華を護れ!
 

<華を護れ!>

マスター:幾夜緋琉


 冒険者の酒場、たくさんの依頼文章が貼られてる中の一枚に、このような文面の依頼があった。
「求む、冒険者! 内容・旅芸人一座の護衛。腕っ節の強い者求む」
 依頼人は、ちょうど街に来ていた旅芸人の一座の座長、エルディーナという女性。
「最近街道で盗賊団が幅を利かせてると聞いたものですから……取り急ぎこの街で護衛を募った訳でございますの。 ほら、私達って美女揃いでしょう? 襲われる危険もある事ですし、どうにかして私達を護っていただけませんかしら?」
 確かに一座の踊り子達の顔ぶれは一目見れば美人揃いである。
「どうか宜しくお願いしますぅ〜♪」
 と、微笑を浮かべながら冒険者の手を握ってくると、自然と好意が持てる。
「俺からもお願いするよ、な、エルディーナ一座の踊り子たちは美人揃いで有名だしな」
 と、鼻の下を伸ばすマスターもいたりする。
 と……黙ってその膝をつねる、霊査士のリゼル。
「もう、マスターってば、鼻の下伸ばしちゃって……もう、知らない! ……って、あ。えへへ」
 つねった手を慌てて引っ込めて、そ知らぬふりをしながら微笑んだ。
「盗賊団の目的は……私の口からは言いたくないのですが、美人の女性は金になる、という事でしょう。彼らは、お金が目的ですから」
 リゼルの言葉に、踊り子達はざわめく。続けてリゼルは感じた事を話し続ける。
「この依頼に関して私が感じた事は、不意を付くように降る、たくさんの矢の雨でした。場所は……かなり薄暗い場所。地図を見た所、それらしい場所は一箇所、途中にある森でしょう。盗賊団もここに出てきたというのを良く聞きますから、ここを通る時には、周囲をいつもより警戒した方がいいと思います」
 その森の部分は、山間の峠の部分になっており、そこを通らないとなるとかなりの大回りになる事が見て取れる。
 時間が掛かると、次の街の公演に間に合わない。だから護衛を依頼したのだ。
「あ、あと……」
 更に感じた事を言おうとするリゼル、依頼人のエルディーナ一座の踊り子たちが居るのに気付いていいにくそうだ。
 しぶしぶリゼルは、話を聞かれないようにと冒険者を外に連れ出す。踊り子達が居ないのを確認すると。
「……なんと言えばいいのでしょうか……踊り子の人達に振り回されている皆様が見えました。……だから、仲間にも注意した方がいいと思いますよ?」
 エルディーナ一座の踊り子達は、外面では美人でとっても好意が持てる相手。しかしその裏の顔は、とっても我侭な女の子達なのだ。
 冒険者達は盗賊団の退治と踊り子たちの世話を背負う事になったのである。
「色々大変な冒険になりそうですけれど……頑張って下さいね」
 リゼルは苦笑いを浮かべている。その表情には『お気の毒さま』というのが明らかに見て取れたのは、気のせいではないだろう。


ストライダーの狂戦士・イクス(a00327)  エルフの邪竜導士・フィサリス(a00394)
ヒトの忍び・マサキ(a00571)  ストライダーの忍び・レス(a00654)
エルフの翔剣士・アルフリード(a00819)  エルフの吟遊詩人・クレア(a00908)
ヒトの吟遊詩人・ルゥ(a00933)  エルフの牙狩人・ラウラ(a01629)

 

<リプレイ>


●調達
 エルディーナから依頼を受けたその日。
 エルフの邪竜導士・フィサリス(a00394)とエルフの翔剣士・アルフリード(a00819)は、ノソリン車の囮のノソリン車を用意しようと、街にちょうど訪れていた隊商の下を訪ねていた。
 依頼達成に必要と思われるノソリン車を調達する為である。
 言葉巧みに、隊商のリーダーと面会したフィサリスは、こう切り出した。
「ノソリン車を一台、二日三日貸して頂けませんか? 変な事はしませんから……お願いしますっ」
 隊商の手をぎゅっと握り、目を見て頼み込むフィサリス。
 そのリーダーの目線は、ぷるんと震える豊満な胸にいつのまにか釘付けになり、鼻の下を伸ばしながら話す。
「ノソリン車? ……んー、まぁ、この街に来たばかりだから、しばらくは使わないし考えてやらん事もないけどよ、何に使う予定なんだ?」
 『囮の為』とはさすがに言えず。どうにかこうにかの理由を付けてごまかすアルフリード。
 内心どきどきしていたのは言うまでもない。
「分かったよ。うちらの隊商は、来週にはここを移動するつもりだから、それまでにちゃんと返してくれよ?」
「ええ、ありがとうございますっ」
 ぷるんと震える胸に、更に鼻の下を伸ばす隊商のリーダーはさておき。
 無事にノソリン車を借りる事が出来た冒険者達は、冒険の準備を始めた。

