韶光の睦言

● 悠久の絆

 木々から漏れる柔らかな日差し。
 美しい森に導かれるように、二人はゆっくりと森の奥へと進んでいく。
「なあ、リーリエ」
 アルロが隣に居るリーリエに話しかけた。
「何だ、アルロ」
「最初に会った時は、ただ単に“見込みのあるやつ”としか思っていなかった。いや、美人だと思わなかったと言えば、大いに嘘になるか……」
「また古い話を……」
 リーリエは話しかけるアルロに笑みを浮かべた。
 アルロもまた、苦笑を浮かべる。
 しかし、その笑みはすぐさま真面目な顔になった。
「ともあれ、お前と出会って何かが変わったのは確かだ。運気というか、やる気というか……それこそ、お前が俺の幸運の女神なんじゃないかと思うほどに……」
 そして、急に道が開けた。
 そこは数多くの小鳥がさえずる場所。
 さえずりの泉。
「何だか、恥ずかしい話、だな」
 照れたような口調でそうリーリエは言い、すぐさま靴を脱いだ。
「リーリエ?」
「すぐ戻る」
 素足でリーリエは泉に入る。
 足首だけすっぽり入る程度の深さで、リーリエは泉を楽しんでいた。
 足に付いた泉の雫が、きらきらと弧を描きながら、ゆっくりと泉の中へと落ちていく。
 アルロはそれを見ながら、泉の畔で腰掛けた。
 はしゃぐリーリエの姿を、眩しそうに瞳を細めて眺めている……。

「すまない。一人で楽しんでしまったようだな」
 そういって、リーリエがアルロの元へ戻ってきた。
「いや、そうでもないさ。俺も休憩できたし」
「ここ、座ってもいいか?」
 足を水に浸したまま、泉の淵に座るリーリエ。
 すぐそこに、リーリエがいる。
 手を伸ばせば、すぐにリーリエを捕まえる事ができる。
「リーリエ……」
 アルロは側にいたリーリエの肩を、後ろから抱きしめた。
「あ、アルロ……」
「俺は……リーリエ、俺はお前のために強くなりたい。何があってもお前と暮らしていけるように……」
 リーリエはそのアルロの言葉を静かに聴いていた。
「だからお前も……何があっても、俺のそばに居てくれ……」
 嬉しい言葉。
 リーリエにとって、その言葉は、一番欲しかった言葉だった。
 だが、同時に不安もよぎる。
 アルロの抱きしめる手が優しければ、優しいほどに……。
「私は……私は誰かを守りたくて冒険者になったわけではないんだ。ただ、自分だけ傷つかないことに耐えられなかっただけ……」
 リーリエの声は僅かに震えていた。
「だけど私も今は……貴方を失うのが堪らなく恐ろしい」
 不安。大きな不安がリーリエの心を支配していく。
 大切だからこそ、失ったときの悲しみは大きいのだから。
「だから……アルロに、ずっと私のそばにいて欲しい……」
「ああ、もちろんだ、リーリエ」
 抱きしめる手に力が入る。
 それでも優しく、壊れ物を包み込むように抱きしめた。
 ずっと共に居る事を誓いながら………。


イラスト: 沢深 やこ