ランララ聖花祭/大切な時間

● ランララ聖花祭・月夜に重なる二つの影

 陽も沈みかけた頃。
 やっとライシェスは女神の木の下にたどり着いた。
「ルシアーっ!」
 すぐさまルシアを発見し、声を掛けるライシェス。
 が、当のルシアは一向に気づいていない様子。
 むっと眉を顰め、ライシェスはルシアの背後に回った。
 ルシアはまだ気づいていない。
「うりゃっ」
 ライシェスは背後から、ルシアの両頬を引っ張った。
「きゃっ!!」
 やっと気づいたようだ。
「ら、ライシェス……?」
「遅れてきた俺も悪いけど……声をかけたのに気づかないルシアも悪い」
「え? そ、そうだったの? ごめん……」
 ルシアは頬を僅かに紅く染めながら、ぺこりと頭を下げた。
「あ、いや……もういいよ。とにかく行こう。遅くなってしまったからな」
 そのライシェスの言葉にルシアは、こくりと頷いたのであった。

 取り留めない会話をしながら、さえずりの泉へと向かい、しばしの間、景色を楽しんだ。
 さえずりの泉を一周してから、また女神の木の元へと移動する。
 その頃になると、もう辺りは夜の暗闇に包まれていた。
「それじゃ、お菓子を奉納するわね」
 そういって、ルシアはお菓子を手にゆっくりと女神の木の下へと歩いていく。
 ライシェスはその後ろでルシアを見守っていた。

 奉納も終え、後はお菓子を渡すのみ……なのだが。
「あ、そういえば……時間がなくて、味見していなかったんだっけ……」
 だから、ダメですと言って、慌ててルシアは自分の持ってきたお菓子を食べ始めた。
「そんな事、気にしないけどな」
 そう言って、ひょいっとルシアの持つお菓子の袋から、一つお菓子を取り出した。
「あ、だ、ダメっ!!」
 ルシアの叫びにライシェスは肩を竦める。
「わかった」
 そういってライシェスは、自分の持っていたお菓子をルシアの口の中に入れた。
「むぐっ」
「これで良いだろ?」
「………」
 もぐもぐと、ルシアは口の中のお菓子を食べ終えると。
「……お返し」
 ルシアはお菓子を一つ、ライシェスの目の前に差し出した。
「一個だけよ」
「サンキュ」
 少し照れたように、ライシェスはルシアの手からお菓子を食べさせて貰ったのであった。

 夜も更けてきた頃。
 二人は女神の木の下で、星空を見上げていた。
 星屑の丘の方が綺麗な星空を見れるのだが、二人にとって、今はこれで充分であった。
 逢えなかった時間を埋めるかのように、ライシェスはルシアを抱きしめた。
 びくりと肩が震えたが、ルシアが拒む事はなかった。いや、逆に甘えるようにライシェスの胸に寄り添っている。
「俺にとって一番大切な人が今、ここに居てくれる……。これから先、たとえ何があっても、この温もりを失わないように。……ルシア、愛してる」
 ルシアの耳元でライシェスは囁いた。
「……ごめん、今の気持ちを伝える言葉が思い浮かばない……。でも、お願いだから一緒にいてね? それだけで良いから」
「ああ、もちろん」
 ライシェスは微笑んで頷くのであった。


イラスト: 秋月えいる