星舞う夜の出来事

● 星舞う夜の出来事

 ゆっくりと丘を登っていく。
 アールグレイドからの提案で、グリツィーニエは、彼と共に星屑の丘に来ていた。
 歩調がゆっくりなのは、アールグレイドがグリツィーニエの事を気遣っての事だった。
 自分の歩調が早すぎては、グリツィーニエが遅れてしまう。
 ならば、自分の歩調を緩め、グリツィーニエの歩調にあわせれば。
 こうして、隣に居る事を幸せに感じる事は無いだろう。
 こんなにも美しいグリツィーニエの横顔を見られるのなら……。
 アールグレイドは嬉しさと見惚れそうになる様子を隠しながら、グリツィーニエの隣を歩いていた。

 グリツィーニエも、嬉しさを隠していた。
 照れたように俯きながら、アールグレイの側に寄り添っている。
 そう、二人は互いに嬉しさを隠していた。
 そのせいか、いつもとは少しぎこちない雰囲気を感じる。

「星が……綺麗ですね……」
「ああ……」
 二人は空を見上げ、煌く星を眺める。
 他愛のない話が続く。
 アールグレイドの隣には、グリツィーニエがいる。
 手の届く、すぐ側の距離に。
 けれど、自分の胸に抱きしめる事ができなかった。

 手に入れた大切なものはとても壊れやすい。
 自分の気持ちを受け止めてくれた彼女を、曇らせる事なく大切に……そして護って行きたい。
 ただ……その資格が自分に有るだろうか?
 その事がアールグレイドの手を止めていた。

「あ、見てください、アールグレイドさん! 流れ星ですよ」
 そう、笑顔で振り向くグリツィーニエ。
「グリツィーニエ殿」
 その姿にアールグレイドは堪らず、グリツィーニエを抱きしめた。
 壊れ物を扱うように、優しく背中から包み込むように……。
「アールグレイドさん……」
 突然の行動にグリツィーニエはとまどいながらも、その身をアールグレイドに委ねた。
「……巡り合わせに感謝しないといけないな。どこにいても君を想い、そして護りたいと思う。これから先の道のり、共に歩んでくれるだろうか?」
 そういって、グリツィーニエの頬にキスをした。
 淡いくちづけ。
 だが、そのくちづけは、グリツィーニエの頬を真っ赤に染め上げるのに充分であった。
 真っ赤になったグリツィーニエは、そのまま俯く。
「ええ、もちろん……」
 そういって、グリツィーニエは、アールグレイドの手の上に自分の手を重ねた。
「私も貴方との出会い、貴方と過ごした時間……そのすべてに感謝しています。貴方が遠くに行っても、絆を胸に待っていますから……だから、必ず帰ってきてくださいね」
「……有り難う」
 グリツィーニエの耳元で、アールグレイドはそう呟いた。
 そして、二人揃って、空を見上げる。
 彼らの瞳には、先ほどとは違った星の輝きを感じた。
 これも、二人の想いが通じたからだろう。
 二人はいつまでも、いつまでも夜空の星を眺めていた……。


イラスト: 三上空太