≪ランララ聖花祭≫白昼の彩花〜嬉し恥ずかし急接近?

● 急接近―白昼のポッキーゲーム

 去年は一人きりでこの場所にいた。
 でも、今年は違う。
 今は、その隣に大切な恋人がいるのだから……。

「良い眺めですね……」
 初めて星屑の丘に来たシオン。
 ゆっくりと周りを見渡した。
 丘から見える町並みは、恋人たちの目に美しく映り込んだ。
 夕暮れ時、夜ともなれば、更に美しい姿を見せる事だろう。
「去年も見ましたけど、相変わらずええ眺めどすな。去年は一人やったけど、今年は……」
 マリーはふと、隣に居るシオンを見た。
「どうかしましたか?」
「な、なんでもあらへん……」
 シオンは心の中で思う。
(「シオンはんも居はるから、とても楽しい一時が過ごせそうどす……」)
 嬉しそうに微笑みながら。

 辺りを一望できる場所を見つけ、二人はそこに座ることにした。
 美しい景色を眺めながら、お菓子を食べる……なんと幸せな事か。
「二人で食べようと思ってたこのチョコケーキ……ホンマはもう少し用意するつもりやったけど、間に合いまへんで……」
 マリーはそう言って、シオンに小さなチョコレートケーキを手渡した。
 見るだけで、すぐにわかる。
 小さいなりにもそのケーキは、マリーのシオンへの愛情がたっぷり詰まっていた。
 その小さなケーキの上には、ハート型のチョコレートも乗っている。
「ありがとうございます」
 嬉しそうに微笑む。
 ふと、シオンは思った。
 何かお返しをと……でも、自分は何も用意してこなかった。
(「ダメですね……マリーさんを喜ばせるプレゼントもないなんて……」)
 いや、他にもあるはずだ。
 シオンは良い案を思いついた。
 ケーキと共に受け取ったフォークで、ケーキを一口大に切り分ける。
 まずは一口、自分で食べる。
「美味しい……さすがマリーさんですね」
 シオンはにっこりと微笑み、またケーキを一口大に切り分けた。
 そのケーキは自分ではなく。
「マリーさん……あーん……」
 目の前にいるマリーに差し出す。
「や、やだわぁ〜シオンはん」
 照れながらも、それを口で受け取るマリー。
「なんや……シオンはんから貰ったケーキやからか……とっても美味しいわぁ」
 その様子にシオンは嬉しそうに微笑んだ。
「シオンはん……はい、あーん……」
 ケーキに乗ったチョコレートをそっと手に取り、シオンの口の中へ。
「ん?」
 シオンは、思わずかぷっと口でチョコレートを受け取った。
 と、突然、マリーはシオンが食べているチョコレートの端に被りついた。

 大好きという気持ち。
 時には大胆にアプローチ。
 マリーは、不安そうにそっとシオンを見た。
 シオンは恥ずかしそうに頬を染めながら……ゆっくりと食べ始める。
 マリーもゆっくりと食べ始め。
 そして。
 互いの唇と唇が触れ合った。
 チョコレートの甘い味がする……。

「……ウフフ」
 マリーは思わず笑ってしまう。
 にこやかな笑顔。
 シオンも嬉しそうに笑っている。
「マリーさん」
 少し緊張しているのか、その声は僅かに震えている気がした。
「私の全てを貴女に捧げます……ですから、貴女の全てを私に下さい……」
 緊張した面持ちで、シオンは自分の気持ちを告げる。
「うちの全ては……既にシオンはんのモノどす。せやから、これからもずっと……シオンはんのお傍に居させて下さい……」
 それは願い。
 いつの間にか二人は抱き合っていた。
 誰から抱き合ったのかは覚えていない。
 もう一度、二人はキスをした。
 もう、チョコレートの力を借りなくても大丈夫だろう。
 この日、二人の心の中に、大切な思い出が生まれたのである。


イラスト: おおゆき