共に祝う事の叶わない永遠の友へ

● Requiem

 誰もいない。
 そして、とても静かだった。
 その静かな場所が、ツキトには心地よかった。

 今は深夜。
 ツキトは、片手に酒を持ち、ゆっくりと目的地へと向かう。
 注意深く見なくては、見逃してしまうのだから、探すのに苦労してしまう。
 そして、ツキトは、小さな祠を見つけた。
 恋人たちを祝福するためのものではない。
 それは女神の加護虚しく、命を散らしていった者達の悲哀を慰める為のもの。
 いつの間にか、誰か愛する者を永久に失った者の手によって建てられた、慰霊と鎮魂の為の祠なのだ。
 ツキトは瞳を細め、その側に座った。

 酒の入った杯を傾けながら、ツキトは思う。
 かつて、共にランララ聖花祭を楽しんだ友人達。
 その友人達は、この場所には来ていない。
 いや、もう来れないのだ。
 失われた命。
 それはかけがえの無い友人達の命だった。
 もう、会うことすら叶わない友人達を思い、また杯を傾ける。

「ツキト、ここにいたのか」
 そこに現れたのは、コーガ。
 居なくなったツキトを探してここまできたのだ。
 もしかしたらと思い、ここに来たのだが、どうやらその、コーガの勘は当たったようだ。
「コーガか……」
 ツキトは酒を片付け、祠の前に立つ。
 そして、長い間、祠を眺めていた。
 悲しそうに、辛そうに、苦しそうに……。
 その様子に、コーガは思わず、ツキトの背中に抱きついた。
「大丈夫……アンタが自分の涙で泣けないなら、俺が代わりに泣いてあげるから……」
 コーガもまた、祠の意味を知っていた。
 だからこそ、ツキトが出来ない事をしてやりたい。
 そう思ったのだ。
 ツキトの代わりに泣くことを。
 コーガの瞳に涙が溢れる。
 失った友の事を思い出しながら。

「もうこれ以上、お前からは誰も奪わせはしないよ」
 そっと振り向き、そして、コーガの頭を優しく撫でてやった。
 自分の代わりに泣いてくれる、コーガに感謝しながら。
 そして、ツキトはコーガが泣き止むまで、ずっと側にいたのだった。

 夜空に星が流れる。
 それは、誰かの流した涙のように。
 一瞬で煌き、その名残を残しながらも消えていった……。


イラスト: 上條建