〜この星空より貴女の方が美しい〜

● ・・・月夜の夜にあなたと二人で・・・。

「そう、この夜空より、ミキの微笑みの方が何万倍も美しい……」
「あ、ヒヨコ」
 瞬く綺羅星のちりばめられた美しい夜空を見上げ、月光に照らされたムーンリーズが囁く。
 が、ミキは何故か星屑の丘をぴよぴよと歩いていた小さなヒヨコに目を奪われていた。
 思わず肩を落とすムーンリーズに構わず、ミキはやんわりと微笑んだ。
 先程からこの調子で受け流されてばかりなのだ。
 口説き文句はことごとく打ち消され、色男も形無しである。話が噛み合わず困り切ってしまう。
 ランララ聖花祭の夜を共に過ごすだけあって、二人の関係は恋人同士だ。
 今は少し噛み合っていないかもしれないが、恋人と言ったら恋人なのだ。
 煌く星明かりに白々とした月。
 誰も居ない丘を吹き抜けていく夜の風。
 梢が鳴り、草が揺れ、散らされた花弁が宙を舞う。
 場所は充分に良い雰囲気だ。ただ、ムーンリーズがいくら甘い言葉を紡いでも、ミキを相手には暖簾に腕押し。何を言っても変わらぬ笑顔の彼女に、彼のペースが乱されていた。
 ふう、と息を吐いて知らず入っていた肩の力を抜く。
 優しく笑んでくれるミキの瞳をしばし覗き、ムーンリーズは微笑んだ。
「……今が一番、幸せなのかもしれません」
 零した言葉。
 絡み合う視線。
 自然と手と手が重なり合う。
 心なしか身体が近付き、肩と肩が軽く触れた。
「あ、またヒヨコ」

「…………」
 がっくりとムーンリーズは肩を落とした。
 気の抜けた様子の彼を尻目に、ミキはくすっと小さく笑う。
 首を伸ばして微か、触れ合う程度に唇を重ねた。
 目を見開く彼から素早く身を引き、ミキは早々と帰路に着いた。
 送って行きます、と我に返ったムーンリーズが慌てて彼女の背を追い駆ける。
 白く大きな月は美しい黄金色に輝いて、静かな夜の丘を明々と照らし出していた。



イラスト: 茶駝乾