宝探しは危険がいっぱい
 

<宝探しは危険がいっぱい>

マスター:斉藤七海


 宝探し<トレジャーハント>。
 それは、常に死と隣り合わせの危険を秘めたもの。

 その危険をくぐり抜ければ、莫大な富を得ることも夢ではない、と過去の成功者たちは言うが、それを実現できる者はほんの一握りに過ぎないのだから。
 そして……。
 今日もまた、冒険者の酒場には、新たな依頼が冒険者達を待ち受けていた。

 それは、遥かな昔に作られた、美しい工芸品の数々を納めたと言われる貴人の墳墓。今では、その名すら残されてはいないが、当時はさぞかし名のある貴人だったのだろう。その墳墓に納められている工芸品の中には、非常に美しいものも多々あるという。

 その墳墓の情報が初めて舞い込んできた日。1人の筋骨隆々の武人が宝を求めて旅立った。
 だが、片道2日の場所にも関わらず、1週間経っても十日経っても、彼が戻ることはなかった。
「やはり頭の中まで筋肉な輩では、真の工芸品には相応しくないということだな」
 そこで今度は、相棒を連れた紋章術士が旅立っていった(相棒も紋章術士だったりしますが……)
 だが、やはり何日待っても帰還の報がもたらされることはなかった。

「そこで今回の依頼だ。今回の依頼は初めに出掛けていって帰ってこない武人の家族からだ。冒険者ってものが危険な仕事だって事は十分理解していたんだろうが、それでも、いざ帰ってこないとなるとやはり気になって仕方ないらしい。そこで、彼の消息を確認し、その身柄(生きていれば勿論良いが、既に亡くなっていればその遺体の意味)を連れ帰って欲しい、あるいはそれが無理なら生前の持ち物の1つでも持ち帰って欲しいというものだ。どうだい。冒険者仲間としちゃ、放っては置けんだろう?」

 一連の話を終え、君たちと一緒に話を聞いていたエルフの少年(?)が、さっそく旅支度を始める。
「さぁ〜て。面白くなってきたなぁ。手練の冒険者を次々と飲み込む古代墳墓。美しい女性に頼まれて、その奥で消息を絶った仲間を探しに行く冒険者たち。彼らは其処に待ち受ける数々の罠や怪物を躱し、見事、仲間を見つけ出す。ついでにその奥に眠る工芸品も持ち帰って懐も暖まる……うん、絵になる、もとい詩になるなぁ。さぁ、さっそく出掛けよぉ〜!」
 依頼人の事まで勝手に創作して張り切っているその少年に、冒険者たちが目を白黒させていると、少年(?)は、気さくに話掛けてきた。
「ボクはエル。依頼人の美しい女性(エルの勝手な妄想です)とお宝のゲットの為、一緒に頑張ろうね。そして、キミたちの活躍を、冒険譚としてボクに紡がせてくれない?」

 そして、酒場の主人が話の腰を折るように、君たちに告げる。
「まあ、こう言っちゃ何だが、もうそいつは無事じゃあるまいよ。だがな。そいつらが失敗した原因、それはもう分かってるだろ!? だったら何が待ち受けていようとも、お前さんたちならきっと上手く行くだろうさ」
 たしかに、何が待ち受けてるかなんて、誰にも判りはしない。とにかく、仲間と力を合わせて困難を乗り切るだけだ。判ってはいるのだが、誰ともなく店の隅に腰掛ける女性の方に視線が注がれる。そう、その女性こそは冒険者たちへの貴重な助言者、霊査士だった。
「そうですね。ジメジメとした通路を歩く彷徨える犬グドンの群れ。それに……何か強力な存在が感じられます」

 こうして初めての依頼を受けた君たちは、待ち受けるであろう冒険に思いを馳せ、期待と不安に胸躍らせるのだった。


参加者: ヒトの翔剣士・レオン(a00385)  エルフの邪竜導士・ディオナ(a00820)
ストライダーの忍び・シン(a00862)  ストライダーの忍び・ロウ(a01327)
エルフの武人・アサシン(a01406)  エルフの邪竜導士・アンジュ(a01533)
ストライダーの忍び・ウイング(a01562)  ストライダーの忍び・ユウト(a01576)

 

<リプレイ>


●『シンとユウト、2人の忍びの活躍により、幾多の罠を乗り越えてゆく冒険者たち。だが、その時通路の奥で……』
「さぁて、お宝、おっ宝〜♪」
 墳墓の入り口で、一際はしゃいでいるのはストライダーの忍び・ユウト(a01576)。楽しげな彼に触発されてか、吟遊詩人のエルもまた一緒になってハモっている。
「そろそろ、はしゃぐのは終わりにした方が良いな」
 そんな2人を、穏やかながらも有無を言わせぬ静かな声音で制したのは、ヒトの翔剣士・レオン(a00385)。彼の声を機に、改めて気を引き締めた冒険者たちは、いよいよ幾人もの仲間を呑み込んだ墳墓の中へと入って行った。

