A soft kiss on the lips is love.

● 胸に灯をともす

 昼間に一度、二人は会っていた。
 そして、約束をする。
 夜にもう一度、見に来ようと……。

「……わぁ」
 星の中に立っているような錯覚。
 セロは思わず、歓声が漏れてしまう。
「……綺麗ですね、やっぱりもう一度来て良かったです」
 そういって、セロは微笑んだ。
(「昼間の景色も綺麗でしたが、やっぱり……夜空は好きです」)
 セロはゆっくりと星空を見上げる。
(「眩しすぎる光ではなくて、そっと穏やかに導いてくれるから……」)
 星空を飽かずに眺めながら、イーヴの手にそっと力を込めた時……。
「………!」
 不意打ちのキス。
「……愛情のキスは此処にすれば良い、と、古人も言っていたね」
 そう、それは過去にセロが言っていた言葉。
『手の上ならば尊敬のキス、掌の上ならば懇願のキス』なのだと。
 その後、イーヴが独自で調べて、知った事。
『唇の上ならば愛情のキス』。
 それを不意打ちで実行したのだが……。
「……って、セロ?」
 セロの瞳から、つうっと涙が零れる。
 思わず慌ててしまうイーヴ。
 まさか、自分の事を嫌っているのではないかと。
 それとも、自分の今したキスは、気に食わなかったのかもしれない。
 イーヴの顔から血の気が引いていく……。
「違うんです……嫌だからじゃなくて……寧ろその逆……」
 そう、セロのその涙は嬉し涙。
 感極まって流してしまった涙だったのだ。
「よかった……」
 セロの言葉に安堵するイーヴ。
 そして、もう一度、イーヴはセロを見る。
「……大好きだよ。誰よりも。これからも、傍に……居てくれるかい?」
「……私からお願いしたいくらいです……宜しくお願いします……これからもずっと」

 胸の中にふわりと灯をともすような、暖かな気持ち。
 その灯は今もまだ、穏やかに優しく灯り続けて。
 ……動揺したり嬉しくなったりするたびに、ゆらゆら揺れて。
 私を好きになってくれて……ありがとうございます、大好きです……イーヴさん。

 その言葉が、その笑顔が、そのぬくもりが。その全てが。
 胸に灯を、ともしてくれる。
 それが……セロ。

 イーヴはそっと、セロを抱きしめ、呟いた。
「ありがとう、愛しているよ」


イラスト: かりん