街道を襲う盗賊たち
 

<街道を襲う盗賊たち>

マスター:七海真砂


 冒険者達が集う酒場には、彼らへの依頼が集まって来る。
「誰か、盗賊退治を引き受けてくれないか?」
 とある日、酒場の主が呼びかけたのも、そんな依頼の一つだった。
「盗賊?」
「そうだ。なんでも辺境の村との間を結ぶ街道で、盗賊が商人達を襲って、その荷物を奪っているらしい」
 酒場の主は、その村から届いた助けを求める手紙に目を通しながら、説明を始めた。

 その辺境の村は、工芸職人達が集まって出来た場所だ。美しい自然と豊富な材料があるこの場所は、普通の人々から見れば不便な僻地だとしても、職人達から見れば極上の環境を兼ね備えていた。
 ゆえに移り住んだ人々は、作り上げた工芸品を他の村へ売る一方で、他の村から食料などを仕入れて生活している。
 そんな彼らの生活を支えるのが、村を訪れる行商人と、彼らが通る街道だ。
「その街道に目をつけた悪い連中がいてな。そこを通る行商人を襲ってるんだ。村へ向かう商人が持っている食料は腹の中に入れれば良いし、村からの商人が持っている工芸品は、どこかで売り払って金にすりゃあ良い……お陰で、村は困り果ててるそうだ」
 村で必要としている荷物が届かない。村でも少しなら蓄えがあるし、山菜などを集める事も出来るが、このままの状況が尽きれば、それらは尽きて人々は飢えてしまうだろう。
 急いで大量の食料を商人に頼もうとしても……盗賊がいる街道を、誰がわざわざ通りたがるだろうか。盗賊が現れるようになってから、すっかり商人達の足は遠のいている。
 このままでは駄目だと、村長からの助けを求める手紙を携えて、村人の一人が辛くも街道を越えて現れたのが、つい先刻の事。そして、その手紙は冒険者達が集う、この酒場に届いたのだ。

「商人たちが街道を通らなくなれば、奪う対象を失った盗賊たちは姿を消すでしょう。けれど、盗賊が姿を消したのかどうかを確認する手段はありません。一度危険だと認識した街道を、商人が安全だろうと判断して、そして再び行き来するようになるまでには、かなりの時間が必要となるでしょう。……それを避けるには、今すぐ盗賊を捕えるしかありません」
 助言を求められた霊査士のリゼルは、このままでは他の場所からの物資を得られずに、村の人々が飢えて倒れかねないと、今すぐに盗賊を捕える重要性を語る。
「盗賊の数は10人ほどで、街道の近くの森に潜み、そこを拠点にしているようです。彼らは全員が剣を持ち歩いていますし、拠点付近には罠を仕掛けて警戒しているようですから、不用意に近付くのは危険です。注意して下さいね」
「……で、誰か引き受けてくれる奴は、いないか?」
 リゼルの助言が済んだのを見計らうと、酒場の主は周囲を見回して、冒険者達に問うのだった。


参加者: エルフの紋章術士・ディアナ(a00022)  ストライダーの翔剣士・コンネル(a00392)
エルフの紋章術士・アムリタ(a00480)  ストライダーの忍び・フォルテ(a00631)
ストライダーの紋章術士・シーナ(a00836)  ヒトの翔剣士・レイド(a00950)
ヒトの紋章術士・ストーム(a01197)  ヒトの重騎士・ギルバート(a01224)

 

<リプレイ>


●おしおき準備
 依頼を受けたエルフの紋章術士・ディアナ(a00022)とヒトの重騎士・ギルバート(a01224)は、街で情報収集に当たっていた。
「商人は全員街に戻っています。盗賊は命までは取らないようで、逃げる商人を追うような事はしないそうです」
「実際に盗賊から襲われた人を探してみたのですが、盗賊の人数は毎回違っていました。おそらく毎回、見張りやアジトに残っている盗賊の数が違うのでしょう。あと、装備の方は剣だけで、防具などは身に着けていないみたいです」
 手分けをして情報収集に当たっていた二人は、落ち合うと仕入れた情報を交換する。盗賊の人数がハッキリと判らないのは心配だが、リゼルの言っていた通り、十人程度だと考えて間違い無さそうだ。
「借りられましたよ」
 そこに、ガラガラと荷車を引きながら、ヒトの紋章術士・ストーム(a01197)が現れる。彼は街の商人と交渉し、盗賊達をおびき寄せるための囮にするための荷車と、移動に利用するためのノソリンを借り受けてきたのだ。
 街の人々にとっても、街道の治安が悪いのは好ましい事ではない。快く貸してくれたのは、冒険者達に事件の解決を期待するからこそだろう。
「あとは荷を載せれば準備は完了ですね」

