも出来るだけ速度をあげながら走っていた。
「グレイさん、声を合わせましょう」
「そうだね。僕も今、そうしたらいいんじゃないなって言おうと思っていたところです」
 人懐っこい笑みを浮かべ、グレイはミライに微笑む。
「そういうと思いました」
 ミライも笑って言い返した。

 小さく規則正しく声を掛け合いながら、彼岸花の幻想曲・ラリフェ(a66750)とストライダーの紋章術士・ティアロッド(a75329)は密林のコースを走っていく。体格差があってそう走りやすいと言うわけではなかったけれど、2人の息はピッタリとあっている。
「ラリフェ、俺にもっと掴まって良いから……まだ走れるか?」
「はい。ティアロッドさんがいてくれるから、私はまだ走れます」
「よかった。レースも終盤になると妨害をする奴が出てくる。ラリフェの事は俺が守るから安心して走るんだ。わかったな?」
「……はい」
 ラリフェは幸せそうに微笑みを浮かべる。

「走り抜けるよ」
 朧銀の破魔矢・ユキト(a65770)は白銀の誤字っ子術士・マリー(a57776)の様子を見ながら緩急を付けて走る。マリーはユキトの足手まといにならないようにと、必死についていっていた。
「ユキトさん!」
「マリーさん、手を!」
「はい」
 密林に横たわる大きな木も2人で息を合わせれば一気に飛び越せる。
「えっと、ここからまた、いちにいちに、でしょうか」
「そうだね。よろしく頼むよ」
 ユキトはマリーをじっと優しい目で見つめている。

「最後は邪魔してくる奴らを蹴散らす勢いで! 威勢よく声挙げていけば近寄ってこないよ、きっと! 多分」
 すごい速度で走りながら、風狐の便り・クオーツ(a52276)は一緒に走る今日も元気にガンバ・ルディー(a58214)にと叫ぶ。
「そうかな?」
「そうだって。世の中大抵のことは気合いで何とかなる!」
「そっか! 最後は僕達の友情パワーで蹴散らすなぁ〜んよ! ゴールまで一直線だよ!! 」
 クオーツとルディーは無謀とも思える速度で走り出す。

「あちらに縄が!」
 既に幸福のタスキを貰っているペアが何組も出ているからなのか、コースのあちこちにも罠が仕掛けられはじめている。紋章の申し子・メロディ(a55297)はめざとくその罠を発見すると疾風の翔剣士・ポポル(a51163)に報告する。
「ありがとう、メロディ。じゃもっとボクの方に近寄ってきてね。道の端っこを通るよ」
「はい! ポポルさん、ありがとうございます」
 長いつきあいの2人は細かいところまで示し合わさなくても、ごく自然に互いを補い合うように行動する。
「もっと走れる?」
「はい」
 2人は徐々に速度を速めていく。

「えーうち等は他の人の妨害に全力を注ぐんじゃなかったにゃん?」
 猫遣い師ミル・フィーユ(a66979)は小首を傾げてペアである気ままに移りゆく風・フーラ(a70918)を見つめる。
「最終障害はタスキを壊されないよう、全力を注ぐよ」
「あれ? そうだったにゃ?」
 互いに声を掛け合い一歩一歩確実に、転ばないように走ることは合意しているのだが、肝心のところで意志の統一がされていない。
「うちはふーらきゅんの言うとおりで良いにゃん」
「僕だってふぃーゆんがそういうなら、妨害にまわってもいいんだよ」
 なかなか結論は出そうにない。

「最初は中央の足から出す」
 森命の刃・ディッカ(a62274)は宣言するように言う。
「わかりました」
 もう何度も打ち合わせをしたことなので雪焔・リゼッテ(a65202)は素直にうなずく。走り始めた2人は互いに声を掛け合い、息を合わせて互いを気遣いながら走り続ける。
「辛くないか?」
「はい。妨害しようとしている人も今は感じられません」
 リゼッテは少しでもディッカの力になりたかった。ディッカが望む通りにしたかった。
「絶対に完走するぞ」
「完走を目指します!」
 2人のゴールはまだまだ見えてこない。

「いち、に、いち、に……」
 規則正しい拍子を降臨せし月下煌めく紫王・サク(a29107)が刻む。小さな頃から二人三脚は得意であった。ペアが闇夜に月下煌めく紫姫・ユウ(a31859)であるとすれば尚更だ。
「最初は足を結んでいない方の足からだぞ?」
「わかってるわよ、サクちゃん。だってそれはちっちゃい時から変わらない事じゃない」
「覚えていたか」
「当然よ。さ、息のあったコンビでいくわよ」
 ユウはニコッと笑う。

