【〜甘く暖かな一時〜】

● 【〜甘く暖かな一時〜】

「にゃー、早く着すぎた……」
 女神の木の下に立ったカーリーは、白く色付いた吐息で指先を暖めながら、丘の下から女神の木へと至る道を見つめていた。
「るび、早く来ないかなぁ……」
 小さな小箱を弄びながら待つのは愛しい人。
 その姿が現れるのを、ただ焦がれるように待つ。
 ――どれほど待っただろう。
 ふと、空を見上げながら待つカーリーの側に、冬の冷たい風が吹き抜けたその時。同時にふわりと、愛しい人の薫りがした。

「お待たせなのじゃー♪」
 あ、と呟きながら振り返ったカーリーが目にしたのは、そう声を上げながら駆け寄って来るルビーナの姿だった。
 一直線に走って来たルビーナは、そのまま飛び込むようにカーリーに抱きつくと、まるで猫かのように甘える仕草で、すりすりとその胸元に頬を寄せた。
 よほど急いでランララの試練を乗り越えて来たのか、ルビーナの息は弾んでいて、よく見れば額には汗が滲んでいる。
「るび……」
 そんなルビーナの体を、カーリーはぎゅっと抱きしめた。服越しに伝わって来る体温は暖かく、そしてどこか心地良くて……。
「カーリー、良い匂いじゃのぅ……♪」
 ルビーナはカーリーに抱きしめられながら、目を細めて顔を綻ばせる。両腕に抱かれていると、暖かくて気持ちが良くて……試練の疲れも冷たい夜風に吹かれる寒さも、どこかに吹き飛んでしまうような気がした。

 しばらくして抱き合っていた体を離すと、カーリーはずっと手にしていた箱を取り出した。
 中身は、今日の為に一生懸命作ったチョコレートだ。
「るび、はい食べさせてあげる♪」
 チョコレートの欠片を一つつまんで、その指先をルビーナの口元へと運ぶカーリー。その仕草に促されるように、ルビーナはチョコレートを口に含む。――カーリーの指先ごと。
「る、るびっ……!」
「ん、甘くて美味しいのじゃ……♪」
 思わず声を上げたカーリーに、小悪魔のような微笑を向けるルビーナ。その仕草と表情に、カーリーは耳の先まで真っ赤になってしまう。
「さ、お返しじゃよ♪」
「もー……」
 そんなカーリーの姿を楽しそうに眺めながら、同じようにチョコレートを彼女の口先へと運ぼうとするルビーナ。その仕草に……カーリーは、ならばこっちもお返しだとばかりに、その指先をちろりと舐め返す。
「む……」
 それはルビーナにも予想外の事で。思いがけない反応に、今度はルビーナが頬を赤らめる番だ。
「やられたのじゃ……しかし……」
 今度は、と、指先で触れたチョコレートを自分の口元に運び、軽く咥えて。
 ルビーナはそのままカーリーへと近付く。
「ん……」
 互いの口の中でとろけて、広がっていく甘い味。更にチョコレートに指を伸ばしては、互いにそれをじっくりと味わう。
 そうしているうちに、やがて辺りには深い夜の帳が下りて……薄暗い闇の中、二人の甘く長い夜は更けていった……。


イラスト: コシカワグウ