離れていても心は一つ

● 会えなくても……

「………」
 ランララ聖花祭の日、ジェイドは女神の木の下に立っていた。
 彼が来ないという事は解っている。だから、誰かを待っているという訳ではないのだけれど。
 ただ、1人女神の木に寄りかかるようにして立ちながら、ジェイドは大切なあの人……イセルヴァの事を想う。
(「イセルヴァは、いつでも妾の心の中におるぞよ。……でも、直接会って言いたいのじゃ。愛している、って……」)
 ふと、頭上に広がる空を見上げながら、ジェイドは少しだけ寂しげな表情になる。

「……女神の木、って訳にはいかないけどさ」
 時を同じくして、イセルヴァも一本の木の下にいた。
 体に残っているのは戦いの跡。手にしている剣の刃は、まだ赤く濡れている。
 剣先を地面に突き刺して、イセルヴァは木によりかかると、静かに目を閉じる。
(「……ジェイド……」)
 想うのは、ただ1人の大切な人。
 たとえ離れていても、想いだけは一緒に……。
 そう彼女の事を想いながら、イセルヴァは疲れた体を眠りに浸す。

 ……まどろむうちに、やがてふと、瞼の裏に浮かんだのは、女神の木の下に立つジェイドの姿。
 彼女がまるで、すぐ目の前にいるかのような錯覚を覚えながらも、イセルヴァは小さく呟いた。
「……ずっと、愛しているからな……」
 眠りと現実の境界で零れた言葉は、風に乗って薄れていく――。

「……イセルヴァ……?」
 ふと、ジェイドは声が聞こえたような気がして、辺りを見回した。
 いるはずがない……ただの、錯覚。
 彼が居たらいいのにと、そう想ってしまう気持ちが、脳裏に響かせた幻。
 そう、わかってはいるのに。
 でも……すぐ隣に、彼が居て、一緒に手をつなぎながら、この時間を過ごす事が出来たらと……つい思ってしまう。
(「……離れていても、きっと心は1つなのじゃ……」)
 そう首を軽く振るとジェイドは顔を上げて。
「愛しているのじゃ、ずっと……」
 呟いた想いは、風に乗ってすぐに消えて行ってしまったけれど……この想いは、きっと彼にも繋がっているはずだと、そうジェイドは信じるのだった。


イラスト: ミヨシハルナ