帰郷指南
 

<帰郷指南>

マスター:聖京


 昼下がりの酒場。集まって談笑をしている冒険者たちに、酒場のに居合わせたフィルという名の霊査士から依頼の内容が告げられる。
「とある村が盗賊に襲われてる。彼らを退治して村を守って…と、言いたいところだが、今回の依頼の主旨は、そうじゃないの」
 一体どういうことか。聞くところによると、その盗賊というのは、元々その村に暮らす、普通の村人だったのだそうだ。
 どんな理由が合って盗賊になってしまったのかはわからないが、村人側としては、改心させ、また同じ村の人間として暮らしていくことを望んでいるのだという。
「そんなわけで、決して盗賊を殺さないでくれと頼まれている。まぁ、捕まえるか説得するかして、村人に引き渡すのが、得策だろう」
 顎に手を当てて思案するフィルの横から、別の霊査士である女性が進み出でた。
「盗賊の数は5人のようです。特に支障となるようなものは無いと思われますが…油断してはならないでしょう」
 厳しい表情で告げる霊査士を見やると、フィルは、ふむ、と小さく頷いた。そうして、
「みんな、頑張ってきてくれ」
 ぶっきらぼうながらも、優しく微笑んで言うのだった。


参加者: エルフの武道家・プリシラ(a00238)  エルフの紋章術士・ジェルフェ(a00435)
ヒトの吟遊詩人・タケマル(a00447)  ヒトの武人・ハクエン(a00733)
ヒトの紋章術士・ミア(a00968)  ヒトの武人・ドレイク(a01013)
ストライダーの翔剣士・ゲル(a01348)  ストライダーの牙狩人・ウルズ(a01452s)

 

<リプレイ>


「お願いします。我々は、彼らを村へ戻したいのです」
 着くや否や、村人が、切実な目で訴えるのを見ながら。ヒトの吟遊詩人・タケマル(a00447)は宥めるように、そっと微笑んだ。
「勿論そのつもりです。ですが、彼らが盗賊になった理由がわからないと、上手い説得ができないかもしれません」
「な、何でもいいんです…心当たりはありませんか…?」
 タケマルの後ろから、おどおどとした様子で訪ねるエルフの紋章術士・ジェルフェ(a00435)。彼の願いもまた、彼らを帰れる故郷に戻してあげたいということ。
 そんな強い思いを悟り、村人は互いに顔を見合わせ、誰か何か知っていないかとどよめき始めた。
 些細なことでもいい。何か気付いたことは無いかと問いつづける冒険者たちだったが、結局得られた情報は、わずかに二つ。

 一つは彼らが元々素行の良い者ではなかったこと。
 もう一つは、彼らには身寄りがいないこと。

「生活のために盗賊になったのでしょうか…これだけでは何もわかりません。彼らからも理由を聞くべきですね」
 ヒトの紋章術士・ミア(a00968)の言葉に賛同し、彼らは森へ入ることを決めた。
 説得に応じない場合は、捕まえるしかないだろう。などと話しながら準備を進めるのを横目に、ヒトの武人・ドレイク(a01013)は、一人村を出ようとしていた。
「どうか、したの?」
 呼び止めたのは、ストライダーの翔剣士・ゲル(a01348)。その声に振り返ったドレイクは、苦笑を浮かべる。
「初めから説得できなかった後のことを考えるのも、何だか哀しいからな。捕まえる気でいる奴らより、先に盗賊たちにあえないかと思ってな」
 仲間を悪く言いたいわけではない。それほどの意気込みでなければ説得も容易ではないだろうという、意志の現れ。
 それを聞いたゲルは、自分の武器を外してにこりと笑んだ。
「僕も、一緒に行くよ」
 そうして、森へ入る冒険者たち。

