あーん?

● お裾分け

 どきどきどき。
 自分の鼓動がよくわかる。
 もしかして、相手に聞かれているんじゃないかしら?
 そう思ってしまう。

 願わくば、私の用意したチョコレートをお気に召しますように……。

 花の良い香りが、二人の鼻先を撫でていく。
 ここは数多くの花が咲き乱れる、朝露の花園。
 そこに二人はいた。
「ここら辺で一休みするかな?」
 エッジは気に入った場所を見つけ、そこに腰掛ける。
「は、はい……」
 緊張した面持ちで、ユウはエッジの隣に座った。
 そして、今だと小さな勇気を奮い立たせて、ユウは手にしたものをエッジに手渡した。
「そ、その、美味しくありませんかもしれませんですが……」
「ありがとうな」
 エッジは微笑み、そのプレゼントを受け取った。
 可愛らしいラッピングを施された小さな箱。
 エッジが丁寧に箱を開けると。
「美味しそうなチョコレートだな」
「あ、あ……そ、その、ありがとう、ございます……」
 恥ずかしそうに俯きながら、ユウはそう告げる。
 その隣でエッジはさっそくチョコレートを口の中に入れた。
「……ん。前から比べると、だいぶ料理も上手くなってるな」
「そうですか?」
 少し半信半疑のようだ。
「なら、自分でも味見をしてみろ?」
「え?」
 エッジはその手でチョコレートを摘むと、ユウの口の前に差し出す。
「え、あ……その……」
 少し躊躇しながらも、ユウは差し出されたチョコレートをぱくんと食べた。
「ぁ……甘いです……」
 恥ずかしそうに赤面しながら、そう、感想を述べた。
 そんなユウの頭をエッジは優しく撫でてやる。
「美味かったか? それじゃ俺も、もう一度味見」
「味見って……あ……」
 二人の唇が重なった。
 甘いキス。
 それは口の中に残るチョコレートのせいか。
 それとも……。
「今日で一年、これからもよろしく。来年も一緒にいれると良いね」
「ご迷惑を掛けてしまいますでしょうが、これからもよろしくお願いいたします」
 そして、にっこりと微笑み、エッジは言う。
「好きだぞ」
 その素直な告白にユウの顔は更に赤くなる。
「そ、その、私も好きです……」

 チョコレートが運んできた、甘いひと時。
 この日は二人にとって、想い出に残る素敵な日となった。


イラスト: コメスケ