 墳墓の通路はさほど広くない為、ユウトとストライダーの忍び・シン(a00862)の2人を先頭に、2列になって、慎重に先へと進む。
 途中、落とし穴があったり、壁の穴から矢が飛んできたりと古典的な罠がいくつもあったが、冷静に周囲を警戒するなシンと『仕事は』マジメなユウトの2人が、悉く事前に見破ることで事なきを得ていた。
 そんなある時、通路が急に狭くなっている場所に出る。この為、1列になって進まざるを得なくなり、やむを得ずひときわ慎重に進んでいく。
(「辺りの様子が一変したってことは、必ず何かある……」)
 シンの直感が、そう告げていた。
 そんな時、ちょうど数歩先に、再びヒトの等身大を少々上回るほどの落とし穴を発見した。
 大した大きさでもない為、皆、難無く飛び越え更に先へと進もうとしたところで、エルが『あっ!』と大きな声をあげる。
「エルさん、大丈夫ですか? 何があるか分からないですから、気を付けてくださいね」
 エルの身を気遣ってか(警戒してとも取れるが)、丁寧な言葉を掛けるエルフの邪竜導士・アンジュ(a01533)。が、彼のその気遣いはあっさりと無に帰したのだった。
「あの……、ゴメン! ボク、何か押しちゃったみたい!」
「え〜っ!!」
 言うが早いか、前方でガタッと何かが外れる音がする。そして、真っすぐに伸びる通路の突き当たりの壁が開き、大きな石の球が転がり出てくる。
(「うわっ、何かどっかで見たような罠っ……」)
 脇に逃れるのは間に合いそうにない。やむなく再び落とし穴を飛び越えて戻ろうと試みる冒険者たち。順に飛び越えるとなると、かなりギリギリのタイミングだ。
 そして……。
 球がシンの背中まであと僅かに迫る。
「今だっ、早く跳べっ!!」
 レオンが真剣な表情で合図を送り、同時にシンの足が床を蹴る。力の限りの跳躍。石球が微かに踵に触れるも、辛うじて穴を飛び越え、石球はその穴の中へと落ちて行ったのだった。
「良かったぁぁ。何とか助かったぁ〜っ!」
 ユウトが胸を撫で下ろしながら率直な感想を漏らす。
(「それにしても……エルの動向にはまったく持って気が抜けないな……」)
 全く同じ内容が、全員の脳裡を掠めたのだった……。

●『無数のグドンの群れの只中で、レオンの剣が閃き、ウィングの手から刃が飛ぶ。しかし、その間隙を縫って1匹のグドンがディオナの元へ……』
「あ、そういえば自己紹介がまだでしたね。エルフの邪竜導士アンジュと申します。それにしてもエルさんはどうです? 私は暗くてジメジメしたダンジョンって正直言って苦手だなぁ。でも私たちがそんなこと、言ってられませんよね。とにかく…どうかよろしくお願いしますね♪」
「ボク? ボクは結構ダンジョンとかって好きだよ。カッコいい物語には必ず登場するしね」
 エルの不注意な行動を牽制すべく、アンジュが何かと話題を振って注意を引こうとし、エルもまんまとそれに乗せられていた……。

 その甲斐あって、更なる幾つもの罠を無事に掻い潜って墳墓の奥へと進む冒険者たち。すると、遥か前方から、ヒトとも犬ともつかない奇妙な唸り声のようなものが響いてくる。
「どうやらグドンどものようだな。一本道だし戦いは避けられまい。ならば……先手必勝と言ったところか」
 エルフの武人・アサシン(a01406)が静かに呟く。
「行くか!」
 そう告げたレオンを始め、それに異を唱える者はいない。さっと周囲に罠などがない事だけを確認すると、一気に全員で駆け出す!
 冒険者たちが飛び出したのは、意外にも大きくひらけた部屋。そこには10数匹あまりの犬グドンがひしめき合い、何かを奪い合っていた。
 そこに9人もの冒険者が現れたのだから大変。グドンからすれば自分たちの住処に大勢の敵が乱入してきたことになる。一斉に戦闘態勢に移ろうとし、逆に混乱状態に陥っていた。
 レオンは、駆けた勢いのまま群れの中心に突っ込み、スピードラッシュで敵に斬りつける。グドンたちは目にしたこともないような疾い太刀捌きに完全に翻弄されていた。
 シンやストライダーの忍び・ウイング(a01562)も動きを止めないように前線に立つレオンたちの合間を縫うように飛燕刃を放つ。
 しかし、グドンたちも一応は集団を構成するだけはある。次第に態勢が整い始めると、数を頼りにした反撃を開始する。
 そして、そのうちの2匹が、傷つきながらも飛燕刃の間を抜けてエルフの邪竜導士・ディオナ(a00820)とストライダーの忍び・ロウ(a01327)に襲い掛かる。グドンの手にした棍棒がディオナの肩を打ち据え、不意に投げつけた杖が躱そうとしたロウの足を払う。
「くっ……」
 痛みに思わず顔をしかめるディオナ。しかし彼女のそれとは裏腹に、その場に倒れ付したのは犬グドンの方。ディオナはあらかじめ復讐者の血痕を発動していたのだった。倒れたグドンには、何が起こったのかを理解する間も出来なかっただろう。
 そして、ロウは……、
「犬ッコロの分際でッッ……覚悟はできてるンだろうなぁ?」
 思いっきりキレていた。飛燕刃が飛び、ダガーが閃く。ほんのわずかな間にグドンは見るも無惨な姿へと変貌したのだった。

