きらきらどろぼう
 

<きらきらどろぼう>

マスター:月草


 大人し気な女性と幼い少女がドアを開けた。
「あの、こちらで依頼を聞いていただけると聞いたのですが」
 女性が遠慮がちに声をかけた。
「何かお困りなのかい?」
 酒場の主は女性に向かって口を開く。

「きらきらな宝物がね! おっきーいからすに、とられちゃったのー!」
 頷く女性の横で、それまで黙っていた少女が話し出す。
「目の前で、ばさーって、持っていっちゃったのー! おねーちゃんのも、いっしょなの!」
 少女の言うことは要領が得ない。主が首をかしげていると、女性が答えた。

 姉の話を要約すると、見たこともないような大きなからすが、庭で広げていた妹の宝箱と一緒に箱の中にあった、彼女の婚約指輪を持ち去ったらしい。大からすは川向こうの森の中に入っていったが、そこまでしか追えなかった。婚約者が明日の夜に家を訪ねてくるので、それまでに何とか指輪と妹の宝箱をとり返して欲しいというのだ。
「本当に、大きなからすで、家族に相談しても諦めろって言われてしまって……。私、指輪をなくした事で、彼をがっかりさせたくなくて……」
 瞳を潤ませ、姉が声を詰まらせる。
「これ、からすがおっことしていったの!」
 妹が大きな羽を取り出した。霊査士がそれを受け取り、瞳を閉じる。
「……崖が……見えます……。そこにからすの巣があるようです……。からすは……ずいぶん大きいですね……」
 そこまで言ってから、霊査士が目を開ける。
「あの森には崖はひとつしかありません。それ以上はわかりませんでしたが、大からすの巣は崖にあるでしょう」

「さて、どうするかね? 誰かこの二人の女性の依頼を受ける奴はいないかな?」
 酒場の主は、店内を見まわして声をかけた。


参加者: ヒトの武道家・マルハゲビッチ(a00010)  エルフの医術士・クゥリッシュ(a00222)
ヒトの邪竜導士・カナト (a00398)  ストライダーの牙狩人・ロイズェ(a00758)
ヒトの翔剣士・ニーディー(a01028)  ストライダーの邪竜導士・アキザクラ(a01225)
ヒトの忍び・リュシュカ(a01262)  ストライダーの忍び・エイミー(a01378)

 

<リプレイ>


「大からすを退治できるなんて楽しみね……」
 ストライダーの邪竜導士・アキザクラ(a01225)は、ふふふと微笑み、嬉しそうだ。
「やっぱり大からすは傷つけたくないのよね。なにかいい方法は……」
 ヒトの翔剣士・ニーディー(a01028)は、全身に失敗作などの安価な宝石類をあしらって、大からすにつかまってみようと考えついた。しかし、実際身にまとってみると、どうにも重すぎるようだ。
 よくよく考えてみれば、からすの大きさに対しても、自分の体は大きくて、巣に運んでもらうのには適していないようだ。
「いい案だと思ったのに……」
 彼女はちょっと残念そうに呟いた。

「さ、お姉さんと妹さんの為に、大事な大事な宝物をとり返しましょう!」
 森で大からす囮班と巣班にわかれる。エルフの医術士・クゥリッシュ(a00222)は全員に気合を入れるように声をかけた。
 囮班は3人、巣班に5人が向かうことになったようだ。
 クゥリッシュ以外にヒトの邪竜導士・カナト(a00398)とアキザクラが囮班で一緒となった。彼らは5人と別れてすぐに、罠の仕掛けを開始する。
 多少広場になっていて、崖も見える場所のそばに罠をしかけた。広場から少し入れば、木が邪魔になって大からすも、そう簡単に飛びあがれないだろうから、そこで大からすをボコろうという計画なのだ。
「困っている人を助けるってのが冒険者の役目ってね〜?」
 カナトは笑いながら言う。
「それじゃ、はじめましょう」
 アキザクラが空に向かって鏡のかけらを取り出した。

