ランララ聖花祭〜Taste so Sweet〜

● 想い出色の空

(「……参ったな」)
 ティムは、彼女の手を引きながら、心の中で呟いた。
 大切な恋人である彼女……ティナを心配させるわけにはいかない。
 本来ならば、散歩がてら、さえずりの泉に行くつもりであった。
 そう、時間もあまりかけずに済む予定だったのだが……途中で道を誤ってしまったらしい。
 道がわからなくなっている。
「どうかしたの?」
 きょとんと見上げるティナにティムは笑いかけた。
「いや、何も。ちょっと歩くかもしれないけど、いいか?」
「うん」
 しばらく二人が歩いている先に……目的地であるさえずりの泉が見つかった。
 いや、本当はさえずりの泉ではないのかもしれない。
 辺りには二人以外、誰も居ない。
 けれど、そこでは綺麗な夕陽を眺める事ができた。
「近道、だったんだね」
 感心したようにティナは言う。
「あ、ああ……そうみたいだな」
 ティナの言葉に、ティムは、バツの悪そうな顔を浮かべた。

「キャンプファイヤーみたいに、真っ赤だねーっ……」
 二人は泉の畔で二人、並んで座っていた。
「そうだな……」
 彼らのいう、キャンプファイヤーとは、先のザウス大祭で行われたキャンプファイヤーの事だ。
 しかも、彼らはそのキャンプファイヤーの日に告白し、こうして二人の時間を持つようになったのだ。
 空はそのときと同じ色をしていた。
 紅く燃え上がるような炎の色。
 あのときと違うのは、この赤い色がキャンプファイヤーの炎ではなく、暖かな優しい夕陽だという事だろう。
 まるで、二人を優しく包み込むように。
 そして、あのときの、ドキドキが再び訪れるかのように……。
 と、そのとき。
 ちゅ。
「えっ?」
 それは突然の事。
 ティナがティムの頬にキスをしたのだ。
「ティ、ティナ?」
「えと……ティムのお顔、見たかったから……ねっ」
 ティナは、恥ずかしそうに頬を染め、にっこりと微笑んだ。
 ティムは、そんなティナを愛しく感じる。
 自分を驚かす為にやった事。
 けれどそれは、互いにとって、幸せな事だった。
 愛を確かめる為の儀式のようにも見えるキス。
 だからこそ、ティムもそうしたいと思ったのかもしれない。
「ティナ」
「何?」
 ちゅ。
 ティムからのお返しのキス。
「あの日よりもっと……ずっと好きだよ、ティナ」
 キスだけでなく、素敵な愛の言葉も添えて。
 そのティムの言葉に、ティナはまた頬を紅く染めたのであった。


イラスト: 琥姫ミオ