「あたまわるすぎてきにいりません。おしおきしてあげないとわからないようですね」
 話を聞いて憤慨したエルフの紋章術士・アムリタ(a00480)は、農家を回ってジャガイモを仕入れると、宿屋の調理場でジャガイモをすり潰していた。
 ……正確にはジャガイモ全体ではなく、その若芽と緑化した皮だけを。
「食料に混ぜるとなると……パンでも、焼きましょうか」
 ストライダーの紋章術士・シーナ(a00836)は、アムリタが生み出した粉末を肉に叩き込み、ワインの瓶の中に混ぜると、今度はパンを焼き始める。
 二人がしているのは、盗賊をおびき寄せるための荷物とする食料の準備だ。……勿論ただの食料ではない。ジャガイモの若芽や緑化した皮には、毒素が含まれている。食べればお腹を壊し、嘔吐感に襲われるだろう。
 冒険者達は、そのジャガイモの芽を混ぜた食料を荷車に積んで囮とし、盗賊達が荷をアジトへ持ち帰って食料を口にし、毒に中ったところを討伐するという作戦を立てたのである。
 ……極悪非道と言われそうな気もするが、まあ、それはそれ。
「あとは、はこぶだけですね」
 毒を仕込んだ食料は無事に完成し、それらは箱に詰められ、荷車に載せられたのだった。