 一方、こちらは巣班の面々。
「美しい貴方に憂い顔は似合わないよ♪ 婚約指輪は必ず取り戻してきてあげる。小さいお嬢さんの宝物もね☆」
 そう言って、依頼者の2人を慰めた、ストライダーの牙狩人・ロイズェ(a00758)を含めた巣班は準備万端で崖の上に待機中だ。
 ストライダーの忍び・エイミー(a01378)の用意した、滑り止めの金具を靴に取り付け、ヒトの忍び・リュシュカ(a01262)の見立てで、ロープが足りなくなった場合のツタもたっぷり。これなら崖の頂上から、地上までツタとロープを伝って降りることも可能だろう。もちろん、油断は禁物だが。
 ヒトの武道家・マルハゲビッチ(a00010)は崖の頂上から身を乗り出して大からすの巣を確認していたが、ふと視線を感じて仲間を振り返った。ニーディーと目が合う。
「……」
「ワシの頭は剃っているだけだ。禿ではないぞ」
 聞かれはしないが何となく。彼女の視線の意図を汲み取って不敵に笑うマルハゲビッチ36歳であった。
 そうこうしている内に、木々の切れ間に眩しい光。
 巣にいた大からすも光に気がついたようで、ばさりと大きくはばたき巣から飛び立った。
「よし! 行った!!」
 リュシュカは大からすが光に誘い出されたのを見て、深く頷く。全員が装備を再確認してから、大からすの巣を目指して崖を降り始めた。
 大からすの巣までは特に危険なこともなく、比較的簡単に全員がたどり着く。とはいえ、人数が人数だけに、大からすの巣の中は満員御礼状態。足元のそこここにはガラクタらしきものから、普通の装飾品らしきものまでが様々に転がっている。
 依頼主の2人から、探し物の詳細を聞き出したので、それぞれに探し物のイメージはある。しかし、それぞれが大からすの巣の中で動き回って探そうとする度に、誰かにぶつかる始末だ。
「……思ったより、狭いな」
 マルハゲビッチが呟く。
 それはそうだろう。いくら大からす巣が大きいからといって、5人もの冒険者が巣の中にいれば身動きが取れなくもなる。
「これかしら?」
「これはどうでしょうか?」
「宝箱はきっとこれだね」
「似たような指輪があるのう」
「これ、ちがうかしら?」
 口々に、見つけたものを取り出してはお互いに確認をする。それらしい指輪を3つと、明らかに依頼主の一人である妹の宝箱と思われる箱が最終的には選別された。
「もう、この巣には用はないわね。降りましょう?」
 エイミーの言葉に頷くと、全員がロープを使って巣から崖下の森へ向かって、再び降下をはじめた。
「囮班の皆はどうしてるかしら……」
 大からすのことも気になるニーディーは誰に言うともなく、呟いていた。