 もう何周廻っただろうか。庸人・ツクモ(a58835)は隣で走る夕闇烏・イク(a60414)が心配でたまらない。
「疲れているのではありませんか? 僕が背負って行きましょうか?」
「ううん、大丈夫。だっていつも隣にいるキミとだから……だから大丈夫だね♪」
 イクは笑顔を浮かべるが額からは汗がダラダラと流れている。
「ゴールまで突っ走ろう! ねっ!」
「はい。一緒に完走出来ると信じています」
 少し緩めていた速度をツクモとイクは少しずつあげていく。

 かつての覇者、銖煌華婉せし慧護を薫べる蓮風・サユーユ(a00074)と邪龍の如き者・アオイ(a01192)も順調に二人三脚へと進んでいた。
「もう4年以上前なのですわね」
 感慨深げにサユースはつぶやく。あの時と同じペアでレースに参加出来る喜びを噛みしめ、1歩1歩アオイと走っていく。
「そうか。もうそんなになるんだな」
 長い時間だった。色々なことが起こり、人が集まり命が散った。
「らしくもない……障害は潰して進む」
「わかりましたわ」

「メビュルスさん!」
「シルトさんなぁ〜ん!」
 互いの名を呼び合いながら、色無き少女を護る盾・シルト(a48677)と盾に護られし色無き配奏者・メビュルス(a49563)は呼吸をあわせて走り続ける。最終10周目に入る前から、2人は緩急を付けた走りで妨害とおぼしき輩の接近を回避している。
「好きな気持ち全開で、スパートをかけるよ!」
「愛の力なめんなですなぁ〜ん!」
 シルトとメビュルスは走りながら大声で叫ぶ。今、心のボルテージは最高潮を迎えてる。ここまでシルトと一緒に戦ってきた証でもあるタスキを奪われるわけにはいかない。

「最後はひたすら突っ走るよ!」
「わかったッス! ゴール走り抜けるぐらいぶっ飛ばすっスよ!」
 目覚めの刻・セリア(a16819)と生涯未完・ジェド(a17065)のペアはとにかく全速力で走り続ける。
「妨害なんて気にしないで良いよ。優勝、狙うよ!」
「了解ッス! セリアさん、俺について来るッスよ!」
 ドンドン2人は加速していく。

 雷神天狐・シーグル(a27031)と死滅の黒炎・ユーティリス(a27063)は二人三脚に全力を注ぐ。
「あまり急ぐな、シーグル。ペース配分を無視しては最後まで走りきることは出来ないぞ」
 ともすれば速度をあげたがる相棒にユーティリスはもう3度目の警告を発する。
「俺だってやってるんだよ。けどな、抜かされるとこう、燃えるだろ? な?」
「まぁ……わかるがな」
「だろ?」
「だが、俺に合わせろ!」
 シーグルは思いっきり顔をしかめた。

「苦しくないか?」
 静寂の焔・ルディア(a62321)は妹を気遣う。宵の寒椿・ラファイエット(a62319)は走る速度を緩めることなく首を横に振った。
「ここまで力を温存してきた。ここで兄様と最後まで走り切れたなら……我はそれで満足なのだ」
「そうか……実は私もだ。共に戦うのも久しぶりだ。精一杯走ろう」
「承知!」
 ドリアッドの兄妹は真っ直ぐに前を向く。

 普段から友人同士であり、体格差も少ない天狼の黒魔女・サクヤ(a02328)と夢風幻奏・コーガ(a26362)のペアはサクサクと速度を上げ、数え切れない程のペアを追い抜いていた。
「は〜い。幸せのタスキですな〜ん」
 とうとう9周を走破し、2人の胸に斜めに水晶のタスキが掛けられる。
「サクヤ、勝負はここからだぜ!」
 ニヤリとコーガが笑う。
「解ってる。妨害なんか蹴散らすぜ!」
 更に2人の速度があがっていく。

「地獄のマラソンの最後を飾るのは……あたしの痛々しい話だよ!」
 太陽の・ミサオ(a67444)は大声で叫びながら走り続ける。
「ミサオ! 一体何を……!」
 ミサオの行動に一番びっくりしたのは、ペアを組んでいる灼炎をまといし銀狼・レヴィアス(a66563)であった。
「これがあたしの妨害です。あたしの人生のあーんな痛い話やこーんな話を聞いたら、もうみんな失速しちゃうよ!」
「一緒に頑張ろうって、正々堂々戦うって誓ったじゃないか!」
「えー、そうだったっけ?」

「マスタード入りの水鉄砲でお邪魔なのですよ〜」
 ふふふと妖しい笑いを漏らしながら、プーカプ・カシス(a59755)は水に溶いた辛子をを竹の筒に詰め栓をする。
「はぶられペアーの底力ー!!!!!」
 楽天遊戯・マロー(a67508)もカシスと同じ様な道具を構え、幸せのタスキを持つランナー達に狙いを定める。もはや自分たちのレースは諦めたようだ。