 こうして、冒険者たちが存分に力を発揮したことで再び形勢が逆転するのに、さほど時間は掛からなかった。グドンの群れを一掃しかかったところで、1匹のグドンが仲間を盾にして逃走を図る。ウィングがすぐに後を追うが、トドメを刺すには至らず、惜しくも逃げられたのだった。

●『そのとき、醜い牙を剥き出しにした巨大な獣が冒険者たちに向かって襲い掛かる。アンジュが黒炎を放つも、無情にも獣の牙はアサシンの身体に……。その獣に向かいロウの渾身の一撃が……』
 嫌な予感を感じたウィングが追跡を断念して仲間の元へ戻ったときには、既に戦闘は終結していた。
 ディオナが改めてグドンたちが奪い合っていたものを手に取ると、それは、紋章の描かれた上質なローブ(既に破けたりしていたが)とマジックワンドと呼ばれる杖。
「どうやら私たちの前に入った紋章術士の遺品のようだな。考えてみれば依頼すら来ない彼らこそ本当に哀れなのかも知れん。せめて、持ち帰って埋めてやろう……」

 痛む肩を押さえながら、呟いたディオナがそれらを仕舞い込むと、冒険者たちは再び墳墓の奥へと進み始めた。
 まずはウィングが確認したグドンの逃走路を、これまで以上に慎重に進む。
「グルルルゥ……」
 突然、不吉を存分に漂わせたような重苦しい獣の唸り声が廻廊中に響き渡る。
「どうやら『ボス』のお出ましってトコかいなぁ?」
 緊張の裏返しか、ユウトが軽口を叩く。そして、ゆっくりと歩を進め続く角を曲がると……。
 ノソリン並の巨躯を持ち凶悪な牙を剥き出しにしたイヌ科の獣が、先ほど逃げて言ったグドンを踏み付け、今まさに噛み砕こうとしていた。
(「出たっ!」)
 誰もがそう思った瞬間、生きた餌(冒険者)の気配に気づいたソレが、涎を滴らせながら一気にグドンの体ごと床を蹴った。
 ブラックフレイム!
 飛燕刃!
 アンジュの杖から炎が迸り、シンとユウトが刃を放つ。
「狭いところでは不利だ。今のうちにさっきの部屋へ!」
 最後尾のロウが叫び、皆、一斉に駆け出す。
「ガァァァッッ……!」
 獣は僅かに怯むも、すぐに冒険者たちを追いかけてくる。
「おーにサンーこっちらー」
 逃げながらもユウトが叫ぶ。実際にはそんな余裕などない筈だが、そんな様子を微塵も感じさせていない。
 何とか大部屋まで戻ると、仕切り直しとばかりにレオンとアサシンが獣の正面に迎え撃つ。
 そして後方からアンジュのブラックフレイムをはじめとした忍びたちの遠距離攻撃が続けざまに放たれる。
 が、獣は不死身かと思わせる生命力でそれらに耐え、前衛2人に襲いかかる。
 ガッ!
 ついに獣の牙がアサシンの身体を捕らえた。
「今、助ける!」
 アビリティも尽きたシンがダガーを手に獣に突っ込む。同時にアンジュが最後の黒炎を迸らせる。
「今です!」
 続いてレオンとロウが渾身の一撃を放つ。
「これで終わりにしてやる!」
「くたばりやがれェェッ!!」

●『見事に獣を葬った冒険者たち。無念の内に倒れた武人の形見を胸に抱き、誰1人欠けることなく街へ……』
 ドサッと大きな音を立てて、獣の巨躯が倒れて行く。
「勝った……のか!?」
 レオンが我が目を疑うように呟く。
「えぇ、どうやらそのようです」
「これであとは…武人の遺品を回収して帰るだけか……」
「少しは工芸品も持ち帰りたいなぁ」
「余力があれば、な……」
「え〜っ、ボクは大丈夫だよ♪」
「お前は逃げ回ってただけじゃないかっ!!」
 1人、戦いにも参加していなかったエルを除いて、誰にもそんな余力がない事は火を見るより明らかだった。
 そして……。
 残る力を振り絞った冒険者たちは、武人の遺品を回収し、ついでに見つけた幾許かの工芸品を手に、街への凱旋を果たしたのだった……。