夜空より星より、恋人のチョコケーキ

● 隠し味は内緒の内緒だよ

 星降るような、素敵な夜空。
 そして、隣には大切な恋人がいる。
 だが、彼にはそんな事、目に入っていなかった。

 目の前に、恋人が作った、美味しいチョコレートケーキがあったのだから。

「はい、チョコレートケーキだよ」
 そういって、草原にちょこんと座っていたフィアが、愛するレツヤにプレゼントを渡した。
「フィア特製、甘さ控えめだよ。気に入ってくれると嬉しいんだけど……」
 喜んでくれるか、ちょっと緊張しながらも……。
「おっ、わざわざありがとうな」
 そういって、レツヤはさっそく一口食べてみた。
「どう? 美味しい?」
 不安そうに尋ねるフィア。
 と、レツヤが突然、叫んだ。
「うん、美味い! 甘いものが苦手な俺でも美味いと思えるほど美味い!」
 そう言ったかと思うと、勢い良くケーキをがつがつ食べ始めた。
「そんなに急いで食べなくても逃げていかないってば」
 くすくすと笑うフィア。けれど、嬉しそうに食べるレツヤの姿が、なによりも嬉しかった。
 ふと、レツヤの頬にケーキのカスがついているのに気づく。
 レツヤはそんな些細な事は気づかずに、ばくばくとケーキを食べ続けている。
「レツヤ、ちょっと動かないでね」
「ん……」
 レツヤは手を止め、言うとおりにしている。
「もう、子供みたいに付けてるんだから〜」
 フィアは、頬についたケーキのカスを指で摘みあげ、そして、ぱくんと口に入れた。
「お、おおおおおおまおまお前お前――!!」
 もう、レツヤは大パニック!
 頬についたカスを恋人が食べてしまったのだから。
「何で赤くなってるの……?」
 大パニックしているレツヤをきょとんと見るフィア。
「なななな、何でって、お前っ!!!」
 そんな動揺しているレツヤにフィアは、くすりと笑った。
「本当にレツヤって迫られると弱いんだから」
「や、やかましい。そ、その……お前だからだよ……」
 そのレツヤの言葉に、フィアは小さな声で応える。
「大好きだよ、レツヤ……。ずっと……」
 だが、小さすぎた愛の告白は、レツヤには届かなかったようだ。
「ん? 良く聞こえなかったが、何て言ったんだ?」
「内緒の内緒だよ……」
「な、内緒の内緒って何だよ、教えろよっ!」
「もう言わなーーいっ」
「いいだろ、教えてくれたってっ!」
 こうして、二人の甘い夜は過ぎていく。
 レツヤがフィアから、ちゃんと愛の言葉を教えてもらったかは……二人だけの秘密。


イラスト: ねこ