白いマフラーに愛を込めて

● 大切な時間

 らしくないと言われればそれまでだが、手を繋いで二人は星屑の丘を歩く。
 降り注ぐ綺羅星の中を緩い歩調で歩きながら、時折見詰め合っては照れたように頬を染める。
 二人は先日、セイレーン領で結婚式を執り行ったばかりの新婚さんだ。今回は夫婦という関係になってから初めて迎えるランララ聖花祭。イベントの頭に「初めて」をつけて記念にすることが出来るのは、もしかすると、とてつもない幸せなのではないかとセントは想う。
 春と呼ぶには冷え込む夜。
 セントは大きく息を吸った。
「今日は、ちょっぴり寒いから……」
 白いマフラーをセイガに差し出す。
 あまり器用とは呼べない彼女の手編みであることが一目でわかるような、少し不恰好ながら愛が篭ったマフラー。ぐるぐると彼の首にマフラーを巻いて、セントはにっこりと微笑んだ。
 普段ならセイガは、大雑把だとか何だとか、照れ隠しに暴言を吐いてしまうところだ。
 けれど今日は照れなどよりも、もっと大きな感情が胸に満ちていた。
 妻の身体を抱き寄せて、セン、と優しく彼女の名を呼ぶ。
「マフラー、暖かいぜ。いつも可愛いと思うけど、今日はもっと、可愛い……ぞ、うん」
 誤魔化しきれない照れで顔を赤くしながら、セイガは呟く。
「セイちゃん……」
 セントは驚いたように目を瞬いて、それから嬉しそうに微笑んだ。
「……愛してる」
 今更だけれどと照れ笑いしながら囁く彼女に、セイガの心に満ちていた、彼女を愛しい、可愛いと思う気持ちがますます強くなっていく。
「これからもずっと変わらず、愛してるからね」
 ここのところ忙しく、新婚夫婦だと言うのに二人きりの時間が取れないでいた。
 それだけに久し振りの甘い時間が、何よりも嬉しいランララの贈り物と思える。
 二人を見下ろす美しい星々は、いつか見た星よりなお綺麗に輝いているようだった。
 愛しい人との大切な時間を過ごせることに感謝しながら、セイガは彼女を抱いて微笑む。
「来年も、また必ず来ような」
 セントも同じように優しく微笑んで、こくんと大きく頷いた。
「うん、また来たいね」
 彼の腕にしがみついて、触れ合うセイガの暖かさを感じながら幸せそうに目を閉じる。
 小さな声で囁いた。
「普段は色々言っちゃうけど、ほんとは、凄く頼りにしてるの」
 セイガはますます照れてしまって、誤魔化すようにもう一度、彼女の身体を抱き締めた。
 齎された幸せを噛み締める。
 二人で見た今日の日の星空は、二人の大切な思い出として、また新しく記憶のひとつに刻まれた。



イラスト: 小林蕪