しっぽでしあわせ

● しっぽでしあわせ

「はい、ルナしゃんにプレゼントなぁ〜ん♪」
 賑やかなランララ聖花祭の会場の木陰に座って、サガは手作りのチョコクッキーを差し出した。
「ありがとうな」
 受け取ったルナシアは無表情のまま簡潔に答える。
 喜んでもらえたら嬉しいなぁ〜ん、とサガが頬を染めて言う。
 おねだりするように「ねね、食べてみて? 食べてみて、なぁ〜ん?」とルナシアの顔を覗き込む。
 ルナシアは赤いリボンで飾られた可愛らしい包みをほどいて、無表情のままクッキーをひとつ摘んで口にした。お菓子作りが得意では無いサガにとって、それは緊張の一瞬だった。
 やっぱり無表情のまま咀嚼するルナシアを見て、ドキドキと鳴る胸の鼓動を聞く。
「……どう、かなぁ〜ん……おいしー、なぁ〜ん……?」
 不安げにサガが問い掛ける。
 返答する代わりに、ルナシアは二枚目のクッキーを口に運んだ。

「……あ」

 灰色の犬尻尾がぱたぱたと揺れている。
「……ルナしゃん、だぁいすきっ」
 嬉しそうに笑って、サガが抱きついてくる。
 彼女の銀の髪を撫でてやりながら、ルナシアは優しく瞳を緩めた。
 えへへー、と真っ赤な顔で幸せそうに照れるサガ。
 まるで彼につられたように、黒いノソリン尻尾をぱたぱたと振った。
「良かったなぁ〜ん、喜んでもらえたなぁ〜ん♪」
 今からお返しを考えないとな、とルナシアが呟く。
 サガは喜んで貰えただけで充分に嬉しいのだと言う様子で、嬉しそうに笑っていた。
 ルナシアはもう一度、彼女の頭を優しく撫でて、ほんの少しだけ、無表情を崩して笑い掛けた。
「また来年も、此処に来ような」
 彼の言葉に、サガは大きく目を見開いた。
 噛み締めるように大きく何度か頷いて、サガはもう一度ルナシアに抱きついた。
「ルナしゃん、大好きなぁ〜ん!」
 本日は晴天。
 木陰には穏やかで幸せな時間が、ゆっくりと流れていた。



イラスト: 東原史真