58 64 無限のファンタジア




『 聖なる女神の木の下で 』

●美味しいケーキを

 本来ならば、女性がお菓子を渡す日。
 ランララ聖花祭。
 けれど、中にはちょっと変わったカップルがいる。
 とは言っても、二人は周りの事など全く気にしていなかったが。

 ヨシュアは恋人の為に美味しいチョコレートケーキを作っていた。
「うーん、ちょっと甘いかな?」
 クリームをひと舐めして、感想を呟く。
 エプロンをつけたヨシュアは、キッチンで一人、黙々と作っていた。
「喜んでくれるといいんだけど」
 不安がよぎる。でも、それもほんの僅かな出来事。
「美味しいって言ってくれるよな、フォロン……」
 こうして、愛を込めたケーキが完成したのである。

「ごめん、遅くなっちゃった。だいぶ待った?」
 フォロンが息を弾ませ、女神の木の下までやってきた。
「いや、俺もさっき来たばかりだから。……あっと、これ良かったら食べてくれる?」
 そういってヨシュアが差し出したものは、あのチョコレートケーキであった。
「わあ……これ、ヨシュアが作ったか? 美味しそうっ!」
「はい、フォーク」
「ありがとう♪」
 さっそくフォロンが一口食べる。
「……んーーーっ! 美味しいっ……」
「本当? よかった、喜んでもらえて。安心したよ」
「もう、最高っ! さすがはヨシュアっ!」
 嬉しそうにぱくぱくとケーキを平らげる。
 そして、もじもじとヨシュアを見た。
「あの、ちょっといいか?」
「何?」
「おかわりある?」
「………な、なんだ……。もう一切れしかないけど、それでもいい?」
 思わずがくりと力が抜ける。
 でも、これでいいのかもしれない。
 愛の告白はないけれど。
 こうして一緒に過ごせるだけで。
「うん、美味しい!」
 二人はきっと、幸せなのだと……。


イラスト: 的場つかさ