 次の日、エルディーナ一座は宿を後にする。
「それでは皆様、護衛宜しくお願い致しますわね」
 エルディーナは微笑むと、ノソリン車へと乗り込んだ。
 囮のノソリン車を先頭に、エルディーナ達のノソリン車が少し後をついていくという形である。
 エルディーナに続けて、踊り子達がノソリン車へと乗り込む際、ストライダーの牙狩人・イクス(a00327)は微笑みを浮かべながらこう告げた。
「ああ……そうそう、忘れるところだった。盗賊に襲われて、逃げるのは勝手だけど。 ……俺の足は引っ張らないように、ね? どうなっても、知らないから」
 背筋に寒い物を感じる踊り子達。続けてフィサリスも怖い顔で。
「そう、盗賊さん達は、貴方達を狙っているんだから。売られた女性の行き先って知ってる? 列強種族の慰み者になるより、もっと酷いことになるのよ……分かった?」
「わ、分ったわ……」
 ただ頷く踊り子達。
 今まで人間の汚いところを知ったことが無いような彼女たちにとって、冒険者達のその言葉は何よりも説得力があるようだ。

●幌の中
 森までの道をノソリン車で行く冒険者達。
 ノソリン車ののんびりとした歩みは、乗る人に眠気を誘う。
 ヒトの吟遊詩人・ルゥ(a00933)と、エルフの吟遊詩人・クレア(a00908)、ストライダーの忍び・レス(a00654)とエルフの牙狩人・ラウラ(a01629)、そしてフィサリスの五人は、踊り子の服装に身を包み、エルディーナ一座のノソリン車に乗り込んでいた。
 踊り子達の避難をやりやすくする為、と言う事で。レス以外はみんな女性である。踊り子達の我侭も少し入ってはいるけれど。
 エルディーナ一座の踊り子達は、さらなる我侭を言い始める……かと思いきや。
「皆さんは歌も踊りも出来てすごいわね、あこがれちゃうわ♪ 私なんて、踊りしか出来なくって」
 ルゥが赤茶色の瞳を輝かせて話す。一座の座長をしている事もあり、自分の一座の話や失敗談を交えながら、エルディーナ一座の踊り子達をおだてて盛り上がる。
 単純なエルディーナ一座の踊り子達は、既に上機嫌になって話していた。
「きっとルゥちゃんもいつかは歌もうまくなる筈よ♪ ね、クレアちゃんもそう思うでしょ?」
「え……? あ、はい……そうですね」
 儚げな笑顔を見せるクレア。
 その話は、次第に踊りの話になり。
「えっとわたしぃ〜、私踊り子さん達の踊り、教えてもらいたいですぅ〜、だんすーだんすー♪」
 ラウラは奇妙な踊りを舞いながら、踊り子達にお願いをしてみる。
 すると踊り子達はすくっと立ち上がり。
「ふふ、別に良いわよ? 簡単な踊り、教えてあげるわね?」
 ルゥ・クレア・ラウラの三人と話を、踊り子達は楽しんでいる。
 ラウラに手取り足取り踊りを教える踊り子達の顔を見ても、その顔は輝いていた。
「本当に楽しいわ、今までの旅で、話が逢う人と逢うのは初めてだったから」
 踊り子達は我侭を言う事無く、森までその笑い声と話し声が絶える事は無かった。

 一方、踊り子達となじんでいないのはレスである。
 この中で唯一の男でありながら、踊り子の服装が不思議と似合っていたのはその端正な顔立ちと細い体の為。
 そんなレスがふと呟く。冒険に向かないノソリン車を何故使っているのか、と。
「……何故ノソリン車をエルディーナ達は使ってるのだ?」
 ノソリンの御者は苦笑いをしながら話す。
「そうですねぇ……ゆっくりと休んで欲しいっていう事と、日焼けをしないように、といった所でしょうか?」
「……甘々な理由だな」
「温室栽培で育ったような踊り子達ですし、彼女達にへそ曲げられたら終わりですから……まぁ、森まではあと半日くらいかかりますから、どうぞごゆっくりお休み下さいませ」
「……分かった」
 一刻も早く、森へ着いて欲しい。女だらけのここは、自分には合わない場所。
 そう思うレスであった。