 出かける直前。思い出したように告げられた、盗賊のアジト。皆、そこへ向かっていた。
「いくら盗賊とはいえ、自分がかつて暮らしていた村を襲うなんて…寝覚めが悪いどころじゃないな」
 移動中、溜息混じりにぼやくヒトの武人・ハクエン(a00733)。村から借りた毛布を背に負い、告げられたその場所を探している。
「そうですね。どうにか彼らを諭せればよいのですが…」
 応えたタケマルが、ふと、その足を止めた。前方に見える人影に気付いたためだ。
 武器を構えた三人の男。明らかに、こちらを警戒している。確認するまでも無いが、あれはおそらく、
「盗賊、だよな」
 呟くと同時に、ストライダーの牙狩人・ウルズ(a01452)は小さく溜息をついていた。何とか彼らを説得せねばならないのだが、香警戒されては、まともに話しを聞いてくれるかも怪しい。
 今はそんなことを言っている場合でもないが、面倒事は、嫌いなのである。
「貴様ら、何をしにきた!」
「村の連中に頼まれて、俺たちを捕まえにきたんだな!?」
 盗賊たちは一定の距離を保ちながら、一方的に言う。
 近づいても離れられるのは埒があかない。と、ジェルフェは土の塊で、小さな下僕たちを作り出した。
「は、話しを聞いてください…確かに、僕たちは村の人たちに頼まれてきました…でも、捕まえてくれなんて、頼まれてないんです!」
「信用できるか。俺たちが信頼しているのは、ボスと、仲間だけだ!」
「否定ばかりでは、何も得られませんよ。一度村に戻って、彼らと話してみるのも……」
「黙れ!!」
 ジェルフェとタケマルの言葉に、しかし聞く耳も無いといったように喚き散らす。
 武器を振り回して土塊を薙ぎ払っていく彼らに舌打ちすると、ハクエンは毛布を投げつけた。同時に、今まで黙って聞いていたエルフの武道家・プリシラ(a00238)が、飛び出したのだった。
 毛布をかぶって一瞬ひるんだ隙に、手近な男を組み伏せる。武道家らしい素早いその行動に、男は抵抗する間もなかった。遠くへ武器を投げ捨てると、プリシラは早口で言う。
「言っとくけど盗賊なんてやってても良いことなんて全然ないわよ。警備隊には追われるし、グドンの群れに襲われたって町に逃げ込めないし、私たちみたいな冒険者にも追われるのよ。満足に食べることだって出来ないんだから!」
 言っているうちに、だんだん口調が強くなっていた。他の男たちもキッ、と睨みつけると、一喝する。
「あんたたちも、とにかく村に帰りなさい! 話は聴いてあげるから!!」
 唖然としている彼らに、ウルズは進み出て、プリシラを宥めながら尋ねた。
「そもそも、何でお前らは盗賊になったんだ?」
 じっと目を見て聞かれ、男たちは顔を見合わせ口篭もった。と、彼らとは別の場所から、素っ気無い声がした。
「生活のために、決まっているだろう」
「ボス!?」
 見れば、そこには二人の男、そしてドレイクとゲルの姿があったのだ。驚いたのは、盗賊ばかりではない。
「何で、二人がリーダーを連れてるんだ?」
 話を聞けば、彼らはここでのやり取りの間に、別の場所で遭遇していたようだ。そして話している間に、こちらの騒ぎが気になって、向かったのだと言う。
「その二人の話は聴いた。一度村に戻る。そこで詳しいことは話そう。だから、そいつを放してやってくれないか?」
 リーダーの言葉に、プリシラはツン、としたまま男を放した。
「村に戻れば、話してくれるのですね…?」
「…あぁ」
 ミアの問いに、リーダーははっきりと、頷いた。

 村に戻れば、リーダーと村長を中心として、長い話し合いが行われた。それに立ち会う、冒険者たち。
 まず尋ねられたのは、どうして盗賊になったのか。
 初めこそ、躊躇いがちに口を閉ざしていた彼らだったが、意を決したように、リーダーがその思い口を開く。
「……俺たちは、元々村の厄介モノだ。いてもいなくても変わらないだろう。それに、どうせ出て行くなら、盗賊にでもなってとことん嫌われ者になった方が、スッキリするだろうと思っていた」
 真剣な目は、嘘を言っていないのだという証だった。村人たちもまた、その言葉を真剣に受け止めている。
「そこの人たちにも聞かれたが、この村を襲おうと思ったのは、さっきも言ったように、とことん嫌われ者になったほうが、盗賊としてやっていくにはいいと思ったからだ」
 それから、日頃の不満、生活が苦しかったことなど、ただ素直に、思いを明かす彼ら。逐一頷きながら聞いていた村長は、話の終わりにゆっくりと語る。
「…話は、判った。だが、我々は、あんたらを厄介モノだなんて思っちゃいない。確かに、迷惑を被ることもあったが、あんたらも、同じ村の仲間だと思っているんだ。村へ、戻ってはくれないか?」
 その申し出に、盗賊たちも戸惑ったように互いに顔を見合わせる。さなか、視線を上げた彼らに、冒険者たちは勇気付けるように微笑んだ。
 その微笑に後押しされ、今度は互いに頷きあうと、
「俺たちにできることが、この村にもあるなら。また、ここに戻らせてほしい」
 そう言って差し出された手を、村長が握り返した瞬間。場に、大きな歓声が起こった。

 元盗賊を含め、村人から厚い御礼の言葉を受けてその場を後にした彼らは、その帰路の途中、どこかしみじみとした情に浸っていた。
「戻れて、良かったですね……」
 竪琴を奏でながら、呟くジェルフェ。弾いているのは、村人に教わった、故郷の曲。 「彼らが、また盗賊になるようなことは無いでしょうね…」
「あぁ。円満解決で終わって、何よりだ」
 微笑を浮かべるミア。ハクエンもそれに応え、笑った。
「そういや、2人はどうやってリーダーを説得してきたんだ?」
 思い立ったように、ウルズはドレイクとゲルに尋ねた。リーダーたるもの、志は堅かろう。それを言いくるめてあの場に連れてきたのだから、何かしら策があったのだろうか。
「それは私も気になりますね〜。いきなり現れてスピード解決でしたから」
 タケマルも便乗すると、ひょっこりとゲルが顔を出した。
「えっとね、武器持っていかないで、いっぱいいっぱい質問したら、答えてくれたんだよ」
「まぁ、根はいい奴らだったんだろう。ほぼ行き当たりばったりだったが、話を聞いてくれる人間で、助かったな。こんな手、何度も使えるものじゃないが」
 ドレイクが苦笑するその後ろで、ホントだねー。と、嬉しさにはしゃぐゲル。
 だが、思わず浮かべた苦笑も、転じて解決への微笑になっていた。
 こうして、宿を離れた盗賊たちへの帰郷指南は、無事に成功を遂げたのだった。