星空の下の逢瀬〜チョコレートよりいつものやつを〜

● 星空の下の逢瀬〜チョコレートよりいつものやつを〜

 満天の星空が広がる星屑の丘。
 フィリスはそこで、新婚ほやほやの夫であるシヴァルが、やって来るのを待っていた。
 彼のために用意したプレゼント……綺麗にラッピングした、お饅頭を取り出したフィリスは、彼に気付かれないようにと、それを自分の背に隠すかのように、後ろ手に持ちながら立つ。
 ただし……このお饅頭は、直径3mもあるような、とっても巨大なお饅頭だったから、背中に隠そうとしても、全然隠れていないような状態だったけれど……。

「フィリス、待たせたな」
 星屑の丘を訪れたシヴァルは、迷う事なく、すぐに彼女の元へとやって来た。
 ……すぐにフィリスの事が解ったのは、それはもう、とびきり大きな目印が見えていたからなのだけれど……シヴァルは、その存在には気付いていないフリをして。
「シヴァルさんのために、ご用意しましたの」
 にこりと微笑みながら、そうフィリスが差し出したお饅頭を、その存在に今初めて気付いたという様子で受け取る。
「ありがとな、フィリス……っと」
 そして彼女を優しく抱き寄せようとしたシヴァルだが、彼女の髪からひょっこりと、顔を出したペットのヘビの姿を見つけると、ふとその動きを止める。
 でも、それは一瞬のこと。ほんの少し驚いてしまっただけ。
 シヴァルは、すぐにまた腕に力を込めて……彼女の体を抱きしめる。
「フィリス……ずっと……これからも一緒にいよう……」
「ええ……大好きですわ、シヴァルさん」
 告げた言葉に微笑み返すフィリスを見つめながら、シヴァルは、この小さいけれど、でもとても大切な幸せを、ずっと、ずっと護っていこうと、そう心の中で誓う。

「さ、食べてみて下さいませ」
 フィリスに促されるように、饅頭へと手を伸ばしたシヴァルは、一口食べて、その中身がチョコレートである事に気付くと、一瞬だけ驚きながらも、また優しげな笑みを浮かべて。
「……綺麗ですわね……」
 フィリスと2人、身を寄せ合いながら、空に煌く数多の星々たちを見上げるのだった。


イラスト: 爽見 雍