女神よりも、貴方に捧げる祈り

● 貴方に誓う未来

 ユイリンの居る場所、そこは朝露の花園。
 足元には、かぐわしく揺れる花畑。
 もうすぐ、大好きで大切な人が来るのかと思うと、堪らなくなってしまう。
 ふと、視線の先に彼の姿を見つけた。
 サコンだ。
「お待たせしてすみません」
 そういって、頭を下げるサコンに、ユイリンは慌てて。
「き、気にしないでください。その、私も来たばかりですから」
「そうですか」
 安心したようにサコンは微笑む。
 その笑顔に、いや応にもユイリンの胸が高鳴っていく。
「あ、あの……サコンさんに食べてもらいたくて、作ってきたんです……その、受け取ってもらえますか?」
 緊張のせい?
 それとも受け取ってくれないかもしれない不安から?
 ユイリンの目尻に涙が浮かぶ。
 差し出すユイリンの手が、僅かに震えていた。
 その手をそっと包むかのように、サコンは自分の手を添える。
「ありがとうございます、ユイリンさん」
 そして、サコンはユイリンの作ったお菓子を受け取った。
 素敵な微笑と共に………。

 ユイリンの視界が揺れる。
 嬉しいから?
 それとも……別の理由から?
 まるで夢のよう………。
 大切な人に大切なものを渡せた事。
 そして、その大切な人に笑顔で受け取ってもらえた事。
 それが嬉しくて嬉しくてたまらない。

(「女神様。
  私はあなたではなく、サコンさんに誓います。
  彼と私にとって代えがたいあの場所を、命をかけて守ります。
  大事な未来をまっすぐ見つめて、歩き続ける彼を守ります。
  そのためだったら、私は私の全てを彼とあの場所に捧げてもいい。
  彼とあの場所は、私を構成する【全て】じゃないけれど、
  それがなければ、きっと私の【全て】が色あせてしまうから。
  だから、私は祈ります。誓います。
  この両腕と誰にも負けない心でもって。
  私はこの人を、ずっと守り続けます」)

 ユイリンはそう、心の中で誓った。
 目の前にいる大切な人の前で………。


イラスト: 天神うめまる