だーいすきっvv

● だーいすきっvv

「試練……むずかしいんだよ……皆、手ごわいんだよね……」
 ここは試練の道の真ん中でがっくりと膝を突いているヴァニラ。膝の上で握り締められた拳。漆黒の羽毛が悲しげに震え、嘴から諦めとも何ともつかない呟きが零れる。
「でも! マサキ様がこの先にいるんだよ! ボク、頑張るんだよね☆」
 ぎゅっと唇を噛み合わせ、ヴァニラはごしごしと顔を擦った。拳や腕やほっぺたがきらきら光る。それは涙ではなくて、きっと汗。努力の汗。頑張りの汗。そう自分に言い聞かせて決然と立ち上がったヴァニラは、マサキの元へ辿り着くべく試練の道へまた一歩踏み出した。
 一方、物凄い速度で試練をクリアしたマサキは、朝露の花園の中をうろうろぐるぐるしながら人待ち顔。
「ヴァニラまだかなぁ……? 来てくれなかったら、どうしよぅ……」
 なおもうろうろしながら、ヴァニラが来ないかちらりちらりと朝露の花園の入口を見遣るマサキ。どうしよぅ、どうしよぅ、と呟く声もだんだんと涙色を帯びる。
 そんなマサキの見つめる先、花園の入口からは次々と人が現れて、恋人の下に駆け付けていた。喜びに満ちた歓声と幸せそうな甘い囁き声が、そよ風に震える花園の中の、到る場所で上がる。
 ぎゅっと両手を握り締めるマサキ。純白の羽根が不安げにぴくぴく震える。
 その時、少しばかり霞み始めた視界の中に、見慣れた黒い羽根の塊が現れた。
 息を切らせながら駆け寄るヴァニラ。マサキも思わず駆け出す。殆ど飛びつく様にしてヴァニラの胸にぎゅっと体を埋め、柔らかな羽毛に頬を摺り寄せるマサキ。
「ヴァニラが来るまで、凄く不安だったの、もし会えなかったら……来てくれなかったら……って……」
「マサキ様……怪我は……ないんだよ?? 大丈夫なんだよ??」
 ヴァニラは、不安そうな少しばかり拗ねたような口調のマサキを宥めるようにぎゅっと抱き返した。
 それから、綺麗な布を広げてお菓子やお茶を置いて、春が香る花園の中で始める小さな小さなティーパーティ。
「今日も……一緒にいられて嬉しいんだよね」
 湯気の立つ紅茶のカップを差し出し、ヴァニラが仄かに照れた風に笑う。
「ヴァニラが来てくれた、それだけで凄く嬉しい……」
 両手で紅茶のカップを受け取って、マサキは満面の笑みを返した。一口啜って傍らにそっと置き、マサキはヴァニラを手招きする。傍らに来たヴァニラの耳に手を添えて、唇を寄せるマサキ。
「ヴァニラだーいすきっ」
 ぼんっと音がしそうな勢いでヴァニラの唇の根元が真っ赤に染まる。微かに頬を朱に染めて、マサキはもう一度大好きなヴァニラの体をぎゅっと強く抱き締めた。


イラスト: 飴屋チヨ