●大捕物
「親分、人が来ますぜ」
「どんな様子だ?」
 本来ならば旅人たちが往来するはずの街道は、今、誰も近寄らない場所となっていた。それは、今のように彼ら盗賊が、脇の森の中から様子を窺い、通りかかる者の荷を奪っていたからだ。
「男と女が一人ずつ。荷車を引いてるから商人じゃねぇっすか?」
「もうすっかり誰も近寄らなくなったと思ってたが、まだ通りかかる奴がいたか」
 盗賊達が発見したのは、商人に扮したストームと、職人見習いに扮したディアナの二人だ。どちらも冒険者とはいえ紋章術士で、細身の体つきだ。あまり強そうには見えないだろう。
「お前らは向こうに回れ。……ようし、かかれ!」
「き、君らは?」
 リーダー格の男の号令で、盗賊たちは一斉に二人を囲む。剣を握り、にやにやと笑みを浮かべる彼らに、ストームは弱々しい商人を演じながら声を発する。
「さあてなぁ……その荷物、渡して貰おうか? 抵抗するなら命は……」
 剣をちらつかせる盗賊の姿にヒッと悲鳴を上げると、ストームは一目散に来た道を引き返す。ディアナもノソリンの手綱を引いてそれを追う。
「盗賊が出るって噂を知らなかったっすかねぇ?」
「さあな。……お、こりゃ全部食い物だな。肉にワインに……今日はパーッと行くか」
 逃げる二人を追うような事はせず。盗賊達は荷物を確認すると、それを抱えて森の中へと姿を消す。
「……………」
 だが、盗賊達は知らない。ストーム達の後ろから他の冒険者が来ていた事も、彼らが二人を襲っていた間にストライダーの忍び・フォルテ(a00631)が森の中に移動して潜み、戻る盗賊たちの追跡を始めた事も。
「お前ら、罠にかかるなよ。自分の仕掛けた物にかかったら笑いモンだぜ」
 そう言って笑い合う盗賊達が歩いた足跡を踏むようにして辿り、罠のある場所を避けながら、フォルテはアジトらしき場所の手前で足を止める。
(「これ以上は近づけないな。だが、ここまで来れば十分だ。一度戻って、皆を呼んでこよう」)
 フォルテは周囲を確認し、盗賊達に気付かれないよう来た道を戻ると、他の仲間と合流する。
「なにもしらずにたべてますね」
 そしてフォルテが仲間と共にアジトへ戻って来た時、そこでは宴会が始まっていた。その隙に、盗賊達を逃さないようにアジトを包囲すると、彼らに変化が出るのを待つ。
「んん……なんか、腹が……」
「お前もか? 俺も……なんか、ちょっと……」
 日も暮れて、彼らが食事を終えた頃。火を囲んでいた盗賊達のうち、何人かが脂汗を浮かべ、腹を抱え始める。
「なんだぁ、揃いも揃って」
 ケロリとしている者も、不調を訴えている仲間が何人もいる事に首を傾げ、食中りだろうかと言い合い始めた頃。
「今です」
 ストライダーの翔剣士・コンネル(a00392)は今がチャンスだと茂みを飛び出し、毒に中らなかった盗賊の一人へと踊りかかる。
「何?」
「誰だ!」
 他の動ける盗賊達は一斉に剣を引き抜いて、襲撃者に声を上げる。
 盗賊と、それを押さえつけたコンネルの近くにいた盗賊は、すぐに背後からコンネルを叩いて仲間を助けようとするが、その剣先はヒトの翔剣士・レイド(a00950)によって受け止められる。
「すみません」
「気にするな。……早く蹴散らしてしまおう」
 背中合わせに立った二人は、短く言葉を交わすと、剣を振り下ろしてくる盗賊達の攻撃を受け止め、回避しながら、剣の柄で急所を狙い、彼らを気絶させていく。
「ざんねんでした。よどみのろじのあんないにんは、げどうのあんないにんなのですよ?」
 毒に中って動けないほどに体調を悪くした盗賊に近付いたアムリタは、蹴飛ばして踏みつけながら言い放つと、周囲の土から作り上げた下僕へと命令を下す。
「たおれてるやつを、このろーぷでしばりあげなさい」
 幼い子供程度の大きさしかない下僕達だが、アムリタが地面に置いたロープを見ると、それを抱えてアムリタの足の下にいる盗賊を協力しながら縛っていく。そして、それが済むと、次の盗賊の元へと向かう。
「それは……ぼぼ、冒険者!?」
 土塊の下僕を目にした盗賊の一人が、彼らが冒険者である事に気付いて青くなる。相手が冒険者ならば、自分達に勝ち目がない事が目に見えているからだ。
「どいつもこいつも、悪人面ばかりね」
 盗賊達を見回しながら毒づいたシーナは、勝ち目無しと見た盗賊が逃げ出そうとするのを見ると、下僕達に命じて足止めに向かわせる。
「うわあっ」
「く……」
 盗賊たちは体を抑えられて動きを阻害される。が、さほど大きいわけではない下僕を振り払い、盗賊たちはなお逃げようとする。
「タクトがいれば楽な依頼だったんだけど……」
 同じ冒険者で吟遊詩人の弟の事を思い浮かべつつも、いない者の事を考えても仕方がないとディアナは首を振ると、下僕達に命じて盗賊の足元を狙わせ、彼らの転倒を狙う。
「仲のよろしいことで」
 それすらも避けて逃げようとした盗賊二人には、ストームがマリオネットコンフューズで混乱させ、同士討ちをさせている。
「はっ!」
 ギルバートは、そんな盗賊たちの首の下を強打して回ると、彼らを順に気絶させていく。混乱していた二人も、その効果が切れてた所を見計らって、近付いたシーナとディアナがワンドで強打し、気絶させると、まとめてロープで縛り上げる。
「これで、最後だな」
 レイドは最後の一人となった盗賊を縛り上げて顔を上げると、そう呟きを漏らす。
 抵抗した者も逃げ出そうとした者も、毒に中って動けない者も、全員が冒険者によって捕らえられるまで、そう長い時間はかからなかった。
「荷車は街に返しましょう。……これも、きっと奪った荷物ですよね。一緒に運んでいきましょう」
 ストームは借り受けた荷車を回収すると、アジトにあった物品を載せていく。
「………」
 あわよくば宝石の一つでも、と考えていたアムリタだが、手を伸ばすような隙は無く。お持ち帰りは諦めざるを得なかった。

●役目を果たして
「ありがとうございました。これで安心して街道を通れます」
 冒険者達が盗賊を捕らえて街へ戻った事は、すぐに人々の間に広まった。商人達は品物の用意をし、すぐに村へ向かう用意をする。
「これはウチで扱った荷です」
「私が奪われたペンダントだわ」
 アジトにあった品々は、やはり盗賊が奪った物だった。既に売り飛ばされてしまった物も多いようだが、自分の物が無事に戻って来た者達は揃って顔を輝かせている。
「いくつか、持ち主が見つかりませんね」
「村の方の物なのかもしれません」
 いくつか冒険者達の手元に残された物は、これから商人達と村まで行くというディアナが預かり、送り届ける事にする。
「ひとまず、これで解決ですね」
 冒険者達は無事に役目を果たし、ほっと一息つくのだった。

「すごい……」
 村を訪れたディアナは、預かった品物を持ち主に返したあと、職人達の作業を見学していた。器用に動く指先と、それによって作られていく品々に、ほうっと感嘆の息が漏れる。
(「それに……」)
 視線を少し上に向ければ、そこには村一番の美形と言われる青年の姿。ディアナは作業をする手先のみでなく、彼の顔にも見惚れながら、夕刻までの時間を過ごすのだった。