 さて、巣班が比較的楽勝だったのに比べて、囮班は苦戦していた。何しろ前衛向きのものが一人も残らなかったのだ。
 大からすを罠にかけ、ロープを絡ませたはいいけれど、アビリティも全部が命中する訳ではない。
「しまったね。接近戦に向いた人が一人もこっちに残らないとは思わなかったよ」
 カナトは苦く笑う。いまさら言っても仕方がない。ともかく、大からすがロープを引き千切らないように攻撃して、倒してしまうしかないだろう。
「お仕置き程度で済ませてあげたかったけど、仕方ないわね……」
 手加減できる状態にあると思えない。クゥリッシュは軽くため息をついて白のオーヴを握りなおす。
 カナトとアキザクラは目線を合わせ、ブラックフレイムを使って同時に大からすへ黒い炎の蛇を放った。
 爪やくちばしを使ってロープを引き千切って逃げ出そうとする大からすに、二人のブラックフレイムは見事命中する。
 が、次の瞬間、傷つきながらも大からすは罠から脱出し、そのままの勢いで、アキザクラに向かって飛び掛かった。
「!!」
 充分に警戒していた筈だが、咄嗟の事に防御が間に合わない。大からすも負傷していたので軽症で済んだが、かなり危険な一瞬であった。
 癒しの水滴を使おうとするクゥリッシュを制止し、アキザクラは軽く微笑むと言った。
「倒してから、お願いするわ」
 大からすが倒れるまでとにかく渾身の力で攻撃をかける2人。向いていないと自覚する接近戦にもつれこんだせいで、アビリティを放つタイミングがとりにくい。
 それでも、とにかく大からすに向かって連続で攻撃を仕掛ける。攻撃するアビリティを持たないクゥリッシュを下がらせる。
 その状態でカナトとアキザクラが何とか大からすを倒せたのは、ブラックフレイムを大からすに向かって放ちまくり、使える能力値の限界に達したところだった。おかげで、2人はへとへとだ。
 ぐったりする2人を癒しの水滴で回復させたクゥリッシュが顔を上げたところで、彼らの元へ向かってきている巣班の面々の姿が見えた。
「お疲れ様です。無事に取り戻せました?」
 彼女の問いかけに、巣班の全員が笑顔で頷く。
「おぬしらもお疲れだったようじゃのう。大からす退治は大変じゃったか?」
 苦笑するマルハゲビッチ。くたびれ具合を見て、苦戦を悟ったようだ。
「お疲れのところ悪いけれど、早く戻らないと……。もう夕方でしょう。3人はここで休んでから戻ることにしますか?」
 エイミーが気遣って3人に質問する。せっかくからすも倒したのだ。依頼主の笑顔も見たい。その思いで3人は首を振り、笑って答えた。
「戻りましょう。依頼主の元へ」

「みなさん、ありがとうございます!!」
 疲れた冒険者たちを酒場で迎えた、依頼主たちの笑顔は極上の部類に入った。本当に嬉しそうだ。
「宝物の箱、とりもどしてくれてありがとうー! おねーちゃんのゆびわもありがとうー!!」
「大事な宝物、もう取られるなよ?」
 カナトがしゃがみこんで、少女の頭をくしゃくしゃとなでて笑う。
「よかったわね、大切な物が返ってきて……」
 アキザクラも微笑んで声をかける。
「うん! ありがとう」
 少女は目いっぱい嬉しそうに笑顔を返した。そんな、依頼主たちの様子を見て、リュシュカは淡く微笑む。
「役に立ててよかった。少しは自信というものが付いたように思う」
 姉の婚約指輪以外に、よく似た形のものが二つほど冒険者たちの手元にある。
「それで、これは誰のなんだろうね?」
 酒場の出口まで出たところで、不思議そうにロイズェは呟いた。
 そこへ、姉の婚約者と、その母親が依頼たち主の家に向かおうと、通りすがった。
「ああ!! それは、僕の両親の結婚指輪にそっくりです!!」
 婚約者の青年が指輪を見て、驚いたように叫ぶ。それを聞いて、彼の母親がロイズェの手元を覗き、頷く。
「私の指輪だわ! しかも、無くなった主人のものまで!!」
 ご婦人は手元に戻ってきた亡き主人の形見を握り、にっこり微笑んで有無を言わさずロイズェの頬に軽くキスをする。考えていた相手とはかなり違う結果になったが、頬にキス。多少引きつりながらも、ロイズェはそのキスを受けることとなった。
「結婚式はまだ先なんですね」
 無事に指輪を取り戻したら、結婚式を見たいと思っていたクゥリッシュは、とても残念そうに言う。
「式を行う時にはぜひ、みなさんで来て下さい。指輪が戻ってきたのはみなさんのおかげですから」
 姉と青年は声をそろえて約束する。式がその場では見られないとはいえ、いずれ見られるとわかって、彼女はご機嫌だ。
「楽しみにしてますね!」
「お幸せに……」
 冒険者たちは口々に、二人を祝福する言葉を贈る。依頼主たちを見送った後、カナトがにこにこ笑いながら、宴会の提案をした。
「せっかく一緒になったことだし、記念に宴会しませんか?」
 もちろん未成年はジュースなのだが。それでも、彼らは杯を酌み交わす。成功を祝って。