「ねぇ、お願い! ボクにそのタスキ……頂戴!」
 ウルウルと涙を浮かべながら他瞳の雫を解き放つ者・ソル(a31570)は幸せのタスキをさげて走るランナー達に誘惑の眼差しを向ける。
「もっと、もっとです! ソルさん。私達の様に体力的に不利な部分は精神と妨害で補う
のです!」
 エンジェルの邪竜導士・クロード(a75687)は暗い笑みを浮かべ、手に砂を握りしめる。

「やっと、やっとここまで来たよ! 最終障害では派手に暴れるぞー! タックル、足掛け、通せんぼ、たすきをハサミでちょきん!」
 開花の光・アサ(a59658)は指折り数えて妨害の数々をあげる。
「そういうことだ。俺らは最後仕掛けるぜ? やりすり抜けざまに他の奴らに足かけたり……そういう地味で細かい妨害をだな。しっかり付いて来いよー、アサ」
 白氷の悪戯狐・リックス(a63090)の言葉にアサは勿論だとうなずく。自分たちの勝利のため、アサとリックスは競技を捨てた。
「準備はいい?」
「当然だぜ」
 それもまた戦い……かもしれない。

 更に時間が経過するにつれ、妨害行動はエキサイトしてくる。
「冬組以外のタスキを掛けたペアの邪魔をして下さい」
 私からの夜想曲を貴方に・クリス(a39652)は幸せのタスキを掛けた異なる組のペアへと『ハートクエイクナパーム』を使う。
「重傷にならなければいいのです。思い切りやってしまってくださいませ!」
 ただいまメイド強化月間中・フェリス(a59237)はなんとしても時間を稼ぐつもりだ。

「もう、こうなったら最後の手段です!」
「確かに……全ては秋組勝利の為です!」
 真夜中の太陽・ハロウィン(a68100)と猫のリグレット・ティセ(a68887)は切羽詰まった表情であった。他の組のペアをゴールさせないためにもはや手段は選んでいられない。
「ティセさん!」
「ハロウィンさんの犠牲は無駄にしません」
「ちょっと、投げられるのはティセさんです!」
「違います!」
 2人のストライダーはその場で違いを投げ合おうととっくみあいになる。

「ブリザックさん! 最終周です!」
 とうとう、ヒトノソリンの手から幸せのタスキが運命に縛られない灰翼・シャル(a58606)の首に掛けられる。
「まだ走る気力は残っているか! シャル!」
「はい! 走れます。最後まで走り抜きます」
 辺りはもうすっかり明るくなり、ワイルドファイア大陸は大運動会2日目の朝を迎えている。運命に縛られない白鱗・ブリザック(a60343)の白い鱗が朝日を弾いている。
「頑張れ! 俺もやるぜ!」

「タスキはおまえに預ける。けど、おまえの事は俺が絶対に守る!」
 姫椿の鐘楼守・ウィズ(a65326)は幸せのタスキを山茶花賛歌・イロハ(a44667)の身体に斜めに掛け、真剣な眼差しで見つめる。
「……わかったよ。私を信じてくれた気持ちには絶対に応えるよ!」
 イロハは水晶のタスキをぎゅっと握りしめる。
「行くぞ!」
「うん!」
 警戒しつつ2人は最後の一周を走り始める。

「タスキを守るぞ」
「解りましたなぁ〜ん」
 幸せのタスキを手にした蒼空舞いし白翼の神聖剣帝・マサミ(a59923)と暴食の獣魔導士・ギーエル(a61051)にも妨害の魔手が伸びる。混乱の矢、ロープ、小話、バナナの皮にシンプルな実力行使。2人はしっかりと肩を組み、声を掛け合って歩調と歩幅を合わせて走る。
「怪我はさせたくないなぁ〜ん。こっちに来ちゃ駄目ですなぁ〜ん」
「ギーエル、こっちだ!」
 マサミは巧みにフェイントを使い、妨害者達との距離を引き離していく。

「来たぜ、おっさん! 最後の一周だぜ!」
 緋色の娘・ルビィ(a74469)がヒトノソリンから幸せのタスキを受け取る。それを斜めがけしながらルビィは笑うっきゃねえな・オウオウ(a73949)にニヤリと笑った。
「ここからが勝負だぜ! ぶっ飛ばすぜ」
「おうよ!」
 即席のペアではあったが、2人は声を掛け合い最後の1周にスパートを掛ける。
「妨害なんか気にするなよ」
「そっちはおっさんに任せてあるぜ」

「ここまで来たら、とにかくオレはタスキを守る!」
 金色の太陽・ラジャース(a64172)は美しく輝く水晶のタスキをギュッと握りしめる。それはあと1周でゴールをすることの証だが、同時に妨害許可の印でもある。
「タスキを死守するして、全力でこの1周……駆け抜けるしかないよ。いいね」
 優駿オラ・シオン(a47682)は決意に瞳を煌めかす。物騒で綺麗な目だ。
「勿論! 行くぞ、シオン」

 数多の妨害をクリアし続々とゴールにランナー達が向かってくる。長く過酷なレースは朝日の中、終わりを告げた。