だって、彼女は天使だもの

● 天使の休息

 朝露の庭園は太陽の光が降り注ぐ。
 暖められた木々から甘くて濃い緑の匂いが立つ。
 柔らかな草花は天然のお布団。腕を枕に寝転がって日向ぼっこを楽しめば、誘う様な眠りの手がスイの双眸を覆う。ランララの日をクーラと一緒に過ごせる事が嬉しくて、ずっとはしゃいでいたスイ。心地よい疲れと、自分を抱いてくれているクーラの温もりが、スイを眠りの彼岸へと押し出した。
 ゆらりゆらりと微睡みの中に落ちて行く。
 ゆっくりと瞼が降りて行く。
「……んっん〜〜……クーラ〜…………」
 スイは甘える様に呟き、寝返りを打ってクーラの首筋に顔を埋めた。
 広がり波打つ漆黒の髪の良い香り。
 恋人を――婚約者を心から愛しむ様に、クーラはスイの長い長い髪を優しく梳く。
「……かわいい」
 クーラはのんびりと微笑んで、スイの頭を少しだけ撫ぜた。小さな寝息が応える様にクーラの首筋を擽る。その様子が余りにも可愛くて、クーラはスイを包む腕の力をぎゅっと強めた。
「大好き。スイ……」
 沢山の好きを腕に込め、クーラはスイの柔らかく繊細な体を抱き締める。触れた場所を通してスイの体温と鼓動が伝わり、自身と穏やかに溶け合って。
 吹き抜ける風の音。梢や草花が囁き合う声。そして寝息と鼓動を聞いている内に、いつしかクーラも眠ってしまっていた。

 スイが目覚めた時、クーラは微睡みの中。
 恋人の――婚約者の無防備な寝顔を間近で見て、スイは頬に朱を上らせる。
 それから恥らう様に、けれどとても幸せそうに、静かな微笑を零した。
 もう少し、このまま――。
 呟いてスイは目を伏せる。
 愛しい人と、もう少しだけこのまま、幸せな夢の中へ……。
 スイがクーラに身を寄せれば、クーラはスイを優しく抱き返す。
 そして2人、揺れる木漏れ日の中で、深い深い眠りの内へと降りて行った。


イラスト: 秋月えいる