 そして夜。
 二台のノソリン車が、盗賊が出ると噂の森へと到着する。
「それじゃ、俺は森の方へ向かう。後は宜しく頼むぜ」
 ヒトの忍び・マサキ(a00571)はそう言うと、本隊から外れ、森の中へと消えていく。
 マサキの作戦は、ハイドインシャドウを使い、森の中を先行し、盗賊が出てきたら指揮官を狙って集中攻撃をする、という物である。
 マサキは森の中へと消えていく。そして他の者もさぁ、出発しようと言う時に。
「えっとぉ〜、私、ちょっとトイレ行ってきますぅ、あとで追いつきますからぁ、先に行っていて下さいですぅ〜」
 もじもじとして見せるラウラ。色々言われるも、どうにかこうにかノソリン車を先に行かせる。
「さてと〜、わたしもぉ、がんばりましょうかぁ〜」
 と言って、ラウラは迷彩をしてマサキと同じく森の中へと入っていった。

●降り注ぐ矢
 マサキと分かれて少し時間が経過する。
 二台のノソリン車は、間を開けずに進んでいる。時刻は深夜を回り、踊り子達は話疲れて中ですぅすぅ寝ていた。
「いい気な物だ……狙われてるというのに」
 寝ている踊り子達に毛布を掛けるレス。
 先程から、どことなく見られているような気配を感じる。
 盗賊達は、すぐ側にいる。第六感がそう告げていた。
「仕方ないでしょう、その為に私達が雇われたのですから……もうそろそろでしょうか、盗賊は?」
 クレアの言葉に頷くレス。
 馬車の横には、マサキとラウラが盗賊を探して森の中を進んでいた。

 ノソリン車に、僅かに先行するよう進むマサキとラウラ。
 ラウラの夜目には、前方にいる盗賊団の集団が見えていた。
「前方に盗賊団がいますねぇ……ノソリン車を狙おうとしてますぅ」
 どこか緊張感が無い会話に聞こえるのは、ラウラの所為。
「……ふむ……数はそんなに多くないのか?」
「ええ、そうですねぇ〜。先制攻撃でもしますかぁ〜?」
「いや……待とう。自分達がしている攻撃を受けたら、どう感じるのかな?」
 ふふりと微笑む。
 マサキはハイドインシャドウで息を潜め、彼らの行動を待った。

 刹那……ノソリン車に向けて放たれる弓矢。
 ぷすぷすと幌に刺さる矢は、ノソリンへと混乱を引き起こした。
 暴れるノソリン。揺れるノソリン車に、寝ていた踊り子達も飛び起きて慌てる。
「何、何何々っ!!」
「慌てるな、盗賊が来ただけだ」
「と、盗賊っ! は、早く逃げなきゃっ!!」
「大丈夫だ、俺が居る」
 レスはクールに決めて、フィサリスと協力して馬車から下ろし、避難させる。
「後は頼むぜ、イクス、アルフリード」
「任せてくれよ……ふふ」
 隠していた大剣を取り出して飛び降りた。

「ここは我ら盗賊団の住処、ここを通るなら、通行料を頂こうか!」
「くす……来たね。でも、相手が悪かったね。 さぁ……覚悟するんだ」
 緋剣を構えるイクス、ちょっと動揺する盗賊達。
 明らかに力量が違いすぎる、と実感せざるを得ない。
 そこに、突然横から放たれるラウラの弓矢。
「ふふふぅ〜、自分達がする事をされるのはどうですかしらぁ〜? ほらぁ、リーダーさんに当てますよぉ〜♪」
 ラウラの矢は、盗賊団のリーダーにぷすりと刺さり、そのまま倒れる。
「私の弓はぁ〜、百発百中なんですぅ〜♪」
 リーダーを失った盗賊団は統制を失い、半ば自暴自棄になって冒険者達へと戦いを挑む。
「……盲目になってれば、普通の人間より強いなんて思っているのなら……それは致命的な計算ミス……だよっ」
 微笑みを浮かべたまま、盗賊達を倒すイクス。
 続けて、目にもとまらない早さで敵をなぎ倒すアルフリード。
 そして、確実に止めを刺していくマサキ。
 弓矢で敵を攪乱するラウラ。
 四人のチームワークによって、盗賊達は一人残らず倒れていった。

●記念
「ご苦労様でしたわ、ま、ちょっと幌が傷つきましたけど、踊り子達は全員無事ですし。感謝致しますわ」
 エルディーナが微笑む。
「これでお別れね……皆、がんばってね? わたしも応援しているから」
 ルゥが踊り子達に別れの言葉を告げる。
「たった一日だけど、話が出来て楽しかったわ。 ……ねぇ、一日位時間はあるでしょう? 私達の公演、見ていってよ! ね、座長、いいでしょ?」
「え、いいのか?」
 興奮するマサキ。
「ええ……是非、見ていって下さいませ。記念ですから」
 エルディーナの招待で、一座の公演を見る事になった冒険者達。
 10人の劇団員が織りなす神秘的で美しい踊りと歌。目輝かせながら楽しむルゥとマサキの姿があった。